新潟久紀ブログ版retrospective

新発田地域ふるわせ座談会2・振興とは何か

●地域「振興」とは何か

 令和5年度最初の開庁日である4月3日の月曜日の朝。知事から「新発田地域振興局長として頑張ってください」と辞令書を手渡されると、30年ほど通いなれた新潟県庁本庁舎を後にして新たな職場である「新発田地域振興局」へと自家用車のハンドルを握る。
 それにしても「新発田地域」を「振興」するというのはどういうことなのだろうか。
 新発田地域振興局というのは、新潟県の出先機関であり、県下12に地域分けされて配置された機関の一つだ。県都である新潟市の北東に位置し、市町村でいえば新発田市、阿賀野市、胎内市、聖籠町の3市1町、人口にして17万人ほど、面積にして1,000k㎡ほどで各々新潟県の約8%のシェアとなるエリアだ。
 市と町ごとに思い浮かぶのはどんなことだろうか。
 古い城下町として市街地がコンパクトにまとまり、食品産業を中心に地場産業が盛んな一方で山裾などほうぼうに製造業の少し大き目な工場の立地もあり、年間50万人超の誘客数を誇る月岡温泉を抱え、結構平坦な平野にも恵まれて稲作中心に農業も盛んな新発田市。
 全国的にも知られる安田瓦の産地であり、白鳥が多く飛来することで有名な瓢湖や、山間に複数の通好みの鄙びた温泉地を抱え、県営の大規模産業団地が整備されて時勢に合った企業の集積も進んでいる阿賀野市。
 私も若い頃には何度かお世話になった国設胎内スキー場を始めとして、胎内川流域にホワイトとグリーンの両シーズンに応えるリゾートを展開し、かつては過疎地の活性化のモデルとしても注目された一方、合併した沿岸平野部での工業団地等には化学系製造業などの工場立地を得て安定的な雇用環境も確保している胎内市。
 新潟県最大の港湾を有し、大規模発電施設などエネルギー関連や、機械製造や金属加工から電子部品などまで、幅広い分野の大規模な施設や工場の集積による税収の恩恵などを背景に、小さいながらも合併せずに先駆的な住民サービス等の展開で人口維持を続けている聖籠町。
 独断と偏見もあろうが、不見識な私における各市町の印象というのはそんなところであった。かなり地勢も個性も異なる4つの地域と自治体を所管エリアに、広域性や専門性の発揮を本領とする県として、”一貫性やまとまりある振興”というのは如何したらよいものか。真面目に考え始めると悩ましくなるばかりだ。
 取り敢えず、新発田地域振興局長として着任初日の本日は、振興局に勤める職員達が大会議室に集められるのを前にして着任挨拶をするというのが習わしになっている。最初が肝心なので、局長として地域の振興に関する方針を語りたいところだが、なかなか具体のイメージが頭に描かれてこない。何事も直前にならないと詰めて考えない自分の癖を恨みがましく感じながらも、運転する車がもうすぐ新たな職場についてしまうなあと青ざめる。
 地域の振興とは「地域の勢いをアゲる」ということであろう。それは、単発のイベントや一過性の賑やかしで人が集まってということではなく、恒常的にヒトがいて活動して、物事やお金が活発に動き流れていることにより成されるものだろう。
 しかしながら、新潟県内はほぼ全域において、進学や就職を契機とする若い人達の主に東京圏への大きな流出が長年続いていて、結婚出産の適齢期層が細まってしまっている中で人口減少の流れを急に変えることは構造的に不可能な状況に陥っている。
 人の存在や行動を代替する機械化や遠隔化は進んでいるが、この地に住居を持ったり日常的に往来して活動する人が減れば地域の勢いは確実に落ちて行かざるを得ない。地域の振興とは、この奔流のような人口減少の中で残ってくれている、もしくは何かの理由でこの地で過ごしてくれている限られた頭数の人々を活かして、地域において経済的にも社会的にも活躍できる人をできるだけ減らないようにすることなのではないか。
 「振興」の「振」という字を頭に思い描いていると、昔、理科か化学か何かの授業で見た、四角い枠に力を加えると中にある複数の丸い分子が「振動」して、動き回ってぶつかり合って熱が生じるような挿し絵みたいなイメージが脳裏に浮かんできた。
 地域を「振るわせる」ために貢献することが局長たる私に課せられた使命かも知れない。
 新任地に到着した時点で未だこんな”ふわふわ”した思いだったので、忙しい業務時間を割いて大会議室に集まってくれた大勢の振興局職員を前にして、取り留めも無い着任挨拶になったのは少し心残りだった…。

(「新発田地域ふるわせ座談会2・振興とは何か」終わります。「新発田地域ふるわせ座談会3・「振るわせる」を考える」に続きます。)
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