新潟久紀ブログ版retrospective

JR羽越本線100年を機に地域に関わる人を増やす私案1/2(農業応援編)

◆「農業大県の悩みへの手助けを請い、外来学生等から鉄路で応援してもらう仕組みづくり」の私案

 新潟県の北部にある新発田地域を所管する県の出先機関の長として、地域の活性化を考えるにあたり、管内を縦貫するJR東日本の羽越本線が令和6年に全線開通100年の節目にあたることを耳にして、ローカル鉄路の収支悪化が議論される中にあって、その利活用増進と絡めて何か発案できないかと、沿線周辺の現地を巡り始めてみた。
 新発田地域に縁もゆかりもなく令和5年4月に人事異動で赴任してきたばかりの新参者の私が、関係者や地元住民らにおいて積年の課題とされているであろう事柄について、パッと見ただけで的を射たことを考え及ぶ訳はないとは十分自覚している。
 現実的で実効性のある案については、300人以上を擁する我が新発田地域振興局の職員の中で、この鉄路を普段使いしていたり沿線に暮らしていたりする者から話を聴いたり、広大な稲作田園を通り抜けているという面から、農業振興に関する業務でこの沿線を担当する職員と意見交換しながらなどでないと、浮かんでこないだろうなとも考えている。
 それでも、そうした場面でなんらアイデアの片鱗も持ち合わせず「活性化や利活用増進はどうしたらいいと思うか」などと聞いても詮無いだろう。何か議論をしていく上での取っ掛かりや、結果して全く活かされないことになるにしても何等かの”たたき台”が必要だということが経験的に分かっている。
 どうせ土地勘も無く不見識な私なのだから、”たたき台”は開き直って荒唐無稽なくらい大胆に発意してみたいと考えてみた。
 新発田地域振興局が所管する羽越本線の区間の沿線において、中心に位置する新発田駅の南と北では、航空写真や土地利用に関する資料などを見て地勢的に大きく異なるように思えることから、新発田駅の以南と以北で区分して、先ずは南側の5駅周辺についての見回りを終えたところで、提案を考えてみる。
 新発田駅以南の羽越本線は広大な稲作田園の真ん中を貫くように配線されているので、米の生産に関する構造的な課題がヒントにならないか。
 コメの消費低迷による価格下落の中で減反も進み、コメ主体の農業大県たる新潟県では、所得の伸び悩みから後継者が減少し、農家はもとより規模拡大による経済性発揮と組織力による永続性により担い手として期待されている法人でさえも立ち行かなくなる者が出始めている。
 稲の単作から野菜など単価や付加価値の高い園芸作物への転換により、農業の再興を推進しようと県を挙げて鳴り物入りで関連施策が進められているのだが、日頃現場を見て回る中では大きな変化が生まれているようには思えない。
 そもそも、稲単作から転作や複合経営への転換というのは、私が農政業務に関わっていた30年前に、ガットウルグアイラウンドによるコメ輸入解禁という”開国を迫る黒船”が接近するにあたり、国を挙げて法律改正までして、地域ごとに具体の農作物栽培形態別の所得モデルまで例示しながら、推進してきたはずのものであり、未だに全く同じ論理が繰り返しが叫ばれているのを聞くと、正に日本の農業政策というのは十年一日のごとしと感じる。
 稲から園芸作物(野菜)への転換が進まないのは、稲に比べて野菜は、常々に、しかもきめ細かく、手間がかかり過ぎるからということをよく聴く。稲は田植え、施肥、農薬散布、水管理、稲刈りなどのパターン化と機械化が進展していて、春の連休など折々の休日や週末を利用するなかで対応できる。なので、稲作中心の新潟県では平日は会社勤めの兼業農家が多く、それが、専業農家の規模拡大や経営体力の育成促進を阻んできた一因ともされている。なんとも皮肉なことだ。
 それでも、さすがにコメの単価を考えると稲作は立ち行かなくなってきた。一方で、農家皆が他産業に移り、引き受け手もなく耕作放棄される農地が増え続けてしまっては、害虫発生や不法投棄などの増や治安の悪化、有事を見据えた食料自給率維持の困難化など、地域や県、国にも及ぶような多くの問題を招いてしまう。
 農業は生業であるにもかかわらず、農地というものが国土の保全や利活用の在り方として重要であることから、農地整備などには多くの税金が投入されてきている。農地として公金を投じた効果を農地として果たさせ続けるのは行政の責務でもあろう。そう考えると、何十年も一つの解決策と言われ続け公金の投入も続けられてきた「園芸作物への転換」をより効率的に進めることが、稲作田園地帯のシェアが大きい新潟県、そしてこの新発田地域としてのミッションのように思える。
 しかもこの新発田地域振興局管内には新潟県農林水産部の出先機関である「園芸研究センター」がある。私が赴任して間もなく視察した際には、技術員さん達が多様な園芸作物について、農作業の効率化や収穫量増加など生産性向上のための研究を圃場で実証的に取り組んでおられた。また、彼らは私の様なド素人を見下すことなく、熱意をもって楽しく分かり易く饒舌に実践的なことを教えてもくれた。
 園芸への転換にあたり、指導者には恵まれている。あとは、大変な労力を要するという農作業に対応できるマンパワーの確保だ。それも、稲よりも機械化が難しくて手作業が多く、しかも頻繁に頻回にという作業への従事だ。かつて農家から「愛情を持てないと野菜は良く育てられない」と聴いたことが頭に浮かぶ。
 街中から離れた広い田園で野菜を育てるために必要な少なくないマンパワーを、しかも、単純ではなくある程度の知識と対応力を持っている人を、定期的に集められないか。そう考えた時に思い浮かんだのが、遠く30kmほど離れた新潟市にある新潟大学の学生さん達だ。
 数年前に新潟県の人口減少問題対策に関わる業務に就いていた時に、新潟大学にお邪魔して、色々な学部と学年で何回かに分けて学生さん達と、6割以上が県外からやってくる学生を就職に際してもできるだけ新潟県内にとどまってもらうにはどうしたらよいかを主題にした意見交換を行ったのだ。
 その際の発言の中で、「県外から来た入学生を早めに新潟県内の”見て回りツアー”に連れ出すなどして親しみを持たせるべき。せっかく県内には魅力あるところが多いのに放っておき過ぎだ」とか「今の学生は郊外立地の新潟大学周辺暮らしにおいても自家用車を持たないが、バスなど公共交通もそう便利ではないので、特定の繁華街にたまに行くくらいの行動範囲で学生時代を終えてしまう者もいる」などと、受け入れ側の気遣いや企画不足を痛感させられる指摘を多く頂いた。
 一方で、せっかくやってきた新潟県を知ろうと、NPOに参画するなどして地域貢献に関与している県外出身学生もいた。就職試験時に学業以外のアピールネタを備えたいという想いもあるかもしれないが、何か関心を持てる地域の事柄に関わりたいという二十歳前後ならではの思いがあるのだろうと経験的にも想像できる。
 新潟大学のみならず、県外や都市部から来て就学している大学生たちを新発田地域の農業の園芸転換へ関わってもらえるようにできないだろうか。
 全国的にも一義的にコメで知られる新潟県。美味くて安全安心なコメを安定して食べ続けられるためには農家を維持できる所得が確保できるような農業の構造転換が重要だと謳い、せっかく新潟にある大学に来たのだから、地域的に進める稲作の集約化や一部野菜への転換、複合営農など、"今が旬のダイナミズム"に参画してみませんかと学生たちを誘うのだ。「新潟の地にやってきたのだから話のタネとしてでも広い田圃での稲作作業は体験してみなくちゃ」といった声掛けで関心を引くのも良いかもしれない。
 海沿いの砂丘に立地する新潟大学の周辺のアパート暮らしから出かけて、春であれば美しく残雪が輝く稜線の山々への地平近くまで広がる田園のど真ん中を訪れれば、正にコメどころ新潟の原風景ともいえる空間が心身を魅了するだろう。羽越本線の新発田駅以南の近隣数駅であれば、列車を降りた途端に唐突に一気にパノラマが開けるのだ。
 私の頃とは隔世の感だが、今の学生は自家用車を持たない者が多いという。こうした面でも新発田地域への輸送手段が課題になるが、授業や多様な生活パターンからすれば、農作業のマンパワー需要に即してマイクロバスなどを仕立てて適う人数を確保するというのは調整が難しく非効率ともいえる。
 農作業の受入れと参加という双方に流動性があるもののマッチングにあたって、定期的に定時で発着する鉄路を介するというのはメリットがあるかもしれない。個別にバスを調達するなどの面倒が無い。数日前からアプリなどにより学生側の登録者を募り、日時とある程度の人数がマッチした場合に現地参集と農作業を実施ということにすればと思う。
 日頃から頻回に作業を要する園芸作物栽培ではあるが、必要な時期に必要量の学生参加がマッチしないことは当然に考えられる。主宰する農業者側にも需給調整のための農作業のタイミングとボリュームの変更や、できるだけ効率的に労働力を迎え入れるための工夫が必要となる。リモートセンシングなどIT技術も活用すれば様々に対応できそうだが、そうしたノウハウやスキル、資本力を考えると、ある程度の収益を確保できる農地規模とスタッフが必要になろう。一つの集落単位レベルの構造的な体制で臨むとすれば地域や行政も腹をくくらねばなるまい。
 また、参加してくれる学生達にボランティアというわけにもいくまい。善意や奉仕がなければ成り立たないような仕組みを見せてしまってはコスパとタイパを重視する今時の学生さんには白けられるだろう。なによりも、新潟県ならではの広大でロマンを感じる程の農地に向き合って、農業そのもので稼いできちんと収支が取れてそれなりに暮らしていけるという実践を、お手伝いではなくメンバーとしてとして体感させることが、新潟県や県農業に関わり続けてもらうために重要だと思う。
 「新潟大学前駅」から新発田地域の農地にある羽越本線の駅まで通う片道運賃600円前後は、学生にとって何度も払うには負担だろう。また、作業に掛けた時間はアルバイト見合いの対価を得たいであろう。
 農業者側も仮に目論見通りの農作業が得られたとしても、売り上げ収入は基本的に収穫連動で季節的なものが想定される。来てくれる度ごとに学生らに対価を支払うのは厳しいだろう。
 そこで費用と収入のミスマッチを調整するための工夫が必要になる。「融資」や「掛け売り買い」などファイナンスを駆使するのが常套かもしれないが、交通手段である鉄路についてはJRが一肌脱いでくれないかと考えてしまう。
 つまり、当該農業振興に参画する学生さんの運賃については別途精算とすることで、都度都度で個々人から徴収しないようにできないかと考えるのだ。収穫物の売り上げ収入が入り、年度末に決算を打つ段階で、鉄道使用料金をまとめてJRに納付することにできないか。技術的にはICカードを使えば難しくないように思えるし、そもそもJRは個別の運賃を即時に費用に充てながら運行しているものではないのだから。
 こうして参加する学生は、列車運賃に気兼ねなく列車に乗れて、お決まりの繁華街での買い物や遊興から離れて、生命の糧を育む自然空間へと臨むことになる。生まれてこのかた現代型の消費行動にまみれて来た生活だったのが、根源的な生産活動に参加して草いきれと土や泥にまみれてみる体験は、やりがいとか職業観までにも影響を与えるかもしれない。文系理系も相まってリアルな労務に携わることで、勉強や研究していることへのアイデアの創造、技術的な革新のひらめきさえ呼び起こすかもしれない。
 そんな貨幣に換算し難い価値を学生達に感じてもらえる場となれば、彼らに対する作業の対価も主宰する農業者にとって妥当な範囲で折り合いがつくかもしれない。
 学生の中からこのスキームに共感して個人やできればグループでこの地の農業を担ってくれるものが現れれば”御の字”だし、就職を機に新潟から出て行ってもこの体験を縁にして、定期的に来訪して作業に参加してくれたして第二の故郷として関与し続けるものが出てくれれば有難いことだ。
 園芸作物に係る作業のノウハウなどは、スマホで動画等が提供されれば現代学生のITリテラシーと大学生としての一定以上の知能を考えれば十分だと思うし、現地まで列車利用での一時間ほどが、自動車と違って運転に囚われる必要がないので、予習をするにも丁度良いのだ。そして走る車窓を通じて、都市的生活がもたらすストレスを解消してくれるような水田の広がりを、春夏の緑から秋の黄金に至る変化を、新潟の景色ならではの素晴らしさを、県外から来たばかりの若者に忘れられないものとして印象付けることになるのだ。
 学生のインディビジュアルな視点での記載に偏ったが、個々の都合を集約して作る労力密度で野菜栽培などに関わってもらう企画においても、集合型のイベントというのは必要だろうし、複数人での農村住民たちとの交流も様々な効用をもたらすだろう。そうした場を展開する上での適地がある。そう、「中浦駅」近くの「真木山中央公園」だ。
 百人規模での催しも可能な緑豊かな広場があり、ゲームやバーベキュー、キャンプのほか、里山の遊歩道そのものの散策だけでも楽しめる素晴らしい空間だ。新発田地域における野菜導入促進など農業振興の作業のために現地に列車で参集する学生は、日時により学部や学生などが異なる組合せにもなるので、同じ大学内に居ながらあまり交流の無い学生同士を結びけて思わぬ人脈を生んで学業や研究などにも良い影響をもたらすかもしれない。
 公園には野球場やテニスコート、体育館、図書館なども整備されているので、ともすれば新潟大学の学部横断のサテライトキャンパスとして、農業にまつわるハードソフトの生産技術や経済施策、はては文学までをも地域現場で学べる拠点にできるのではないか。それはこの地域における農業振興以外の活性化をもたらすかもしれない。
 話の流れで「新潟大学」の学生の参画を例に記述してきたが、一校だけで仕組みが回るとも思えないので、基本として羽越本線が活かせる学校であれば、参画してもらいたいものだ。「敬和学園大学」、「新潟職業能力開発短期大学」、そして胎内市に在る「新潟食料農業大学」についてはそもそも農業に関わるプロ育成機関であり、仮にこの企画が具体化すれば外したくない所だ。県外から来て羽越本線の「中条駅」近くに住んでいる学生さんも少なくないはずで、彼らは正に直通で現場農地にアクセスできるのだ。
 そうした一定程度頼りに出来る大学生を軸に企画を展開し、郷土愛醸成や農業への理解促進も兼ねた高校生以下のお手伝い的な参加も引き込みながら、マンパワーを採算の取れる密度へと高められればと思うのだ。
 新発田地域における稲作中心から園芸作物(野菜)への転換促進という政策的課題と、それに必要なマンパワーの調達や関与の方策を考えた時に、この田園地帯を貫通するJR東日本の羽越本線の利活用の増進に繋がり、更には県外から来ている大学生さんたちの定住や関与継続にまでも通じるアイデアが湧いてきたことは我ながらハチャメチャながらも面白いと思う。
 思いつくまま取り留めも無く書き綴ってきたアイデアなので、論点の軽重によらず濃淡がある粗い記述になったし、具体に考えて行けば掘り下げて考えていくべき課題や調整が容易でない事柄は多い。
 それでも、人口減少が深刻化する中で、地方の片田舎の特徴とローカル鉄路を絡めてどう活かすかということに答えを出すのは急務であり、それには、諸々の制約を考えての常識的な対策ではもう埒が明かない状況にまで来ていて、前代未聞とか荒唐無稽とか破天荒といわれるほど大胆な発想と突破力が必要なのではないかと考えている。
 私が書き記したこの原案を”たたき台”にして色々な人と意見交換してみたいものだ。できればこの地域の次代を担うべき若い人達から、議論の果てにむしろ原案の跡形すら無くなるくらいに有意で実効ある施策案が繰り出されるくらいになれば、年輩者の独り善がりにせよここまで考えてみた甲斐があると思うのだ。

(「JR羽越本線100年を機に地域に関わる人を増やす私案(農業応援編)」」終わります。総括編の後半「JR羽越本線100年を機に地域に関わる人を増やす私案2/2(山脈聖地化編)」続きます。)
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