新潟久紀ブログ版retrospective

財政課26「病院局から呼び出し受けて大喧嘩(その1)」編

●病院局から呼び出し受けて大喧嘩(その1)

 私の仕事においては、中長期の財政計画の企画立案のほかに、それと双璧を成す極めて難しい課題を抱えていた。大赤字が続く県立病院を抱えることに伴う財政負担の問題だ。当時の知事が財政が危機的状況であることを宣言し、職員の給与臨時削減なども含め聖域無き財政健全化に取り組んでいる中で、毎年100億円規模でしかも増加の一途をたどる病院事業会計への繰出金という名の財政負担を、抑制に向けさせることが私に課せられていた。
 100億円といっても県の予算規模の1兆円ほどからみれば1%程度であり、しかも医療という県民の生命に関わる負担ということを考えると、大きな問題なのか…と思われる向きもあるかもしれない。しかし、1兆円ほどの予算規模の中身を見ると、県職員の人件費や福祉施策に伴うなどして事実上削減が不可能な経費、過去の公共的投資等のための借金の返済金など、義務的な経費がその大方を占めており、大まかに言って節減の裁量度を効かせることができる部分というのは数百億規模。その中で、借金に置き換えて負担を繰り延べすることもできずにキャッシュとして毎年流出する100億円は実は非常に大きな負担なのである。
 更に、医療という命に関わる事業であることが削減への踏み込みにくさになっている。病院というのは県立だけで成り立っているわけではない。政策的医療と呼ばれ公的機関が担うべきとされている高度救命救急や専門、条件不利地域の医療などについても、県内を見渡せば役所以外が、むしろ民間ならではの効率性を発揮して、立派に担っている実情がある。なのに、県立は病棟規模の適正化や民営化の検討などと言ったとたんに大変な抵抗に遭うのである。企業会計でありながら行政機関からの独立性が低い、というかほぼ無いのである。
 だから、基本は現在の施設設備や人員体制でなんとか収支改善が図れないかということが当面の課題になる。予め見通しの幅が許容される県の中長期的財政計画と異なり、来年の予算編成に向けて県立病院会計を担当する立場としては、県の財政事情の厳しさが極めて深刻な中で、県立病院の経営にあたる病院局という組織と少しでも繰出金を抑制するための協議をギリギリと詰めていかねばならないのだ。
 予算は財政課による査定で調整が進むのであるが、部局からの予算要求があってこその査定ということになる。日頃現場の中にいるわけでもない財政課の担当が机上の理論だけで繰出金をこの程度減らしてくれといっても現実性がなく、よしんばそうしたところで、仮に現場経営に支障を来せば「財政課が無理な査定をしたから」と避難されることになる。医療に関わる事案であるので、万が一にも患者に迷惑が及ぶなどという事態になったら私の首だけでは済まない大問題になる。病院局が、県財政の逼迫を十分理解して、繰出金の削減につながるような経営の効率化を自ら考えて予算要求案に反映してもらう必要があるのだ。
 一方で、当時15か所もあって基幹的医療から地域密着医療、専門医療まで幅を持ち、規模も大中小と多様で、年約700億円もの"商い"である県立病院は、舵取りに小回りが利くものではなく、また、毎年巨額の一般会計からの繰入金が常態化していることもあって、病院局の担当者は半ば悟りきった状態になっていた。
 そんな具合だったので、次年度当初予算の要求は毎年11月頃に受けるのであるが、私は担当になった4月早々から病院局に対して"母屋"である一般会計の財政状況が深刻であることを再三にわたり説明し、病院局として少しでも繰出金の負担軽減に知恵を出してもらうようにお願いを重ねた。しかし、ここでやっかいだったのが、対応の相手方である担当係長と課長補佐というのが二人ともほかでもない財政課のOBだったのだ。特に補佐は経歴的に財政的調整手法などの表も裏も知り抜いている。県の一般会計は、これまでも財政危機が叫ばれてきた中でいつの間にか今日まで凌いでこれているではないかと、つまり私に対して"オオカミ少年"のこどく脅しているだけなのだろう、とでも言うような態度なのだ。

(「財政課26「病院局から呼び出し受けて大喧嘩(その1)」編」終わり。「財政課27「病院局から呼び出し受けて大喧嘩(その2)」編」に続きます。)
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