新潟久紀ブログ版retrospective

柏崎中学生時代5「先生、バスケがしたいです(その2)」

●先生、バスケがしたいです(その2)

 ここで「運動部にも難易度が色々あるだろうに何故バスケなのか」と聞いてこないのが良くも悪くも我が母らしいところだ。次に担任と話す時にはこれを答えなければなるまい。
 ある程度の経験というか勘所を持っていたのは「卓球」と「野球」であり、とっつきやすさで言えばそのどちらかであったのだが、それではスパルタンに痩せることはできないのではないかと考えていた。「陸上種目」は苦手だし、「水泳」はカナヅチに近い。「テニス」はなんとなく向いていないとの思い込みがあったし、現在人気の高い「サッカー」は当時は部すら無かったのではないか。
 「バレーボール」か「バスケットボール」かというところで、バレーは小学時代から馴らした様な連中が幅を聞かせそうな一方で、バスケには「この先輩についていきたい」と思えるような個性強めで尊敬できそうな三年生が何人か居たことが魅力だった。バスケ部は一年生に対する基礎練習がとりわけ厳しいとの噂が多く聞かれたのだが、あの人間的に素晴らしく見える三年生の下でならあまり無茶な練習ということは無いだろう。短期間でのダイエットにつながる運動で厳しくともまっとうな内容ならば正に私が求めるものに思えたのだ。
 「スラムダンク」や「黒子のバスケ」など以前の昭和のバスケというのはスポーツの中でもまだまだマイナー種目であり、見ると部員も多くないようだったので、痩せられる上に、もしかしたら試合に出らるようになれるかもしれないなどと、”取らぬ狸”的な調子のよい想像までがバスケ部希望へと私の考えを収斂させたのだ。
 果たして担任との再面談がセットされた。放課後に居残ってみると、部活選択で揉める再面談の生徒は私の他は二人くらいのようだ。入学早々私の事で担任を煩わせて申し訳ないなあと思う。
 私が部活動選択希望に至る思いの丈を落ち着いて説明すると、担任は少し呆れたような感じで「まあ頑張ってみなさい」と了承してくれた。担任その人は陸上部の顧問であり、この中学校の運動部の表裏を知り抜いている。バスケ部で新入生へ先輩から課される”基礎練習”は”シゴキ”と噂される伝統のようなもので、”いじめ”にも近いものだということを内々に知っていたに違いない。しかしながら、それを表向きな理由にして肥満体の私には無理だろうということも立場上言うことはできなかったのだろう。
 担任の銀縁眼鏡の奥の瞳が「こいつは卒業まではおろか一か月くらいで音を上げて辞めてしまうに違いないだろうなあ」と語っているように感じながら、私は夕暮れの教室を後にした。
 階段を下りて渡り廊下に向かうと音楽室があって吹奏学部の生徒たちが廊下までも使って各々で楽器を練習していた。それらを歩きながら指導している音楽教師でもある吹奏学部顧問の先生が私に気付くと、「君は吹奏楽部に来るとおもっていたんだけどねぇ」と声を掛けてきた。小学校からの申し送りで私は吹奏楽部への入部候補生として覚えられていたのだろう。私はユーホニウムがどれほど上手かったわけではないが吹奏楽部は部員不足で勘定に入れられていたのかもしれない。それにしても関係する先生方の間では私の無謀な部活希望が話題になっているかと思うと気恥ずかしくなり、挨拶もそこそこにその場を離れた。
 運動音痴とも言えるような肥満体の私自身が、いきなり未経験のハードなスポーツの部活動に挑戦することの無謀さや身心のリスクを誰よりも意識していた。それでも当時の私はなんとか身体を変えたくて仕方がなかった。それも優しくてのんびりした方法でなく厳しい方法を選びたかった。何故だか今でも分からないのだけれど、「デブ」「デブ」と級友などからバカにされ続けていたことの反動か、生まれ変わりたいという成長期特有の願望であったか。
 いずれにしても、退路を断って何かに臨んでみたいというような湧き上がる前進あるのみの意欲が、小学時代までのんびりぼんやりしていた私を突き動かしていた。
 今日まで半世紀以上暮らしてきて、周囲から何と言われようが判断が一ミリもブレなかったこの頃の気持ちは、未だに私の半生で"最強の意思"であったと思えて仕方がないのだ。

(「柏崎中学生時代5「先生、バスケがしたいです(その2)」」終わり。「柏崎中学生時代6「先生、バスケがしたいです(その3)」」続きます。)
小学生時代までの「柏崎こども時代」(全46話)はこちら
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