●公認会計士と缶詰で報告書の精査と決着
旅費不適正支出額の集計分析作業が終われば私の任務も終了。あとは自分の慰労のために殆ど未使用の有給休暇で旅行でも…と思っていたのだが甘かった。第三者を中心とする旅費問題等調査委員会の報告書という形で公表することが11月中旬に設定されたのだが、会計に関する専門資格を持つ有識者が、自身が名を連ねる委員会の名義で報告書が出されるからには、不適正額など"数字"について自身で徹底的に確認しないと容認できないと言うのだ。
私は計数処理の実務担当で、しかも末席の主事に過ぎず、大御所の委員さんの対応は課長級以上の役職者というのが暗黙の目安であったので、この委員による確認作業については、今回の不適正問題の一連を掌握する特命の参事が質疑に答えながら対応するということになった。委員の要望により静かな個室が用意され、午前10時から委員と特命参事の二人で確認を行うという。
委員の意向は、委員としての大所高所の視点から、計数全体の確からしさを念のために点検したいということだと考える。おそらくは一時間くらいで終わると思うが、細かい計数処理方法などの関係で必要があれば呼び込むから、一応念のために調査班部屋で待機していていなさい。特命参事は私にそう言い残して定刻に委員と共に個室に入っていった。
ところが、僅か10分程するかしないかで早速、私への呼び込み電話が鳴る。関係作業資料を携えて個室に伺うと、意気揚々とした委員と辟易とした表情の参事が並んで待ち構えていた。「委員からの質疑をお聞きし始めたら、とにかく細かくて詳しい集計過程や内容をお問い質しになるので、最初から君を同席させた方が良いと判断したのだ」という。
一つの資料を同じ向きで見ながら委員からの質疑に応答していくこととなり、3人でギュウギュウになる狭い個室の会議用テーブルの席に、私が委員と参事に挟まれる形で座り、委員が40ページ以上に及ぶ報告書案を一枚一枚めくりながら都度登場してくる数字について、一つ一つ信憑性の根拠などを問い質してくる。実務作業を行った担当でなければ即座に答えたり元資料を見せたりできないような細かさ。単なる「同席」などとは大違い。公認会計士に対峙する経験は何か洗礼を受けるかのような鮮烈さであった。
私は、公認会計士の本領躍如による矢継ぎ早の攻め込みに、のけぞりながら一つ一つ計数について説明していく。それでも独りで一からまとめ上げた集計結果なので凌ぎきる自信は大いにあったのだが、その横で心配そうに眺めてくれさえしていていれば良い参事も、自分なりに助太刀のつもりなのか責任感からなのか、いらぬ合いの手よろしく口を挟んでくる。それにより説明時間がかえって長くなったりしながら、亀の歩みのように確認作業が続いた。
"丁寧な"確認作業が、昼休みも挟むことになったあたりで、このままだと二日掛かりかという不安もよぎったが、そこは相手の委員もプロであり、自身が確認作業に充てるのは本日一日としていたことからも、私とのやり取りをしつつ時間配分も考えていたようで、確認ノウハウの要領を得た午後は点検のスピードがアップし、午後3時くらいには、報告書に記載された計数について「信用に足りる」とのコメントを頂けた。
疲労困憊の私は参事と共に委員を見送った後、最初は自分が対応すると啖呵を切っていた参事からは十分な労いの言葉を頂いた。さすがに参事はばつが悪そうな表情であったが、一方で公認会計士の仕事ぶりに関心しきりだった。確かに、会社経営でもしていなければ得られないような"ギリギリとした問い質され"の経験は後々の何かの役に立つだろう…とでも思わなければ気分的にやっていられない感じがした。正味4時間余りにわたり、狭い部屋でいずれも40代後半の貫禄ある男性の委員と参事に挟まれて、間違いが許されない質疑に全力で応答し続けるというあまりに過酷な体験をさせられたのだから。
思い起こせば確かに、この時の経験から得た数字の見方や点検の視点などについては、この後に長く県職員として業務する上で活かされていくのだが、このほんの数年後に、正に全国的な公金不適正支出問題を背景として創設される外部監査制度というものを担当して、公認会計士さんを濃密にお相手する仕事をする事になるとは…知る由もないこの時の私であった。
(「人事課行革班10「公認会計士と缶詰で報告書の精査と決着」編」終わり。「人事課行革班11「【番外編】アクセスと競り負けるなロータス123。」編」に続きます。)
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