●不適正額の判明。深夜の会議室で独り。
そうこうしている間に早くも10月末。一通りの調査作業を終えて、兼務発令やら作業に一時的に動員されていた他部署からの職員が、一人また一人と元職場へと引き上げを始め、広い会議室は随分と静かになった。我が調査班の頭である参事による、旅費問題等調査委員会における協議用の報告書たたき台を作成するための、ワープロ打ちのカタカタという音が妙に響くようになってきた。
私がほぼ独りで担当していた不適正支出額の集計作業は、300近い部署から紙媒体で提出されてきた調査集計表を、職員一人一人の自己点検表と突合確認し、縦横集計チェック等を経た上で、表計算ソフトの"ロータス123"にて作成した集計表に計数を打ち込んでいくものであったが、やるべき工程はほぼ一巡して、入力誤りが無いか、計算式に間違いは無いかなどの最終的な確認作業に入っていた。
「集計結果はまとまったかね。そろそろ報告書として仕上げないと対外的に耐えられない…」などと、私は課長補佐格の上司である調査員からプレッシャーをかけられるが、県政全体の信頼に関わるものであるという事案が事案なだけに、違算は許されないことから、当時は県庁の仕事への活用が普及していなかった表計算ソフトを駆使するに際して求められる慎重さなどを言い訳にして時間を稼ぎ、私は念には念を入れた点検を重ねた。
それでもいよいよ後は私の作業による集計結果を待つばかりとなり、最初から居るオリジナルの調査班スタッフですら夜7時前後には退庁できるようになってきた頃のある日の夜10時頃、誰も居ない会議室で、電気代節約のために僅かに灯した蛍光管の明かりの下で、唯一人でラップトップパソコンに向かう私は、遂に旅費の不適正支出額集計結果の確定値を見た。
「9億円余り」。再調査による不適正支出額は、ずさんと言われた初回調査の1億円を相当程度は超えるだろうとあちこちで噂されていたが、そのように全職員が固唾を呑んで待ち構えていた"不適正の総額"を、集計担当をしていたことから一番最初に目にすることとなった私は、作業途中から概ねの見込みは分かっていたものの、最終値として見るとやはり大きく重い数字と感じられた。
旅費不適正の全容は、件数としては全198万件余りのうち24万件余りの12.2%、金額にして全98億5千9百万円余りのうち9億3千6百万円余りの9.5%。全体の1割程度が不適正だったことが判明した。内訳をかなり詳しくした表の串刺し集計をしていたので、総額だけでなく過剰請求など不適切に支出された旅費がどのように使用されたかの充当先と程度も一気に明らかとなる。予算措置が認められにくいとか臨機に柔軟な対応が必要などで、事務用備品購入費やタクシー代などへの充当も多かったが、国や他県職員、県職員同士など、当時全国的に露見して騒ぎとなっていた、いわゆる"官官接待"も少なくなかった。
入庁10年ほどの私には、こうした実態に至る事情や経緯を深く知るよしも無かったが、何か県庁の体質が変わる大きなエポックメイキングになることは間違い。"不適正額9億円余り"を表示するパソコンの液晶ライトに照らされながら深夜の会議室で独りそう思うのだった。
(「人事課行革班9「不適正額の判明。深夜の会議室で独り」編」終わり。「人事課行革班10「公認会計士と缶詰で報告書の精査と決着」編」に続きます。)
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