数日前から報道で盛んに注意喚起がなされてきた年末年始の大寒波がいよいよ近づいてきたようだ。昨日の穏やかさが一変、窓を叩く暴風雨は、夕方からは吹雪になるかもしれない。
風雪の被害と言えば、平成17年12月22日から長時間にわたり、新潟県の地図で言うと北の山形県寄りの三分の一程の圏域にあたる、下越地方を中心に発生した大停電を思い出す。
当日は、都内総務省での会議に出席するため、朝二番目くらいの新幹線に乗ろうと、まだ誰も出勤していない職場に立ち寄って書類を携えると、タクシーに乗り込んだ。
新潟駅までのほんの十数分、通勤の混雑が始まる前の車通りの少ない時間帯で走りがスムーズなのは分かるが景色がどこか変だ。運転手さんが「ああ、信号機が全部消えてますねぇ」と言い、時折の交差点で左右を警戒しながらも、「そのうち復旧するでしょう」と話しつつ新潟駅に到着する。
新潟駅のメインの万代口の改札前ホールは異様な雰囲気であった。電車発着予定を伝える電光掲示板はおろか照明や自販機に至るまで全く消えていて、早朝の薄明るさのみの中で、登校途中の制服姿の高校生らが体を動かせんばかりに満ち溢れているのだ。
停電復旧の見込みはどうなのか、出張は可能なのか、早く見切りをつけたい私が高校生たちを制している駅員さんに尋ねると、「新幹線の電源は別系統なので運行しています」と驚きの回答が。
やるかたない不平を言う声々が文字通りブーブーと聞こえる高校生達の群れを横目に、新幹線乗り場に掛け行って回数券を改札に通し、数分後発車予定の新幹線に乗れば、別世界のような蛍光灯の明るさと暖房の暖かさだ。市内の騒ぎなどよそ事のように、慣れた滑り出しで新幹線は東京へ向かい始めた。
後から聞いたら、同じ会議出席のために、次の便で上京しようとしていた別の部署の職員は、新潟駅を出て間もない燕三条駅付近で架線停電となり立ち往生したとのこと。昔から、何事も時間に十分余裕を見て行動する私の癖が紙一重の幸運をもたらしてくれたようだ。
無事に着いた東京は冬型の天気らしく雲一つない乾いた晴天で、後にしてきた新潟の出来事が夢であったかのようだ。それでも、昼食で立ち寄った洋食屋でハンバーグランチなど食べながらテレビのニュースに目をやると、新潟ではいまだ停電が続き、大寒波の下で電化製品や電気的システムへの依存が高まっている都市部の生活者に深刻な状況をもたらしているという。
携帯で在宅の家族に電話すると、学校は休校となり、家の一室で身を寄せ合って過ごしているという。エアコンが使えない中で一台ある石油ストーブだけが頼りなのだ。上水をポンプアップする集合住宅では水道も使えない。トイレを流すのに使える風呂の残り湯はすぐに排水しないでおくものだなと思った。
家族には申し訳ないが、暖かい室内で温かな食事を済ませて予定通り霞が関の国の合同庁舎の会議場に行くと、ここも新潟での大停電など全く無縁であった。淡々と予定の次第に即して膨大な資料を官僚が早口で説明し、煩わしそうに自治体職員からの質問に答えていけばいつの間にか定刻の終了時間にあっという間だ。
さて、馬にでも食わせるような厚い資料を"お土産"にもたされて、とんぼ返りで東京駅へと向かう。「新幹線は動いているのか」の想いは、次第に「本日中に帰宅できるのか」へと悲観的になっていく。
はたして東京駅に着くと、駅員さんのメガホンでのアナウンスが耳に入った。「停電で運休しておりました上越新幹線下り新潟行は、"この次の便"から運行再開します」。
なんと有難いタイミングだ。駆け付けた途端に数分後発の次の便に乗れるという。待たされた乗客達が連なっているだろうから乗り遅れまいと必死に階段を駆け上がる。
ところが、発車を目前に控える車両の付近には人もまばらで、すんなりとドアから入り、余裕で座れたから驚いた。乗り合わせた他の客の雑談を漏れ聴くと、先ほどまでずっと「運行再開は全くの未定」とアナウンスされていたので、あきらめて都内の街中へと腹ごしらえや泊まる場所を求めに多くの人が駅を後にしたらしい。そんな人の波を見れば自分もつられてそうしていたかも知れない。またも紙一重で幸遇なのだった。
夜の新潟駅に近づくと、見慣れた街の明かりが見えてきた。新潟駅を含む市の中心部は夕方には電気が復旧したようだ。平常心に戻ったかのような万代口の改札口を朝来たのとは反対に滑り出て、面前に連なるタクシーに手を挙げる。「異例の猛吹雪と寒波で高圧電線が切れたのが原因らしいです。新潟市の郊外の地域では未だ復旧の目途もたっていないらしいですよ」と運転手さんから教えてもらいながら、いつもどおりにともる街灯と信号機に安堵する。
国の会議へ出張すると帰路その足で職場に戻るのが通例なのだが、寒さに凍えてピーピー言っていたであろう家族の顔が浮かんで、今回は直帰させてくださいと上司に携帯でお願いする。
職場も暖房が止まり大変だったという。しかし、そんな極寒の中でも当初予算の査定作業を日程通り進めていたというのだから、恐るべしは自治体の財政担当課か。くわばらくわばらだ。
(「ほのぼの暮らし・大停電の"紙一重体験"を思い出す2020.12.30」終わり。「ほのぼの暮らし・歯の移植大手術の話2021.3.6」に続きます。)
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