~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
妄想ドラマ 『Snowflake』 (24)
悟は栗原功一が自分を海外へ行かせようとしているらしいということを、
美冬には話さなかった。
それが事実かどうかは功一に確かめないかぎりわからないだろう。
子供が出来たことを話せば、反対しているという二人のことも認めてくれるに違いない。
すぐに悟は結婚の承諾を得るために、功一に会うことにした。
もちろん美冬と二人で。
シャッターの下りたギャラリーフリースタイルで3人は顔を合わせた。
功一は話を聞くと腕組みをしたまま、考え込んだ。
突然、娘に妊娠を告げられて動揺していた。
功一が考えていた美冬の幸せは、佐和野と結婚するという前提のもとに成り立っていた。
佐和野だったら何の心配もなくすべてを任せて、自分は引退できると思う。
大町悟とのことは引き離せばすむような、一時的な気の迷いだと思っていた。
美冬は自分が見出した才能に舞い上がっていると。
やがて功一は決心して二人に言った。
「驚いたけど、こうなったからには今更反対なんて出来ないだろう。生まれてくる命は祝福してやらないとな」
「結婚を認めてもらえるんですね」
「娘を頼むよ」
「お父さん、ありがとう」
美冬と悟は顔を見合わせて微笑んだ。
「ただし、条件がある」
今度は悟の目を見て功一が言った。
「君にフリースタイルの後継者になるための勉強をしてもらう。それだけは私が譲れない唯一の条件だ」
「ちょっと待ってお父さん。どういうこと?」
「お前たちが結婚して、佐和野がこのまま会社に留まると思うか?誰もが佐和野は美冬と結婚していずれは社長に就任すると思っている。
佐和野には大町くんの個展が終わった時点で辞めさせてほしいと言われていたが、今まで引き止めていたんだ」
佐和野は仕事ができるぶん、プライドも高い。
第一、周りにそんなふうに思われていることを知りながら、美冬も否定しなかった。
彼に好意を持ち、功一の期待通り、時がくれば結婚するつもりでいたから。
「でも悟君は個展も成功して、画家としてこれからが大事なのよ。仕事は私が頑張る」
「子供を産んで育てるということは、仕事の片手間でできることじゃないよ。
海外への出張だって多いし、時間だって不規則だ」
美冬は返す言葉がなかった。
それぞれが心の中で葛藤を繰り返した。
通りを走る車の音がいつもより大きく響く気がする。
「わかりました。少しだけ時間をください。今描いている絵が完成したらおっしゃるとおりにします」
悟が言った。
「覚えることは山ほどある。絵は捨てるくらいの覚悟が欲しい。大丈夫かな?」
「大丈夫です」
突然美冬が立ち上がった。
「悟君が大丈夫でも私はいや。絵を捨てるなんてできっこない。きっと後悔する」
「美冬さん、大丈夫だよ。今の俺にとって一番大切なのは絵を描くことじゃないんだ」
「美冬、現実を見なさい。佐和野がこなしていた仕事をお前が引き継ぐのは無理なんだよ。
大町君だって世界へ目を向けて多くの絵画に触れていれば、趣味で絵を描くなんてことで満足できるはずがない。
かえって苦しい思いをするだろう。きっぱり捨てたほうがいい」
「そんな・・・」
呆然とする美冬の手にそっと自分の手を重ねて悟が言った。
「その方がすっきりすると思う。この先、画家として食べていけるかどうかわからないし、
美冬さんと子供に苦労をさせたくないんだ。俺はもうひとりじゃないんだから平気」
「今の言葉を聞いて安心したよ。思っていたより君はしっかりした男のようだね。
美冬はいつまでたっても夢ばかり見て困ったもんだ」
功一が立ち上がって悟に手を差し出し、二人は固い握手をした。
「きりよく4月から仕事を始めてもらうことにしよう。今月中に身辺整理して・・・そうだ、スーツを何着か用意してもらわないとね。
その様子じゃ持ってないだろう?」
功一は安心したのか、陽気にあれこれと今後のことを話し出した。
悟も笑顔で相槌をうっている。
思わぬ展開になったけれど、これでいいんだと自分に言い聞かせながら。
今の自分なら、美冬と子供のために絵を捨てることができる。
それよりも守らなければならない幸せが、目の前に広がっていると思えた。
--------つづく-------
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
やっほい!次回は最終回・・・の予定です。
まいどまいど予定ですみません
妄想ドラマ 『Snowflake』 (24)
悟は栗原功一が自分を海外へ行かせようとしているらしいということを、
美冬には話さなかった。
それが事実かどうかは功一に確かめないかぎりわからないだろう。
子供が出来たことを話せば、反対しているという二人のことも認めてくれるに違いない。
すぐに悟は結婚の承諾を得るために、功一に会うことにした。
もちろん美冬と二人で。
シャッターの下りたギャラリーフリースタイルで3人は顔を合わせた。
功一は話を聞くと腕組みをしたまま、考え込んだ。
突然、娘に妊娠を告げられて動揺していた。
功一が考えていた美冬の幸せは、佐和野と結婚するという前提のもとに成り立っていた。
佐和野だったら何の心配もなくすべてを任せて、自分は引退できると思う。
大町悟とのことは引き離せばすむような、一時的な気の迷いだと思っていた。
美冬は自分が見出した才能に舞い上がっていると。
やがて功一は決心して二人に言った。
「驚いたけど、こうなったからには今更反対なんて出来ないだろう。生まれてくる命は祝福してやらないとな」
「結婚を認めてもらえるんですね」
「娘を頼むよ」
「お父さん、ありがとう」
美冬と悟は顔を見合わせて微笑んだ。
「ただし、条件がある」
今度は悟の目を見て功一が言った。
「君にフリースタイルの後継者になるための勉強をしてもらう。それだけは私が譲れない唯一の条件だ」
「ちょっと待ってお父さん。どういうこと?」
「お前たちが結婚して、佐和野がこのまま会社に留まると思うか?誰もが佐和野は美冬と結婚していずれは社長に就任すると思っている。
佐和野には大町くんの個展が終わった時点で辞めさせてほしいと言われていたが、今まで引き止めていたんだ」
佐和野は仕事ができるぶん、プライドも高い。
第一、周りにそんなふうに思われていることを知りながら、美冬も否定しなかった。
彼に好意を持ち、功一の期待通り、時がくれば結婚するつもりでいたから。
「でも悟君は個展も成功して、画家としてこれからが大事なのよ。仕事は私が頑張る」
「子供を産んで育てるということは、仕事の片手間でできることじゃないよ。
海外への出張だって多いし、時間だって不規則だ」
美冬は返す言葉がなかった。
それぞれが心の中で葛藤を繰り返した。
通りを走る車の音がいつもより大きく響く気がする。
「わかりました。少しだけ時間をください。今描いている絵が完成したらおっしゃるとおりにします」
悟が言った。
「覚えることは山ほどある。絵は捨てるくらいの覚悟が欲しい。大丈夫かな?」
「大丈夫です」
突然美冬が立ち上がった。
「悟君が大丈夫でも私はいや。絵を捨てるなんてできっこない。きっと後悔する」
「美冬さん、大丈夫だよ。今の俺にとって一番大切なのは絵を描くことじゃないんだ」
「美冬、現実を見なさい。佐和野がこなしていた仕事をお前が引き継ぐのは無理なんだよ。
大町君だって世界へ目を向けて多くの絵画に触れていれば、趣味で絵を描くなんてことで満足できるはずがない。
かえって苦しい思いをするだろう。きっぱり捨てたほうがいい」
「そんな・・・」
呆然とする美冬の手にそっと自分の手を重ねて悟が言った。
「その方がすっきりすると思う。この先、画家として食べていけるかどうかわからないし、
美冬さんと子供に苦労をさせたくないんだ。俺はもうひとりじゃないんだから平気」
「今の言葉を聞いて安心したよ。思っていたより君はしっかりした男のようだね。
美冬はいつまでたっても夢ばかり見て困ったもんだ」
功一が立ち上がって悟に手を差し出し、二人は固い握手をした。
「きりよく4月から仕事を始めてもらうことにしよう。今月中に身辺整理して・・・そうだ、スーツを何着か用意してもらわないとね。
その様子じゃ持ってないだろう?」
功一は安心したのか、陽気にあれこれと今後のことを話し出した。
悟も笑顔で相槌をうっている。
思わぬ展開になったけれど、これでいいんだと自分に言い聞かせながら。
今の自分なら、美冬と子供のために絵を捨てることができる。
それよりも守らなければならない幸せが、目の前に広がっていると思えた。
--------つづく-------
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
やっほい!次回は最終回・・・の予定です。
まいどまいど予定ですみません