丸山真男の文章の中に、次のような記述がありました。
「先日私は『ロベレ将軍』というイタリー映画をみました。・・・私がそのなかでとくに印象づけられた場面の一つとして、刑務所の中の場面があります。そこでは戦争中闇商売をやつていた男が、抵抗運動者やユダヤ人といつしよにつかまつて、今やまさに処刑されようとしている。死刑になるか強制労働にやらされるか、あるいはドイツに送られるかという瀬戸際のところであります。その闇商売をやつていた男は恨めしそうに、同室の囚人たちに対して、さかんにこういうわけです。自分は何もしなかつたのにこういう目にあつた、ユダヤ人でもない、抵抗運動もしたことはない、それなのにこんなにひどい目にあういわれはない、私は何もしなかつた、何もしなかつたと、ヒステリックに叫びます。それに対して元銀行員であつたところのレジスタンスの指導者が静かにこういいます。「私はあなたのいうことを信ずる。しかしまさに何もしなかつたということがあなたの罪なのだ。なぜあなたは何もしなかつたのか。五年も前から戦争が行われている。そのなかであなたは何もしなかつたのです」これに対してその男が「それじやあなたは何をしたのですか」と聞くと、そのファブリチオという抵抗者は、「私は取るに足らない仕事をしました。ただ義務を果そうと思つただけです。もしみんながそれぞれ義務を果していたならば、たぶんわれわれはこんな目にあうことはなかつたでしよう」ということを語ります。
ここには私の先ほどから話していた問題の核心が、非常に短いが鋭い形で触れられていると思います。つまりそれは不作為の責任という問題です。しないことがやはり現実を一定の方向に動かす意味をもつ。不作為によつてその男はある方向を排して他の方向を選びとつたのです。・・・」(『増補版 現代政治の思想と行動』第三部「政治的なるもの」とその限界 七現代における態度決定 の項、P.456より引用)
1960年の文章だということですが、なんと鮮明に、いま私たちの直面している問題を表現していることかと驚きます。
そして事柄の深刻さを思うと同時に、深い慰めをこの文章から感じるのです。みなさんはいかがでしょうか。
「特定秘密保護法」が施行される今日、人間が戦争の苦しさと犠牲から学び取ってきた「いのち、人権は何にも代えがたく大事。あなた方は殺してはならない。人権を犯してはならない」ということの価値を強く訴えたいと思います。本日は世界人権デーです。
忘れてはなりません。世界の流れは情報公開です。情報がなければ人はものを考えることができません。情報は民主主義の基本です。秘密保護法は民主主義社会を腐らせるものです。人々は主権者なので、黙ってついてくる羊にされてはなりません。
「先日私は『ロベレ将軍』というイタリー映画をみました。・・・私がそのなかでとくに印象づけられた場面の一つとして、刑務所の中の場面があります。そこでは戦争中闇商売をやつていた男が、抵抗運動者やユダヤ人といつしよにつかまつて、今やまさに処刑されようとしている。死刑になるか強制労働にやらされるか、あるいはドイツに送られるかという瀬戸際のところであります。その闇商売をやつていた男は恨めしそうに、同室の囚人たちに対して、さかんにこういうわけです。自分は何もしなかつたのにこういう目にあつた、ユダヤ人でもない、抵抗運動もしたことはない、それなのにこんなにひどい目にあういわれはない、私は何もしなかつた、何もしなかつたと、ヒステリックに叫びます。それに対して元銀行員であつたところのレジスタンスの指導者が静かにこういいます。「私はあなたのいうことを信ずる。しかしまさに何もしなかつたということがあなたの罪なのだ。なぜあなたは何もしなかつたのか。五年も前から戦争が行われている。そのなかであなたは何もしなかつたのです」これに対してその男が「それじやあなたは何をしたのですか」と聞くと、そのファブリチオという抵抗者は、「私は取るに足らない仕事をしました。ただ義務を果そうと思つただけです。もしみんながそれぞれ義務を果していたならば、たぶんわれわれはこんな目にあうことはなかつたでしよう」ということを語ります。
ここには私の先ほどから話していた問題の核心が、非常に短いが鋭い形で触れられていると思います。つまりそれは不作為の責任という問題です。しないことがやはり現実を一定の方向に動かす意味をもつ。不作為によつてその男はある方向を排して他の方向を選びとつたのです。・・・」(『増補版 現代政治の思想と行動』第三部「政治的なるもの」とその限界 七現代における態度決定 の項、P.456より引用)
1960年の文章だということですが、なんと鮮明に、いま私たちの直面している問題を表現していることかと驚きます。
そして事柄の深刻さを思うと同時に、深い慰めをこの文章から感じるのです。みなさんはいかがでしょうか。
「特定秘密保護法」が施行される今日、人間が戦争の苦しさと犠牲から学び取ってきた「いのち、人権は何にも代えがたく大事。あなた方は殺してはならない。人権を犯してはならない」ということの価値を強く訴えたいと思います。本日は世界人権デーです。
忘れてはなりません。世界の流れは情報公開です。情報がなければ人はものを考えることができません。情報は民主主義の基本です。秘密保護法は民主主義社会を腐らせるものです。人々は主権者なので、黙ってついてくる羊にされてはなりません。