のどかなケイバ

一口馬主やってます

女神「宇宙人受難之碑」1

2017-07-21 09:35:30 | 小説
 遥かに伸びる国道。その中を1台のクーペタイプのクルマが走ってます。東の空には今昇ったばかりの太陽があります。今クルマはその太陽を背に走っています。
 車内です。運転してるのは香川隊長。コンビニで買ってきたのか、隊長はいなり寿司をかじってます。助手席には海老名隊員がいます。彼女は眠りこんでいます。中途半端に開いた口からよだれが垂れてます。テレストリアルガードの隊員とは思えない姿です。隊長も海老名隊員も隊員服ではなく、シャツにジーンズと、かなりラフな格好です。
 後部座席には女神隊員が座ってます。女神隊員の服装はジーンズ生地のオーバーオール。上溝隊員の見立てなんだとか。いつも被ってる白い帽子は、今は座席の上にあります。ウィッグは被ってますが、外から見られることはないと思ってるらしく、特徴的な単眼が丸見えです。
 女神隊員は窓の外を見てます。田んぼ、畑、川、たまーに過ぎる樹々・・・ それらを楽しそうに眺めてます。実は女神隊員はこうやって外出するのは、地球に来て今回が初めてなのです。だからすべてが新鮮な光景なのです。女神隊員は今、とってもわくわくドキドキしてました。
 ちなみに、3人が乗ってるクルマですが、隊長の私物です。テレストリアルガードのカラーリングは施されてません。
 クルマの進行方向には巨大な富士山があります。上半分は白い雪の富士山。早朝のせいか、それより下はとっても青く見えます。

 3人が乗ったクルマが立派な家屋の敷地の中に入っていきました。どうやら農家のようですが、とてつもなく大きな敷地です。その敷地に3人が乗ったクルマが駐車しました。
 クルマから3人が降りてきました。女神隊員は慌ててウィッグを直し、単眼を隠し、さらに白い帽子をかぶりました。それをドアミラーで確認してます。海老名隊員はまだ眠り足りないのか、眼は半分寝たままです。
 隊長が家屋のドアホンを押しました。すると、
「はーい!」
 という声が、家屋の中から。ドアが開き、40代くらいの女性が出てきました。
「うわ~ よく来たねぇ、お兄ちゃん」
 と言っても、この女性は隊長の妹さんではありません。隊長の母の妹の娘なのです。つまりいとこ。幼少のころ諸般の事情で10年ばかし一緒に暮らしたので、彼女は今でも隊長をお兄ちゃんと呼んでます。ちなみに、隊長にはきょうだいはいません。両親と妻と娘が1人いましたが、5年前の戦争でみんな死んでしまったようです。
「だんなは?」
「畑。でも、軽トラは置いてったよ」
「あは、そっか。じゃ、借りてくぞ」
 女性はクルマの鍵を隊長に渡す体勢になりました。
「はい、鍵」
 隊長はその鍵を受け取ろうとしました。が、寸前で女性は鍵を握った手をさっと横に。
「お、おい?」
 女性は何か悪だくみを考えてるような眼差しで、女神隊員を見ました。
「その人、ヘルメットレディでしょ?」
 また面倒なことを訊いてきたなあ、と隊長は思いました。
「違うよ」
「うそ。ヘルメットレディは顔に何か事情があってヘルメットを被ってるんでしょ? 帽子をそんなに目深にかぶってるてことは、やっぱその人の顔にも何か秘密があるんでしょ? ねぇ、どんな顔してるのか、見せてよ」
 隊長は応えに窮しました。女性はさらに追い打ちをかけるように、
「見せないと、クルマ貸さないよ」
 隊長は困った顔で女神隊員を見ました。そしてまた女性を見て、
「絶対口外しないか?」
「うん、しない」
「ほんと?」
「ほんとだよ」
 隊長はまた女神隊員を見て、
「悪いな」
「仕方がないですね」
 女神隊員は帽子を取り、さらに前髪のウィッグを取りました。あらわになったその特徴的な単眼を見て、女性の顔は半分苦笑、半分恐怖て顔になりました。
「ああ、あはは・・・」
 隊長はさらに念を押すように、
「これはテレストリアルガード最重要機密事項だからな。口外したら逮捕だ。覚えておけよ」
 いや、現在テレストリアルガードにはそんな機密事項は指定されてないのですが。
 隊長は鍵を受け取ると、軽トラックに向かって歩き始めました。海老名隊員と女神隊員もそれに続きます。
「じゃ、軽トラ借りてくぞ」
 軽トラックが走り始めました。女性はそれを見送ってますが、まだ顔が引きつってます。足もぶるぶると震えてます。
「あはは・・・」

 3人が乗った軽トラックが舗装された林道を走ってます。今日は晴天ですが、林道のせいか、明るさはあまりありません。今軽トラックはゴルフ場の駐車場の入り口を通り過ぎました。
 車内です。運転してるのは隊長。助手席側には女神隊員。間には海老名隊員が座ってます。
「ゴルフ場過ぎたな。そろそろだな」
 林が終わり、あたりは急にぱっと明るくなりました。軽トラックの目の前にゲートが見えてきました。かなり大きなゲートです。その両側にはゲートと同じデザインの金網のフェンスがはてしなく続いてます。ゲートの脇には詰め所があるのですが、今は誰もいないようです。ゲートも開いたままです。軽トラックはそのゲートを止まることなく通り過ぎていきました。
 ゲートの中は起伏に富んだ地形です。ただ、樹木はありません。ほとんどが草原です。ゲートの前までは舗装路でしたが、ゲートを過ぎてからは石ころが転がる悪路です。その悪路の中を軽トラックが走って行きます。ガタガタした道に車内の海老名隊員は大変そう。
「う、うわっ」
 でも、女神隊員はとっても楽しそうです。
「きゃは」
 軽トラックが道端に駐まりました。
「今年はこのあたりにするか」
 と言うと、隊長は軽トラックを降りました。女神隊員と海老名隊員も軽トラックを降りました。女神隊員は帽子を取り、それを助手席に置こうとしましたが、海老名隊員がそれを見て、
「あ、帽子は持ってた方がいいですよ」
「え? あ、はい」
 軽トラックを降りた3人。隊長は足下に生えているワラビの根元を指で挟み、その茎を折りました。それをそのまま摘まみあげ、女神隊員に見せました。
「今日はこれを採って欲しいんだ」
「これは?」
「ワラビ、山菜だよ。食べるんだ」
「へ~」
 隊長は今度は別のワラビを指さしました。そのワラビはすでに開いていて、たくさん枝分かれしてます。
「同じワラビでも、ここまで成長しちゃったらダメだ。硬くて食えない」
 隊長は掌のさっき採ったワラビを女神隊員に見せました。そのワラビは先っぽが小さく丸まってます。
「これくらいのものを採ってくれ」
「はい」
 海老名隊員はすでにワラビ採集を始めてます。女神隊員もワラビ採集を始めました。最初のうちは白い帽子を手元に置いてワラビを採ってましたが、手に付いたワラビの灰汁が真っ白い帽子に付いて汚れが目立つようになりました。で、いつしか白い帽子を無視して採集するようになってました。
 が、排気音が。女神隊員が振り向くと、1台の白いクルマが走ってきました。女神隊員は慌てて白い帽子のところまで走って行き、帽子をかぶりました。けど、白いクルマは通り過ぎてしまいました。女神隊員はふーっとため息をつきました。ちなみに、そのクルマはちょっと離れたところに駐まりました。で、中の人が降り、ワラビを採り始めました。
 5分後、今度はフルオープンのジープが来ました。女神隊員は今度は白い帽子を手元に置いてあったので、すぐに帽子をかぶることができました。
 ジープが3人が乗ってきた軽トラックの前に駐まり、2人の迷彩服の男が降りてきました。2人は軽トラックのナンバープレートを覗き込みました。女神が聞き耳を立てると、こんなセリフが。
「これは地権者のクルマだな」
 2人の迷彩服の男はジープに乗り、行ってしまいました。ジープは今度は5分前に来た白いクルマのところに行きました。しばらくすると、ジープはそのクルマを連れて、どこかに行ってしまいました。その一部始終を見ていた女神隊員のところに隊長が来て、
「あのクルマは地権者のクルマじゃなかったんだな。ここでワラビを採ってもいいのは、地権者のクルマだけなんだ」
「へ~、隊長さんの妹さんて偉いんだ」
「別に偉いってわけじゃないんだが。たまたま地権者の家にお嫁に行っただけだよ」
 2人は再びワラビを採り始めました。