のどかなケイバ

一口馬主やってます

女神「宇宙人受難之碑」2

2017-07-23 20:58:17 | 小説
 1時間くらいして隊長は腰が疲れたのか、思いっきり腰を伸ばしました。
「ぐーっと・・・」
 隊長は女神隊員と海老名隊員を見て、
「そろそろ帰ろうか」
 2人は返事しました。
「はい」
 3人が軽トラックに乗り込みました。軽トラックは石ころだらけの悪路を走り始めました。その車内です。激しい振動でやっぱり海老名隊員はしんどそう。
「うわっ、うわわわわ~ もう、スピード落としてくださいよ~」
 女神隊員は振動で帽子もウィッグも飛んでしまいました。でも、とっても楽しそうです。
「きゃははは」
 隊長は横目でその女神隊員を見て、微笑みました。
 軽トラックが舗装路に出ました。女神隊員はウィッグと帽子をかぶりながら、
「隊長、また来ましょうね」
「ああ、また来年な」
 軽トラックは走り去って行きました。

 数日後、処替わってここは山中。はげ山なのか、樹木は見えません。ところどころ草が生えてるだけです。ちょっと平らなところにはストーク号が駐機してます。別の平らになったところでは、何かイベントが行われてます。そこを拡大すると・・・
 何か大きなものに白い布が被せてあります。
「除幕です!」
 その声に合わせ白い布が引っ張られると、石碑が現れました。その碑文を読むと「宇宙人受難之碑」 除幕と同時に、10羽ほどの白い鳩が放たれました。
 この石碑と相対するように、たくさんの人がパイプいすに座ってます。その中にはテレストリアルガードの隊員服を着た香川隊長・橋本隊員・倉見隊員・寒川隊員の姿もあります。実はここは、女神隊員が乗ってきた宇宙船が墜落した現場なのです。テレストリアルガードと当地の公共団体が折半して、石碑を建立。今日はその石碑の除幕式の日なのです。テレビカメラも入ってるようで、今石碑が映し出されています。
 ここはテレストリアルガードのサブオペレーションルーム。今テレビがついていて、先ほどの石碑が映ってます。このテレビを見ているのは女神隊員、その横には上溝隊員の姿もあります。2人とも隊員服を着てます。女神隊員はウィッグだけで単眼を隠してます。
 女神隊員がぽつりと言いました。
「私も行きたかった・・・」
「ムリですよ。ヘルメットして行けば、ヘルメットレディだと言われてたくさんの人が集まってくるし、帽子とウィッグじゃ、眼を完璧に隠すことはできないし・・・ あとで一緒に行きましょ」
 女神隊員はその言葉に何も反応しませんでした。何か思い出してるようです。きっと墜落したときの記憶だと思います。上溝隊員はさらに何か声をかけようと思いましたが、やめておくことにしました。

 再び山中の会場です。
「次はテレストリアルガード、香川隊長のお言葉です」
 その発言で石碑の前に一時的に設けられた壇上に隊長が向かいました。隊長はまずは壇上に上がる前に壇上に一礼し、壇上に上がったら今度は観客に一礼し、演説を始めました。
「あぁ、テレストリアルガード隊長の香川です。
 私たちは8年前と5年前、宇宙からの侵略を受け、たくさんの人命が失われました。そのせいか、宇宙からの侵略者を極端に怖がるようになりました。
 2か月前地球に1隻の宇宙船がやって来ました。状況からして侵略を受けた惑星からやってきた、いわゆる難民船だったようですが、宇宙人を極端に怖がってた私たちは、この船を攻撃してしまいました。難民船はこの地に墜落し、乗っていた難民5千人が一瞬にして亡くなってしまいました。
 我々に彼らを殺す理由があったのでしょうか? 明らかに過剰防衛です。日本の法律では、地球人には人権がありますが、宇宙人にはありません。だから私たちは責任を問われることはありません。しかし、5千もの人々を一瞬にして殺してしまったという事実は、ぬぐいきれるものではありません。
 この町の尽力により、ここに宇宙人受難之碑を建立してもらいました。せめてもの償いです。この町に感謝します。
 我々もユミル星人に攻撃されました。今も宇宙のどこかで侵略を受けてるむこの惑星があるのかもしれません。また難民船がやってくる可能性があるのです。みなさん、そのときはどうしますか? 私は彼らを受け入れるべきだと思います。地球人はそんなに薄情ではありません! 
 話が長くなってきたようです。このへんで終わりにします」
 隊長は再び頭を下げました。と同時に、パイプいすに座ってるみんなが拍手を始めました。とてつもなく大きな拍手です。中には立って拍手してる人もいます。が、倉見隊員は冷めた表情でその拍手を聞いてました。もちろん彼は拍手してません。
「ふん、バカか」
 が、ふと横を見ると、隣りの橋本隊員も拍手してたのです。
「え?」
 橋本隊員は無心に拍手してました。
「橋本さん・・・」
 橋本さんは女神隊員に助けられたせいか、宇宙人に対する考えがまったく変わってしまったようです。

 テレストリアルガードのサブオペレーションルーム。テレビを見ていた上溝隊員が、吹き出すように笑いました。
「あははは、うちの隊長がこんな大演説をするなんて」
 が、女神隊員はかなり真面目に聞いてました。上溝隊員はそれに気づき「あは、こりゃまずかったかな?」と、一瞬焦りました。と、女神隊員のウィッグの透き間から涙がこぼれ出てきました。それを見て上溝隊員は慌てました。
「え、ええ・・・」
 上溝隊員は慌ててティッシュを取りました。
「もう」
 上溝隊員はそのティッシュを女神隊員に渡しました。
「はい」
 女神隊員はそのティッシュを受け取りました。
「あ、ありがと」
 女神隊員は流れ出てくる涙をそのティッシュで拭きました。上溝隊員はその女神隊員を横目で見て、心の中で言いました。
「もう、眼が1個しかないから、涙が鼻水にしか見えないんだよね」

 しかし、世の中にはこの演説を快く思ってないヤカラもいるようです。ここは一般のアパートの部屋です。汚い部屋です。季節外れのこたつの上には、使用済みのカップラーメンのカップやペットボトルがたくさん載ってます。まるでゴキブリが運動会をやってるような汚い部屋です。その傍らのテーブルでインターネットをやってる男がいます。メガネで小太り、髪の毛ボサボサ、いわゆるブサメンです。
 ブサメンはテレビとパソコンのディスプレイの画面を交互に見ながら、こんなことを言ってます。
「けっ。きれいごと並べやがって! エイリアンはエイリアンだろ! こいつらだって侵略しに来たんじゃねーか?」
 プサメンは検索サイトに入ると「自衛隊」という文字を打ちました。どうやら自衛隊関連のサイトに行ったようです。で、いろんなページを閲覧してたのですが、ふとあるページで手を止めました。
「こ、これは?」
 そこには黒焦げな死体が映ってました。
「うわ、きも~ なんだよ、この写真?」
 次の写真を見ると、死体を搬出してる自衛隊と思われる人物が映ってました。
「こ、これって、さっきの墜落現場の写真?」
 さらにめくると、カプセルから半分出ている死体や子どもの死体、大きく欠損した死体などが出てきました。
「おいおい、なんだよ、これ? グロばっかじゃん・・・」
 さらにもっと驚くべき死体の写真を見つけました。その死体の顔には巨大な眼が1つしかないのです。
「ええ? これ、今回遭難した宇宙人なの?
 うわ~ 何これ、単眼? 自衛隊はこんなキモいやつらの遺体を収集してたのかよ。
 よーし!」
 ブサメンはその写真の上で右クリック。「名前をつけて画像を保存」をクリック。これで自分のパソコンにその画像を取り込んでしまいました。この画像だけではありません。ここで発見した宇宙人の死体と思われる写真をすべて取り込んでしまったのです。
「へへへ、拡散してやるぞ~!
 これでやつらがキモいエイリアンだったことが日本中にバレるぞ! ざまーみろ! がーはははは~っ!」