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Al & Zoot の存在意義〜時代背景を理解する

2022年12月30日 03時57分00秒 | jazz
正直、このアルバムの良さってのが長い間全く分からなかったし、この二人の似通ったテナーが交互にソロを取るのを聴いて何が面白いのか理解に苦しんだ。

でも漸く、このレコードの存在意義が見えて来たのだ。もう、これは考古学的発見に近い悦びである。

2022年の後半は殆どズート・シムズ(ts)研究に明け暮れていた。レコードを何枚も買い込んで、日がな一日聴き込むの繰り返し。正直、ズートは好きなアーティストではない。スタン・ゲッツ(ts)の方が先進的で音遣いやサウンドも独特で遥かに魅力的だ。でも、何故多くの人々を惹きつけるのかは気になる。

そして漸く、自分の好みのズートは1960年辺りのプレイである事に気付き、ひたすらこの辺りを貪り聴く事によって、この人の魅力が見えてきたのだ。そして、事ある毎にこの「Al & Zoot」というアルバムに再チャレンジして理解を深めようとして来た。そして、一つの結論に達した。

このユニットはビッグ・バンドである。

何故、ジャズが衰退していく中でもこのユニットだけは支持されて来たかというと、懐かしのビッグバンド・サウンドを継承していたから…というのは想像に難くない。

この数年間、僕はクール・ジャズの研究に多くの時間を割いて来たわけだが、自分の理解としては、以下の通りだ。

レスター・ヤング(ts)に憧れたミュージシャン達を中心にクール派が生まれ、その中にチャーリー・パーカー(as)も居たわけだが、彼が編み出したビバップという音楽形態で極限までジャズの複雑化が進み、それを更に突き詰めたのがレニー・トリスターノ(p)とその一派である。その門弟であるリー・コニッツ(as)とマイルス・デイビス(tp)の「クールの誕生」はビッグバンド・サウンドのエポックメイキング的作品として有名だが、「Conception」というアルバムではスモール・コンボで更に前衛にも近い複雑な音楽を既に演っている。これが1949〜51年というのだから驚くべき早い進化なのだ。

こういったサウンドを引っ提げてジェリー・マリガン(bs)はシェリー・マン(ds)と共にNYからロスに移住するわけだが、それに伴い西海岸にもクール・ジャズのムーブメントが飛び火する。

その一方で、40年代に西海岸のデクスター・ゴードン(ts)やズートはNYに進出している。ズートはそこでベニー・グッドマン(cl)のビッグバンドに入るのだが、ツアーでまた西海岸に戻ったりする。アル・コーンはNY生まれだけど逆に西海岸に渡り、そこでウッディ・ハーマン(cl)のビッグバンドに加入してズートと出会う。

その頃の西海岸はスタン・ケントン楽団をはじめ、ビッグバンドが商業的にも成功を収めていた。

50年代の西海岸クール・ジャズを聴くと、その多くはアンサンブル重視であり、「クールの誕生」への憧れは感じるものの、やはりカウント・ベイシー楽団の影響が強く、トリスターノほどの複雑性はそれほど認められない(中にはデュアン・タトロなどマニアックな作曲家もいたけど)。やはり、ビバップは一般的にはかなりマニアックな音楽だったという事を認めざるを得ない。

ウッディ・ハーマンの有名な「フォー・ブラザーズ」出身の彼等であったが、その中でもスターだったゲッツは基本的にワンホーンでスモール・コンボ活動を始め、アルとズートはチームを組む事にした。当時、アルや、名曲「フォー・ブラザーズ」の作曲者ジミー・ジュフリー(ts,etc)、ビル・ホルマン(ts)など作編曲が出来てソロも取れるプレイヤーは重宝されてたし、アルのオリジナル曲はコンボでも割と取り上げられていた。

そのアルが、もう一人のスター・プレイヤーのズートと組んでフットワークの軽いスモール・コンボを組むのは自然な流れであっただろうし、ビッグバンド・サウンドをこの小編成で再現するのは至極当然であろうと推察出来る。

既に、ビッグバンドが衰退した後に音楽を聴き始めた我々世代がそれを想像するのは意外と難しい。アレンジ中心のビッグバンドと、アドリブ・ソロ中心のコンボでは音楽性が乖離しており、全く別物として捉えてしまいがちだ。しかし、時代を追って音楽を聴いて行けば、当時のリスナーが何を求めていたか、また、ミュージシャン達がどうそれに応えようとしていたかがつぶさに理解出来る。

アル&ズートというユニットに仮想のホーン・セクションを脳内再生してみると、なんでこんな事を彼等が演ろうとしたのかが漸く理解出来た。スティットとアモンズの「ボス・テナーズ」やデクスターとワーデル・グレイ等の2テナー・チームは他にも沢山有るけど、それらはどちらかというとジャム・セッションのソロ・バトル形式であり、アル&ズートとは意味合いが若干違って来る。その辺りを考慮しなければ理解は深まらないであろう。

ジャズは歴史を知る必要がある。時代を切り取って、その一部だけを聴いて理解した気でいても、何故そのスタイルが生まれたかを理解するには至らない。演奏者はそこまで読み取らないと決して音楽の深味には繋がらない。



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