”スローライフ滋賀” 

西武鉄道のサイクルトレイン 近江鉄道などの「地方の知恵」が形に(日経ビジネス)

 この夏、西武鉄道は多摩川線で、日中時間帯の列車に自転車をそのまま持ち込めるサイクルトレイン」の運行を開始した。
 公共交通の維持が難しくなっている地方を念頭に考え出されたサービスということ。大都市でも新型コロナウイルス禍で通勤輸送が減少に転じ、収益力は低下している。地方の知恵は大都市圏の交通事業者を救う一手になるのか


↑写真:西武鉄道HPより(手すりに取り付けられたベルトで自転車を固定

 武蔵境(東京都武蔵野市)~是政(東京都府中市)を走る西武多摩川線で7月1日から、今まで見られなかった光景が目につくようになった。自転車がそのまま車内に持ち込まれるようになったのだ。
 自転車を持ち込めるのは平日10~16時と土休日8~18時。4両編成のうちの1両が対象で、最大8台の自転車を載せられる。今のところ7月1日から9月30日までの実証実験だが「一般の乗客の迷惑にならないか確認ができれば、10月以降は本格実施したい」(西武鉄道)という。

西武鉄道のサイクルトレイン

 こうした施策は「サイクルトレイン」と呼ばれ、2000年ごろから乗客が少ない地方のローカル鉄道を中心に導入が進んでいる。地方部ではマイカーの普及で路線バスなどが廃止され、駅に着いてもその先の交通手段がない場合が多い。電車に自転車を持ち込めれば、駅から先の移動が容易になり、鉄道の利用を増やす効果が見込める。
 やや古い数字にはなるが、国土交通省によると16年には全国52社62路線でサイクルトレインが実施されている。イベントなど特定の期間だけの実施を除くと38路線だ。

 もっとも、大都市圏ではイベント時や観光向けの特別な列車を除き、自転車の持ち込みは認められてこなかった。車内や駅構内が混雑しており、自転車を入れるのはスペースや安全の確保が困難だったためだ。
 それが一転、都心を走る路線ではないとはいえ、東京都内の鉄道路線で実施されることになったのはなぜなのか。西武鉄道はサイクルトレインを実施する意義として、「自動車と比べて二酸化炭素(CO2)の排出量が少ない電車と自転車を組み合わせるSDGs(持続可能な開発目標)の取り組み」を掲げている。
 
 ただ、きっかけは「運輸部門から新しい利用を創出すべく提案があった」(西武鉄道)ことだという。多摩川線で最も利用客が多い武蔵境駅の1日平均駅別乗降人員は、19年度が約3万人だったものが、20年度は約2万1000人と3割も減っている。
 コロナ禍による利用客の減少で、自転車の持ち込みが可能な余地が生まれた。これを機に、日中の買い物や週末のレジャーなど新たな需要を獲得しようと考えたのだ。

 西武グループには伊豆箱根鉄道(静岡県)近江鉄道(滋賀県)という地方私鉄があり、両社ともサイクルトレインを運行している。
多摩川線での実施に当たっては、こうしたグループ会社の事例を参考にしたという。

↑近江鉄道サイクルトレインHPより

近江鉄道サイクルトレイン

 因みに西武鉄道の喜多村樹美男社長は、20年3月まで5年余り、近江鉄道で副社長、社長を務めていた。在任期間中の17年には、1994年から続く鉄道事業の累積赤字が40億円に達しており「民間企業として経営を維持するのは困難」と表明。
 西武鉄道に戻る直前の2020年3月に、滋賀県をはじめとする地元自治体の財政負担で全線を存続させる結論を引き出した。収益が悪化した鉄道路線を維持する難しさを肌身で感じてきた経営者でもある。

 地方鉄道で取り組みが先行するサイクルトレインだが、ハード面では、都市部の路線のほうが対応しやすい側面があるという。エレベーターやスロープなどのバリアフリー設備が整っており、自転車の移動にも活用できるからだ。
安全面が確認できれば、他の路線に広がる可能性は大いにある。

[日経ビジネス電子版 2021年8月5日の記事を再構成]
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