limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 35

2019年06月09日 12時25分44秒 | 日記
第4章 ~ 高校白書 3

3月の末、僕等は大体育館の設営にかかっていた。4期生を迎える“入学式”の準備だ。図面を手に指揮を執っているは、久保田と千秋だった。“公平なるあみだクジ”が当たった2人の陣頭指揮の元、緞帳が吊られパイプ椅子が整然と並べられて行く。僕は壁面に紅白幕を画鋲で貼り付けていた。「もうちょっと上にずらして!」画鋲を手に持って全体を見ているのは、さちの役目だ。3期生の正副委員長達も動員されて、手伝ってくれている。作業は順調に進んでいた。「おい!休憩するぞ!」久保田が告げると同時に、千秋がボトル載せた台車を押して配って歩いた。僕とさちもボトルを受け取ると、手近なパイプ椅子に座り込んだ。上田や遠藤達も周囲に集まってきた。随分と暖かくはなったが、大体育館はまだまだ底冷えするし、暖房もないから手足が冷える。「Y、例の“噂”は本当なの?」さちが心配そうに聞いてくる。「うーん、イマイチ信憑性に欠けるからなー。まず、あり得ないとは思うが、ヤツの姿を見たと言うだけだし、単なる見間違いの可能性も否定できないから、あまり気にする必要はないと思うよ!」僕が否定的な見解を示した“噂”とは、“悪魔に魅入られた女が合格発表を見に来ていた”と言うものだった。目撃者は複数の2期生で、原田自身も含まれていた。故に、恐怖に駆られた原田が発信源となり、見る間に拡散してしまったのだ。数々の“悪事”に手を染めた“悪魔に魅入られた女”が本校に舞い戻って来る可能性はゼロであり、“破門状”に寄って近隣はおろか隣接県からも“追放”された女が、抜け抜けと姿を現す事はまず考えられなかった。「そうだよね!“追放”されたんだもの、ノコノコと来る訳無いか!」さちは不安を振り払う様に言った。「参謀長、4期生に紛れ込んでませんよね?」遠藤が不安そうに言う。「無い、無い!絶対に無理!あっ!でも美容整形すれば話は別だな。でも、そうすると“目撃情報”は的外れになるから、こんなには拡散しないよな?」僕も頭の中がごちゃごちゃになりかけていた。「まあ、あくまでも“噂”に過ぎない。過剰に反応する必要はないよ!」と言って肩を叩く。「でも、“狡猾でハエの様にしつこい”って仰ってましたよね。予想外の手を繰り出して来たらどうしますか?」上田は真面目に聞いて来た。「例え、どんな手を用いても校長が変わらない限りは、潜り込むことは不可能だろう!校長の眼が黒い内は心配する必要は無いよ!我々だって居るんだ。気にすることは無い」と言って落ち着かせる。原田の恐怖心は予想外に伝染力が強かった。「無理も無い。みんな、ヤツと血みどろの戦いをしたのだからな」と呟いていると、原田と長官が現れた。2人とも申し合わせたように顔色が悪い!久保田、千秋、僕とさちが呼び集められた。「“噂”を裏付ける写真が出た。今朝、情報網にかかった代物だ!」原田の手から1枚の写真が回される。「それを拡大処理したのがこれだ!」長官からも1枚の写真が手渡され回される。一同に緊張が走った。「これは・・・、この横顔は・・・、どう言う事です?」僕の手もわなわなと震えだした。不鮮明ではあったが、見間違う事は無かった!写真に写っていたのは“悪魔に魅入られた女”こと“菊地美夏”本人だったのだ!

「馬鹿な!こんな事があり得る訳が無い!」久保田が呆然と言う。「確かにそうだが、100%って事は無いぞ!長官、今年の受験者名簿は当たりましたか?」「うむ、一応洗っては見た。だが、“菊地美夏”の名前は無論の事ながら無かった」蒼白のまま長官が答えた。「では、養子縁組をして氏を替え、裁判所に訴えて名を替えた可能性は?」僕は考え付く事を挙げた。「その可能性は高いし、否定できない!非常に複雑で面倒にはなるが、不可能では無いんだ!」原田が頭を抱えて言う。「名前を、親を捨ててまでここへ入り込む理由は何なのよ?」千秋が悲鳴にも似た声を上げる。「“復讐”、それしかあるまい」「ああ、それが目的だろう」長官と原田の声は暗かった。「氏名を替えて受験したとしても、中学校からの必要文書はどうしたんだろう?まさか、偽造したとでも言うんですか?」僕が言うと「その気になれば“実弾”を使っての偽造は出来なくはない。ヤツの事だ。握っている尻尾は複数あるだろう」と原田が答えた。「仮にそうだとしても、戸籍を調べれば面は割れるはずじゃあないか?」久保田は少し落ち着いて来た様だ。「確かにそうだが、疑ってかからない限り住民票では限界がある。氏名が替わっていて、住民票の記載に辻褄が合わない点が無ければ、書類上はすり抜けられる。後は、テストで得点を取れば合格者にはなれるんだ。髪型やホクロを付けて顔も誤魔化せるし、裏を知り尽くしていれば手はいくらでもある!」原田の血の気は完全に失せた。僕はもう一度写真を見てみた。あの女の横顔は忘れようにも忘れられない記憶として残っていた。だが、僕は妙なことに気付いた。「この女、ピアスを付けてますね!確か“菊地美夏”は、出血すると血が止まりにくいはず。耳に穴を開けたら大変な事になりませんか?」「イヤリングじゃないかな?」さちがもう一度写真を覗きに来る。「分かりにくいがフックタイプだろう?確か、キャッチで止めるか引っ掛けるかするよな?」僕が指摘すると「本当だわ!これ、耳に穴を開けないと無理よ!」と千秋が確認して答えた。「だが、冬に施術をして止血すれば不可能じゃない。以前の常識は通じないと見るべきじゃないかな?」原田は否定的な見解を示した。「でも、あの女は生理の時の出血も酷くて苦しんでた!そんな女が危険を冒す様な真似をするかしら?」千秋は記憶を辿って問う。「ピアスの穴を開けたら、しばらくは塞がらない様に詰め物をするよな?皮膚の弱いあの女なら、わずかな傷でも血を止めるのは至難の業。ましてや、化膿やカサブタでも出来たら酷い傷が残るだろう?」と僕が言うと「そうね。写真が不鮮明で断定は出来ないけど、耳は綺麗になってるわ。あの女がピアス?!そんな洒落た格好なんて考えられない!」さちが同調する。「つまり、これだけで“菊地美夏”とは断定出来ない事になりませんか?横顔はハッキリと写ってますが、確証にはなり得ない点もあります。幸い、まだ時間は残されてます。もう一度あらゆる角度から洗い直すのはどうです?」僕は性急な判断に至らない様に慎重路線を主張した。「うーん、確かに本人の様で本人でない点も浮かんだな。さすがは参謀長、視点を変えれば色々と見えて来るモノもありか!よーし、もう一度洗って見よう!」原田は再検証を決断した。「事が事だ。学校側にも“通報”して、内申書の再点検を依頼してみる!もし、不審な点が見つかれば“偽りの氏名”も割り出せる。並行して僕等も手が回せる範囲で動いて見ようじゃないか!ビビッて居ても事は解決しない。ともかく、あの女に繋がる証拠を探し出して阻止しなくては!」原田は少し息を吹き返した。「長官、もう一度写真の拡大処理をお願いしますよ。出来る範囲で鮮明にして見て下さい。私は校長に話して“洗い直し”を依頼してみますよ。参謀長、あの女の体質について証言を集めて欲しい!血が止まりにくい以外に何か無いか?服薬していた形跡が無いか?徹底的に掘り下げて欲しい。情報が集まったら保健室へ行って医学的な裏を取ってもらいたい。その他も含めてもう一度検証作業にかかろう!」呼び集められた全員が頷いた。こうして、追跡が始まった。春はどうしてこう波乱含みなのだろう?僕等は設営を済ませると、各々に情報を求めて散っていった。

恐怖に駆られた原田は、学校側へ¨通報¨すると同時に親父を動かした。左側の¨大物¨である親父は、弁護士界にも数多の知り合いはいた。彼等は早速、あの女の周囲を洗い始めたが、追跡調査は難航を極めた。僕と長官は、査問委員会を召集して、あの女の情報収集に努めた。春休みも終盤、それも¨非常召集¨ともなれば、ブーブーと文句が聞こえるのは仕方なかったが、急遽呼び出した理由を説明すると、瞬時に顔色が一変して話に聞き入る様になった。「まだ、断定は出来んが¨確率¨はかなり高い!あの女に関するありとあらゆる情報を挙げてくれ!」と長官が言うと出席者からため息が漏れた。「まず、ピアスか?イヤリングか?だけど、写真を見る限りピアスだと思うの!映像を見る限り引っ掛けるタイプに見えるのよ」と千里が口火を切った。「だが、出血はどうしたと思う?」長官が問うと「耳鼻科で処置を受ければ、止血剤も化膿止めも手に入るから問題にはならないわ。参謀長が指摘した点は、自身で穴を開けた場合の懸念材料よ。医師の処置があれば、クリア出来るの!」「では、これからの季節でも可能だと?」僕が突っ込むと「そう、自身で簡易キットを使って開けるなら、冬場にやる方がリスクが少ないけど、耳鼻科なら季節は関係ないのよ!」と道子が教えてくれる。「だとすれば、ピアスの件はクリアするな。他にあの女に関する身体的特徴や周囲の情報はあるか?」長官が誰何した。「アイツ、鎮痛剤を手放した事はねぇぜ!必ず2箱は持ち歩いてた!」竹ちゃんが証言した。「いつも¨生理痛¨に備えてたのは、確かだわ。あの女は痛みと出血が半端じゃなかったから」と道子が補足する。「生理痛は個人差が激しいのよ!人によって殆ど感じない場合もあれば、それこそ“激痛”が延々と続く場合もある。あの女は、脂汗を滴らせる程の激痛だったのは確かじゃないかな?」小松が教えてくれる。「それ故に鎮痛剤を服用していたと?」「ええ、飲まなくては我慢するのもキツかったはずよ!生理用品の予備だって、いつも用意してたし」千里も補足をする。「他に何か知り得ている事は?」「あの女の母方の旧姓は“北原”です。手っ取り早く養子縁組をするならば、氏は“北原”を使うのでは?」特別に呼び寄せた西岡が言う。「伊東、手掛かりだ!原田へ知らせろ!“北原姓を重点的に洗え”と言って置け!」「了解です!」伊東は教室を飛び出していった。「西岡、母方の親戚はこの地域に居るのか?」僕が問うと「1軒だけですね。後は首都圏に点在しているはずです!」と返してきた。「見えて来ましたね!」僕が言うと「薄っすらとだが、点が見えて来たな!」と長官が返す。「あの女は、養子縁組によって氏を替え、裁判所に申し立てて名も替えた。入試に必要な内申書などの書類は、首都圏のコネクションに“実弾”を撃ち込んで“偽造”させ、県外からの受験生として申請をした。そして、何食わぬ顔で試験を受けて潜り込みを謀った。名前が明らかではありませんので、合否確認は取りにくいですが、合格発表を見に来たと言う事は合格している可能性が高い!」僕は推測を述べた。「恐らく、その線で間違いあるまい!実に巧妙な手口だが、偶然写ってしまった写真によって、暴かれるとは思ってはおるまい。後は、名前を暴き合否を確認して、不合格にするしか無い!」長官も推測に同意した。「実に狡猾な考えだが、何としても阻止せねばならない!」長官の手は小刻みに震えていた。「ところで、この写真はどこから手に入れたんです?」肝心な疑問を久保田が指摘した。「原田の女の後輩が、この春に受験して合格したのだが、記念に撮影した余りのコマに偶然写っていたのを女が発見してな。原田に“通報”して来たと言う訳だ。偶然に偶然が重なっただけだ。最も、我々にして見れば運が良かったと言うか、僥倖だったのだよ」「原田が手を回した。明日までに名前をあぶり出すそうだ!」伊東が戻ってきた。「それにしても、ギリギリセーフに持ち込めるか微妙だな。間に合えばいいが・・・」長官がカレンダーを見ながら言う。明日から4月。入学式まで5日しか無いのだ。「仮に、間に合わなくても顔で正体は割れますよ!美容整形をした痕跡はありませんし、5日で傷跡が消える事は無いでしょう!」と僕が言うと「シリコン注入や縫合だったら、傷は残らないわよ!まだ、安心は出来ないわね!」と千里がピシリと言う。「確かにそうですが、受験票に貼り付けた写真と全く違う顔で出て来るとは思えませんよ。まあ、二重瞼や鼻の形ぐらいは微妙に変えられますから、笠原の意見を否定はしませんが、我々の眼は誤魔化しきれませんよ!最悪は、入学式の直前で取り押さえるしかありませんね!」「公開捜査で取り押さえるって言うの?まあ、最後の手段はそれしか無いけど、荒事で式を混乱させたくはないわね・・・」千里がため息交じりに言う。「我々の推測が当たっている事、名前が判明する事を祈るしかあるまい。いずれにしても、我々も直ぐに動けるように臨戦態勢を取る!ワシと参謀長が司令塔だ!各員は自宅で待機してくれ。事が動けば直ぐに招集をかける!参謀長、済まぬが入学式当日までは、ここで付き合ってくれ。今度こそ永久に葬ってくれる!」長官の手は怒りに震えていた。他のメンバーの表情も硬かった。果たして間に合うのか?

原田の親父が率いる組織は、総力を挙げてあの女の改名の実態を追った。氏は“北原”が有力候補となったが、遠い縁戚を頼った可能性も否定できなかった事から、あの女の戸籍謄本を含む家族全員の戸籍謄本を取り分析にかかった。幸いなことに、本籍地は移動されていなかったので、作業は急ピッチで進められた。原田本人と長官と僕は、再度の学校の許可を取り付けてから、本年度の“受験者一覧表”を洗い直す作業を始めた。“北原”という姓、県外からの受験、実家のあったO市からの受験に絞って該当者を絞り込んだ。「うーん、6人が引っかかったか!」原田が唸る。「県外からは1人だけだ。最も匂うのはこの受験者と見ていいんじゃないか?」長官が指摘した受験者は“北原由美”と名乗り、千葉県から出願していた。「その他の5人の内、O市からの受験者は3人。残る2人は茅野市から。あの女の親戚の家があるはO市内。つまり、現時点では4人に嫌疑があると言えるのでは?」僕は地元からの可能性も否定できないと見ていた。「どちらの意見にも一理ある。だが、あの女の事だ。両方の可能性を追うしかないな!ピックアップしたのは全員女子だよな?」原田は今更ながら確認を入れた。「勿論、O市からの3人の受験者の出身校は、奇しくもあの女と同じ。偶然の一致とは思えないよな?」と僕が返すと「嫌な予感がするな!向こうも裏を取ってるとしたら、私達はあの女の思う壺に落ちていないか?」原田は慎重に見極めようとした。「原田、あの女の立場に立って考えよ。校長が出した“破門状”は中学校にまで及んでいる。地元で“実弾”を使えばたちまち足が付くし、表立っては動けない。水面下で動いていたとしても、痕跡は残ってしまう恐れが高い。リスクを最小限にするならば、首都圏の方が有利にならないか?」「それはそうですが、内申書の作成に必要な記録はこちらにある。信憑性を考慮すれば書類に不備が出ないのは地元になる。“実弾”を使って記録を改ざんするなら、O市に潜入していたと見てもいいはず。改ざんを実行した容疑者と接触するのにも有利だ。いずれにしても、名前が判明するまでは地元からの出願も考えるべきじゃないか?」長官と僕の見方は割れた。「2人の推測は共に説得力があるね。あの女の目的は、私達を“攪乱”する事も計算に入っているのかも知れないな!では、“合格者一覧表”とも照らし合わせて見るか!少しは該当者を絞れるはずだ!」「どうやって学校側を説得したんだ?部外秘だろう?」僕が言うと「あの女が絡んでるんだ!校長も否とは言わなかった。無論、口外は厳禁だけど」と言うと別の茶封筒を開けてファイルを手に取った。“部外秘”と厳めしい印が押されているヤツだ。改めて照合作業をして見ると、6人全員が合格していた。原田は確認を終えるとファイルを直ぐにしまい込んだ。無用な閲覧を避ける目的だった。「やはり、名前が割れないと断定は出来ないな!」原田の口からため息が漏れる。その時、事務員さんが原田を呼びに来た。「自宅から電話よ!」と。「どうやら、尻尾を掴んだらしいな!待っててくれ」原田は職員室へ急いだ。待っている間、僕等は無言で推測を巡らせた。待つこと15分。原田は1枚のメモを持って戻ってきた。「名前が割れたぞ!“由美”だ!“北原由美”と名乗っている!所在は千葉だ!」「長官がビンゴだ!」「ああ、だが、参謀長もビンゴかも知れない。校長に言って“菊地美夏”と“北原由美”の内申書を突き合わせて調べてもらってる!どうやって偽造したかを突き止めるためだ!」「不合格通知は?」「電話をしたが、出なかった。電報を打ってもらってる!だが、地元に潜入しているなら、通知は届かないも同然だ。親父にO市の親戚の住所を調べさせて、学校に知らせる手筈を取ったよ」「“北原由美”か。顔は割れてるから、最悪は入学式当日に取り押さえるしかあるまい!」「しかし、その前に叩かないと混乱は避けられませんよ!ここへ来ている以上、既にO市内に潜入しているでしょう。こっちに居るなら今の内に潰して置かないとマズイ!」「だが、親戚宅に居る保証も無い。あの女のコネクションは完全には死んでいないんだ!事前に阻止するのはかなり難しいぞ!」原田も長官も僕も何とかして阻止する手を考えては見た。しかし、絶対的な時間の壁が立ちはだかってしまった。「やむを得ない!現れた瞬間に取り押さえよう!幸い、向こうにはまだ知らせは届いていない。鉄のタガを張り巡らせよう!それしか無い!」原田は唇を噛んだ。僕と長官も爪が食い込むくらいに拳を握って震わせた。「長官、参謀長、捕獲作戦を立案してくれ!密かに網を張るんだ!」僕達に残された手はそれしか無かった。

翌日、査問委員会が再び招集された。入学式まで残り3日。自称“北原由美”こと“菊地美夏”を、校内に入れる前に取り押さえるのが目的だった。あの女は、実に巧妙な手口を用いていた事も明らかになった。“実弾”は2度使われたのだ。1発目は、出身中学からの情報を引き出すために。2発目は千葉で内申書及び添付書類を作成する際に使用されたのである。2つの内申書を比較検証した結果、基本的なデーターは出身中学のデーターと同一で、学業成績他は新たに偽造されている事が分かったのだ。地元で必要な情報を手にしてから、千葉で新たに偽造すると言う非常に面倒な作業を施していたのだ。一見しただけでは見破る事は困難なくらい巧妙に偽造されていた。つまり、長官と僕の中間の策を用いて突破を試みた事になる。そして策は当たり、不幸にも“合格通知”をあの女は手にしたのである。「さて、どうやって捕まえるんだ?校内へ入れたら騒がれると事だぞ!」久保田が腕を組んだ。「“大根坂”で足止めするしかねぇだろう?後は追い返すのみさ!」竹ちゃんが言うが「俺達だけじゃ“正当な理由が無い”って食い下がられたらどうにもならないぞ!」と伊東が懸念を示す。「長官、参謀長、策はあるの?」千里が僕達2人を見て言う。「何しろ入学式だ。教職員は、簡単にそれぞれの持ち場を離れられない。だが、式が始まる前ならチャンスはある。そこでだが、当日、駅と神社の境内で網を張る事にした。電車で来るなら駅で食い止めるし、車で乗り付けるつもりなら、置く場所は神社の駐車場が指定場所だ。このどちらかで捕捉して追い返す!」僕は策を話した。「けど、伊東の言う通り俺達だけじゃ説得力は無いぜ?」竹ちゃんが肝心の点を突く。「僕等だけでやるつもりは無いよ。ちゃんと“助っ人”は呼ぶさ!“人間装甲車、佐久信夫”をレンタルしてある。佐久先生が“入学取り消し通知”を突き付けて追い返す。僕等は必要な人員で見張りと足止めをするだけでいい!」「駅と神社か。相互の連絡はどうするんだ?」久保田が聞いてくる。「去年の向陽祭で使った無線機がある。駅と神社の間なら、高低差がある分だけ電波は飛ぶ。相互の連絡には不都合は無いはずさ。数も20台はあるから、動員する人員の分は充分に足りるはずだよ。駅のホームに2人、改札口付近に5人、神社の駐車場に5~8人が散開して配置につけば網は張れる。みんなからの通報を受けた本部が、統括して指示を出す。佐久先生は基本的には駅に行っててもらう。だから、神社班は竹ちゃんや久保田、今井達の屈強な者を選抜して編成する。駅から佐久先生が向かうまでに時間を稼ぐためにな。本部は神社の境内に置く予定だ。事が済んだら全員速やかに校内へ引き返す。水際で食い止めるにはこれしか無い!」「うーん、敷地に足を踏み入れる前に食い止めるか!万が一包囲を突破されたらどうする?」伊東が聞いてくる。「次の防衛線は、“大根坂”と“近道の小道”が分岐する手前、坂の最も狭い地点にする予定だ。やはり、向陽祭で使った“バリケード”でガードする予定。ここには、戸田先生を配置するし、工事用のコーンを設置して少しでも妨害を図る!神社の境内には、輸送車両の運転手として小平・丸山両先生が待機する。神社班で食い止められないと判断した場合は、車で追跡して次の防衛線で食い止める!そこも突破された場合は、最終防衛線として、正門を閉じて“近道の小道”の出口に車を並べてガード。教頭が行く手を遮る予定だ!」「男子は総動員になるな!」竹ちゃんが口にする。「ああ、クラスの総力を動員して阻止を図る!とにかく、駅で阻止するのが大前提だから、車で来られたら神社班には力戦してもらわなくてはならない。1分1秒でも足止めするしか無いんだ!」「いいだろう!最後の、本当に最後の大決戦だ!腕が鳴るぜ!」久保田は指をボキボキと鳴らして頷いた。「よーし、やってやろうじゃねぇか!」竹ちゃんも腹を括った。他の出席者も黙して頷いた。「時間が無いので、場当たり的にはなるが、やるからには最善を尽くして阻止する!不埒者を校内に入れてはならない!神聖な入学式に傷をつけないためにも各自の奮起に期待する!」最後の締めは長官が引き取った。こうして作戦は承認され、人選が進められた。自称“北原由美”こと“菊地美夏”の入学阻止作戦は決まった。後は、やって見なくては分からない。危険な賭けになる事は、みんなが認識していた。だが、やらなくては入学式は大混乱に陥るだけだ。乗るか反るかの乾坤一擲の大勝負は目前に迫っていた。

そして、入学式当日。早朝に覚醒した僕は、何とも言い様の無い¨不安感¨に駆られた。¨北原由美¨こと¨菊地美夏¨に入学式を蹂躙されてはならないし、校内へ立ち入りを許せば、何を仕出かすか?は容易に見当は付いていた。始発電車は6時台からあるし、早朝から¨潜伏¨されて隙を伺われたら、如何に大動員をかけたとは言っても、空振りになってしまう。すぐさま身仕度を整えると、駅へ向かって全力で自転車を飛ばした。始発の到着前に駅の駐輪場へ自転車を押し込むと駅舎まで走る。改札口に張り付いて見張っていると、下りの始発電車が到着した。竹ちゃんや久保田が竹刀を担いで降りて来る。「早くに目覚めちまってよ、どーしても気になってしょうがねぇから、やって来たって訳さ!」久保田も異口同音に言った。「よし、始めよう!配置に付いてくれ!あの女の事だ。必ず現れる!取り押さえて追い返すんだ!」竹ちゃんと久保田が頷いた。「竹ちゃん達の無線機は長官が持ってる。合流したらチャンネル19でコールしてくれ!」「了解だ!」2人は神社の大鳥居へ向かった。僕は、鞄から2台の無線機と財布を取り出すと、1台を身に付けて電源を入れた。「参謀長、聞こえたらコールしてくれ!」長官の声が早速入る。ボリュームを調整すると「駅舎より、本部。感度良好。竹内、久保田の両名がそちらに向かっている。どうぞ」「早いな!早速迎撃体制を取る!坂の中腹には、既に長崎が配置に着いた。周辺の探査を始めている!各要員は随時配置へ向かわせろ!どうぞ」「了解、予定よりも展開が早いが、あの女は必ず現れる!警戒を宜しく!上り始発到着まで15分。交信終了」と言って交信を止めた。「Y、どうだ?」佐久先生が僕の肩を叩いた。「まだ、現れてはいません!」「油断するな!変装して現れる可能性も高い!」僕は黙して頷いた。

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