limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 36

2019年06月13日 11時09分15秒 | 日記
「気を付けろ!ヤツは“変装”をしている確率が高い!」佐久先生が僕の後ろでいう。僕と先生は必死に眼を凝らした。上りの始発電車が到着すると、クラスメイト達が続々と降りて来た。「松田!」僕は松田を見つけると、改札口の柵越しに鞄と引き換えに無線機を手渡した。「ホーム内は任せろ!」と言うと松田はホームの中に残った。「Y、鞄を持ってくね」と中島ちゃん達が僕と松田の鞄を持って、配置に向かった。あらかじめ打ち合わせていた通り、邪魔になるので女子軍団が預かって学校まで運んでくれる手筈になっていた。「参謀長、西岡です!」出し抜けにコールが飛び込んで来る。「こちら駅舎。どうぞ」「長官も聞き取れたらお願いします。昨夜、あたし達のところに“北原由美”が町内の“金月荘”という旅館に潜伏していると言う情報が入りました!神社の近辺です。現在も潜伏しているとすれば、駅は空振りに終わりますが如何されますか?どうぞ」「こちら本部。“金月荘”に潜伏しているとすれば、裏を掻かれる恐れが高い!神社班はこれから分散して小路の警戒に当たる!参謀長、駅周辺の戦力を至急神社へ振り向けてくれ!こちらは手薄になるだけでなく隙だらけにもなる。佐久先生も大鳥居に移動してもらえ!どうぞ」長官から陣形変更の指示が来た。「了解!駅は捨てて神社へ急行します!西岡、“金月荘”の場所が分かるなら、聞き込みに向かってくれ!」「西岡、了解!可能であれば大鳥居の下で合流します。交信終了」松田がホームから戻ってきた。「神社へ向かうのか?」「聞こえていただろう?まだ、クラスメイト全員が到着していないから、伝言板に書き込みを入れたら出るぞ!」と言い終わる前に佐久先生が自分の車を回して来た。「急げ!急行するぞ!」僕が伝言板に書き込みを終えて車に乗ると、先生はがむしゃらに先を急ぐ。「俺は後1時間が限界だ!式典に際して着替えなきゃならないし、受付もある!それまでに捕捉出来ればいいんだがな!」佐久先生は焦り始めていた。確かに時間との戦いでもある今次作戦は、無理矢理にならざるを得ない。神社へ到着すると僕等は大型バス駐車場の隅のベンチに目印を見つけた。長官達はここを拠点としていた様だった。佐久先生は直ぐに学校へ急行出来る様に、一般駐車場の出口付近に車を着けた。神社班は散開して付近を探っているはすだ。「長官、応答願います」「ワシだ。今、境内の裏手に居る。不審者は見当たらん。どうぞ」「佐久先生は車で待機。僕は大鳥居の下、松田は目印のあったベンチ付近に居ます。どうぞ」「了解、ワシもそちらに戻る。交信終了」時刻は午前7時になろうとしていた。「西岡の聞き込み次第で状況は変わるな!」僕は大鳥居の下で西岡達を待った。

長官と合流した僕は、今後の陣形について話し合った。「西岡の聞き込み次第では、防衛線を後退させるしかありませんね。先生方も我々も式に間に合わなくては意味が無い」「うむ、確かにそうだ。危険は増すがやむを得ないな!」長官も同意した。「長崎より本部」坂の上からコールが来た。「こちら本部、どうぞ」「今のところ不審者は居ません。東側の砂利道も探らせましたが、登って来る者は居ません。どうぞ」「了解、何か気付いた事はあるか?どうぞ」「Y、俺達は¨見られて¨居るんじゃないか?どうぞ」「どういう意味だ?どうぞ」「あの女は、何処かに監視点を持ってて、こちらの動きを逐一把握してる気がするんだ!そろそろ午前7時15分になる。動くとすればリミットになる。防衛線を後退させて¨泳がせる¨事も考える時期じゃないか?どうぞ」「少し待て」長官と僕は顔を見合わせた。「長崎の提案をどう考える?」長官が問う。「あながち、間違いとは言い切れませんね!確かに、時間的余裕を考慮すれば、リミットは近い。向こうが¨見ている¨ならば、引くのは今の内ですよ!」長官は頷くと「神社班に告げる。防衛線を長崎の居る地点にまで後退させる!周辺を警戒しながら引いてくれ!どうぞ」「久保田、竹内、今井隊了解!」「Y!俺は学校へ向かう!後は、戸田先生に託して行くぞ!」佐久先生からもコールが入った。松田が無線機を持って走って来る。「先生は車で向かった。俺達も引くんだよな?」「ああ、周りを警戒しながら登ろう!」こうして防衛線は、更に後退した。だが、あの女は現れなかった。「クソ!どこに居やがる?ドブネズミめ!」今井が毒づいたが影も形も確認は出来なかった。「長崎、背後は取られて居ないよな?」「ああ、教室とも連絡は取ったが、校内に居る形跡は無いそうだ!時計を見ろ!午前7時半を過ぎた!在校生はあらかた通過したし、新入生も後僅かだ。まさかとは思うが、俺達が引くのを待たれてないか?」「どうやら、そうらしいな!長官、最終防衛線まで引き上げますか?」「うぬ、どこまでも小賢しいヤツめ!やむを得ない。段階的に引こう!¨機動部隊¨に待機体制を取らせよう。竹内、久保田、今井の順に後退だ!バリケードもコーンも徐々に下げて行こう!」僕達は正門まで下がった。¨近道の小道¨の登り口にバリケードを据えると、正門を半分閉じて時計を睨む。「誰か登ってくるぞ!」「3人だ!多分、西岡達だろう。バリケードを開け!」僕はバリケードを開けさせると、西岡達を校内へ収容した。「参謀長、¨北原由美¨は、¨金月荘¨を4月1日に引き払っていました。周辺にも聞き込みをしましたが、宿泊している様子は確認出来ませんでした!」「うぬ、では何処に潜伏先を変えたのだろう?」長官が小首を傾げる。「町内で無いとすれば、S市内でしょうか?糸屑の様に目立たない場所へ逃げたな!」「O市内は?」西岡が言うが「宿泊先が限られる分、足が付きやすい!¨木葉の中¨ならS市内の方が目立たない!西岡、後から登って来る者は?」僕が聞くと「在校生が数名程度でしょうか?新入生は確認しておりません」と答えた。「本部より教室へ、新入生の集合状況を確認してくれ!どうぞ」「了解!少し時間を要します。お待ち下さい」長官が確認を入れさせる。「長崎、本当に不審なヤツは見て無いんだよな?」僕は改めて確認をする。「ああ、だって襟の校章の有無と顔で見当は付くしな!」そのセリフに僕は愕然とした!「しまった!あの女は校章を持っていたかも知れない!ヤバいぞ!既に在校生に紛れ込んでる可能性がある!」「むむ、迂闊だった!直ぐに校内を探索しなくては!参謀長、ここは任せた!久保田!今井!中を探るぞ!付いて来い!」長官は慌てて昇降口へ向かった。「教室より、本部。新入生は全員集まって居ます!欠席者はおりません!どうぞ」「引き続き在校生を確認してくれ!あの女が紛れ込んでる可能性がある!長官達が向かった!合流して探索に当たれ!どうぞ」「了解!連絡、監視要員を残して探索へ向かいます。交信終了」長官にも今の交信は聞こえたはずだ。時計の針は午前8時になろうとしていた。「Y、そろそろ時間だ。正門には俺が残る。お前達は入学式に備えろ!」戸田先生が言う。「やむを得ない、長官、応答願います。どうぞ」「ワシだ。タイムオーバーだな!在校生の教室に不審者は見当たらない!久保田と今井が特別教室を洗っている。お前さん達も引き上げろ!どの道、正門は閉ざされる。もう、外から侵入するのは不可能になる。機動部隊の自転車を門外に移動させてから、教室へ入れ!どうぞ」「了解!残念ですが仕方ありませんね。引き上げを開始します!交信終了」僕等は昇降口へ向かった。「あの女、何処に潜んでいる?そして、これから何を企んでいるんだ?」僕は毒づいたが、皆目見当が付かなかった。

入学式が始まる前、僕と長官は大体育館の入り口付近で、在校生の入場を確認した。「居ませんね!」「ああ、だがまだ校内に潜んでいる可能性はある!慎重に見極めるぞ!」長官と僕は最後列の椅子に陣取ると、新入生と親達の入場を待った。入口付近の外には、伊東と長崎が待機している。久保田、竹内、今井の各隊が入ってきた。「ダメだ!見つからねぇ!」竹ちゃんがヘバって顎を出した。「ならば、何処に居るんだ?」長官が首を捻る。「ともかく、席に付いてくれ。もう、式が始まる」僕は小声で久保田、竹内、今井の各隊に着席を促した。新入生の親たちも着席を終えた。「これからか?」「あり得ますね」式が始まると、長官と僕は新入生の入場に目を凝らした。不審者は見当たらない。2列で入場して来る新入生の女子のみを2人でチェックしたが、“北原由美”こと“菊地美夏”らしき生徒は居なかった。伊東と長崎が遅れてやって来た。「ダメだ!」「見当たらない!」2人の答えも同じだった。「だが、逆に校内は手薄になったな。侵入するとすれば、絶好の機会だ!長官、僕は校内を巡って来ますよ!あの女はこの瞬間を待っていたのかも知れません!」「うむ、伊東、長崎、参謀長と手分けをして校内を隈なく探れ!」長官は断を下した。「無線機は切らないで下さい。あの女を発見したら“フラーだ!”と連呼します!そうしたら、駆け付けられる人員を集めて追って来て下さい!」長官は黙して頷いた。僕と伊東と長崎は、大体育館を抜け出すと3方向へ散った。長崎は東校舎一帯、伊東は付属棟及び講堂へ、僕は西校舎の1階から4階へ順に駆け上がった。「東校舎異常無し!」「付属棟及び講堂も異常無し!」長崎と伊東からコールが届いた。「教室の前で落ち合おう!」僕は西校舎の3階へと駆け上がりつつ言った。ここまで、不審な人影は見つかっていない。僕等は息を切らせて教室前で落ち合った。「ダメだ!居ない!」僕が喘ぎながら言うと「おい!下だ!正門の前を見ろ!」長崎が叫んだ。閉じている正門の前に制服姿の女子の姿があった!髪はショートで眼鏡をかけている様だった。正門が開かない事を確認すると、踵を返して歩き出した。チラリと見えた顔は“北原由美”こと“菊地美夏”!!「伊東!長崎!自転車で追うぞ!」僕等は階段を駆け下りた。「長官!フラー!フラーだ!」僕はマイクに向かって叫んだ。「こちらも直ぐに出る!」長官達も動き出した様だった。あの女は、橋を渡って“大根坂”へと向かっていた。僕等は正面玄関を抜けて、正門の端の柵を乗り越え自転車に股がった。3人でVサインを交わすと「GO!」と言って飛び出した。僕達3人はペダルを漕いで全速力で追跡を開始した。「コラー!待ちやがれ、そこの女!」長崎が叫ぶと、あの女は振り向いた。間違い無い¨菊地美夏¨の変装姿だった!眼鏡をかけてはいるが、忘れようの無い顔だ。あの女は¨大根坂¨を駆け下る。だが、下り坂の自転車は早い!後少しで、あの女の前に回り込めると踏んだ次の瞬間、1台のワンボックスカーが猛然とクラクションを鳴らして僕達を蹴散らして追い抜いた。バランスを崩した僕達を尻目に、スライドドアが開けられあの女は車内へ逃げ込んだ。同時にワンボックスは急発進をかけた。「まだだ!舐めるなよ!この坂は俺達の¨庭¨も同然!逃がすものか!」伊東が坂の傾斜を利用して、ワンボックスに迫る。僕と長崎も続く。狭い道なので、車と自転車はカーチェイスが出来る!3台の自転車はギリギリまで加速して、ワンボックスを追い抜こうとする。だが、相手も必死に加速をして、抜かせない様に僅かに蛇行運転をして逃れようとする。やがて、傾斜が緩やかになった場所でワンボックスは猛然と加速すると、僕達を引き離した。「クソ!逃げられたか!」僕達は急減速をして自転車を止めた。これ以上は追えなかった。ワンボックスのナンバーは¨千葉¨だった。「後1歩及ばずか!あの女を捕まえる手はもう無い!」伊東がハンドルを叩いて悔しがる。「参謀長、どこだ?」長官がコールして来る。「神社の切通ですよ。残念ですが、車で逃げられました!」僕は荒い息づかいで答えた。「あの女に間違い無いか?」「ええ、間違いありません!¨菊地美夏¨でした。車のナンバーは¨千葉¨でしたよ!」「うむ、取り逃がしたのは惜しかったが、これで¨災厄¨は終わった!正真正銘の¨終戦記念日¨だな。迎えに行く。3人共そこを動くなよ!」「了解、足がつりそうですよ!」こうして、¨北原由美¨こと¨菊地美夏¨の偽装受験騒動は終わった。だが、僕にはまだ続きが待っていた。

その日の帰り、さち達を駅で見送り駐輪場から自転車を引き出そうとした時、背中に気配を感じた。「動かないで!少しでも動いたら刺すわよ!」ブレザーの背に鋭い物が突き付けられている。そして、決して忘れなかった“あの声”!「両手を挙げて!ゆっくりと振り向きなさい!」菊地美夏はそう言った。両手を挙げたまま振り返ると、制服姿で眼鏡を外した素顔の菊地が居た。手に持っていたのは果物ナイフだった。彼女はナイフをポーチにしまうと「手を下ろしていいわ。平和的に“最後の挨拶”をしましょう!」と言った。「今更何を?」と僕が返すと「西岡達を救ってくれてありがとう。アンタは、例え敵でも救いの手を差し伸べる軍医の様だわ。恐らく、あたしにも手を差し伸べるつもりでしょう?でも、それが時として命取りになるのを忘れない事ね!あたしは、もう新しい“氏名”を手に入れた。別の世界でやり直すつもりよ!西岡達はクラスでも孤立しているでしょうけど・・・」菊地の表情が暗くなった。「西岡達の過去は“不問”に付されたよ!別件で功績があってね。校長が“過去は問わない”と言って抹消されてる。今ではクラスの中核を担う人材だよ」と僕が言うと「やっばり、アンタは只者では無いわね!彼女たちを懐柔して使いこなすとは、恐れ入ったわ!でも、唯一の懸念を払拭出来た。感謝するわ!」と言うと菊地は駆け寄ってくると頬に軽くキスをした。「他の誰でもない、アンタともう一度論争をしたかった。これ、偽らざる本音ってヤツよ。あたし、アンタが好きだった。でも、振り向いてはくれなかった。でもね、それでいいの。これでキッパリと忘れられる。ようやく、新しい土地で新しい人生を始める決心がついたのよ。だから、最後に思い出を確かめに行った。そしたら、アンタ達が必死に追って来るじゃない!馬鹿かと思ったけど、アンタの優しさが垣間見えた気がするの。いつまでも変わらずに居てよね!」と菊地は言うと、制服の襟の校章を外して僕の手に握らせた。「それ、持ってて!下手に返しに行くとアンタもヤバイ事になるから、気をつけなさい!もう、この制服に袖を通す事は無いわ。さようなら!あたしが唯一好きだった男子!参謀長の名に恥じぬ活躍を期待してるわ!」そう言うと菊地は身を翻して、近くの階段を下りて行った。鉄道の高架下から千葉ナンバーのワンボックスが走り去った。「どうしろってんだ?」左手の中に校章を残して、菊地美夏は旅立った。僕は自宅に戻ると机の奥深くに、菊地の校章をしまい込んだ。初夏の頃、菊地から暑中見舞いが届いた。“新しい土地で再スタートを切りました”と書かれていた。そして僕は、誰にもこの事を告げずに卒業を迎える事になる。

翌日の朝、いつもの場所でヘバって立ち止まっていると、「Y―、おはよー!」と声が聞こえる。さちと竹ちゃんと道子だ。僕は力なく手を振る。昨日の猛烈なカーチェイスの代償は大きく、筋肉痛で足が痛いのだ。「どーしたー!」さちが駆け上って来る。「情けないが足が痛い!」「そりゃあ、あれだけのカーチェイスやらかしゃー当然だぜ!」竹ちゃん達も追いついて来た。さちが足を揉んでくれると少しコリが和らいだ。「でもさ、あの女は何をしに来たのかな?」さちと道子が聞いて来る。「さあ、何だったのか?捕まえ損ねた今となっては“意味不明”としか言いようが無いよ」僕はゆっくりと歩き出す。「アイツ、案外未練がましく挨拶に来たんじゃねぇか?参謀長に剃刀でも突き付けに!」竹ちゃんが言う。「まあ、そんなところだろうな。相当、恨まれてるからな!」「ああ、事ある毎に全て叩き潰したんだ!必然性はあるんじゃねぇか?」「でも、あの女の悪足掻きだよ?Yを恨むなら筋違いもいいところじゃない!」さちが膨れる。「それでも、これであの女は2度と現れないだろう。もう、“編入”も“受験”も出来ないんだからな!」僕はハッキリと言い切った。「そうだな、これでもう終わったよな。やっと平和な学校生活を送れるってもんだぜ!」竹ちゃんはあくび交じりに言った。「長かった!なんだかんだって振り回されて大変だったもの!」しみじみと道子が言う。「これで、やっとYも解放されるね!」さちが嬉しそうに言う。僕等は教室へ入ると窓際へ並んだ。春風が爽やかに吹き抜けて行く。「Y、足のマッサージしてあげるよ」さちが椅子を2つ持ってきて座るように促す。僕は椅子に座って足を延ばして靴を別の椅子に乗せた。さちが優しくコリを揉み解してくれる。そうしている内に、雪枝と中島ちゃんがやって来た。「手伝うよ!」「あたしも!」3人で足を揉んだり叩いたりしてくれるのはいいが、さすがに耐えきれなくなって来た。「3人共もういいよ。くすぐったい!」「ダーメ!我慢しなさい!」さちが怖い眼をして睨む。松田にくっ付いて堀ちゃんも姿を見せた。彼女も「面白そうだからやらせて!」と言って仲間に加わる。これでは、マッサージではなく“拷問”である。「もういい!勘弁して!」僕が悲鳴を上げるが「逃がしはしないわよ!」と言って、さちが僕の肩を揉みだした。「あーあ、また始まった!」道子が呆れて竹ちゃんを見る。「まあ、いいんじゃねぇの?参謀長をおもちゃに出来るのは、あの4人しかいねぇんだし!」「うん、やっと元通りになったって感じ。結局はYと遊びたいだけだし、Yもあれこれ言うけど逃げたりしないとこを見るとまんざらでもないみたい!」竹ちゃんと道子が見守る中、僕は延々とマッサージを受けるハメになった。

4期生に対する原田の“組織工作”は、徐々に進行して行った。原田の女の後輩を含む“親衛隊”とも言うべき人材発掘及び勧誘工作は、ジワジワと広がりを見せながら日に日に進んでいた。3期生の時は、我々が“介入”したため原田は組織づくりに失敗していた。3期生は長官を筆頭に、僕と西岡が完全に押さえていたので、原田は“独自ルート”の開拓を断念せざるを得なかったのだ。だが、4期生では“失敗は許されない”とばかりに、入念な策を立案していた。“親衛隊”を結成して、地下組織を張り巡らせる。それも、露骨な“見返り”を用意していた。1年生ながら“生徒会の椅子”をチラつかせたのだ。クラスの委員長達は、必然的に組織に組み込まれるが“親衛隊”を中心とした地下組織には、会長直属の“規律委員会”“生活指導委員会”なる組織へ属させる事にしたのだ。しかし、世代間ギャップは如何ともしがたく、組織づくりは遅々として進まなかった。“政治活動”よりは、高校生活を優先する風潮があり、4期生の3分の2は原田の話に乗らなかった。この事が後に“原田後の揺り戻し”を呼んで、生徒会会長の“専制体制”を正す素地となるとは何とも皮肉な話である。「長官、参謀長!原田がまた“知恵を貸せ!”と言ってますよ!」伊東が説得に来るが、僕等は乗るつもりは更々無い。「閣臣でも無い我々に、4期生の取り込み工作をやらせようとは筋が違う」長官は断固拒絶の構えを崩さない。「学校側から依頼があった3期生とは違うよ。4期生に介入する理由は無いぜ!」僕も乗り気ではなかった。「だが、“特別補佐官”の肩書はあるだろう?会長の補佐だと思って、手を貸してくれよ!」伊東は何とか粘ろうとするが、「今のところ、4期生で“問題”が起こっているとは聞いてないぜ!3期生みたいに“露骨な手”で牙を剥かれりゃあ話は別だが、ヤツらは大人しい。3期生から見ても、荒れているとは聞いていない。会長個人の都合なら、補佐する意味は何だい?」僕は逆に聞いて見た。「それは・・・、」伊東が詰まったところで「目下、緊急もしくは喫緊の課題が無いならば、“特別補佐官”が動く必要性は無いと思うがどうだ?」と斬り込んで行くと「近々、“向陽祭”の事前準備会議がある。それには参加するだろうな?」と言って来る。「ああ、その案件ならば学校及び全生徒の問題だから、出席はするさ。少しばかり“苦言”は呈さなくてはならんだろう?」と長官が言う。「あー、また原田に突かれるな!“長官と参謀長は何故手を貸さない”って嘆かれるんだぜ!」伊東がウンザリして言うが「非常事態になれば“言われなくとも出ていく”と言って置け!それまでは“対外戦争”の骨休めをさせてくれとな!」と僕がダメを押す。「確かに、そうだがいつまでもそれが理由としては通らないぞ!」「分かってるさ。あの女との死闘から、まだ2週間経って無いんだ。心も体ももう少し休ませろと言って置け!」と長官もダメを押す。伊東はスゴスゴと教室を出て行った。「原田のヤツ、相当焦ってますね。4期生がなびかないのが腹に据えかねるのでしょう」「ああ、そうらいしいな。世代が違えば考えも違う事にヤツは気付いて居ないらしい」僕と長官はニヤリと笑った。「しばらくは、様子見に徹しよう。我々もやっと落ち着いて来たばかり。厄介は御免だよ」長官が言う。「平和なのが何よりですよ。妙な波風に吹かれるのは御免ですね」と僕も返した。4月も中旬、春は盛りであった。

「参謀長、宜しいでしょうか?」西岡が授業の合間の休み時間に声をかけて来た。「どうした?」「はい、上田と遠藤達からこの様なモノが届きました!」と言って西岡は手紙を差し出す。「読んでいいのか?」「どうぞ!」僕は便せんに書かれた文字を追った。内容は、今年度の“向陽祭”でも“総合案内兼駐車場係”の責任者として自分達を仕切って欲しいと言うモノだった。「うーん、これはどうするかな?」僕は即断出来なかった。各係の下打ち合わせは迫っていたが、昨年の例に倣えば上田と遠藤達に加えて、山本と脇坂が仕切る場面だ。会長の“特別補佐官”としては、総合本部の椅子に座るのが筋だろう。「如何なさいますか?」「原田の意向も聞かねばならんが、昨年以上に厳しい事になるのは分かっている。あの子達は昨年の経験もあるから、僕が出ていく場面では無いと思うが、考えのしどころだな!」「と言いますと?」「今年は、昨年以上に来場者が増えるだろう。警備上も安全の上でも徹底した対策が求められるのは間違いない。“総合案内兼駐車場係”としても万全の体制で臨まなくては、苦情や事故の恐れは回避不可能になる。今のところ4期生に不穏な動きは無いが、もし万が一4期生が使えないとなれば、昨年以上の苦難の2日半になるは火を見るよりも明らかだ!最悪を想定するならば、やはり僕が出て行かざるを得ないのは間違いあるまい。もっとも、原田の“許可”が出ればの話だが・・・」「では、返事は如何いたしますか?」西岡が聞いて来る。「各係の下打ち合わせの“結果を待て”と返してくれ。この話、僕の独断では通らない事案だ。一応、上田と遠藤達の意向は踏まえて、打ち合わせの席には付くつもりだ。余人を持って治められる場ではないからな!ご指名とあらば、椅子に座れるように努力はしてみるとな!」「では、その様に返事をして置きますが、参謀長、また災厄の最前線に立たれるお覚悟ですか?」「ああ、最後のプライドを賭けて臨んでもいい!3期生に我が背をしかと見せて置くのも、最上級生としての義務だろう?」僕は西岡に封筒を返しながら言った。「分かりました。今回はあたしも志願します!共に戦えるといいですね!」西岡が笑う。「そうだな、1人でも多くのベテランが欲しい。原田には、相当な圧力をかける必要があるな!とにかく、やれるだけやって見てからだ」「はい!」西岡はロッカーから便箋と封筒を取り出した。昨年の“向陽祭”は苦難の連続であった。それ以上に今年は厳しい戦いを強いられるだろう。上田と遠藤達も、それを読んでの要請に踏み切ったに違いない。「“火中の栗を拾う”か。また、それもやむを得まい」僕はそう呟くと授業に向かった。

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