limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 34

2019年06月05日 16時34分08秒 | 日記
「happy new Year!!」10人の大合唱が境内に響く。恒例の2年参りの1コマだ。どこよりも早い年賀状の交換が終わると、拝殿に賽銭を投げて、それぞれに願い事を心の中で呟く。「お守り買いに行くよ!」道子の音頭で、女の子達が社務所へ群がる。僕等は焚火に当たりながら「今年は、どんなヤツを選んでくるかな?」などと話していた。「参謀長、僕らは見に行かなくていいんですか?」石川が聞いてくる。「気になるなら見に行ってもいいが、ここは先輩の顔を立てろ!どんなお守りが来ても、驚くなよ!そしてペアで付けてやるんだ!」と言って薄笑いを返す。“さちの事だ。またしても派手なヤツを選ぶだろう”僕は心の中で呟いた。「本橋、石川、どんなに派手なヤツでもちゃんと付けろよ!先輩のメンツは潰すな!」と竹ちゃんも釘を刺す。5人の女の子達が戻ると、それぞれにお守りが手渡される。竹ちゃんと道子は赤と青の普通のヤツ。堀ちゃんと松田も同じだった。雪枝は恋愛成就の黄色と白地のヤツを中島ちゃんは、交通安全と普通のヤツのセットを渡した。さちは3つを僕の手に押し込んだ。普通のヤツと交通安全、そして恋愛成就をやはり持って来た。「さち、鈴なりにするつもりか?」と聞くと「そうよ。あらゆるリスクを検討した結果、こうなったの!」と平然と言う。去年、恋愛成就を帰り際に手渡してくれたのが懐かしい。今は誰にはばかる事も無く受け取れる。1年と言う時間の経過は、劇的に僕らのグループの方向性を変えたし、5組のペアが当たり前のように存在しているのが不思議なくらいだ。普段はそれぞれに進んでいるが、何かあれば直ぐに集合するのは相変わらずだ。「最終の電車は深夜1時半だ。それまでに駅へ集合してくれ!」と竹ちゃんが言うと5組は三々五々に散っていく。僕とさちには、中島ちゃんと石川が同行してきた。最も付き合いの浅いカップルだ。「参謀長、鈴なりのお守りは鞄に付けるんですか?」と石川が聞いてくる。「当たり前だろう!それ以外に何処に付ける?」僕は石川の頭を突いた。「やっぱりそうですよね。中島先輩のお手製のマスコットもあるし、僕の鞄は飾りだらけになりますが、やむを得ませんね・・・」石川は青息吐息だった。「それだけ認められてる証拠だと思え!中島に恥は掻かせるな!」石川の背を思いっきり叩くと「はい、そうします!」と恥じらいながら返してくる。「いずれにしても、お前は中島が選んだ男だ。それを忘れるなよ!よそ見はダメだ。彼女は意外にナイーブだからな!」さちと中島ちゃんは露店を見て回っては、はしゃいでいる。僕と石川はその背を追っている。「Y、石川、イカ焼き食べようよ!」中島ちゃんからのお誘いだ。4人で分け合って食べると結構美味い。「元旦の夜の夢だね!こんな時間に出歩けるのは、お正月の特権だよね!」さちも感慨深げに言う。「去年も忙しかったが、今年は別の意味でもっと忙しくなる。英気を養っておかなきゃ息切れしそうだよ」僕とさちは手を繋ぎ直すとゆっくりと歩を進める。「Y、さち!」中島ちゃんと石川も手を繋いでいた。「2人みたいな素敵な間柄になるから!」中島ちゃんが半分赤くなって言う。「ああ、抜かれるつもりはないよ!」僕とさちは指を指して返す。「みんな急げ!終電に間に合わなかったらアウトだ!」竹ちゃんたち3組がなだれ込んで来る。時計の針は午前1時を回っていた。「ヤバっ、急がなきゃ!」僕達5組は、人込みをかき分けて駅へ前進した。

年末年始休暇が明けると、男達がソワソワと動き出した。去年の“雪辱”に燃える長崎を筆頭に“Give me chocolate大作戦”が始まったのだ。「アイツも必死だな!末席とは言え生徒会役員のメンツもあるから、“義理でもいいから”作戦は功を奏するか否か?」久保田が苦笑しつつ言うと「その他の奴らも、尻馬に乗ってやがる!派手にやりゃあいいってもんじゃねぇよ!」と竹ちゃんがバッサリと斬る。「“義理でもいいから”作戦の余波が心配だ!下手な運動は控えて欲しいよ」と伊東が怯える。千秋の焼きもちが怖いのだろう。「今年は金曜日か。ワシは翌週まで休養するぞ!」と長官は早くも逃げに走りつつ「参謀長、そなたも休養を取れ!去年の悪夢は避けるべきだ!」と誘いをかけて来る。「Y、今年も余ったら届けるからね!欠席は認めないわよ!」有賀が先制攻撃をかけて来た。「“Give me chocolate大作戦”に協力してやれ!迷える子羊達に救いの手を差し伸べろ!」と言うと「あーら、おあいにく様!実績が無い男子にあげる予定は無いの。生産能力には限界があるのよ!」と意に介す風が無い。「だから逃げようと申して居る!」と小声で長官が言う。「長官、逃げても無駄よ。住所は割れてるんだから、帰りに押しかければ済む事だし、逃がしはしないわよ!」と千里が言い渡しに来た。長官の顔から血の気が引く。「むむ、自宅に来られたら最悪だ!分かった、正々堂々と受けて立とう。だが、サイズは小さくしてくれ」長官は妥協案を示した。「それは、保証出来ないわよ。手提げ袋を忘れないでね!」千里も意に介す風が無い。「あー、最悪だー!」2人して盛大にため息を付いた。「長崎が聞いたら卒倒するぜ!そうでなくても“贅沢な悩み”なんだから」伊東が僕と長官の肩に手を置いて言う。「俺達は及第点決定だが、未だに“ノーヒット”のヤツらにしてみりゃ“おすそ分け”でも飛びついてくるだろうぜ!」竹ちゃんは余裕でコメントする。これ程、くっきりと色分けが出るのはこの時期特有だろう。女の子たちは“どう言う風に仕上げるか?”で悩んでいるはずだ。“連続三振”は回避したい長崎達の運動は日に日に熱を帯びていった。吉凶は、もう直ぐ明かになる。

一方、生徒会組織では“創業の時代”の仕上げに向けての地殻変動が活発化していた。1期生が築いた礎の上に建屋を立てるのが、我々2期生の主たる任務だったが“官僚機構”とも言うべき組織の整備も急務であった。手探りで形作られた組織には所々に“穴”や“空白地帯”が存在していたのだ。原田はそれらを詳細にあぶり出して、“穴”を埋めて“空白地帯”に新たなポストを用意して空白解消を図った。先の“大統領選挙”の対立候補だった5組の連中を懐柔して、これらのポストに付けて不満の矛先を逸らし、会長を頂点とする“集権体制”を急ピッチで形作った。無論、我々もこうした作業には駆り出されたが、原田のみに権限が“一極集中”しない様に仕向けるには、随分と骨を折ったし、どうしても左側に逸れる原田の思考をなるべく中道よりへ修正するのは、大変な労力を強いられた。それと平行して、長官と僕と伊東が苦心したのは“旧規約・規則”の保存だった。「原田1代限りの“特例”として今次改正は認めるが、後の世は旧事に復させるのが正しい」との認識で一致した僕等は、廃棄される前の“旧規約・規則”を必死になって散逸しない様に集めて保管した。実際、1期生が構築した“旧事に復させる”のに成功するは、4期生が実権を執ってからの事になる。2世代もの時間を要したのは、如何に原田への権力集中が凄まじかったかを如実に物語っている。しかし、そうは言っても新設校故の伝統の無さは、如何ともしがたく、原田の取った道である“強権を持って事を治める”治世は安定期へ向けての布石にはなったのだから、皮肉なものである。「我々は言うなれば“太祖”だ。多少の乱暴は許されるだろう。3期生以降の“太宗”の時代に過ちは修正されればいい」と長官は事ある毎に言っていた。「創業の時代はどの王朝も苦労が絶えませんからね。兵馬の後、安定した治世となる様に、我々で事は終わらせましょうや!」と僕も言い続けた。善政も悪政もあったが、原田を頂点とした僕等の政権は無事に役目を果たして、3期生へと繋がり4期生以降に安定期を迎えるのだが、時として紆余曲折を経て事が進むのは、やむを得なかった。“前例”が無いと言うのは、自由を謳歌出来る反面“悪しき事は残せない”と言う諸刃の剣でもあった。故に、議論は沸騰して熱を帯び、対立や離合集散を繰り返した。しかし、遺恨は残らずに終わったのは僥倖だった。やはり、“悪しき事は残せない”との思いは2期生全員に共通した思いだったのだろう。

そうした思いは教職員にも共通していたのは間違いない。塩川の様な“暗愚”な教員も居たが、校長以下1期生と2期生の各担任には県教職員の中でも“重鎮”が配されていた。佐久先生も後々、校長として職務を全うされて退職している程である。“イタズラ小僧”と言われた方も、要職を歴任しているのである。中島先生は、僕等の卒業後に病に倒れて他界されてしまうが、生きておられれば教頭は間違いなかったはずであろう。古文の戸田先生は後に県の教育長まで上り詰められた。「あの戸田が教育長かー。“立っとれ!”は相変わらずだろうな?!」後々、滝と僕はそう言って笑ったものである。1期生と2期生の間に壁が無かった様に、僕等と先生方のとの間にも壁は無かった。ここでも“伝統”に縛られない自由な風が吹いていたのが分かる。僕等が教室のストーブで“焼き芋”や“おでん”を作っても怒られはするが、必ず“味見”や“ご相伴”をして帰り、職員室から器を持って取りに来たのは、その証だろう。とにかく、自主性を重んじた校長の治世は、僕等に活躍の場を与え、より良い方向を模索する考えを植え付け、後々まで続く“伝統”となったし、間違いがあれば共に意見を出し合って、解決の道筋を付けるやり方は4期生の頃まで脈々と続いたのだ。ただ、先生方も苦労が絶えなかったのは事実だ。何か新しい行事を行うにしても、“前例”が無いので1から構築しなくてはならない。安全対策やケガや事故の防止などは、僕等と共に1つ1つやって見て改善して行くしか無かった。僕等は“創業者”でもあり、“実験台”でもあり、“共に歩む開拓者”でもあった。こうして新設校としての基礎は固められていったのだ。

そして、運命のバレンタインの日が訪れた。男子も女子も緊張の1日である。女子は渡すタイミングを見計らい。男子は“今年こそは逆転ホームラン”の絵を描いて待ち構えている。長官と僕にして見れば“頭の痛い”1日だ。朝から長官は「おい、どうやって逃げ失せる?」と避難準備に余念がないが、千里達がそう易々と逃がすはずが無い!その証拠に長官の動きは逐一監視されていた。何も動きが無いまま、昼を迎えると僕等は生物準備室へ逃げ込んだ。「あー、心臓に悪い!針の筵とはこの事だ!」ゲンナリと長官が吐露すると「長崎達は、もっと切実な問題に直面してますぜ!土俵際でのうっちゃりに賭けるしかねぇんだから!」と竹ちゃんが呑気に言う。「うっちゃりで逃げ切れるなら既にやっておる!こちらは、がっぷり四つに組み合っているのだ!千里の図り事がいつ炸裂するのやら」と長官はいつになく弱気だった。そこへドアがノックされ上田と遠藤が乗り込んできた。「参謀長、あたし達の気持ちです!受け取って下さい!」と白い大きな紙袋を差し出してくる。14個がまとめて届けられ、遠藤と上田からは直接手渡された。「あたし達の未来を照らして下さり感謝します!これからもあたし達を宜しくお願いします!」「ああ、こんな気遣いはしなくてもいいのに」と言うと「そうは行きませんよ!今日があるのは、参謀長のお導きがあればこそ!あたし達を忘れないで下さいね!」と念を押される。現時点で16個が転がり込んだ。それぞれにメッセージカードが添えられている代物だ。「4月には4期生がやって来る。先輩として毅然とした姿を見せなさい」と言うと「勿論です!」と言ってニッコリ笑う。やむを得ない事だと思いつつも、早くも“荷物”の置き場所に困ってしまう。上田と遠藤が帰った後「預かろうか?あたしの分もあるし。竹内君も山岡君の分もあるからさ!」と明美先生が言ってくれる。「そうしてもらえます?このままじゃ袋叩きに遭いそうなんで・・・」と言うと袋を手渡した。明美先生は1個を僕がもらった袋に入れると、竹ちゃんと長官の分と合わせて棚へ納めた。これで17個になってしまった。長崎にバレたら最悪の展開になってしまう!生物準備室を出ると5人の3期生の女の子達が待ち構えていた。「竹内先輩!」竹ちゃんに5人が群がる。それを尻目に僕は教室へ何食わぬ顔で舞い戻る。伊東が千秋に吊るされていた!3期生の女の子達からもらったと思われる包みを取り上げると、千秋は男子の席の頭上に放り投げた。バッタの様に餓えた男たちが宙を舞い、見苦しい取り合いにも発展する。「そうまでしても取るのかよ?」久保田が呆れ返って言うが、ヤツはしこたまもらった包みを既に持っている。「Y、帰りでいいよね!」とそんな騒ぎの中、さちが言う。「ああ、そうしてくれるかい?」と返すと「見苦しい。浅ましい。あんな男子の姿は見てられない」とこぼす。「Y―、毎度余り物で悪いけど、いつものヤツ置いとくねー!」と言って有賀が包みを置いて行く。「おい、餓えた子羊達に恵んでやれよ!」と言うが「興味無し!Yは、“お約束”だから別なの!」と言って背後に座り背を突く。振り返ると「今年は力作だから、期待してよね!」と言って微笑む。ラッピングもメッセージカードも手を抜いた形跡は無い。どこが“余り物”なのか?赤坂に比べて小さい事を除けば、中身は一緒だろう。有賀の行動が呼び水となり、クラスの女子が一斉に動き出した。千里達は長官を集中攻撃しているし、千秋は伊東の襟首を掴んで教室の隅へ連行して行った。僕の前には真理子さん達が包みを置いて行く。そして、西岡も大き目の包みを置いて「“過去を不問とする”これがあたし達にとってどれだけの恩恵をもたらしたか。参謀長、細やかですが感謝します!」と言った。「感謝するのは私の方だよ。“再生計画”が実質的に成功したのは、君達の力に寄るところが大きい。校長も高く評価していたから当然の事じゃないか?」「いえ、陰であらゆる手を繰り出した参謀長の知恵があればこそ。あたし達はただ従っただけです」と西岡は謙遜した。「ありがたくいただくよ」と言うと彼女は微笑んだ。鞄から布袋を出すと、机に乗っている包みを丁寧に入れる。20個オーバーになってしまった。後5個は確実に来るから、30個前後になってしまう。さすがにもう御免こうむりたい気分だが、女の子のメンツを潰す訳には行かないので、大切にしまい込む。そして放課後、道子を筆頭に雪枝、堀ちゃん、中島ちゃんから包みを受け取る。更に、さちからも包みを受け取った。パープルの小ぶりな包みが一番欲しかった物だ!周囲を見渡してから、そっとさちの頬にキスをする。「こら、見られたらどうするのよ!」と言うが眼は怒っていない。「さて、帰るぜ!」と竹ちゃんが言うと、みんなが身支度を整えにかかる。生物準備室から紙袋を引っ張り出すと、大荷物になった。「全部でいくつあるの?」さちが何気なく聞いて来る。「ざっと数えて30個くらいかな?久保田に比べれば半分以下だが」「ふーん、でも“大本命”はあたしだから、気にはしないもん!」さちは余裕の微笑みを浮かべていた。だが、これで終わりではなかった!昇降口で丸山先生と図書館の小平先生に捕捉され、包みを押し込まれた。そして外では1期生の先輩達が待ち構えていた。主に前生徒会の役員の先輩達だが「最後だからさぁ!」「後は任せたわよ!」と口々に言いながら包みを押し込んで来る。竹ちゃんも結構な数を拾ったらしく、袋が一杯になった。“大根坂”へ進むとようやくチョコ攻撃は止んだ。途中で本橋と石川が待っていたが、彼らの手荷物も膨大な量になっていた。「参謀長、どうしろと言うんですかね?僕等は先輩からのモノだけが欲しいんです!その他はどうでもいいんですが・・・」と困惑気味だった。「贅沢を言うな!空振り三振だったヤツらの事を思えば、これくらいは我慢しろ!」と言ってたしなめる。「本橋!」「石川!」雪枝と中島ちゃんが“本命”をそれぞれに贈った。「心して食べろ!」竹ちゃんが申し渡すと、拍手が起きる。僕等はゆっくりと歩きだした。右手に神社の境内が見える地点にまで下った時だった。2人の女の子が待ち構えていた。3期生だろうか?余り見かけない子達だった。「誰を待っているのかしら?」堀ちゃんが小首を傾げた。「竹ちゃん?」「本橋?」「石川?」「松田君?」それぞれのパートナーが問いただすが、全員が首を振る。「もしかして、Y?」さちが聞くが僕にも心当たりが無い。「あのー、長崎先輩はどちらですか?」女の子達が意を決して聞いてくる。「長崎なら、まだ後ろだよ。もう少し待ってて」と優しく教えてやる。女の子達は軽く礼をして、坂を見つめ直した。竹ちゃんと松田と僕は必死に堪えた。充分に距離を置くと3人揃ってゲラゲラと笑い出す。「逆転サヨナラ満塁ホームラン!」道子達もたまらずに噴出した。本橋と石川はキョトンとして立ち止まる。「まっまさか!本当に・・・、当りやがった!」「ああ、・・・奇跡だ!」長崎には悪いが、絶対にあり得ないと思っていた事が現実になったのだ。「アイツの運動が奇跡を起こすとはな!やって見るものだ!」本橋と石川を除く全員が腹を抱えて笑った。翌日、長崎の機嫌がすこぶる良かったのは言うまでもない。

そして、3月。開校以来、初の卒業式が行われた。2年間共に戦って来た1期生が巣立ちの時を迎えたのだ。僕の気持ちは複雑だった。共に歩んだ友が居なくなるし、自身にのしかかる責任の重さを痛感させられたからだ。折に触れて頼りにしてきた1期生と言う“重石”が消える事は、原田が本格的に独自色を打ち出して、暴走しかねない危険もはらんではいた。“果たして我らで原田を止められるか?”“創業の時代は完結させられるのか?”不安なことは多々あった。しかし、それらは僕等で解決しなくてはならない事なのだ。卒業証書授与の間、僕は言いようの無い不安と戦っていた。謝恩会の席になると、僕等は先輩達から散々絡まれた。「Y、自ら陣頭に立つのは控えろ!部下は信用してナンボだろう?」総長を務めた先輩が言う。「いいや、コイツは今年も“陣頭指揮”を執る腹積もりだ!本部席でぬくぬくとしてるはずが無い!他力本願が何より嫌いなヤツだから、絶対に先頭に立っているだろうぜ!」前生徒会長が指摘して、僕の頭をくしゃくしゃにする。「けどな、お前ほど責任感が強くて知恵の回るヤツは2期生には見当たらん。これからも知恵と行動力で全校を引っ張れ!原田の首を挿げ替えても構わん!思うようにやれ!」先輩達は僕の肩や背を叩いて激励した。「Y-、これあげるよ!あたし達はいつも共に戦って来たもの。最後の仕上げは任せるよ!」前副会長の女性の先輩がネクタイをくれた。他にも生物準備室でお茶を飲んでいた先輩達が周りに集まってきた。「Y-、お茶会続けるでしょ?いつか潜り込みに来るから“アイスティー”作って置いてよ!」「あたし、ダージリンね!」「あたしはオレンジペコ!」「Yの好きなアールグレイでもいいよ!」先輩達は注文が多い。「承知しました。初夏のころには、特製の“アイスティー”作ってお待ちしております!」僕が恭しく言うと「Y特製の“アイスティー”の味は忘れない!卒業するまで続けなさい!あそこは“心の故郷”だからいつまでも忘れないでね!」と半泣きになって言う。肩を組んで円陣を組んで校歌を泣きながら歌う。こうして歌うのもこれが最後になるだろう。円陣が崩れると1人づつハグをして別れを惜しんだ。「Y、元気でね。彼女と仲良くやりな!あたし達もアンタの事は忘れないから!」「Y、必ず会いに来るから待っててよ!」先輩達は泣きながら言った。「Y、バイバイは言わないよ!また、馬鹿をやろうね!」口々に別れを言っては2ショット写真に納まって行く。本当に先輩達は居なくなるのだ。ジュースを飲みにテーブルへ戻ると、道子が「本当に行っちゃうんだね。あたし達が最上級生なんて信じられる?」と言った。「否応なしにそうなるのが宿命だとしたら、時を巻き戻したい気分になるよ。ついこの間、入学したばかりなのにな」と返した。「でも、Yの言う通り否応なしに時間は過ぎていったのね。忙しくなるわよ!」「ああ、4期生を迎える準備が待ってる。春休みは半分無いも同然だからな!」僕と道子は先を見据えた。僕等の時代は最後の仕上げにかかる季節へと向かっていた。

謝恩会の片づけをしていると、1通の手紙が落ちていた。宛先は僕だった。咄嗟にブレザーのポケットへ滑り込ませると、何食わぬ顔で片づけを続けた。家に帰ってから封筒を慎重に開けると、「あたしはオレンジペコ!」と言っていた愛子先輩からだった。彼女から教わったのは、お茶の淹れ方に始まり美味しい味わい方まで、紅茶全般についてだった。手紙で彼女は“最後までYを振り向かせる事が出来なかったね”と綴っていた。入学して間もなく生物準備室へ出入りする様になって、最初に声をかけてくれたのが愛子先輩だったのを思い出した。「Y、バイバイは言わないよ!また、馬鹿をやろうね!」と言った愛子先輩の声がよみがえる。“スルメ”“焼き芋”“おでん”これらのイタズラのヒントをくれたのは間違いなく彼女だった。そして、必ず参加してくれた。これらの思い出は“これからも忘れないでしょう”とも綴られていた。僕の背を押したり、導いてくれた愛子先輩。その思いに気付かなかった事を僕は悔やんだ。知って入れば、別の別れになっていただろう。でも、僕にはさちがいる。また、ややこしい関係になるのは避けなくてはならなかった。僕は机の奥深くに愛子先輩の手紙を封印した。「これでいい」自分に言い聞かせると、明日からの仕事を吟味してみる。4月になれば4期生を迎えて新学期が始まる。その準備に僕等は奔走しなくてはならない。最上級生としての春は間近に迫っていた。

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