北米トヨタの社長秘書として勤務していた女性社員が,社長からセクハラを受けたこと及び会社がセクハラの訴えに対して何ら対策を講じてくれなかったことなどを理由に,総額250億円の損害賠償請求をアメリカの州地裁に提起したそうです。
livedoor ニュース
なんでもアメリカは大きいなあ・・
だから,米軍基地移転で3兆円なんて平気な顔して請求できるんでしょうね(^_^;)
冗談はさておき,この訴訟に対し,日本の世論は意外とこの女性に対して冷ややかな目で見ているようですね。
ただ,この訴訟を考える上で注意したいのは,「日本のレンジでこの訴訟を見ないでほしい」という点です。
アメリカの場合,巨額の損害賠償請求がよく認められていますが,これらはいずれも「懲罰的損害賠償」です。すなわち,アメリカの損害賠償理論は,「単に損害を賠償するだけではなく,このような損害を再発させないために参ったと相手に思わせる程度の損害賠償額を付加させるべきである」というものです。
したがって,このトヨタ訴訟の場合,トヨタという会社があまりに大きいため,この会社に対して,1000万円程度の損害賠償を認めても,会社は「しまった」と余り思わず,同じような損害を繰り返してしまうかもしれないが,215億円ともなればさすがに「しまった」と思うために,損害の再発が防げるだろう,という理屈でこの訴訟が提起されているわけです。
仮に,この女性が年商1000万円程度の小さな会社に勤めていて同じようなセクハラ被害に遭っていたとした場合,損害賠償額は大幅に少なくなるというわけです。
一方,日本の場合,損害賠償論は「損害の実損を填補する」という発想になっています。特に,セクハラなど精神的損害の場合,損害の実損が計算しにくいことから,いわゆる相場額で判決を下している場合が多いです。したがって,横山ノック元知事事件の場合は例外とすると,その他のセクハラ訴訟に対しては,せいぜい100万円程度の損害賠償しか判決されない場合が多いです。
また,先のアメリカの例とは逆に,実損を賠償する発想であるため,会社がトヨタであろうと小さな町工場であろうと,損害賠償額はほぼ一定になります。
このように,アメリカと日本とでは,損害賠償の考え方が全く違うのです。
したがって,この原告女性に対して,単純に「ぼったくり女」などと罵ることは止めた方がよいでしょう。
もちろん,今後の訴訟の中で事実関係の有無や損害賠償額についても審理されるわけですから,その判決を踏まえてからこの原告女性を批判しても別に遅くはありません。
ところで,日本では,現実の話として,セクハラに限らず,多くの損害賠償訴訟の場合,実損程度しか認めないため,判決をもらったとしても,弁護士費用などを差し引くと,全額回収ができないのも実情です。
一方で,日本では会社も個人もまだまだコンプライアンス(遵法精神)に欠けている面が多いのも事実です。そして,「お金が大事」という思想が強まってきています。
そこで,このような事情も踏まえて「日本でも懲罰的損害賠償制度を導入しよう」という動きが一時期ありました。しかし,「日本には馴染まない」という理由から,この議論は現在かなり低調になっています。むしろ,会社法では,取締役の損害賠償額を抑制するなど,「大きな損害賠償にはしないようにしよう」的な動きの方がメインとなっています。
なぜ日本では懲罰的損害賠償の議論が盛り上がらないのでしょうか?
実は理由は簡単で,「巨額の損害賠償の判決が下る可能性があるのは大企業とその役員だけ」だからです。
そこから先は,いつもの話なので,繰り返しません。要するに,誰が法律を作っているのか,そこと大企業の関係は,ということを考えればよいだけのことです。
ただ,そういうウラ社会の話は別にすると,アメリカナイズされた日本においても,「懲罰的損害賠償」の制度は導入する価値は十分あると私は考えます。しかも,何も大企業に限った話ではありません。懲罰的損害賠償制度を,犯罪被害者が加害者に対して行うのにも十分意味があると考えます。
例えば,殺人事件の場合,現在は被害者遺族は加害者に対して,亡くなった人の遺失利益(もし生きていたらいくら稼いでいたか等から生活費などの経費を差し引いたもの)を請求できるに過ぎません。平たくいえば,交通事故で亡くなった人と同じ程度の金額しか請求できません(多少は慰謝料で調整さえますが,ほとんど差がないといえます。)。
しかし,懲罰的損害賠償制度を導入すれば,交通事故の被害者と殺人事件の被害者を同列に扱わず,それぞれ事故や殺害状況の実情など,さらには犯人の経済力などを加味して+アルファするわけです。
こうすることで,刑罰だけではなく民事的にも制裁を加えることができるほか,副次的ですが「犯罪を犯すと刑務所行けば終わりというわけには行かない」という抑止力が働く,犯罪抑制に対する効果も期待できることになります。お金に厳しい現代人にとっては,国家から刑罰などの制裁を受けるよりも,「現金没収」的な制裁を受けた方がよっぽど堪えることでしょう。
もちろん,民法を改正すればそれで済む話ではなく,さまざまな法制度を再検討する必要があるため,本気で導入するためにはかなり時間がかかるとは思いますが,治安維持と犯罪被害者保護という観点からすると,この懲罰的損害賠償制度の導入を真剣に検討する価値はあるのではないでしょうか。
いずれにしても,今回の北米トヨタ訴訟を,単なるワイドショー的ニュースととらえず,日本における法制度を再検討する貴重な機会を与えたニュースとして国会議員や見識者達がとらえてくれればよいのですが。
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冗談はさておき,この訴訟に対し,日本の世論は意外とこの女性に対して冷ややかな目で見ているようですね。
ただ,この訴訟を考える上で注意したいのは,「日本のレンジでこの訴訟を見ないでほしい」という点です。
アメリカの場合,巨額の損害賠償請求がよく認められていますが,これらはいずれも「懲罰的損害賠償」です。すなわち,アメリカの損害賠償理論は,「単に損害を賠償するだけではなく,このような損害を再発させないために参ったと相手に思わせる程度の損害賠償額を付加させるべきである」というものです。
したがって,このトヨタ訴訟の場合,トヨタという会社があまりに大きいため,この会社に対して,1000万円程度の損害賠償を認めても,会社は「しまった」と余り思わず,同じような損害を繰り返してしまうかもしれないが,215億円ともなればさすがに「しまった」と思うために,損害の再発が防げるだろう,という理屈でこの訴訟が提起されているわけです。
仮に,この女性が年商1000万円程度の小さな会社に勤めていて同じようなセクハラ被害に遭っていたとした場合,損害賠償額は大幅に少なくなるというわけです。
一方,日本の場合,損害賠償論は「損害の実損を填補する」という発想になっています。特に,セクハラなど精神的損害の場合,損害の実損が計算しにくいことから,いわゆる相場額で判決を下している場合が多いです。したがって,横山ノック元知事事件の場合は例外とすると,その他のセクハラ訴訟に対しては,せいぜい100万円程度の損害賠償しか判決されない場合が多いです。
また,先のアメリカの例とは逆に,実損を賠償する発想であるため,会社がトヨタであろうと小さな町工場であろうと,損害賠償額はほぼ一定になります。
このように,アメリカと日本とでは,損害賠償の考え方が全く違うのです。
したがって,この原告女性に対して,単純に「ぼったくり女」などと罵ることは止めた方がよいでしょう。
もちろん,今後の訴訟の中で事実関係の有無や損害賠償額についても審理されるわけですから,その判決を踏まえてからこの原告女性を批判しても別に遅くはありません。
ところで,日本では,現実の話として,セクハラに限らず,多くの損害賠償訴訟の場合,実損程度しか認めないため,判決をもらったとしても,弁護士費用などを差し引くと,全額回収ができないのも実情です。
一方で,日本では会社も個人もまだまだコンプライアンス(遵法精神)に欠けている面が多いのも事実です。そして,「お金が大事」という思想が強まってきています。
そこで,このような事情も踏まえて「日本でも懲罰的損害賠償制度を導入しよう」という動きが一時期ありました。しかし,「日本には馴染まない」という理由から,この議論は現在かなり低調になっています。むしろ,会社法では,取締役の損害賠償額を抑制するなど,「大きな損害賠償にはしないようにしよう」的な動きの方がメインとなっています。
なぜ日本では懲罰的損害賠償の議論が盛り上がらないのでしょうか?
実は理由は簡単で,「巨額の損害賠償の判決が下る可能性があるのは大企業とその役員だけ」だからです。
そこから先は,いつもの話なので,繰り返しません。要するに,誰が法律を作っているのか,そこと大企業の関係は,ということを考えればよいだけのことです。
ただ,そういうウラ社会の話は別にすると,アメリカナイズされた日本においても,「懲罰的損害賠償」の制度は導入する価値は十分あると私は考えます。しかも,何も大企業に限った話ではありません。懲罰的損害賠償制度を,犯罪被害者が加害者に対して行うのにも十分意味があると考えます。
例えば,殺人事件の場合,現在は被害者遺族は加害者に対して,亡くなった人の遺失利益(もし生きていたらいくら稼いでいたか等から生活費などの経費を差し引いたもの)を請求できるに過ぎません。平たくいえば,交通事故で亡くなった人と同じ程度の金額しか請求できません(多少は慰謝料で調整さえますが,ほとんど差がないといえます。)。
しかし,懲罰的損害賠償制度を導入すれば,交通事故の被害者と殺人事件の被害者を同列に扱わず,それぞれ事故や殺害状況の実情など,さらには犯人の経済力などを加味して+アルファするわけです。
こうすることで,刑罰だけではなく民事的にも制裁を加えることができるほか,副次的ですが「犯罪を犯すと刑務所行けば終わりというわけには行かない」という抑止力が働く,犯罪抑制に対する効果も期待できることになります。お金に厳しい現代人にとっては,国家から刑罰などの制裁を受けるよりも,「現金没収」的な制裁を受けた方がよっぽど堪えることでしょう。
もちろん,民法を改正すればそれで済む話ではなく,さまざまな法制度を再検討する必要があるため,本気で導入するためにはかなり時間がかかるとは思いますが,治安維持と犯罪被害者保護という観点からすると,この懲罰的損害賠償制度の導入を真剣に検討する価値はあるのではないでしょうか。
いずれにしても,今回の北米トヨタ訴訟を,単なるワイドショー的ニュースととらえず,日本における法制度を再検討する貴重な機会を与えたニュースとして国会議員や見識者達がとらえてくれればよいのですが。
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