ブルドックソースでお馴染みのブルドック社は,アメリカの投資会社スティール社からの敵対的TOB対策として,株主に対する新株予約権を発行し,スティール社の持ち株比率を下げるという対抗策が株主総会において株主の3分の2以上の賛成を得られ可決しました。
スティール社側は既に東京地裁に新株予約権発行差し止めの仮処分申立てをしており,今後この判断は司法に委ねられることとなりました。
ブルドック総会、スティール対抗の新株予約権を8割以上の賛成で承認(ロイター) - goo ニュース
スティール社からのスティール対策としては不十分では?
この問題,非常にテクニカルな話が多いため,ものすごく簡単に説明します。
1 ブルドック社がほしいスティール社は,ブルドックの株の買い占めを始めた。
そして,他の株主に対して,「私に株を売ってくれたら市場より高く買うよ」と言い始めた(TOB)。
2 株を買い占められると会社が乗っ取られるため,ブルドック社は「株をたくさん発行してスティール以外の人に渡せば,スティール社の持っている株の比率が下がるから買収できない」と考えた。
簡単にいえば,仮に今1000株発行していて,スティール社が100株持っていれば,持ち株比率は10分の1となるが,更に9000株発行して全部で1万株にすれば,持ち株比率は100分の1となり,乗っ取りは事実上不可能になる,という計算である。
3 ところが,普通に新株発行するにはそれに見合う資金提供をしてもらうか,またはブルドック社の中に余裕資金があることが必要となるところ,そこまでのお金を出してくれる人もいなければ,会社に余裕資金もない。
4 そこで,新たな会社法で認められた,新株予約権を使うこととした。これは,「将来株にしていいよ。」という権利であり,すべての株主に渡すこととした(株主平等の原則があるため。)
5 でもそうしたら,スティール社にも渡すため,「意味ないじゃーん」となってしまう。そこで,スティール社に対しては,「新株はあげないよ。その代わり,株に相当するお金を上げるから勘弁してね」ということにした。
6 結果,スティール社の持ち株比率がさがり,買収を回避した。めでたしめでたし。
ブルドック側の視点から今回のシナリオを説明するとこんな感じになります。
一方で,スティール社は,現在仮処分の裁判でこのように主張しています。
1 私だけ新株予約権をもらえないのは不公平で,株主平等原則に反する。
2 今回の新株予約権は,通常の会社の資金調達目的ではなく,明らかに経営権維持が目的であるため,権利濫用である(ニッポン放送vsライブドア事件のニッポン放送側のやりかたと同じではないか。)。
3 そもそも,会社の業績に見合った配当を出さないなど適正な株価にしなかったブルドック経営陣側の経営責任であり,それを株主に責任転嫁するのは筋違いである。
こんな前提において,今日の株主総会では,株主の圧倒的多数の賛成で,会社防衛策が承認されたということになります。
では,これでブルドックは安泰でしょうか。
実はそうともいえません。株主が賛成したからOK牧場,というほど株式会社における株主の地位は甘いものでありません。
今回の特別決議が「明らかに特定の株主の利益を害する目的である」と認定されれば,株主平等原則に反する行為であるといえるため,裁判所はスティール社側の主張を認めるでしょう。そして,仮処分が確定すれば,新株予約権の発行はできないこととなり,再び買収の脅威に立たされることになります。のみならず,一連の行為で取締役は会社に対して無駄な金を支払わせたとして,株主から「会社に賠償しろ」と訴えられる可能性すらあります。
果たして裁判所がどう認定するか,全く分かりませんが,少なくとも確実にいえること,それは「経営陣は抜本的な企業防衛策を講じる必要があること」,これにつきます。そして,そのためには,「株価を適正な価格にすること」に尽きるのです。
日本の株主はあまり配当に興味がありませんが,実は日本の経営陣の多くは,未だに「利益を株主に還元する」という発想を持っていません。ところが,株式会社の基本は,「株主に対する利益還元」にあるのです。そして,売り上げに応じて適正な配当を行えば,当然市場は良い評価をしますから,必然的に株価も上がるのです。株価が高くなれば,買収リスクも大きくなるため,狙われにくくなるのです。
村上ファンドの時もそうですが,なぜ外資が日本企業を狙うのか,それは,「業績に対して株価が安すぎる」からなのです。そして,その原因が前述のとおり経営陣の考え方にある訳です。
ブルドックの株主の多くは,ブルドックを支持しました。でも,それは「買収されたら会社がなくなる」という誤った情報による可能性もあります。むしろ,実は「買収された方が株価がよくなる可能性がある」という可能性を考えなかったのではないでしょうか。
今週は株主総会ラッシュです。もし株主の方がいましたら,「配当どうなのかな?」くらいはチェックしておきましょう。たかが配当,されど配当なのです。
よろしければ1クリックお願いしますm(__)m→人気blogランキングへ
TB先一覧
http://taikee.blog65.fc2.com/blog-entry-392.html
http://blog.livedoor.jp/yononakakoubou/archives/51178047.html
http://monopo.jugem.jp/?eid=460
http://cigar.blog.drecom.jp/archive/292
スティール社側は既に東京地裁に新株予約権発行差し止めの仮処分申立てをしており,今後この判断は司法に委ねられることとなりました。
ブルドック総会、スティール対抗の新株予約権を8割以上の賛成で承認(ロイター) - goo ニュース
スティール社からのスティール対策としては不十分では?
この問題,非常にテクニカルな話が多いため,ものすごく簡単に説明します。
1 ブルドック社がほしいスティール社は,ブルドックの株の買い占めを始めた。
そして,他の株主に対して,「私に株を売ってくれたら市場より高く買うよ」と言い始めた(TOB)。
2 株を買い占められると会社が乗っ取られるため,ブルドック社は「株をたくさん発行してスティール以外の人に渡せば,スティール社の持っている株の比率が下がるから買収できない」と考えた。
簡単にいえば,仮に今1000株発行していて,スティール社が100株持っていれば,持ち株比率は10分の1となるが,更に9000株発行して全部で1万株にすれば,持ち株比率は100分の1となり,乗っ取りは事実上不可能になる,という計算である。
3 ところが,普通に新株発行するにはそれに見合う資金提供をしてもらうか,またはブルドック社の中に余裕資金があることが必要となるところ,そこまでのお金を出してくれる人もいなければ,会社に余裕資金もない。
4 そこで,新たな会社法で認められた,新株予約権を使うこととした。これは,「将来株にしていいよ。」という権利であり,すべての株主に渡すこととした(株主平等の原則があるため。)
5 でもそうしたら,スティール社にも渡すため,「意味ないじゃーん」となってしまう。そこで,スティール社に対しては,「新株はあげないよ。その代わり,株に相当するお金を上げるから勘弁してね」ということにした。
6 結果,スティール社の持ち株比率がさがり,買収を回避した。めでたしめでたし。
ブルドック側の視点から今回のシナリオを説明するとこんな感じになります。
一方で,スティール社は,現在仮処分の裁判でこのように主張しています。
1 私だけ新株予約権をもらえないのは不公平で,株主平等原則に反する。
2 今回の新株予約権は,通常の会社の資金調達目的ではなく,明らかに経営権維持が目的であるため,権利濫用である(ニッポン放送vsライブドア事件のニッポン放送側のやりかたと同じではないか。)。
3 そもそも,会社の業績に見合った配当を出さないなど適正な株価にしなかったブルドック経営陣側の経営責任であり,それを株主に責任転嫁するのは筋違いである。
こんな前提において,今日の株主総会では,株主の圧倒的多数の賛成で,会社防衛策が承認されたということになります。
では,これでブルドックは安泰でしょうか。
実はそうともいえません。株主が賛成したからOK牧場,というほど株式会社における株主の地位は甘いものでありません。
今回の特別決議が「明らかに特定の株主の利益を害する目的である」と認定されれば,株主平等原則に反する行為であるといえるため,裁判所はスティール社側の主張を認めるでしょう。そして,仮処分が確定すれば,新株予約権の発行はできないこととなり,再び買収の脅威に立たされることになります。のみならず,一連の行為で取締役は会社に対して無駄な金を支払わせたとして,株主から「会社に賠償しろ」と訴えられる可能性すらあります。
果たして裁判所がどう認定するか,全く分かりませんが,少なくとも確実にいえること,それは「経営陣は抜本的な企業防衛策を講じる必要があること」,これにつきます。そして,そのためには,「株価を適正な価格にすること」に尽きるのです。
日本の株主はあまり配当に興味がありませんが,実は日本の経営陣の多くは,未だに「利益を株主に還元する」という発想を持っていません。ところが,株式会社の基本は,「株主に対する利益還元」にあるのです。そして,売り上げに応じて適正な配当を行えば,当然市場は良い評価をしますから,必然的に株価も上がるのです。株価が高くなれば,買収リスクも大きくなるため,狙われにくくなるのです。
村上ファンドの時もそうですが,なぜ外資が日本企業を狙うのか,それは,「業績に対して株価が安すぎる」からなのです。そして,その原因が前述のとおり経営陣の考え方にある訳です。
ブルドックの株主の多くは,ブルドックを支持しました。でも,それは「買収されたら会社がなくなる」という誤った情報による可能性もあります。むしろ,実は「買収された方が株価がよくなる可能性がある」という可能性を考えなかったのではないでしょうか。
今週は株主総会ラッシュです。もし株主の方がいましたら,「配当どうなのかな?」くらいはチェックしておきましょう。たかが配当,されど配当なのです。
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http://taikee.blog65.fc2.com/blog-entry-392.html
http://blog.livedoor.jp/yononakakoubou/archives/51178047.html
http://monopo.jugem.jp/?eid=460
http://cigar.blog.drecom.jp/archive/292
拝金主義が横行する中で、金持ち優先主観が日本に入り込みすぎている。
唯一の日本のソースだけに、食文化を守るという観点からも是が非でも日本人株主だけで構成して欲しい。
日本の裁判は「前例」が大好きです。国内であれば、おおかたこれを言い出すでしょう。
スティール社のある米国では、このような時にどれだけ前例に固執するかはわかりませんが、自由や平等を強く言う国である以上、泥沼裁判になる感じがします。
最後に「ニッチもサッチも・・・」はナイスです!w
しかしながら,あまりに経営陣がのんびりと構えすぎていました。
「うちは大丈夫,どうにかなるか」と思っていると,このように標的にされてしまいます。
おそらく,今後は「第2,第3のブルドック」が出てくるかもしれませんね。
経営者は,本気で企業防衛策と株価上昇策(当然,株主への利益還元策も含む)を考えなければならない時期に来たといえます。
経営者1人だけが儲けることだけを考えていたら,どこかの肉屋のように自滅するか,買収されるかということになってしまうでしょうね。
企業防衛における新株発行の是非については,「ライブドア事件」が大きなメルクマールとなっているほか,「忠実屋いなげ屋事件」なども参考裁判例となります。
いずれにしても,「誰のためのどんな意味での新株発行で,その効果はどうなのか」という点に裁判所は注目を持っています。
ブルドックやスティールがこの点をどう説明できるかがカギといえるでしょう。
仮処分は早く決着が付きますが,その後の事情如何では,下手をするとその後の通常裁判において長期化することも想定されます。
さて、株価と企業価値の関係については会社も鈍感なのですが、国内市場の反応も鈍い気がしています。
ビジネス界が投資に対する収益「率」について、もっともっと敏感にならないと今後も厳しいですね。
「フォーリーブス」を知らない人たちが回りに多いもので,ジェネレーションギャップを感じます(^_^;)。
さて,日本人の投資家と外国人投資家とでは,株式市場に対する見方が全く違うといわれています。日本人投資家の場合,心のどこかに「一部上場会社なら最後はどうにかなる」という甘えというか根拠のない安心感を持っていることから,単に「最近の株価の動向」だけに目が奪われてしまう場合が多いみたいです。
ところが,外国人投資家の場合,「株価と配当と業績のバランス」を重視します。一部上場云々はあまりあてにしません。だから市場に敏感なわけです。
この辺りの見方を変えていかなければ,いずれは日本企業だけではなく,日本人投資家自体も外国人投資家の食い物にされてしまうかもしれませんね。