あれは,あれで良いのかなPART2

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生活保護費返納問題は,感情問題ではなく制度問題にある

2008年05月24日 23時26分08秒 | 地方自治
羽曳野市から生活保護を受けていた人が,同市福祉担当職員からセクハラを受けたとして損害賠償請求訴訟を提起し,勝訴しましたが,羽曳野市福祉事務所はその損害賠償金を収入とみなして,生活保護費を減額支給にしました。
これに対し,「市の対応は嫌がらせだ」などの批判が相次いでいるようです。

生活保護費から賠償金差し引く セクハラ敗訴の羽曳野市(朝日新聞) - goo ニュース

嫌がらせではなく,制度的問題

この問題,結論からいえば,確かに羽曳野市の対応はあまりよろしくないといえます。しかし,これは「嫌がらせ」なのではなく,「生活保護制度の問題点」にあるのです。したがって,羽曳野市が嫌がらせをしたという批判は,残念ながらこの事案に隠れている制度的問題点を闇に葬りかねません。
そもそも,生活保護の基本的な発想は,「給付」ではなく「貸与」なのです。もちろん,借用書をかわしているわけではないので,いわゆる借金ではありませんが,生活保護世帯に一定の収入が入った場合は,生活保護が打ちきりになるだけではなく,過去の生活保護受給費用も相当額返還しなければいけないという規定(通達)になっています。
この収入には,基本的に種類は問いません。したがって,例えば,交通事故で収入がなくなり生活保護を受けていた人が,その後保険会社から損害賠償金が振り込まれた場合や,家族の相続手続で遺産が入った場合,さらには仕事が決まりある程度預金ができる収支状態になった場合には,過去の受給分を返納するのです。

今回の問題で,まず確認するべき論点は,「この返納制度が残酷か」という点です。
これについては,「返納は基本的には妥当」であると考えます。これが残酷な冷たい制度であるとすると,例えば「遊んで暮らして,お金がなくなったら働こう」という輩を増やしかねないからです。生活保護は,あくまでも「生活が困難な場合の援助」であり,その根底には「国民全体の相互扶助の精神」にあるわけですから,自分が生活できるようになれば,当然相互扶助の精神から他の人のためにももらった分は回すべきだからです。
次に,今回一番問題になる論点が,「この返納制度を杓子定規に適用するべきか」という点です。今回の羽曳野市の対応は,まさに「機械的対応」です。ただ,逆にいうと,ここで対応しないと,「法令違反にもなりうる」という問題もあるのです。
個人的には,生活保護の返納制度は,相互扶助精神からすると,ある程度は機械的対応もやむを得ないと思います。ただし,認定の際に,「受給額減額または返納させた場合,その後の生活は成り立つか」という長期的ビジョンは検討する必要があるでしょう。現状では,一時所得が入った場合,返納などをさせますが,数ヶ月後で0円になると分かっていても,あえて返納や減額の措置を取ります。そして,収入がなくなり,貯金が底をついたら,その段階で改めて生活保護認定するなどの措置を講じます。
このように「将来確実に0円になる」というような場合には,減額はしても返納までは不要なのでは,と思います。
さて,羽曳野市に話を戻しますが,現状制度を前提にする限り,羽曳野市の対応は「法令上は許された」行為といえます。
しかし,この損害賠償は羽曳野市が支払ったものです。つまり,通常の損害賠償や一時収入とことなり,「生活保護の主体が払ったお金」といえるのです。
これを通常の収入と同一的に考えることは問題があります。なぜなら,もしこれが容認されるのであれば,例えば,「あいつの生活保護費減らしたいなあ」と思った市町村が,生活保護受給者に対して暴力をふるうなど不法行為を起こし,その損害賠償を払った瞬間に,「じゃあ,これで過去の分返してね。そして,生活保護取消ね」という悪行が可能となるのです。つまり,「権力者からの不法行為の誘発」が懸念されます。
そこで,民法でも不法行為債権について相殺が禁止されている規定と同視ということから,同条の規定同様,受給権者からの損害賠償については,返還不要という規定を法律上に明記するべきだと考えますし,法律がなくても同条を類推適用する運用で対応するのが相当ではと考えます。

今回,厚生労働省は例によって,「いやあ,それは市町村が考えることだから・・。」と他人事のような対応を取っていますが,そもそも立法上の不備であることからすると,これは羽曳野市一つの問題ではなく,厚生労働省が筆頭になって検討するべき問題であったといえます。

情による行政ももちろん大切ですが,情だけでは肝心な部分を見失うことがありますので,一歩下がって制度を検討するという姿勢も大切でしょう。これは,報じるマスメディア側も考えるべきテーマであるといえるでしょう。

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