あれは,あれで良いのかなPART2

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よく分かる(?)シリーズ 憲法改正について

2005年10月29日 20時45分00秒 | よく分かる(?)シリーズ
自民党が憲法改正私案を発表しました。
もちろん,このとおり憲法が改正されるという意味ではなく,これから他党の私案等も踏まえてどんどん議論をしていくことになると思われます。
ところで,憲法改正については,漫然とイメージがわきながら,一方で「具体的にどう進むのか」「どこまで改正できるのか」等について意外と知らないことが多いのではないでしょうか。
そこで,今回は,憲法改正について,手続面を中心に説明したいと思います。

1 憲法改正の段取り
  憲法改正の手順は,憲法においておおざっぱですが規定されています。
  そして,次のすべてのルートを通ることで,憲法改正が成立します。一つでも欠けると,その時点で改正はできません。
(1) 衆議院で憲法改正を議題にする(最初に参議院が先でもよいが,説明の便宜上,衆議院が先に議論するとします。)
(2) 衆議院議員の総議員の3分の2以上の賛成
(3) 参議院に議題を持っていく
(4) 参議院議員の総議員の3分の2以上の賛成
(5) 国会が憲法改正の発議を行い,国民投票にかける
(6) 国民投票により過半数の賛成を得る
(7) 天皇が憲法改正法文を公布
(8) 施行日が定められる
(9) 改正憲法が施行される
  以上のルートを経て,晴れて改正憲法が施行されることになります。
  まとめると,「衆参両議院で総議員の3分の2以上の賛成と,国民投票で過半数の賛成が必要」ということになります。

2 手続上今問題となっていること
  次に上げる点については,憲法には規定されていないため,改正のために別途法律を作成し,そこで定める必要があるものです。
  しかし,現状ではまだこの法律は制定されていません。
  そこで,次のような点が問題となってきます(この部分が法律上明記されることになると思われます。)。

(1) 「総議員の3分の2」とは,「定数」か「今いる人」か
  議員定数は衆議院480人,参議院242人ですが,その後辞職や死亡などによって,実際には定数以下になっている場合が多いです。
  そこで,総議員とはどっちを指すか,問題となります。
  しかし,この点は,憲法学者も含めて「今いる人」を基準にするという点で,ほぼまとまっています。

(2) 憲法改正の議案を内閣が提出できるか
  憲法では,「憲法改正案は国会が発議する」と定められています。
  一方で,現在の国会審議において,立法案のほとんどは,内閣から提出されています。
  そこで,憲法改正案も内閣が国会に提出できるのかが実は問題となります。
  この点については,意見は分かれています。内閣サイドからは,「法律案の一つだから,当然内閣でも提案できる」と主張していますが憲法学者からは「憲法改正案と普通の法律案とでは訳が違う。こんな大事な議案は内閣が出すことはできない」という意見がかなり多く占めています。
  この点は,果たしてどうなるのでしょうか。意外な盲点となりますので,今後注目してみてください。
  (私見としては,内閣の提出権には否定的です。やはり,国会は国権の最高機関である以上,国民の代表たる議員自らが提案するべきでしょう。)

(3) 国民投票における過半数とは,「投票した人(有効投票)」の過半数か「全有権者」の過半数か
  これも未だに決まっていません。しかも(1)とは異なり,どっちをとるかで結果が大きく左右されます。  なぜなら,今の選挙の投票率が60%位しかないため,もし後者の見解を採用するならば,その時点で40%は反対票となってしまうことになるからです。一方前者であれば,有効投票の過半数でよいため,割と改正が認めやすくなります。
  この点については,議論がやはり二分していますが,現状では「有効投票」の過半数という意見が多いと思われます。
  しかも,かなり大きな問題点になりますので,どっちを採用するのかについては,十分に注目しておく必要があるでしょう。
  (私見としては,国民主権を忠実に繁栄させるというのであれば,「全有権者」とするべきでしょうが,選挙に対する投票率の現状を考えた場合,「全有権者」とするのは,事実上憲法改正を否定するに等しいことにもなってしまうため,やはり現実的には「投票した人」の過半数にならざるを得ないのかな,と思います。)。

(4) 国民投票の方式は,全部まとめてイエスorノーの「二者択一」か,それとも改正条文ごとにイエスノーを聞く「個別対応」方式か
  これについては,明文はありませんが,憲法学者は一致して前者の方式は違憲であり,後者の方式による投票にしなければならないと主張しています。なぜなら,ある条文については賛成だが,ある条文については反対という場合,その意思表示をすることができなくなり,国民主権として国民の意思を問うという趣旨に反してしまうおそれがあるからです。
  したがって,おそらく国民投票の際は,各条文ごとにイエスノーを聞く投票方式になると思われます。

3 憲法改正自体についても問題点
  以上が,憲法改正の手続についても問題点です。
  実は,そのほかにも,憲法改正自体について問題点があります。まあ,これは頭の体操程度の話ではありますが,「こんなのもあるんだ」程度に認識してもらえればよろしいかと思います。

(1) 憲法改正はどこまでできるか
  憲法改正に限界があるのか,という問題があります。
  例えば,「国民主権はよくないから天皇主権に変えよう」という改正が可能かということです。
  結論から言うと,このような改正はできないといわれています。
  難しい議論は省略しますが,憲法の骨格に関わる「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」について,それと明らかに反する改正は認められないと言われています。
  また,日本の骨格を大きく変える改正もできないといわれています。例えば「天皇制を廃止して大統領制にする」などという改正もできません。
  したがって,改正にも限界があります

(2) 改正の手続自体を改正できるのか
  日本の憲法は改正手続が説明したとおりかなり難しくなっています(これを「硬性憲法」と呼びます。)。
  そこで,改正を簡単にするために,今定めらている改正手続自体を変更することができるのかが問題となります。例えば,国会での議決要件を「出席議員の2分の1以上」にしたり,また国民投票を廃止したりする等です。
  結論としては,これらも認められないと考える学者が多いです。特に,国民投票を廃止することは絶対に許されないと言われています。なぜなら,国民投票は,国民の意思を直接繁栄できる「国民主権」に基づく制度だから,これを廃止することは国民主権を否定しかねないためです。
  したがって,改正手続自体を変更することも極めて難しいといえるでしょう。

4 まとめ
  以上が憲法改正の手順及びその問題点です。
  今後,ニュースなどでは憲法改正の中身についていろいろと報じられると思いますが,一方でこういう問題も水面下で議論されているんだろうなあ,という点を知ってもらえれば,そういうニュースももっと楽しく見ることができると思います。

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