あれは,あれで良いのかなPART2

世の中の様々なニュースをばっさり斬ってみます。
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差押えを悲観して一家心中,その責任は市にあるのかな?

2008年05月29日 02時28分21秒 | 法律問題
固定資産税等市税を約100万円ほど滞納したことからたこ焼き販売車を市が差押えを実施したことから将来を悲観して家族6人が無理心中をしたのではないかと思われる事故が発生したようです。

たこ焼き販売車を差し押さえられ悲観か 熊本の6人死亡(朝日新聞) - goo ニュース

これって市の責任?

まずは,この6名のご冥福をお祈りしたいと思います。しかし,一方で昨日もいいましたが,「>安易な自殺だけは絶対に止めてほしい」と思います。まず,そこが本当に残念でなりません。
さて,この朝日新聞のニュース,個人的な感触としては,「ちょっと悪意に満ちた記事」という印象を持ちました。すなわち,「故意か勉強不足かはともかく,市が悪いというトーン」を全面的に出しています。したがって,このニュースを見た人たちの反応も,多くは,「市は冷たすぎる」「機械的な処理だ」など,市の対応に批判的です。
でも,本当に市が悪いでしょうか。
この差押え問題,整理すると,次のような批判があります。
1 いきなり差し押さえるのはひどい
2 家計が苦しい人に差押えを実行するのは機械的すぎる
3 なぜ不動産を押さえない
4 商売道具の車を押さえるのはおかしい
5 もっと温情ある対応は取れないのか


しかし,これらの批判はいずれも制度的誤解があると思われます。
まず1についてです。
税金の差押えは国税徴収法に基づいて実施します。そして,それによると,税金を滞納したらすぐに差押え,ってことはできません。必ず,督促(払ってね,っていう催促)を送り,それでも払わない場合,初めて差押えができるとあります。その督促の中で,「払わないと差し押さえるよ」という予告をしています。
一方で,差押えを逃れるために財産を隠すという輩がいるため,それを阻止するため,差押え手続はこっそり実施されます。すなわち,「督促期間が過ぎたら,いつ差押えされても文句言えない」という状態なのです。
でも,前述のとおり,ステップを踏んでいますので,「いきなり」という訳ではありません。

次に2についてです。
例えば,現在支払いが厳しい場合は「納税猶予制度」もあります。ただし,これは猶予であって免除ではありません。したがって,いつかは払うものです。
また,そもそも税金は「あるべきところから払う」という想定になっています。今回の場合,固定資産税なので,不動産を持っていたと言えます。
固定資産税の場合,「不動産はあるがキャッシュはない」という人が多いので,滞納率も高いですが,逆にいうと,不動産という財産があるため,事案によっては納税猶予の相談にも応じます。
では,本当にお金がない人はどうするのでしょうか?
結論から言うと,「不動産を売ってでも税金を払え」ということになります。
「それは冷たすぎるし,路頭に迷わせる」という批判があるでしょうが,方で「まじめに税金を払っている」人もいるわけですから,特別視することはできないでしょう。この辺は,給食費滞納問題と似た構造です。
ちなみに,不動産を持っていると,生活保護の認定も難しいです。ならば,逆に不動産を売ってそれを生活費と滞納税金にあて,それでも生活ができないとなれば,生活保護を受けやすくなります。
そういう意味では,むしろ売った方が路頭に迷いません。
したがって,ある程度機械的な処理もやむを得ないのです。ただ,前述のとおり,差押え前に相談する余地は十分あるのです。

3についてです。
税金の滞納については,原則として関連する財産を差し押さえる規定となっています。したがって,固定資産税の場合,不動産を押さえるのが原則です。
では,なぜ今回不動産を差し押さえなかったのでしょうか。
ここは推測の域を超えませんが,おそらく,不動産には既に銀行の抵当権が複数設定されており,もはや財産的価値がなかったものと思われます。場合によっては,既に不動産は抵当権実行されていたのかもしれません。
いずれにせよ,不動産が無価値となると,無価値のものを差押えすることはできないのです(無剰余売却の禁止)。
すると,今度は,他の財産を差し押さえて良いという規定になっているのです。
おそらく,不動産以外に財産もなかったため,唯一の財産たる車4台中2台を差し押さえたのでしょう。
ちなみに,もしも他に財産があり,それなりの価値であると認められれば,「差押換」を請求することができます。すなわち,「車は使いたいから,このロレックスの腕時計を代わりに差し押さえて」といえるのです。しかし,今回は,そのような代替財産がなかったものと推測されます。

4についてです。
実は,何でもかんでも差し押さえることができる,なんて乱暴な制度ではありません。
生活必需品や,仕事に欠かせない物については,「差押え禁止物件」として差押えができません。
そして,もしこれに違反する差押えを行った場合,滞納処分庁に対する不服審査を申し立ててて,差押えの取消を求めることができます。
今回の問題,一番も肝はここだと思います。市の認定は,「他の車で仕事ができる」としたが,亡くなられた方としては「それがないと商売にならない」と考えていたものと思われます。
仕事に欠かせない物だったどうかは総合的に判断しますので何とも言えませんが,少なくとも「仕事にならない」と判断したら,即座に「不服申立て」をすれば足りるのです。
ちなみに,差押え通知には,不服についての教示文言が記載されてますから,知らなかったという反論は難しいでしょう。

5についてです。
税金の滞納理由は様々ですが,前述のとおり税制度は「本来あるはずの財産から払う」ものであり,昔の年貢のように財産を過大評価して財産以上のものを払え,というものではありません。本来,払えるべきものなのです。したがって,基本的には「給食費未納問題」と同じだといえます。
また,仮に支払が困難になった場合でも,差押え前に相談し,猶予を受けるなどというすべもあります。
さらに,税務関係者から聞いた話ですが,差押えするというと,「死んでやる」とか「殺してやる」などという輩がかなりいるらしく,それを真に受けて差押え解除したら,「税金はごねたら払わなくていい」と思われてしまい,ますます払わなくなるということのようです。
だから,ある程度は冷酷にならざるを得ないでしょう。

以上を踏まえると,今回の市の対応は,「やむを得なかった」といえるでしょう。
もちろん,もしも「意図的にねらい打ち的な差押えをした」などという不公平な取り扱いをしたのであれば,責められる余地もありますが,いまはそこまでの嫌がらせはなかなかしないものです。

税金は,こうして強制的に取り立てることができるものです。からこそ,「1円足りも無駄にしない」という意識も大切なのでしょう。そうすれば,差押えに対してももっと理解は高まるでしょう。
一方,どうしても税金が払えない人は,一度税務当局と相談することをお薦めします。もちろん,どうにもならない場合もありますが,延納を認めてくれる場合もあり得ますよ。

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22 コメント

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Unknown (そらっち)
2008-05-29 08:33:22
お久しぶりです。

おかにゃんさんの言いたい事は解りますが、

1については仰る通り
2については、3の考察通りなので、無理でしょう。
5についても解りますが・・・ちょっとね。。。

ただ、4については市の対応を疑います。
誰がどう考えても「たこ焼き販売車」は”仕事に欠かせない物”でしょう。
「他の車で仕事ができる」と考える市の職員の思考回路を疑います。逆にそう考えるなら「他の車を持って行けよ」って言いたくなります。

また、言い方が悪いかも知れませんが、自殺された方の状況で、おかにゃんさんが仰られる様な冷静な対応は中々難しいかと思いますよ。

私も、メダパニ・・・混乱状態になるかと思います。

税金は無駄遣いしても大した事にならない(私財を差し押さえされない)のに、未納は絶対許さない(私財を差し押さえする)市や国の体質には呆れ果てています。



>安易な自殺だけは絶対に止めてほしい

は、全くその通りですが、ダウンタウンの松本の意見にも賛成なんです。矛盾してますかね。^^;
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強制執行&期限の利益 (時評親爺)
2008-05-29 17:15:52
お昼すぎにございます(そろそろ眠い汗)

> 不動産には既に銀行の抵当権が複数設定されており,もはや財産的価値がなかった

実務上では、例えばほげほげさんちの土地建物に、仮に1番抵当権が付いていて、その債権額が当該不動産価値を大きく上回ると推定される場合、おそらく裁判所は2番以降の抵当権者や抵当権外の債権者の差押を認めないと推察いたします(憶測汗)

で「差押」(民事的執行含む)でございますが、原則的に”年金”は不可であります(給与はおっけ汗)

で問題は法人等が差押等の強制執行を受けた場合、該法人が金融機関等から借入等をしていますと、大抵その(金銭消費貸借の)約定には、”強制執行(差押)などの場合には期限の利益を失う”なんつー旨が謳われていたりしましてですね、債務(借金)の一括請求されて・・・<以下自主規制汗>

そんなこんなで、強制執行をなめたらあかんで?な話でございました(ちと脱線汗)
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ちょっと悪意に満ちた記事 (のびぃ太)
2008-05-29 21:39:05
お説の通り納得です。
それよりも、私の関心事は16歳の娘が6ヶ月の赤ちゃんをつれて大阪から里帰り中って、この家族いったいどうなってるんだろうかと「?」だらけです。
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2と3の関係について質問です (九龍)
2008-05-29 22:01:52
3の想定のように、財産価値の無くなった不動産に対しても、固定資産税はかかるのでしょうか?
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そらっちさま,コメントありがとうございました (おかにゃん)
2008-05-29 23:41:28
こんばんは。
私も,ひとつなんとなくしっくり来ないのが「なぜワゴン車ではなく,たこ焼き販売車を差し押さえたのか」という点です。普通なら,自家用車を先に差し押さえます。
この点,記事しか判断材料がありませんが,可能性として「自動車名義」が違った,っていうことが考えられます。すなわち,ワゴン車は他の家族名義(または自動車ローン支払い中)で,たこ焼き販売者はその方の名義であった,ということです。
そうなると,「まず本人名義を差し押さえる」という大原則がありますので,販売車を押さえた,っていうことになるかとおもいます。
周辺事情が分かりませんが,通常商売道具は押さえないだけに,よほど何らかの事情があったのでは,ということが推測されます。
ただ,いずれにせよ,「不服」はいえるのですが,確かに,普通の人だと,パニクッていてそこまで思いつかないかもしれませんね。

自殺の件,もっというと「他人を巻き込むことは殺人になる」ということになりますので,まっちゃんの意見とは矛盾しないかもしれませんよ。

いずれにせよ,なにかしっくり来ない部分が多すぎるニュースです。
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時評親爺さま,コメントありがとうございました (おかにゃん)
2008-05-29 23:46:45
こんばんは。
差し押さえは厳密に言うと,二重開始できるのですが,「でもあんたの配当0」ということが分かると,「人の配当のために手続き費用を出してあげる」ということになりますので,普通は取り下げちゃいますね。
また,「国税優先の原則」がありますので,普通は1番抵当権登記より税金が強く,「そこのけそこのけ国税が通る」ということになりますが,ただ,国税(市税も同じですが)の法定納付期限が抵当権よりあとになっていると,「抵当権の勝ち」っていうことになります(業界では,これを「ちび黒サンボのトラ」,じゃなくて「ぐるぐる回り」と呼んでおります。)。

今回も,きっと「ぐるぐる回りで抵当権の勝ち」だったのかもしれませんね。
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のびぃ太さま,コメントありがとうございました (おかにゃん)
2008-05-29 23:48:36
こんばんは。
記事の書き方ひとつで世論の誘導は簡単にできる典型例だったのかもしれません。
ただ,確かになくなられた方の家庭環境もちょっと複雑だったのかもしれませんね。あえて詮索することは避けたいとは思いますが。
でも,どんな事情があるにせよ,家族を巻き込んじゃあいけないと思います。
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九龍さま,コメントありがとうございました (おかにゃん)
2008-05-29 23:51:12
こんばんは。
不動産に担保権がついていても,固定資産税は課せられます。お金を借りられたということ自体に「財産的価値がある」と見られるからです。
もし,これで財産的価値がないとすると,住宅ローンを借りている持ち家のほとんどが固定資産税0となってしまいます。
固定資産税がかからないケースは,不動産の絶対的評価が0円になっている場合です。つまり,「銀行が担保にとってくれない」ような不動産については,固定資産税はかかりません。
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Unknown (そらっち)
2008-05-30 08:17:14
>「自動車名義」が違った

なるほど、その可能性は否定できないでしょうね。
ただ、やはり「たこ焼き販売車」は”仕事に欠かせない物”と考えられない市の職員に対しては、疑問が残りますね。^^;
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新聞報道は (takeyan)
2008-05-30 18:40:07
疑ってかかれ!
裏を考えろ!
というのが結論でしょうね。

報道だけでは何ともいえないですが、こういうケースでは間違いなく裏があると思っていいほど、裏があります。
どんな裏かは別にして、ね。
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