今日はジョージクルーニーの『Up in the Air』を見ました。邦題 『マイレージ、マイライフ』
いつも思うのですが、邦題、何とかなりませんかねぇ…。
up in the air というのは、宙ぶらりん、というのと、飛行中、というのを掛詞にしています。
主人公は一年の大半を出張で過ごすビジネスマン。だから飛行中。
独身を貫き家庭を持たない主義なのは、人生身軽な方がよい主義だから。だから、縛られておらず、軽い。
しかし、その軽さは、宙ぶらりん、とも受け取れるわけですね。コミットメント無し。
ジョージ・クルーニーが渋くてかっこよかったです!ジョージクルーニーファンに、とってもおススメ☆
■ 忠誠心の話です
しかし、この映画の感想をアマゾンでチェックしていましたが、みんなの感想に、この映画が提供している重要な視点が一つ抜けていると思ったので、この記事を書くことにしました。
それはロイヤリティについて。忠誠心です。日本人は大好きですよね、忠誠心。
で、この主人公の職業はリストラ屋なわけです。雇われて解雇通知をする。すると、「18年間も勤務したんだぞ」などと言われるわけですね。解雇される側からすると会社にこれだけ尽くしてきたのに!と言うわけです。
・リストラされる従業員たちの会社への忠誠心=報われない
映画の中では、新入社員が、恋愛も結婚もしない彼を責めます。つまり、彼女は愛や家族に価値を置いている。しかし、実際は聞いてみると、フラれて悲しい理由が「彼って三高だったし」で、要するに愛に価値をおいているつもりで、全然、愛とは何か自体を理解していないワケです。愛しているつもりで、愛しているのは彼氏のブランド。まぁこれが若さですね(笑)。
・男女の愛=本質が見えづらいもの
ところが、クルーニーの方は、家族愛にも恋愛にも期待していないのに、「家族も捨てたものではないな」という機会が巡ってきます。妹の結婚式です。
・家族=煩わしいが捨てることができないもの
が、妹の依頼で、苦労して全米各地で二人のために写真を撮るったのに、これも傑作で、海に落ちるという苦労までして写真を撮ったのに、その写真を持って行くとありがとうも言われずに、「you can put it there」と写真を見もせずに言われてしまいます(笑。かわいそう)。まぁいいなって言ってもコレです。
・兄弟愛を発揮してみたものの=報われない。(やっぱり・・・)
さらに主人公が全く価値を置いていない結婚にしても、現実はその通りで、姉は一時別居中。妹の花婿候補は結婚式当日にドタキャン。
・結婚への忠誠=リアリティ、バイツ(笑)
ところが、報われる系列もあります。たとえば、男女の愛の中に真実の喜びも見つけます。旅先で見つけた恋人アレックス・・・ところが、コミットメントしてもいいかなと思わせるのですが、実はコミットメントできない。2人はお互いその場限りの関係です。
・アレックスとの大人の愛=コミットメントが許されない
それに、主人公がためていたマイレージ。これは報われるんです(笑)。それも思ってもいない失意のときに。
・マイレージ=報われる
ところが報われても彼にとってはすでにどうでもよくなっている。
整理します。
≪忠誠心が報われるかどうか≫
会社=市況次第
結婚=人の心は移ろいやすいもの
家族=通じ合えぬもの
恋愛=瞬間的真実
マイレージ=確実だけれど、だからなんなんだ?
私が思うにはペットを愛する人が多いのは、ペットは決して心変わりしないので心のよりどころになるから、ではないかと思うのですが(笑)
人間は弱い。心の拠り所を求めてしまうもの…その弱さは忠誠心へ向かう。けれども、たいていの場合、忠誠心は報われることはない。それでも、誰もがそれを求め、多かれ少なかれ、挫折を味わう。
多くの人は、それを蓄財、会社、家族や結婚、あるいは恋愛といった、そもそも不安定なものに求めるわけですが、そうしたものに安定を求めないという哲学で生きてきた彼もやっぱりマイレージを貯める行為で、エアラインに対して忠誠心を発揮していたわけですね。大なり小なり、同じ穴のムジナ。そのことの”同質性”に本人が気が付いてしまう。
次なる心の拠り所、忠誠心を発揮する対象が見つからない…心が、Up in the Air状態…それでも人生は続くよ、どこまでも・・・で映画が終わる…というわけです。
多くの人は心がup in the air 状態であることには耐えられないため、家族や会社や見た目上の幸福などに拠り所を求め、それを目指して生活しますが、結局はそれらは市況や相手の心の移ろい、など、自分のコントロールできない条件でほんろうされます。そういう環境の下で生きていかなくてはいけない人間生活。だからといって虚しいのではなく、そこには瞬間瞬間の真実があるんだなぁ・・・
安定性がないものに安定を求めてしまう、かといって確実なものを達成したところで報われない気持ちになる、ままならぬ人間の性というものを上手く表現した映画だと言えました。
これ、ジョージクルーニーの映画としては、そんなに存在感が大きくない映画のようですが、論理の破たんなく物語がまとまっているという点で、脳内ツッコミ回路が起動しないという点で安心して見れる、秀逸な作品です。
面白かったのでぜひおすすめ☆