独身時代の日記より。
これまでいくつもの部屋に暮らして思った事がある。
それは、人と同じように、部屋との間にも相性がある。
という事だ。
部屋に対しても、第一印象や合う・合わないは必ずあると思う。
私に限って言えば、第一印象が悪い部屋でいい事があったためしがない。
というよりも、不幸が起こる可能性が明らかに高いのだ。
子供の頃は引越しが多く色んな部屋に住んだが、
どうやらウチの家族は縁起の悪い部屋に当たる確率が少し高いようで、
・上の住人が自殺、夜な夜な天井に死んだ人の顔が浮かび上がる
・線路際のアパートで、飛び込み自殺が多く体の一部が近くまで飛んできた
・上の住人がドスドスとすごい物音を立てるので、「うるせえ!」とキレていたら、
心臓発作を起こして苦しんでいた音だった(亡くなった)
など、まあ普通はあんまり経験しないのでは?と考えられるエピソードが多いのだ。
その中でも決定的なのが、
心霊現象が多発する部屋で、父親が急死した事である。
父が死んで人が集まった際に父のポケベル(時代を感じさせる)が急に鳴り出し、覗いてみると
「0」
とだけメッセージが届いており、
「これは数字の“0”と“霊”をかけたシャレなのか?!」
と人々がざわめいたのも、懐かしい思い出だ。
大体が、父が死んだその部屋は怪しさ満点の部屋だったのだ。
入居を決めてから母が下見に行った際、
その部屋の風呂場はびっしりカビだらけのまま放置されており、
母が大変な思いをして掃除をしてからの入居となった。
さらに、自分以外誰もいないのに、風呂に入っている音やドアの開閉音など
人が生活している気配がする。
入居した当日から三日間、私は三人の男の大きな生首が私に警告する悪夢を見続け、
あまりの怖さに母の布団にもぐり込んで眠った事もあった。
友達が泊まりに来た夜には、入居者のいない部屋のベランダから、
下を通る人々を見下ろしている無表情な中年の男性と目が合った、
と友達が怯えていた。
最初は怖くてたまらなかったが、住んでいるうちに慣れてしまい、日常として何とも思わなくなっていた。
しかし父が亡くなって、私は改めて「あの部屋には何かが住んでいた」事を確信した。
その教訓があった為、私は一人暮らしをするにあたって部屋選びはとても慎重にした。
いくつも物件を見て回ったが、中にとても好条件のものがひとつあった。
駅からすぐの商店街の途中にあり、部屋も広めでペットOK、家賃が格安だった。
こよなく猫を愛する私としては、ぜひとも入居したい!と思わせる理想の物件だった。
不動産屋の担当者も強く勧めるので、早速一緒に見に行く事にした。
その物件は大家さんが最上階に住んでおり、部屋の前で私を待たせて担当者が鍵を借りに行った。
その時だ。
その部屋のインターホンから、ちょろちょろと水の流れる音がした。
最初はどこから聞こえてくるのかわからなかったが、インターホンに耳を近づけてみると
確かにインターホンから聞こえている。
という事は、部屋の中の音である。
私は一瞬にして、体中に鳥肌が立った。
すぐにでも帰りたかったが、担当者が戻って来て仕方なく部屋に入った。
その時、私は感じた。
風呂場の浴槽に、長い髪の女性がいる。
勧める担当者を振り切って私は別の部屋を見に行き、駅から遠く家賃の高い新築のアパートに決めた。
そこの部屋は明るく、私を歓迎してくれているように思えたからだ。
入居してからの7年間、私は楽しくそこで暮らした。
どうして急にそんな事を思い出したかというと、かつて修羅場の舞台となった男と暮らしていた部屋が
父が死んだ部屋と同じ空気だったからだ。
最初から私はそこへ住みたくなかった。
しかし、男が強引に事を進め私の部屋も解約させたので仕方なく住み始めたのだ。
今厄年なので、厄払いをした際にもらったお守りを持参した。
今年の初めに一旦実家に引き上げた際に、そのお守りも持ち帰りそのまま実家に置いていた。
その後の顛末は坂を転がるようで、次から次へと不運が重なり結局別れる事となった。
荷物の引き上げに最後にその部屋を訪れた時、がらんどうになったその部屋へ入って私は驚いた。
そこには、のびのびと明るく開放的な、部屋本来の姿があった。
私が嫌っていた、閉塞的でうすら暗い雰囲気はみじんもなかった。
明るく、希望に満ちた空気があった。
ああそうか。
私は思った。
この部屋を不運で満たしていたのは、人だったんだ。
私をつらい思いで閉じ込めているように思えたこの部屋。
悲しい、嫌な思い出の舞台となったこの部屋。
しかし、それを作り上げていたのは、中にいた人間だったのだ。
次に実家を出て暮らす時には、
また自分でじっくり選んで愛情の持てる、相性のいい部屋を探そうと思う。
疲れたり喜んだり悲しんだり、そんな私を暖かく迎え包んで守ってくれる私の相棒としての部屋を
そして一緒に住むならばそんな部屋のような人を、時間をかけて探そうと思う。
どんな相棒が私をまっているのか、今からとても楽しみだ。
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