コメントを書く気になれないのですが、取り上げておく必要は覚えました。
はなっから、私、まちがってきいてた。」
いしいしんじ:著「ブランコ乗り」より「ふるえ」の章より引用。
弟が吹聴してきてた話を、話半分で聞いてた姉が、どうも自分の方が思い違いをしてたようだと勘づいた時に発した言葉。
「ごめん、ひどい仕打ちだよ。なんにも分かっちゃいなかったんだ。あ、今も分かんないよ。しょうじきいって、なにがなんだか。でも私、あんたをひとりぼっちにさせたままだったって、それはたしか。怖かったでしょう?」
ひとしきり言い切った後で「わたし、こころからはずかしいよ」とも言い添えた。
聡明で内的な成長が早熟である弟は、思考的には姉をはるかに上回る思案が出来るほどであるが、姉に対しては終始姉弟というだけの関係を大事にしてたし、姉もまた弟を過分に持ち上げたりもしないで向かい合えてた。
「ぼくにもわからない。あれがぜんぶ、つくりばなしか、ほんとうのことか。でもおねえちゃん、どれもわらってくれたでしょう」
「ぼくはおねえちゃんがよんで、わらうのがすきなんだ。この世でいちばんすきなこえさ」
巨大な雹(ひょう)をのどに直撃を受け、聞くものに吐き気まで催させる声帯になってしまった弟が、筆談で返す言葉。
全幅の信頼のうちに、さまざまな障害が姉妹に見舞われてきたって、微塵も揺るがないで「今まで通り」を守り抜く二人の、凛とした姿勢。
それだけでもこの本のものすごさの片鱗が分かる。
昔「署」のつく公機関が逮捕権を所有してるって聞いた気がするけど、この記事の時に「私人逮捕」なる語彙にはじめて接した気がします。