2008年・2009年 アメリカ映画
息を吐く間もない展開。まさにこの言葉がぴったりの映画だった。第二次大戦下、ナチス・ドイツがユダヤ人を虐殺、強制収容所に収容するために「ユダヤ人狩り」を行っていた時代。4人の兄弟が先頭に立ち、何とかナチスの追っ手から森へ逃げ込んだユダヤ人たちとともにコミュニティーを形成し、戦禍を生き延びる物語。実話を元にした映画です。
主演のダニエル・クレイグは007の役柄と「戦う男」という点は共通しているのですが、なんていうの?ベクトルが違うとでも言うのかしら。スマートな身のこなしのイギリス政府の孤高のスパイとは対極の、森で身を潜め仲間とともに戦う泥臭さのあるヒーローです。彼が長男トュービア。次男がザス(リーヴ・シュレイヴァ-)、三男アザエル(ジェイミー・ベル)そして四男アーロン(ジョージ・マッケイ)。まぁ、この兄弟たちの年が離れすぎているというのは目を瞑りまして。この3人がまったく兄弟には見えないのだけど、もうほんと、そんなことはどうでもよくて、それぞれのキャラクターが立っていて特に上3人の配役で映画が締まっています。
やっぱり好きなのでこの人を褒めずにはいられないのだけど、三男を演たジェイミー・ベル。『リトル・ダンサー』に始まり、テレビドラマの『バンド・オブ・ブラザーズ』、『ジャンパー』、『父親たちの星条旗』とすでにキャリアも確立しているのだけど、この映画の中では若さ、あどけなさ、初々しさを見事に表現していてその演技力の高さに驚かされます。兄の後ろをついていくだけで精一杯だった少年から、兄たちの後姿を見て成長し、コミュニティーを引っ張っていけると期待できるほどにたくましく勇敢な青年に育つまでの変化。どうしたらここまで演じ分けられるのだろうと感心するくらい。
俳優たちはイギリス人、アメリカ人がほとんどなのだけど、映画の中ではナチスの脅威におびえるユダヤ人。なので基本は英語の台詞ですがドイツ語もあり。英語はドイツ訛でしたが、これってドイツ人が見たらやっぱり「・・・。」ってなるのかしら。ま、それを置いておいてもものすごい映画です。
トュービアが戦禍を生き延びるこの戦いの中で一番大切だと説いたのは、「人間らしく生き、人間らしく死ぬ」ということ。どんなに切羽詰った状況でも、理性を捨てた動物のように自分が生き延びることばかりを優先し、罵り合ったり争うのではなく、コミュニティーとして皆が共に生き伸びること、皆平等にそして助け合うこと。人間としての尊厳を決して失わないこと。
そのコミュニティにいる誰もが、親兄弟など身近な人々を殺され、いつ自分たちが殺されてもおかしくない状況にいる。その状況下で「人間の尊厳を守ること」を説き、その考えの下で共同生活をし、そして生き延びた人々。共同生活だったからこそ可能であり生まれた考え方なんじゃないかと思う。正直この兄弟なら、自分たち4人の方が動きやすいし、何百人分の食料の心配だってしなくていい、第一誰かに守ってもらわなくても戦えるし、「生きる」というか「死なないでいる」にはその方が楽だったと思う。しかしこの人たちは皆で生活し生きることを選んだ。それはどんな生活や方法でも良い訳ではなく、「人間として生活する」ことを選んだからなんじゃないかと思う。
次男は考えの違いからコミュニティーを離れ、敵(ドイツ軍)と戦う(と言うか殺しにいく)道を選ぶ。
次男を演じたリーヴ・シュレイヴァー。見たことがあるような気がするのだけど、全然どの映画なのか思い出せませんでしたが、調べてみるとかなり多くの映画に出演している様子。私は見ていませんが『スクリーム』シリーズとか。1999年にデンゼル・ワシントン主演の『ハリケーン』と言う映画があるのですが、たぶんこれで彼を見てうっすらと顔を覚えていたようです、私。しかも彼、ナオミ・ワッツの旦那さんだったのね。知らなかったわ。
このコミュニティー内で、教育や宗教といった文化面に広く従事した元編集者のアイザック役に、『イン・ハー・シューズ』でローズの恋人役だったマーク・フュ-アステイン。この人、賢そうな役似合います。
戦況に翻弄された人々の生活、想像しきれない戦況の恐怖におびえながらも生き抜いた人々の生き様、コミュニティーの難しさ、人間の尊厳、立場によって見方の変わる命の重さ、尊さ。いろんな要素が詰まっていて、状況は全く異なっていても現代に通じるテーマであり、考えさせられる映画です。移動しては住む場所を作り、また戦禍にさらされては場所を移動し。終わりの見えない旅路に耐えた人々の強さにただただ圧倒されます。映画のエンドロールで、このような生活がさらに2年間続いたと書かれていて、やりきれないと言う言葉では表現できない感情に襲われました。
こんな状況下に私は当然のことながら置かれたことが無く、「命」とか「生きるすべ」とか「生き方」とか、私がこんな言葉を使って意見を述べること自体ものすごくおこがましいことは重々承知の上なのだけど、ここは「映画の感想」としてあえて素直に思ったことを書かせて頂きました。
日本では2009年2月14日から上映予定だそうです。バレンタインですね。すばらしい映画ですが、デート向きではありません。
おすすめ度:☆☆☆☆☆
注:公開年度を2008年、2009年と書きました。この映画、ゴールデン・グローブ賞にノミネートされていた作品で、それに間に合わせるために一部のみで2008年に公開されていたとのこと。2009年に一般公開となったとのことなので、両方の年を記載しました。
息を吐く間もない展開。まさにこの言葉がぴったりの映画だった。第二次大戦下、ナチス・ドイツがユダヤ人を虐殺、強制収容所に収容するために「ユダヤ人狩り」を行っていた時代。4人の兄弟が先頭に立ち、何とかナチスの追っ手から森へ逃げ込んだユダヤ人たちとともにコミュニティーを形成し、戦禍を生き延びる物語。実話を元にした映画です。
主演のダニエル・クレイグは007の役柄と「戦う男」という点は共通しているのですが、なんていうの?ベクトルが違うとでも言うのかしら。スマートな身のこなしのイギリス政府の孤高のスパイとは対極の、森で身を潜め仲間とともに戦う泥臭さのあるヒーローです。彼が長男トュービア。次男がザス(リーヴ・シュレイヴァ-)、三男アザエル(ジェイミー・ベル)そして四男アーロン(ジョージ・マッケイ)。まぁ、この兄弟たちの年が離れすぎているというのは目を瞑りまして。この3人がまったく兄弟には見えないのだけど、もうほんと、そんなことはどうでもよくて、それぞれのキャラクターが立っていて特に上3人の配役で映画が締まっています。
やっぱり好きなのでこの人を褒めずにはいられないのだけど、三男を演たジェイミー・ベル。『リトル・ダンサー』に始まり、テレビドラマの『バンド・オブ・ブラザーズ』、『ジャンパー』、『父親たちの星条旗』とすでにキャリアも確立しているのだけど、この映画の中では若さ、あどけなさ、初々しさを見事に表現していてその演技力の高さに驚かされます。兄の後ろをついていくだけで精一杯だった少年から、兄たちの後姿を見て成長し、コミュニティーを引っ張っていけると期待できるほどにたくましく勇敢な青年に育つまでの変化。どうしたらここまで演じ分けられるのだろうと感心するくらい。
俳優たちはイギリス人、アメリカ人がほとんどなのだけど、映画の中ではナチスの脅威におびえるユダヤ人。なので基本は英語の台詞ですがドイツ語もあり。英語はドイツ訛でしたが、これってドイツ人が見たらやっぱり「・・・。」ってなるのかしら。ま、それを置いておいてもものすごい映画です。
トュービアが戦禍を生き延びるこの戦いの中で一番大切だと説いたのは、「人間らしく生き、人間らしく死ぬ」ということ。どんなに切羽詰った状況でも、理性を捨てた動物のように自分が生き延びることばかりを優先し、罵り合ったり争うのではなく、コミュニティーとして皆が共に生き伸びること、皆平等にそして助け合うこと。人間としての尊厳を決して失わないこと。
そのコミュニティにいる誰もが、親兄弟など身近な人々を殺され、いつ自分たちが殺されてもおかしくない状況にいる。その状況下で「人間の尊厳を守ること」を説き、その考えの下で共同生活をし、そして生き延びた人々。共同生活だったからこそ可能であり生まれた考え方なんじゃないかと思う。正直この兄弟なら、自分たち4人の方が動きやすいし、何百人分の食料の心配だってしなくていい、第一誰かに守ってもらわなくても戦えるし、「生きる」というか「死なないでいる」にはその方が楽だったと思う。しかしこの人たちは皆で生活し生きることを選んだ。それはどんな生活や方法でも良い訳ではなく、「人間として生活する」ことを選んだからなんじゃないかと思う。
次男は考えの違いからコミュニティーを離れ、敵(ドイツ軍)と戦う(と言うか殺しにいく)道を選ぶ。
次男を演じたリーヴ・シュレイヴァー。見たことがあるような気がするのだけど、全然どの映画なのか思い出せませんでしたが、調べてみるとかなり多くの映画に出演している様子。私は見ていませんが『スクリーム』シリーズとか。1999年にデンゼル・ワシントン主演の『ハリケーン』と言う映画があるのですが、たぶんこれで彼を見てうっすらと顔を覚えていたようです、私。しかも彼、ナオミ・ワッツの旦那さんだったのね。知らなかったわ。
このコミュニティー内で、教育や宗教といった文化面に広く従事した元編集者のアイザック役に、『イン・ハー・シューズ』でローズの恋人役だったマーク・フュ-アステイン。この人、賢そうな役似合います。
戦況に翻弄された人々の生活、想像しきれない戦況の恐怖におびえながらも生き抜いた人々の生き様、コミュニティーの難しさ、人間の尊厳、立場によって見方の変わる命の重さ、尊さ。いろんな要素が詰まっていて、状況は全く異なっていても現代に通じるテーマであり、考えさせられる映画です。移動しては住む場所を作り、また戦禍にさらされては場所を移動し。終わりの見えない旅路に耐えた人々の強さにただただ圧倒されます。映画のエンドロールで、このような生活がさらに2年間続いたと書かれていて、やりきれないと言う言葉では表現できない感情に襲われました。
こんな状況下に私は当然のことながら置かれたことが無く、「命」とか「生きるすべ」とか「生き方」とか、私がこんな言葉を使って意見を述べること自体ものすごくおこがましいことは重々承知の上なのだけど、ここは「映画の感想」としてあえて素直に思ったことを書かせて頂きました。
日本では2009年2月14日から上映予定だそうです。バレンタインですね。すばらしい映画ですが、デート向きではありません。
おすすめ度:☆☆☆☆☆
注:公開年度を2008年、2009年と書きました。この映画、ゴールデン・グローブ賞にノミネートされていた作品で、それに間に合わせるために一部のみで2008年に公開されていたとのこと。2009年に一般公開となったとのことなので、両方の年を記載しました。
昔読んだことのある本とあまりに内容が
似ていたので驚きました。推測ですが恐らく、
この本が原作なのですよね?
「The Bielski Brothers」
ノンフィクションです。
知り合いが書籍の製作に関わっていた為、
勧められて読んだのですが、今でも、歴史の
真実は過酷だという読後感が残っています。
日常を毎日普通に通り過ぎていけることの
ありがたみを思い知らされました。
私は原作を読んでいないので比べようがありませんが、映画は真実の過酷さをしっかりと描きながら、映画としてのテンポや見せ所をしっかりと作っていたと思います。機会があったらぜひ。