2005年 イギリス映画
50年代のロンドンが舞台。夫と2人の子供たちと慎ましやかに生活する労働者階級の女性ヴィラ。働き者で穏やかな性格から誰にでも好かれ、信頼される彼女。そんな彼女が突然逮捕される。金儲けでもなんでもなく、ただ困っている若い女性を助けてあげたいがために行っていた中絶行為だが、医師免許を持っているわけでもなく、法に触れたのだ。
公開当時、イギリスで賛否両論を引き起こしたと言うこの映画。被告となったヴィラの有罪が確定したところで映画は終わります。この映画に心が救われるような要素は皆無です。どこまでも暗い。でも闇雲に見ている側を落ち込ませようとしているのではなく、これが当時の労働者階級の人々の生活。わざと明るく描いたり、過剰に暗く描いているのではなく、淡々と、当時の空気や彼らの生活、人生の辛さを描いた作品。…と解説してくれたのは、一緒にこの映画を見ていたイギリス人。私もこの映画を一人で見てたら、「何が言いたいんだ」とその意図を汲み取れずにいたと思います。
中絶を選んだ若い女性たちというのもいろいろで、快楽のためにセックスをし子供を宿して、中絶なんかいとも簡単に考えている中産階級の娘もいれば、生活のための売春が原因だったり、男性に強制されたと言う男尊女卑時代を象徴した背景も。ヴィラは、彼女らから一銭たりともお金を受け取ることなく、ただ「困っている若い女性を助けてあげたい」という一心で、誰もやりたがらないこの「仕事」を始める。
決して裕福ではなく、日々の生活だって余裕があるわけでは全くない。一生懸命働き、その日その日を生きる彼らの生活。息子は仕立て屋として腕が立ち、娘の結婚が決まったところだった。家族がその幸せをかみ締めている最中に、突然警察が現れる。
調べの中で友人だった女性が、彼女が中絶を施した女性やその家族から金銭を受け取っていたことも発覚した。彼女には一銭だって入ってはこなかったのに。押収された証拠品の中には、チーズおろしとピンク色の石鹸(殺菌効果が高いと言われる当時特有のものらしい)。若い女性たちに優しく親身になって行った結果が逮捕、そして有罪。
公開当時の論争の様子を知る由はないが、金儲けでも何かやましい理由があるわけでもなく、ただ女性たちを助けたいと言う思い、そして実際に救われた女性たちが大勢いたこと、それなのに判決は全く容赦のないもので救いようのない話の展開に賛否が分かれたのではないかと思う。
ヴィラを演じた女優(イメルダ・スタウトン)の演技もすばらしく彼女が演じたヴィラの「人柄」が更に見ている側を落ち込ませる。「どうにかしてヴェラを救うことはできないわけっ?」と言葉にできないほどのやきもきとした感情に襲われます。このやるせなさ。救いのなさ。でもこれが、当時の労働者階級の人々の現実。この女優さん、たくさんのイギリス映画に出演している方なのだそうですが名前を知りませんでした。『恋におちたシェイクスピア』に出ていたと聞いて「ああ、あの人っ!」と衝撃です。ほかにも『チキン・ラン』で声優としての出演や、『ハリー・ポッター』とものすごく出演作が多いです。
たった今ウィキペディアを見るまで知りませんでしたが、この映画、マイク・リーの監督作品だったのですね!この映画は、マイク・リーの子供のころの記憶や思い出と結びついているのだそう。実は最近、マイク・リーの作品で気になってるものがあってDVDを買おうかどうか迷っていたところだったのです。彼の作品は『秘密と嘘』しか観たことが無いのですが、何せ中学生、高校生の時だったので楽しめた記憶も物語の内容もさっぱり覚えていません。もう一度観てみたいなぁ。そしてさらに驚いたのが、この映画が日本で公開されていたと言うこと!マイク・リーの作品なら、小さい映画館で上映されていたのでしょうね。たまたまテレビでやっていたので見たのだけど、この映画の名前も全然きいたことありませんでしたわ、あたくし。
見ていて楽しい映画ではないし、見るタイミングを選ばないと気持ちが落ち込んで大変なことになるような作品。それでもこの映画がいいと思うのは、イギリスの社会に生きる人々の生活の一編を、飾り立てることなく正面から見据えた作品であると思うから。私たちが普段テレビで目にする、おしゃれなロンドンの街並み、王室の生活とはかけ離れた、しかしこれも本当のイギリスの一面であることを認識するのに役立つ一本だと思います。
おすすめ度:☆☆☆★
50年代のロンドンが舞台。夫と2人の子供たちと慎ましやかに生活する労働者階級の女性ヴィラ。働き者で穏やかな性格から誰にでも好かれ、信頼される彼女。そんな彼女が突然逮捕される。金儲けでもなんでもなく、ただ困っている若い女性を助けてあげたいがために行っていた中絶行為だが、医師免許を持っているわけでもなく、法に触れたのだ。
公開当時、イギリスで賛否両論を引き起こしたと言うこの映画。被告となったヴィラの有罪が確定したところで映画は終わります。この映画に心が救われるような要素は皆無です。どこまでも暗い。でも闇雲に見ている側を落ち込ませようとしているのではなく、これが当時の労働者階級の人々の生活。わざと明るく描いたり、過剰に暗く描いているのではなく、淡々と、当時の空気や彼らの生活、人生の辛さを描いた作品。…と解説してくれたのは、一緒にこの映画を見ていたイギリス人。私もこの映画を一人で見てたら、「何が言いたいんだ」とその意図を汲み取れずにいたと思います。
中絶を選んだ若い女性たちというのもいろいろで、快楽のためにセックスをし子供を宿して、中絶なんかいとも簡単に考えている中産階級の娘もいれば、生活のための売春が原因だったり、男性に強制されたと言う男尊女卑時代を象徴した背景も。ヴィラは、彼女らから一銭たりともお金を受け取ることなく、ただ「困っている若い女性を助けてあげたい」という一心で、誰もやりたがらないこの「仕事」を始める。
決して裕福ではなく、日々の生活だって余裕があるわけでは全くない。一生懸命働き、その日その日を生きる彼らの生活。息子は仕立て屋として腕が立ち、娘の結婚が決まったところだった。家族がその幸せをかみ締めている最中に、突然警察が現れる。
調べの中で友人だった女性が、彼女が中絶を施した女性やその家族から金銭を受け取っていたことも発覚した。彼女には一銭だって入ってはこなかったのに。押収された証拠品の中には、チーズおろしとピンク色の石鹸(殺菌効果が高いと言われる当時特有のものらしい)。若い女性たちに優しく親身になって行った結果が逮捕、そして有罪。
公開当時の論争の様子を知る由はないが、金儲けでも何かやましい理由があるわけでもなく、ただ女性たちを助けたいと言う思い、そして実際に救われた女性たちが大勢いたこと、それなのに判決は全く容赦のないもので救いようのない話の展開に賛否が分かれたのではないかと思う。
ヴィラを演じた女優(イメルダ・スタウトン)の演技もすばらしく彼女が演じたヴィラの「人柄」が更に見ている側を落ち込ませる。「どうにかしてヴェラを救うことはできないわけっ?」と言葉にできないほどのやきもきとした感情に襲われます。このやるせなさ。救いのなさ。でもこれが、当時の労働者階級の人々の現実。この女優さん、たくさんのイギリス映画に出演している方なのだそうですが名前を知りませんでした。『恋におちたシェイクスピア』に出ていたと聞いて「ああ、あの人っ!」と衝撃です。ほかにも『チキン・ラン』で声優としての出演や、『ハリー・ポッター』とものすごく出演作が多いです。
たった今ウィキペディアを見るまで知りませんでしたが、この映画、マイク・リーの監督作品だったのですね!この映画は、マイク・リーの子供のころの記憶や思い出と結びついているのだそう。実は最近、マイク・リーの作品で気になってるものがあってDVDを買おうかどうか迷っていたところだったのです。彼の作品は『秘密と嘘』しか観たことが無いのですが、何せ中学生、高校生の時だったので楽しめた記憶も物語の内容もさっぱり覚えていません。もう一度観てみたいなぁ。そしてさらに驚いたのが、この映画が日本で公開されていたと言うこと!マイク・リーの作品なら、小さい映画館で上映されていたのでしょうね。たまたまテレビでやっていたので見たのだけど、この映画の名前も全然きいたことありませんでしたわ、あたくし。
見ていて楽しい映画ではないし、見るタイミングを選ばないと気持ちが落ち込んで大変なことになるような作品。それでもこの映画がいいと思うのは、イギリスの社会に生きる人々の生活の一編を、飾り立てることなく正面から見据えた作品であると思うから。私たちが普段テレビで目にする、おしゃれなロンドンの街並み、王室の生活とはかけ離れた、しかしこれも本当のイギリスの一面であることを認識するのに役立つ一本だと思います。
おすすめ度:☆☆☆★