5月24日(日)
~ウィーン芸術週間オーケストラ公演~
ウィーン・コンツェルトハウス
【曲目】
◎ハイドン/オラトリオ「トビアの帰還」Hob. XXI/1 (1775)
【演奏】
S:アナ・マリア・ラビン(サラ)、エリカ・ミクローザ(ラファエル)/MS:アンナマリア・コヴァーチュ(アンナ)/T:ベルンハルト・リヒター(トビア)/B:ルカ・ピサローニ(トービット)
アダム・フィッシャー指揮 オーストリア=ハンガリー・ハイドン・フィルハーモニー/ウィーン・ジングアカデミー
ハイドンゆかりのエステルハージー城(アイゼンシュタット)で行なわれていた
ハイドンの特別展に展示されていた「トビアの帰還」の演奏会ポスター。
「1808年12月22日 "Hof-Theater nächst der Burg"」と読める・・・?
ハイドンの没後200年記念の年にハイドンが活躍したお膝元を訪れるのだから、やはりハイドンが聴きたい。ベルリンではフロレスタン・トリオで素晴らしいハイドンを聴けたが、ウィーンでは珍しいオラトリオ「トビアの帰還」の公演があったのでチケットを予約しておいた。
このオラトリオの予備知識は全くなく、ネット検索しても日本語の情報が得られなかったので、Wikipediaのドイツ語サイトの解説と歌詞対訳(伊⇔独)をプリントアウトして持っていた。そのWikipediaの解説を公演当日になって初めて読んだところ「このオラトリオは『天地創造』や『四季』とは違ってここ数世紀殆ど忘れ去られた存在。これは山場のない、物語性にも乏しいオラトリオには適さない聖書の題材を用いていること、3時間という長大な演奏時間を要し、しかもレチタチーヴォが幅を利かせていることなどに起因している。」と書かれていた。
旅の最終日、疲れもたまっている上、そんな退屈なオラトリオを長時間聴かされたらきっと眠くなってしまうだろう… この際チケットは捨てて旅行最後の夜、おいしいものでもゆっくり食べようか… と一瞬思ったが、55ユーロというチケット代金を見たらやっぱり捨てるのは惜しい、ということで再びコンツェルトハウスを訪れた。帰国前日はコンサートのダブルヘッダーで締めだ。その結果は、この旅の最後を飾るにふさわしい本当に素晴らしい公演に居合わせることになった。
まずは何よりもこのハイドンの中期に書かれたオラトリオはWikipediaの記述に反して素晴らしい音楽だった。全曲を通して惜しげもなく散りばめられた数々のアリアは、しっとりと愛や平安を歌うものから、不安やおののき、絶望を歌うものまで様々な表情を持ち、コロラトゥーラやカデンツァ風の自由な朗唱も用意されていてどれもが大変充実している。
アリアに付けられているオケ伴も素敵で、歌の内容をオケが雄弁に、或いは象徴的に語り聴かせる。おまけに第11曲のサラのアリアの最後にはオーボエに美しいカデンツァが与えられていた。レチタティーヴォもセッコではなくアリオーソ風で歌に溢れている。合唱の出番はあまり多くはないが、肝心な場面では活躍し、フーガもついた充実したもので、退屈することなど全くなかったどころか、次々に登場する名曲にただただ聴き入ってしまった。
これはもちろん素晴らしい演奏あってのこと。まずソリスト達が素晴らしい。天使ラファエルを歌ったミクロサの澄んだ美声と超高音を滑らかに正確に転がす見事なコロラトゥーラはまさに天使の声。サラを歌ったラビンはしっとりとした落ち着きのある声で気品ある名唱を聴かせてくれた。感情の起伏を熱く歌ったアンナ役のコヴァチ、美声のバリトンでアンナをしっかり支え、目が癒されたことへの感謝を情感豊かに歌ったトービット役のピサローニや、艶やかで柔らかな声でトビアを歌ったリヒターも良かった。
ウィーン・ジングアカデミーの瑞々しく生命力に溢れた合唱、オーストリア=ハンガリー・ハイドン・フィルの活き活きとした覇気のある息遣いと、響きのよくまとまったアンサンブルによる名伴奏も忘れ難い。
そしてこの大曲をまとめ上げたアダム・フィッシャーの手腕。全体をキビキビと引き締めつつ、歌わせるところはたっぷりと歌わせ、またハイドンらしい軽い身のこなしや、素早い情景の転換も鮮やかで、常に聴き手の心を引き付ける指揮だった。
この「トビアの帰還」はWikipediaの記載に反し「天地創造」や「四季」と比べても遜色のない名作であるばかりか、技巧的なアリアがここまで多く用意されていて、このオラトリオ独自の魅力もたっぷりある。
終演後は割れんばかりの喝采で会場が包まれた。3時間があっという間だと思って時計を見たら、開演前にわざわざ訂正のアナウンスが入った終演予定時刻(10時から11時に訂正)が、ほぼ訂正前の時刻だった。レチタティーヴォがかなり省略されていたが、これをノーカットでやったとしても決して冗長にはならなかったと思う(早く終わったおかげで夕食もちゃんと食べられたのは助かったが…)。
終演後、隣のおばさんに「天地創造や四季は日本でも聴けますけど、これは聴けませんよ!」と話しかけたら「こっちでもすごく珍しいわよ」との応え。「素晴らしかったですね!」「ホント、素晴らしかったわ!」と言葉を交わした。今回の旅を締めくくるにふさわしい忘れ得ぬ演奏会となった。「トビアの帰還」、日本でも是非取り上げてほしい。
~ウィーン芸術週間オーケストラ公演~
ウィーン・コンツェルトハウス
【曲目】
◎ハイドン/オラトリオ「トビアの帰還」Hob. XXI/1 (1775)
【演奏】
S:アナ・マリア・ラビン(サラ)、エリカ・ミクローザ(ラファエル)/MS:アンナマリア・コヴァーチュ(アンナ)/T:ベルンハルト・リヒター(トビア)/B:ルカ・ピサローニ(トービット)
アダム・フィッシャー指揮 オーストリア=ハンガリー・ハイドン・フィルハーモニー/ウィーン・ジングアカデミー
ハイドンゆかりのエステルハージー城(アイゼンシュタット)で行なわれていた
ハイドンの特別展に展示されていた「トビアの帰還」の演奏会ポスター。
「1808年12月22日 "Hof-Theater nächst der Burg"」と読める・・・?
ハイドンの没後200年記念の年にハイドンが活躍したお膝元を訪れるのだから、やはりハイドンが聴きたい。ベルリンではフロレスタン・トリオで素晴らしいハイドンを聴けたが、ウィーンでは珍しいオラトリオ「トビアの帰還」の公演があったのでチケットを予約しておいた。
このオラトリオの予備知識は全くなく、ネット検索しても日本語の情報が得られなかったので、Wikipediaのドイツ語サイトの解説と歌詞対訳(伊⇔独)をプリントアウトして持っていた。そのWikipediaの解説を公演当日になって初めて読んだところ「このオラトリオは『天地創造』や『四季』とは違ってここ数世紀殆ど忘れ去られた存在。これは山場のない、物語性にも乏しいオラトリオには適さない聖書の題材を用いていること、3時間という長大な演奏時間を要し、しかもレチタチーヴォが幅を利かせていることなどに起因している。」と書かれていた。
旅の最終日、疲れもたまっている上、そんな退屈なオラトリオを長時間聴かされたらきっと眠くなってしまうだろう… この際チケットは捨てて旅行最後の夜、おいしいものでもゆっくり食べようか… と一瞬思ったが、55ユーロというチケット代金を見たらやっぱり捨てるのは惜しい、ということで再びコンツェルトハウスを訪れた。帰国前日はコンサートのダブルヘッダーで締めだ。その結果は、この旅の最後を飾るにふさわしい本当に素晴らしい公演に居合わせることになった。
まずは何よりもこのハイドンの中期に書かれたオラトリオはWikipediaの記述に反して素晴らしい音楽だった。全曲を通して惜しげもなく散りばめられた数々のアリアは、しっとりと愛や平安を歌うものから、不安やおののき、絶望を歌うものまで様々な表情を持ち、コロラトゥーラやカデンツァ風の自由な朗唱も用意されていてどれもが大変充実している。
アリアに付けられているオケ伴も素敵で、歌の内容をオケが雄弁に、或いは象徴的に語り聴かせる。おまけに第11曲のサラのアリアの最後にはオーボエに美しいカデンツァが与えられていた。レチタティーヴォもセッコではなくアリオーソ風で歌に溢れている。合唱の出番はあまり多くはないが、肝心な場面では活躍し、フーガもついた充実したもので、退屈することなど全くなかったどころか、次々に登場する名曲にただただ聴き入ってしまった。
これはもちろん素晴らしい演奏あってのこと。まずソリスト達が素晴らしい。天使ラファエルを歌ったミクロサの澄んだ美声と超高音を滑らかに正確に転がす見事なコロラトゥーラはまさに天使の声。サラを歌ったラビンはしっとりとした落ち着きのある声で気品ある名唱を聴かせてくれた。感情の起伏を熱く歌ったアンナ役のコヴァチ、美声のバリトンでアンナをしっかり支え、目が癒されたことへの感謝を情感豊かに歌ったトービット役のピサローニや、艶やかで柔らかな声でトビアを歌ったリヒターも良かった。
ウィーン・ジングアカデミーの瑞々しく生命力に溢れた合唱、オーストリア=ハンガリー・ハイドン・フィルの活き活きとした覇気のある息遣いと、響きのよくまとまったアンサンブルによる名伴奏も忘れ難い。
そしてこの大曲をまとめ上げたアダム・フィッシャーの手腕。全体をキビキビと引き締めつつ、歌わせるところはたっぷりと歌わせ、またハイドンらしい軽い身のこなしや、素早い情景の転換も鮮やかで、常に聴き手の心を引き付ける指揮だった。
この「トビアの帰還」はWikipediaの記載に反し「天地創造」や「四季」と比べても遜色のない名作であるばかりか、技巧的なアリアがここまで多く用意されていて、このオラトリオ独自の魅力もたっぷりある。
終演後は割れんばかりの喝采で会場が包まれた。3時間があっという間だと思って時計を見たら、開演前にわざわざ訂正のアナウンスが入った終演予定時刻(10時から11時に訂正)が、ほぼ訂正前の時刻だった。レチタティーヴォがかなり省略されていたが、これをノーカットでやったとしても決して冗長にはならなかったと思う(早く終わったおかげで夕食もちゃんと食べられたのは助かったが…)。
終演後、隣のおばさんに「天地創造や四季は日本でも聴けますけど、これは聴けませんよ!」と話しかけたら「こっちでもすごく珍しいわよ」との応え。「素晴らしかったですね!」「ホント、素晴らしかったわ!」と言葉を交わした。今回の旅を締めくくるにふさわしい忘れ得ぬ演奏会となった。「トビアの帰還」、日本でも是非取り上げてほしい。
http://oe1.orf.at/konsole/live
に行けば放送を聴くことができます。もし録音するなら、こちらが良いかと思います。
mms://apasf.apa.at/oe1_live_worldwide
日本での放送時間は12日午前2時30分から午前5時です。
ハイドンザールでの「トビアの帰還」のレポート、読ませて頂きました。私がここを訪れたときは演奏会はなかったのですが、ハイドンのミサを練習していました。宮殿のホールの響きはやっぱり独特の優雅さがあっていいですね。ここでいろいろ演奏会を聴いていらっしゃるようで羨ましい限りです。
せっかくのハイドンイヤーなので、これからは日本でいろいろハイドンを聴いていきたいと思います。
コンツェルトハウスの演奏会は日本時間の7月12日早朝にORF(ラジオ)で放送されます。インターネット放送もあります。またその1週間後にアダム・フィッシャーとハイドンフィルが演奏した「天地創造」は映像収録したので、そのうちNHKで放映されると思います。