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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

キリル・ペトレンコ 指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(ベルリン音楽祭)

2023年10月01日 | pocknのコンサート感想録2023
9月14日(木)
キリル・ペトレンコ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

~ベルリン音楽祭2023/定期シリーズCプログラム~
ベルリン・フィルハーモニーホール

【曲目】
1.クセナキス/藺草の茂る土地(1977)
2.マルトン・イーレッシュ/オーケストラのための"Lég-Szín-Tér(色彩空間)"(2023/委嘱初演)
3.ハルトマン/歌の情景「ソドムとゴモラ」(1962/63)
Bar:クリスティアン・ゲルハーヘル
4.クルターク/ステーレ(墓標)Op.33(1994)



ベルリンでの最後のコンサートはベルリン・フィル定期演奏会。ハルトマンの曲の歌詞を予め読んでおきたかったのでプログラムを買おうとしたら、係の女性が「歌詞は載ってないけれど、よければプレゼントしますよ!」と、もらってしまった。詳しい曲目解説が載っている貴重な資料だ(この感想を書き終えてからパンフレットを何気なく捲っていたら、歌のテキストもちゃんと掲載されていた)。


今夜の曲目は委嘱初演作を含めて全てが現代曲。初めて聴くペトレンコ指揮ベルリン・フィルの力量を、全く知らない現代曲でどのぐらい実感できるかとも思ったが、これは飛び抜けて素晴らしい演奏会となった。コンマス席には樫本大進さん。

ペトレンコ/ベルリン・フィルは、全ての曲をきちんと音にして的確に表現することはもちろん、それぞれの曲を完全に手中に収め、どうだと言わんばかりに自信満々に、それどころか挑戦状を突きつけるように堂々と聴かせた。最弱音から最強音まで、常に冷静に緻密に音楽を作り上げて行きながら、そこに魂を投入して生きた音楽を生み出す。初演曲に限らず、今まさにこの瞬間、譜面に書かれた音楽が命を得て譜面から飛び立つよう。表面的に取り繕うような態度やハッタリは微塵もなく、深く鋭く斬り込んで聴き手を圧倒した。

今夜のプログラムで作曲家として一番知名度の高いクセナキスの作品は、緊迫した鋭い切り込みで始まり、クセナキスならではの暴力的とも云える衝撃が連続した。多声部の弦がうねり、パーカスが暴れ、ホルンが雄叫びを上げる。身震いするほどの原始のパワーを感じながらも演奏は荒削りにならず、クリアで緻密に音が築かれて行くところがスゴい。終盤で見事なトロンボーンソロを聴かせたのは、ベルリン・フィルのオーディションに合格してミュンヘン・フィルから移籍したばかりのジョナサン・ラムジー。ラムジーは一昨日のミュンヘン・フィルの公演にも乗っていた。

ハンガリー出身の作曲家、マルトン・イレシュの、ベルリン・フィルによる委嘱作は、デリケートな表情からクリアでパワフルな表情まで広いダイナミックレンジを駆使して、自然を尊ぶ姿勢が感じられる音楽。曲中で使われたアコーディオン(バンドネオン?)が笙のような響きをたなびかせて、アンサンブルをデリケートに繋いでいるのが印象的。終盤がとりわけオリジナリティーに富み、澄んだ水の中の静かな命の営みを感じたり、風のそよぎや、それが運ぶ香りを感じたりした。

お隣に座っていて言葉を交わした日本人は前半の曲に相当面食らった様子で、後半は席に戻って来なかったが、この後半が更に聴きものだった。ハルトマンの「歌の風景」は、神の怒りで滅ぼされたという旧約聖書の「ソドムとゴモラ」を題材にした恐ろしい音楽。雄弁なフルート・ソロをオケが敏感に精巧に引き継いで高揚し、満を持して登場したゲルハーヘルのソロは絶品。「これは最も美しい芝居の始まり」という言葉が凄みを持って発せられた(歌詞はステージ上に投影)。透明で深い泉の底を見るような清澄な歌が恐怖を研ぎ澄ませる。「おぞましさ」「悪」「死」などの言葉が生々しく迫り、恐ろしい物語へと引きずり込む。「これが世界の終焉。どん底の悲しみ。」とオケなしで語られて曲を閉じた。これは作曲者の意図したエンディングだそうだが、彼の死によってその前のフレーズもオケなしの語りとなったそう。確かに語りが長く感じられた。

クルタークの「ステーレ」の最初の一撃は、ベートーヴェンのレオノーレ序曲の開始の響きがして、それは間もなく崩れた。高揚することもあるが基本的には静謐な音楽。後半は、ヒタヒタした歩みが湿度を伴い静かに悲しみを内包し、柔らかな空気を漂わせる。これがこの音楽の最大の特徴であり魅力だ。針の穴を通すような態度で緻密に作り上げられ、静かに呼吸を始めた芸術品を前にしたような、思わず襟を正してしまう気持ちで終演となった。
大きな拍手と歓声が沸き、オケが引き上げてからも少数の人達が拍手を続けるとペトレンコが再び登場。大きな拍手が沸いた。


(拡大可)




ソロトロンボーン奏者に就任したジョナサン・ラムジーさん


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