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柴田南雄 《ゆく河の流れは絶えずして》

2016年11月10日 | pocknのコンサート感想録2016
11月7日(月)山田和樹指揮 日本フィルハーモニー交響楽団/東京混声合唱団、武蔵野音楽大学合唱団
日本フィルハーモニー交響楽団創立60周年記念・東京混声合唱団創立60周年記念特別演奏会
柴田南雄生誕100年・没後20年記念演奏会
~山田和樹が次代につなぐ 《ゆく河の流れは絶えずして》~
サントリーホール

【曲目】
1.柴田南雄/ディアフォニア~管弦楽のための(1979)
2. 柴田南雄/シアターピース「追分節考」(1973) 尺八:関 一郎
3. 柴田南雄/交響曲「ゆく河の流れは絶えずして」(1975)


武満徹、三善晃、間宮芳生、湯浅譲二といった、独自の新しい路線で日本の作曲家の存在価値を世界に知らしめ、「黄金時代」を築いた世代の一世代前の作曲家である柴田南雄。氏は、次世代の作曲家に大きな影響を与えただけでなく、西洋の前衛音楽を積極的に吸収しつつ、そこに自らの音楽語法を融合し、完成度の高さと強烈なインパクトを持つ作品を生んで高く評価されている。

大規模な編成や大きなホールでの演奏が求められる大曲に重要な作品が多いこともあって、評価や知名度のわりに、実際に演奏される機会は決して多くないが、その柴田作品に惚れ込んだ指揮者の山田和樹が、私財を投じて自ら企画し、柴田南雄の作品だけのコンサートを実現した。もう30年以上も前、合唱連盟「虹の会」(成蹊、成城、武蔵大の合同演奏会)による「宇宙について」というシアターピースを聴いた(体験した)ときの衝撃が今でも鮮明に記憶に刻まれている僕は、またあの体験をしたくて出かけた。

オーケストラだけによる「ディアフォニア」が演奏された後、今度は合唱と尺八一本のみで、柴田作品では例外的に3000回も再演されてきたという「追分節考」が演奏された。この作品は柴田のトレードマークである「シアターピース」と呼ばれる形態が用いられ、合唱が客席フロアを練り歩き、取り囲み、ホール全体が響きの劇場と化す効果をもたらす。

普段はサントリーホールでは専ら2階席を選ぶのだが、今回はシアターピースの効果を存分に味わうため、1階の中央に近い後方のA席を選んだ。その甲斐もあり、その場に居合わせなければ絶対に体験できないような強いインパクトを作品と演奏から受け、山田がプレトークで、今夜のコンサートから「何かを感じてほしい」と聴衆に呼びかけていたものを、自分なりに強く感じ取ることができた。

「追分節考」は、追分の7種類の民謡と、いくつかの発声パターンを、指揮者が自由な組み合わせや順番で指示を出して演奏を構成するという、偶然性に多くが委ねられた作品。どのような音楽が出来上がるかは、指揮者の裁量次第だが、そこに居合わせた聴衆から発せられる「気」のようなものも、指揮者の裁量に大きく関わるという。その意味で、今夜は最高の場に居合わせることができた。

それは、日本の原風景の深山幽谷のただ中に一人佇み、自然界が発する「声」を全身で浴びているような感覚。幻想的でノスタルジック。合唱団のリアルで熱い歌のベクトルが一つに集まり、異界にいるような感覚に陥った。山田がプレトークで、柴田作品は自分が日本人であることを実感させてくれると話していたが、民謡が素材だからという単純な理由ではなく、純粋に日本人の心の原点に触れた気分。

後半の「ゆく河の流れは絶えずして」の6~8楽章は、オーケストラも加わったシアターピース。テキストには方丈記が用いられているが、「追分節考」で感じたような日本的なものを超え、更に大きなスケールで普遍的・コスモポリタン的、更には宇宙的な世界を感じた。そこからは生命の起源、ひいては宇宙の始まりを伝えるようなパワーが伝わってくる。

それとは対照的に、第1部(1~5楽章)で演奏された、特に過去の音楽形式(バロック風、古典派風、後期ロマン派風)で書かれたという音楽は「型」に縛られ、作為的で、自己満足の世界に終わっているようにも感じた。これは、柴田自身の、伝統的西洋音楽へのアンチテーゼではないだろうか。

山田がプレトークで、現代版の「第9」と形容していたことに大いに共感を覚えた。「第9」では、1~3楽章を否定したうえで、「もっと心地よい、もっと喜びに満ちた調べに声を合わせよう!」という呼びかけで、シラーの「歓喜に寄す」が歌われるが、柴田作品では「西洋音楽のしきたりに捕らわれず、もっと新しい、もっと自由な音楽を奏でよう!」とでも言っているようだ。それは見事に壮大な音世界として実現された。

没後20年記念で盛んに演奏されている武満作品に比べ、没後20年+生誕100年を迎えた柴田への注目度は寂しい限りだが、そんな中、このような大規模な演奏会を企画し、素晴らしい演奏を実現し、柴田の作曲家としての価値を改めて知らしめた山田和樹の行動力に心からの称賛を送りたい。これを契機に、柴田の数々の名作が再演されることを大いに期待している。

CDリリースのお知らせ
さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~

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