11月17日(土)
500人待って図書館で本を受け取ったとき、僕のあとに更に500件以上の予約が付いていると聞いた。2017年に直木賞と本屋大賞をダブル受賞、近々映画化もされるというスゴイ人気だが、こんな音楽のマニアックな話を扱った小説がこれほど人気なのは、みんながホンモノの音楽に飢えているせいかも知れない。
♪ブログ管理人の作曲♪
金子みすゞ作詞「さびしいとき」
金子みすゞ作詞「鯨法会」
以上2曲 MS:小泉詠子/Pf:田中梢(YouTube)
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美(YouTube)
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この小説、去年の夏、同僚に「是非読んでみて!」と勧められ、地元の図書館で予約を入れたら、なななんと500人以上の予約が入っていた。もし複本がなく、一人が貸出期間マックスの14日間借りたら、回ってくるまでに20年近くかかる計算だ。 買うほどでもないしどうしよう… と思っていたら、その3か月後、予約を一人しか付けられない母校の図書館で運よく本を手にすることができ、かなり夢中で読み切った。ブログ用の感想も書いたのだが、出しそびれたままになっていた。 先週、500人待ちだった図書館の本が1年3か月で回ってきて、久しぶりに本に再会。この機会に、出しそびれていた感想を完成させた。 ネタバレだらけなので、まだ読んでいない人はご注意を! |
500ページ以上もある大著を読み終わったときは全身にトリハダが立った。これは素直な感動。だけどそのあとに「けど、なんだかなぁ~」とも思ってしまう。個性と才能溢れた4人の若きコンテスタントがそれぞれ音楽に全身全霊で向き合い、素晴らしい成果を上げつつ成長して行く姿には共感を覚えたし、何より彼らを通じて表現されるピアノ作品の魅力、音楽の素晴らしさの描写には心から共感できた。著者の恩田さんは本当に音楽に対する感性が豊かで、愛情を以てそれを言葉で表現するのが上手い! だけど半分ぐらい読み進んだところで、結局これってどの登場人物が語っていることも、ひとえに恩田さんの音楽観そのものでは、と思ってしまった。亜夜が語っても、マサルが語っても、言っている本質は同じだ。あれほど異端視されていた風間塵でさえ。 審査員の側にまで焦点を当てたのは面白かったし、「審査の結果はコンテスタントだけでなく、審査員にも向けられている」というのはなるほどと思った。だけど、風間塵のような評価が割れるには恰好な人物を登場させながら、結局最後は円満に審査結果を出してしまってはつまらない。アルゲリッチがショパン・コンクールの審査結果に抗議して審査員を辞任したように、一人ぐらい「絶対認めない!」と言い続ける審査員がいたっていい。 そもそもコンクールってのは、ゴールではなくこれからの未来を作る若い才能のスタートなのに、ここに出てくるコンテスタント達は余りにも完成し過ぎ。会場を感動と興奮の渦に巻き込んでしまう超ド級の演奏を、こんなにも皆が揃ってやってのけてしまうなんて!まだ粗削りだったり、磨く前の原石だったりするコンテスタントにも光を当てて欲しかった。 それに、単に評価の一例でしかない「コンクール」という存在を、あまりに高く扱い過ぎているのでは?奏に至っては、亜夜が本選に残れば自分の感性は間違っていなかった証しで、決めあぐねていたヴァイオリンからヴィオラへの転向を決心するなんて!他人が他人に与えるコンクールの結果を、自分の人生を決める指針にしてしまうのは納得できない。たとえ亜夜が本選に進めなくても、自分の耳と感性を信じるべきじゃないの? 登場人物の、人としての面白さ、人間関係、その展開も物足りない。人と人のぶつかり合いやいさかいもないし、深い人間関係まで描かれてもいない。幼なじみ同士久々に再会した亜夜とマサルが、大人のディープな恋仲に発展するかと期待したが、子供時代の気持ちの延長でしか描かれていない。ナサニエルが、離婚した三枝子によりを戻したいと持ちかけるシーンもうわべだけ。ストーリーで酷かったのは、3次予選の後の失格騒ぎのシーン。主役の風間塵が失格となれば話の方向が見えなくなる超サプライズだ。筆者もやるな!とドキドキして読んで損してしまった。これがストーリーにどんな意味を与えたというのだろうか… 人の描き方にしても、それぞれ異なる境遇で全然違う人生を歩んできて個性的に描かれてはいても、結局はみんなとてもまともで模範的。道を外す者も、挫折する者もいないし、みんなポジティブ指向だし、自分に厳しく謙虚。他人に不信を抱くこともなく、コンクールという熾烈な闘いの場においてもみんな相手を思いやるどころか、他人から良い刺激を受けまくっている。みんないい人ばかりなのは読んでいて悪い気はしないが面白みはない。結局恩田さんは、自分が生み出した登場人物に愛着を持ち過ぎて悪者にできないのかも。 だから、本当はコンクールの順位もつけたくなかったんだろう。本選に入ったとき、残りのページの少なさが気になった。もしかして最終審査の結果発表の前で小説は終わるのでは?とさえ思った。それはなかったが、発表のシーンもなければ、一位を獲得したマサルの描写も一切ない。愛情を込めて描いた人物を平等に扱いたかったためか。或いは芸術に優劣をつけることに意味はない、と言いたいのかも知れないが、それなら順位が大いにモノを言うコンクールに一石を投じる主張があってもいい。 2次予選で落ちてしまった高島明石、読んでいて残念だったし、新曲の演奏で特別賞ぐらいあげてもいいのでは、と、同じ姓であることもあって感情移入してしまったが、恩田さんはちゃんと最後に明石にも花を持たせた。それどころか「奨励賞」まで与えて、本選まで進んだコンテスタントと遜色ない存在まで持ち上げたのは、筆者の愛情だろう。 それを端的に伝えてくれたのがいちばん最後のたった1ページ半のシーン「ミュージック」だ。ここで風間塵が夜明けの海辺で「耳を澄ませば、こんなにも世界は音楽に満ちている」と幸せに浸っている場面が、この小説の全てを物語っているのではないだろうか。この世に存在する「音楽」という芸術は、地球という星に生きる人類に、神様がなくてはならないモノとして宇宙から届けてくれた宝物だと言っているように感じた。 |
500人待って図書館で本を受け取ったとき、僕のあとに更に500件以上の予約が付いていると聞いた。2017年に直木賞と本屋大賞をダブル受賞、近々映画化もされるというスゴイ人気だが、こんな音楽のマニアックな話を扱った小説がこれほど人気なのは、みんながホンモノの音楽に飢えているせいかも知れない。
♪ブログ管理人の作曲♪
金子みすゞ作詞「さびしいとき」
金子みすゞ作詞「鯨法会」
以上2曲 MS:小泉詠子/Pf:田中梢(YouTube)
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美(YouTube)
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