facciamo la musica! & Studium in Deutschland

足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

東京芸術大学芸術祭  2008年9月5日(金)/6日(土)/7日(日)

2008年09月07日 | pocknのコンサート感想録2008

今年の芸祭は3日間フルで通った。家族のメンバーも途中で合流して、演奏だけでなく演劇や美校での作品展示を見たり、露天で学生の作った小物を買ったり、模擬店では何も飲み食いしなかったが大浦食堂でバタ丼を食べ… 何物にも捉われない自己表現を爆発させる学生達のパワーを目と耳と体で味わった3日間だった。


奏楽堂の芸祭での全面解放を!!!

いつも読んでくれている人は「またか」と思うだろうが、「奏楽堂を芸祭の土日も解放せよ!」という訴えは今年も聞き届けられなかった(このブログにそんな力元々ないですケド。。。)
週末の演奏会場となる第6ホールをはじめとした「練習ホール」はいつも人でゴッタ返してお目当ての演目は1つ前のステージから入っていなければまず座れないし、ヘタすれば会場にも入れない。あんな立派な奏楽堂があるのにどーして??? 学生達はどうして怒らないのだろうか??? この間NHKの「爆笑問題のニッポンの教養」で芸大学長の宮田亮平のトークを聞き、自由な気風に満ちた芸大を改めて見た思いがしたが、宮田さん、なんとかなんないんでしょうかねー?奏楽堂を開けてくださいヨ!!!

芸術祭2007


9月5日(金)
オルガン科学生によるパイプオルガンコンサート
ドイツとフランス ガチンゴ対決 どちらがお好き? ~奏楽堂~
オルガン科の学生(院生を含む)による2時間を越えるオルガン演奏会。
「ドイツとフランス ガチンコ対決」と銘打ってバッハからメシアンまで、ドイツ系とフランス系の作曲家の作品を幅広くプログラミング。僕の大好きなバッハの二長調の壮麗なプレリュードは有名だが、アランの豊かなハーモニーに溢れた音楽や、かつて芸大の前身、東京音楽学校で教鞭をとっていたというディートリッヒの堅実な作品、フランクの淡く柔かな肌触りを感じる「祈り」など、普段聴く機会は少ないが、オルガン作品としては重要な曲や興味深い作品を色々聴くことができた。

オルガンという楽器(もちろんパイプオルガン)については詳しくないが、素人的には鍵盤を押せば誰がやっても同じように音が出る楽器というイメージがある。タッチの違いが出にくいとなると「良い演奏」の条件として、淀みのない運指(足?)、明確なフレージングやアーティキュレーション、ホールの残響にも配慮した適切なテンポ設定、そしてもちろんオルガンならではの効果的なレジストレーション(音色の選択)などが演奏の印象を決めるのだと思うが、総勢10人のオルガニストの演奏を続けて聴いて、この巨大な楽器を自分の表現手段としてみんなそれなりにうまく使っているなと感心した。

中でも最も鮮やかな印象を与えてくれたのはレーガーのモノローグOp.63~前奏曲、フーガを弾いた4年生の福本茉莉さん。演奏が始まってまず感じたのが演奏のクリアーさ。解像度が高くとてもきめが細かく、みずみずしい。音の運び(横の線)が流麗で、ハーモニー(縦の線)がぴたりと揃っていて、美しい音楽の形を感じた。ギルマンのソナタ第1番~フィナーレを弾いた三原麻里さんのとりわけ後半の生き生きしたリズム感と躍動感のある演奏も印象に残った。


藝術祭3年オペラ(E年オペラ):ドニゼッティ「愛の妙薬」 
~奏楽堂~
毎年の芸祭で一番の人気公演はこのE年(3年)オペラだろう。このところモーツァルトが続いたが、今回は珠玉のイタリアオペラ「愛の妙薬」。

柔らかく美しい序曲に続いて幕が開き、白い雲が浮かぶ明るい青空を背景に歌われる村人達の愉しげな合唱に気分はウキウキ。アディーナが「愛の妙薬」の物語を語り聞かせるアリア「つれないイゾルデに」が始まると明るい舞台にさらにパッと花が開いた感じ。それほどアディーナ役の渡辺 愛さんは舞台姿も振る舞いも、もちろん歌も映えていた。軽やかで艶のある美声、滑らかで自然な歌いまわし、チャーミングさやちょっと気取った表現もうまい。

そして更にびっくりしたのがドゥルカマーラ役の藤原直之君。誰もが目を見張るような張りのある冴えた声、幅広く実に豊かな表現力、自由自在に声と表情をコントロールして役になりきる。これぞ役者!と膝を打ちたくなるほど演技も巧く、完全にこのオペラで主役的なムードメーカーとなっていた。2年前の公演にも出演したとのこと、「場慣れ」という点でも抜きんでているわけだ。2年前は「コジ・ファン・トゥッテ」のドン・アルフォンソ役で、これも見事だったことを思い出した。 藤原君は近い将来、プロのオペラ公演に登場して喝采を浴びることだろう。

指揮の沖澤のどかさんは、このアンサンブルオペラとも言える様々な組み合わせの歌や合唱が散りばめられたオペラをきちんと整理し、オケや合唱を明るく活き活きと歌わせていたし(合唱の歌いだしの不揃いが少々気になったが…)、演出の舘 亜里沙さんは「色」に着目したということだが、背景が青空→夕映え→青空と変化したり、アディーナの衣装が水色→白→ピンク と変化したりして、情景や登場人物の心の状態を色の変化で表したのはよくあるやり方ではあるが、すっきりした色の扱いは新鮮だった。

他の歌手で印象に残ったのは2幕でアディーナを歌った古澤加奈子さん。人情味のある表情と陰影のある声が魅力的だった。2幕でジャンネッタを歌った大内美佳さんのふくよかでしなやかな歌唱も良かった。その他みんなどの歌い手もしっかりとよく歌っていた。良い声と表現力があるのだから、これから特にオペラのステージでの経験を積んで行けば、ネモリーノやベルコーレといった個性のある役を伸び伸びと自然に演じることができるだろう。今回のネモリーノは2人共「弱気で単純」なキャラクターはよく出していたが、あのアディーナの心を本当に射止めるには、ただの健気で一途な青年以上にやはり何か「これ!」という魅力が欲しい。

それまでの紆余曲折のストーリーを経て華やいだエンディングの場面に立ち合えば、観ている方も何だかジーンと来る。学生だけの公演でこんな気持ちにさせてくれた、というだけで今回の「愛の妙薬」は成功と言っていいだろう。出演者達の今後の更なる活躍が楽しみ。

【補足】
ドゥルカマーラ役の藤原君が2度目の藝祭オペラに登場したことについて次のようなエピソードを後日伝え聞いた。
2年前の「コジ」でドン・アルフォンソを歌ったときに合唱で舞台を盛り上げてくれたのが今回この公演で中心となった今の3年生。そのときに良い関係が築かれたことで今回3年生から藤原君にドゥルカマーラ役の話が来たとのこと。「3年オペラ」と言ってもこうして上や下の学年の協力があって素晴らしい公演が実現するというのは素敵な話だ。


邦楽科大演奏会より ~奏楽堂~
7時から東京文化会館でコンサートがあったので、最初の2演目のみ(日本舞踊と尺八アンサンブル)鑑賞した。日踊は「君が代松竹梅」。7人の優雅な舞いはきれいだった。日踊に接する機会は殆どないが、自然の木や花や風などを写したような舞いを見ているとやはりしっくりと来る。

尺八アンサンブルは牧野由多可の作品を演奏したが、こちらは何だか西洋音楽を聴いているような和洋折衷的な気分。変な例えだが、寿司にソースをつけて食べているような気分であまりしっくり来ない。尺八はやっぱり独奏が好きかも。

9月6日(土)
芸大バロックゾリステン 第1回演奏会 ~第6ホール~
総勢12名のアンサンブル(Fl:1/Vn:3/Va:2/Vc:2/Cb,Cem各1)でモーツァルトのフルート四重奏曲第1番と有名なディヴェルティメントK.136、それにこれもしばしば演奏されるバッハの組曲第2番を聴いた。ここでは茶髪のフルーティスト、上野星矢君のフルートが冴えていた。澄んだ音色で流麗に歌い、いつもアンサンブルの中心にいた。乗り乗りのバッハの終曲では即興のような装飾音が演奏を益々活き活きと息づかせ、弦楽器奏者達も楽しそうだった。他の楽曲でも繰り返し部分ではこのセンス抜群の装飾の遊びをもっとやってぶっ飛んでもいいかも。
弦だけのディヴェルティメントも若々しい演奏に好感を持った。

VIVA Bossa Nova!!!! ~第1ホール~
クラシックや邦楽といった正規授業系の演奏だけでなく、うまいジャズやワールドミュージックが聴けるのも芸祭ならでは。7人のボサ・ノヴァグループで「マシュ・ケ・ナーダ」、「イパネマの娘」、「コルコヴァード」といったボサ・ノヴァの名曲をたっぷり楽しんだ。男女2人のヴォーカルにピアノやギター、ベース、パーカッション、フルート等が加わった多彩な音色も楽しい。

男声ヴォーカルのKunishige saitoくんはちょいとベルカントが入っていたが、美声とソフトな歌いまわしはさすが。女声ヴォーカルのTomomi Masuiさんはフルートを吹きながら、とても自然で雰囲気たっぷりに、いろいろな声を使って心に沁みる歌を聴かせてくれた。少々気だるそうな表情やしぐさもすごくボサ・ノヴァっぽくて不思議な魅力がある。「フルートはお聞き苦しくて…」なんて言っていたが、どうしてどうして、このフルートも歌声にとても合っていた。みんな主専攻の楽器以外でもこうして聴かせられる楽器があるのはさすが芸大生。アンコールでもう1回やってくれた「マシュ・ケ・ナーダ」は更に熱かった。

劇団200億 第二回公演
『ひつじ、ねこ、さんしょううお。うぐいす、かえる、つきのわぐま。うさぎ、きつね。』
 ~H412~
娘と合流して、去年の出し物で何だか不思議な面白さを出していた劇団200億(多分)の公演を訪れた。だけど、今回のは何と言ったらいいんだろうか… 現代劇?? 役者のせりふが殆どなく、殆ど終始流れている早口のナレーションも真面目に聞くとよくわからない。いつか話題になった「ベルリン、天使の愛」という映画を思い出した。白い衣装に身を包んだ8人の役者達はピンクの床の上で打ちもだえ、最後は重なり合って死んだ?舞踊集団「山海塾」のよう?演劇をやっている娘も今回は「?」、これが芸術だ!!!(失礼しました。。。)

バロック・ダンス同好会 Baroque Dance ~第2ホール~
今回の芸祭のなかでもかなり楽しみにしていた公演だったが、前の演劇の時間がずれたために途中入場になってしまった。しかも入り口はひとだかりですぐには中に入れず、フランス組曲は音しか聴けなかったが、山縣万里さんのチェンバロ演奏からはとても優雅な「踊り」を感じた。考えてみたらフランス組曲は舞曲の集まりなわけで、さぞや素敵なダンスが舞われているかと想像するも、見れないのが残念。

続くリュリとモーツァルトでは優雅な、或いは楽しげなダンスが見られ、リュリでは久しぶりにクリステン・ウィットマーさんの歌を聴けたのが良かった。ウィットマーさんの歌は益々ふくよかな表情がついて魅力を増していた。モーツァルトの楽しいダンスを観ていて興に乗ってきたところでもうおしまいとなってしまった。。。

9月7日(日)
兵士の物語 演奏:兵士de物語 
~第6ホール~
たいへん充実した内容の素晴らしい公演だった。このストラヴィンスキーの「兵士の物語」をちゃんと聴くのは初めてかも。4人の語りは演劇的にそれぞれの役を迫真の表情で語り聞かせ、この風変わりな物語の世界へと誘う。中でもちょっと影のある引き込まれるような「語り」役の稲■美保さん(←■の字がわかりません、ゴメンナサイ。。。どなたか教えていただけると助かります!)は見事。語りだけではなく、兵士と王女のシーンでの究極のダンスを披露、これも素晴らしかった。悪魔役の市川泰明君は不気味な赤い照明を照らされて、忌々しいほどの悪役を表現して妙に忘れられない。

4人の語りによる物語にストラヴィンスキーの新古典調の音楽が影のように付き従うのだが、この一見無機質な音楽が出しゃばらずにストーリーの真髄を突いているようで非常に効果的。林 直之君指揮のアンサンブルはキビキビ、活き活きしていてリアルでいい。中でも注目の的はとにかく巧くてかっこいいパーカッションの牧野美沙さんと、玉を転がすように自由自在にトランペットを操った宇都伸志君。これはこのまま学外公演に出しても評判になりそう。

バッハカンタータクラブ藝祭演奏会  
~第6ホール~
やっぱり芸祭で一番楽しみなバッハカンタータクラブ。期待を裏切られることがないし、聴き終わった後の幸せ感がたまらない。奥さんと息子も合流。今回の曲目の27番と6番は2曲ともしっとり系。指揮は長岡聡季君が担当したが、その指揮を見ているだけで音楽が溢れてくるよう。

カンタータクラブの演奏はいつでも完成度が高い。ソロ楽器の腕前も素晴らしいし、弦は稲穂が風になびくように協奏していて、「生きた」歌を奏でる。合唱は大部分が声楽科以外の学生にもかかわらず高いクオリティーが失われないのもさすが。心から音楽に共感し、喜びを歌い上げるいつもながらの姿にも打たれるし、最後の子音まできっちりと自然に揃うあたりにも感心。

ソリストの中では村松稔之君の柔らかく端正なアルトと、下西祐斗君の太く朗々とした、受難曲でイエスを聴きたくなるような温かなバスが特に印象に残った。声のソロだけでなく、アリアに絡むオブリガートを演奏したソロ楽器のソリスト達も素晴らしい。

今回聴いた6番のカンタータは本当に曲も素晴らしい。深い表情に満ち溢れ、ドラマティックな冒頭合唱をこの演奏でもう一度聴きたい!定期でもやってください!

Brass Ensemble Jackass in 藝祭2008 ~第6ホール~
総勢10名の2年生の金管奏者とパーカッションによるブラスアンサンブル。5重奏から10重奏までの編成(+パーカス)で楽しい音楽、しっとりした音楽、かっこいい音楽… 多彩なプログラムを繰り広げた。

金管は響きが溶け合ってとても耳に心地よい代わりに、全然違うのに何だか似たような曲が並んでいるように感じてしまうところもあるが、そこは芸大生の巧さと若さが「そんなことないよ」と言っているよう。ヘイゼルのミスター・ジャムスのとろけるような美しいハーモニーや、シャンパンの音マネが入り、ワインの香りや刺激を音楽で味わったリチャーズの組曲「高貴なる葡萄酒を讃えて」などが特に良かった。

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2 コメント

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facciamo la musica!へようこそ (pockn)
2008-10-27 01:00:31
A☆Tさま、芸祭の感想へコメントをくださってありがとうございます!E年オペラは毎年楽しみにうかがっていますが、今回の舞台はとくに爽やかで明るい印象が気に入りました。オペラ通とは言えない僕にとっては妙な謎を潜ませる演出よりも、知らず知らずのうちに舞台に素直に引き込まれるような演出が嬉しいのです!今後のご活躍、益々楽しみにしています。
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Unknown (A☆T)
2008-10-26 16:37:02
Eオペの演出をしていた者です。友人が偶然この記事を見つけて教えてくれました。衣装の色の変化などに気付いてもらえて嬉しかったです。ぜひ来年も藝祭にお越しください。ありがとうございました♪
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