2008年7月20日(日)~7月22日(火)
北アルプスも南アルプスも、行きたいと思っていた山はだいたい去年までに行き尽くした。さて、今年はどうしよう… そうだ、ハイシーズンは山小屋が超混むので敬遠していたアルプスの人気の山域にテントを担いで行ってみようか。
以前南アルプスの塩見岳に行ったとき、山仲間のユタさんのテントに泊めてもらったことはあるが、自分のテントはない。早速秀山荘でテントを購入した。一人で出かける初めてのテント泊まりの登山なのでまずは北アルプス入門の山、蝶ヶ岳を目差し、そこから常念~大天井~燕と縦走してみよう。
テントの扱いに慣れるという意味も兼ねて初のテント泊の場所は徳沢にした。林の中の広々とした草原の徳沢のテント場は、通るときいつも「こんなところでテントに泊まれたらいいだろうなぁ」と思っていたところ。
折りしも前日に東日本は梅雨明けが発表され、晴天は約束されたようなもの。さあ、8時ちょうどのスーパーあずさ5号で出発だ!
7月20日(日)時々
松本から松本電鉄、バスと乗り継いで上高地に入る。この時期は観光バスが上高地まで入れるということで、大正池の手前から観光バスがギッシリ列を成していた。上高地のターミナル付近で昼食をとり、歩き始める。河童橋付近も大勢の人でごった返していた。
明神池
穂高方面を目差すときはいつも分岐の標識を横目に足早に通過していた明神池、今日は徳沢泊まりで余裕があるので明神池に寄ってみた。
池を見るにはな・なんと300円の拝観料が必要だった。神聖な場所へ身を置くにはそれなりの心付けがいるというわけか… お金を払って入るからには十分に楽しまなければ!
神域へと足を踏み入れると、深い森に囲まれた明神池が鏡のようにあたりの樹木を映し出して静かに佇んでいた。
泳ぐ岩魚やオシドリの子供… この池に棲む生き物たちもありがたい祝福を受けているようだ…
明神池は一の池、二の池というふたつの池が連なっている。池に流れ込む川や沢はないということで、外界からのものが入り込むことがない分、水の透明度が高いのだろう。
明神池の背後には険しい岩壁をむき出しにした明神岳がそそり立つ。 早朝などは梓川から立ち上った蒸気による霞がかかることも多く、益々神秘的な姿を見せる。明神岳には一般の登山道はない。 神様の山域に入ろうとする者はそれなりの覚悟が求められる山だ。 |
明神池で1時間ばかり過ごし、徳沢へ向かった。
徳沢
徳沢園のテント場にはたくさんのテントが張られ、大勢のキャンプ客で賑わっていた。さあ、おれもいい場所を探してテントを設営だ。
家でいちど試してみたので割とスムーズにテントは立ったが、ペグを紐に結びつけたり、穴に通したりして地面に打ち込む作業はやっていなかったので結構時間がかかった。でも無事に完成! ゴロンと横になって寝心地を確かめてみたらなかなか良さそう。 |
テント場の隣にある徳沢ロッジではお風呂にも入れ、夕食はテント場を管理する徳沢園で岩魚定食(2000円)を食べた。水洗の公衆トイレもあるし、炊事場もあるし、これは登山のテント泊というよりはオートキャンプの感覚かも。とりあえず初テントなのでこうした快適な環境はいい。
風のそよぎとせせらぎと、フクロウの鳴き声と… そんな大自然の音だけに包まれて眠るテント泊を想像していたのだが、近くのおっさんたちの談笑やら、隣のテントで寝ている人のいびきやら、おまけにオナラの音まで聞こえてきた初テント泊だったが、翌朝の4時までよく眠ることができた。
7月21日(月)
蝶ヶ岳へ
夜明けの徳沢は想像していたほどの鳥の大合唱はなかったが、小鳥のさえずりがあちこちから聞える気持ちのいい朝を迎えた。朝食を済ませ、テントを撤収していたらもう6時をまわった。今日は蝶ヶ岳に登り常念岳を越えて、常念小屋のテント場まで行く。水をたっぷりつめたらザックはずっしりと重くなった。18キロはある。ここ数年来時々出る腰痛を心配しつつ出発。
徳沢園の裏手から延びる蝶ヶ岳へ向かう登山道はいきなり急坂が続く。展望の利かない長塀山まで約3時間を頑張れば、そこから30分も登るとシナノキンバイやハクサンイチゲが咲き誇るお花畑が待っている。池塘もいくつかあって、その周りの花々は一層数も種類も多くなる。
樹林帯を抜けてお花畑に出逢えばもう森林限界は越えたと思いきや、何度か樹林帯に戻ることもあったが、展望はどんどんと開け、残雪のまだ多い槍・穂高連峰の見事な眺めが広がってきた。
蝶ヶ岳付近、とりわけ池塘や雪渓の周辺は高山植物の宝庫。
間もなく蝶ヶ岳ヒュッテが見え、その手前に蝶ヶ岳の山頂があった。蝶ヶ岳の山頂は、ヒュッテのすぐ脇にある立派な方位盤の置かれた場所ではなく、こちらが本当の山頂とのこと。これまで2度ここに来たときにこの本物の山頂を踏みそこなっていたので、しっかりとここを踏んでおいた。
蝶ヶ岳山頂からは蝶ヶ岳ヒュッテを前景に槍・穂の眺めが素晴らしい
蝶ヶ岳山頂からは展望抜群で快適な稜線歩きが続く。度々立ち止まってカメラのシャッターを押してしまう。途中、イワギキョウが群生して、蝶ヶ岳らしい緑の斜面を従えて槍と穂高の眺めが見事な場所で大休止。
地べたに腹ばいになってイワギキョウと槍・穂高をファインダーにおさめた。
お昼のメニューはカレーと豚汁。アルファ米を戻す間に絵の具を出してスケッチを始めた。 やっぱり蝶ヶ岳からのスケッチは槍方面がいい。そこに近景の緑の斜面が入ると蝶ヶ岳からの景色を実感できる。涸沢カールの雪はまだ沢山残っている。 |
このスケッチの他に奥さんへの絵手紙用にもスケッチを仕上げた。
この場所で結局2時間以上も過ごしたあと、蝶ヶ岳のもう一つのピーク、蝶槍を越えると道はどんどんと下って行き再び樹林帯へ突入する。アップダウンが結構あるが、こんなにキツかったかなぁ… テント一式を詰めた重いザックが堪えているのかも知れない。
蝶ヶ岳を下る途中で出逢った見事なニッコウキスゲの群落
常念岳へ
あえぎながらの道のりでも常に目の前にそそり立つ大きな常念岳の姿は素晴らしい。安曇野側から沸きあがってくるガスで隠れていた頂が現れる姿は感動的だ。この辺りから見る常念岳はいつ見てもいい。pocknにとっての山岳風景ベスト10に入れたくなった。
この写真は拡大してご覧になれます。
時間もあるし、せっかくだからスケッチをもう一枚仕上げることにした。
道は更に下り、常念岳へ取り付く基部では一段と山頂が高くそそり立って見えた。これを登るのはキツかった。ペースも落ちた。ようやく山頂に着いたときはもうバテバテ 槍・穂方面はまだよく見えているが、安曇野方面には入道雲がもくもくと湧き上がっていて、時々ゴロゴロといやな音が聞こえる。雷にでも遭ったら大変だ。山頂で10分ほど休んで早々とテント場へ下りた。この下りもキツかった。45分のコースタイムのところを50分かかってテント場まで下りついた。幸い雨は落ちてこなかった。
テントの設営を終えた頃は結構暗くなってしまった。暗い中、お湯を沸かしてようやく夕食にありついた。常念小屋の脇にあるテント場は少々傾斜があり、整地しても石ころで凹凸を感じ、寝心地は昨夜の徳沢のようなわけには行かない。けれどテントの入口のファスナーを開けると満天の星空が広がっていた。これこそテント泊の醍醐味。間もなくガスが出てきたみたいで星は見えなくなったのでシュラフに潜り込んで寝た。
7月22日(火)
4時に起床。テントから出るともう東の空はもうピンク色がかっていた。槍と穂高もくっきりと見える。静まりかえった曙の冷たい空気には神聖さが漂う。まずはテントを置いて常念岳山頂へ。昨日の疲れは取れたが、朝メシ前のせいかやっぱりペースはあがらない。東の空はどんどんと明るさを増し、途中でご来光を迎えた。
振り返れば槍・穂高連峰に朝の最初の光が当たり始めてきた。
常念を満喫…
山頂への所要時間もコースタイムをオーバー。これでは予定していた大天井岳~燕山荘~中房温泉の9時間以上かかる道のりは厳しい。予定を変更して一の沢を下ることにした。そうなれば常念岳で思う存分過ごすこともできる。山頂からの眺めは申し分なし。まずは朝の光線が良いときに写真撮影。
槍・穂高連峰の上に月が浮かんでいた
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行こうと思っていた大天井岳は遠い。その向こうには立山も望める。
この写真は拡大してご覧になれます。
朝食のあとはスケッチ。今度は穂高岳を描いた。
山頂の涼風にふかれ、大パノラマを眺めながらのコーヒータイムは格別…
長い縦走をやめたおかげで最良の時間を常念岳の山頂で持つことができた。3時間近くもいたが、もちろん他の登山者でこんなに長時間山頂にいた人はいない。そこから散歩がてら前常念岳を訪れた。前常念までの道はお花畑も点在する素敵なプロムナードだ。
背後に常念岳の山頂が聳える。
チングルマも今が最盛期
前常念岳の手前に常念小屋へ行けるまき道があり、ここを通ってテント場へ戻ろうと思ったのだが、分岐のところに×印がありロープで止めてある。けれどそこに立っている立派な標識には「常念小屋⇒」と出ている。「下から頂上を目差して登って来た人が間違えて小屋に行かないようにという印かも」なんて都合のいい解釈をして、行くだけ行ってみることにした。そもそも地図に載っている「道」なわけだし… 最初は歩きやすい道だったがやがて藪が深くなり、1シーズン整備をしなかったぐらいではとても伸びないような枝が行く手を阻む。藪で道が見えにくかったせいで膝を岩に強打「イタ~ッ。。。やっぱりここはダメかも…」更に去年高天原温泉へ下りるときに出遭ったような羽虫の大集団が邪魔をする。しかし何とか苦労して常念小屋も近づいたと思ったとき、行く手を雪渓が立ちはだかった。トレースもなくかなりの斜面がついている。1・2歩踏み込んでみたが、滑ったら滑落は免れない。 駄目かと思ったら、少し下の方に雪渓の切れ目を見つけた。そこまで斜面をずり下りて、雪渓の切れ目の沢を渡り、反対側の斜面をよじ登った。30分のコースタイムのところを倍近くかかってようやくテント場へ着いたときはどんなにホッとしたことか… 山頂でののんびりタイムや快適なプロムナードの後にこんな苦労があるとは。 山小屋でこの道のことを尋ねたら、若い人が「あそこはサブロードで、行けないことはないんですが…」と言いかけたのを、後ろからご主人風の人が遮って「あそこは6年前から止めてあるよ!」 やっぱり歩いてはいけない道だったんだ。 「ダメ元で行くだけ行ってみよう。」といのはやっぱり危険だ。ゴールも近いところまで来ていると「戻る」という選択肢が気持ち的にどんどんと小さくなってしまう。それを無理して行くと事故に遭うわけだ… もう少し時期が早ければあの雪渓はもっと大きかっただろうし、そんな時おれはどう判断しただろうか…? ちょっと怖くなった。 |
下山
常念小屋でタクシーを予約して一の沢を下った。ここは8年前の6月、雪深い冬道を登って途中で迷ってしまい進むことも戻ることもできない状態になったとき、たまたま居合わせた学校登山の下見の先生ペアに助けられた思い出の道。雪の消えた一の沢の登山道はしかし水も花も豊富な歩きやすい道だった。
途中で何度も沢に出会うので水には事欠かない。 足がジンジンしていたので裸足になって沢につけたらさぞ気持ちよかろう、と思ってやったら冷たすぎて10秒とつけていられなかった。持っていた温度計で測ったら4℃に届かないほどの冷たさ。 |
コースタイムよりかなり早くヒエ平に着いたが、すでにタクシーが待っていてくれた。外来で温泉に入れる国民宿舎のしゃくなげ荘の温泉で2日間の汗を流した。日焼け止めクリームは塗ってあったが日焼けしたところが湯船につかるとヒリヒリ痛い。でも極楽の気分。この瞬間がたまらなくいい気分!
しゃくなげ荘から穂高駅まではレンタサイクルに乗った。重い荷物を背負って少々ふらついたが、駅まで快適にすべり下りた。風が当たって気持ちよかったが、安曇野はやっぱり暑い!以前「安曇野」とか「穂高」という言葉のイメージで避暑のつもりで来たときにひどい暑さに参ったことを思い出した。
山から下りてくるといつものように体重が2キロ以上オーバーしていた。顔にもむくみが… 足の薬指の爪も黒く変色した。おまけに翌日は視力が落ちていてビックリ。辞書などの細かい字が読めない!紫外線の影響? 疲れのせい…? 幸い視力は次の日に回復し、体重も3日で戻ったが、山登りというのはやっぱり大変なんだなぁ、と実感。でも止められない。さあ、次はどの山に登ろうか…