藝術祭E年オペラ「フィガロの結婚」
いつもは前夜祭として行われているE年オペラが初日のマチネで行われ、そのためということらしいが、レチタティーヴォ全てとアリアもいくつかが省略された、いわば抜粋版となってしまった。
あまり上手ではないナレーションであらすじをなぞってはいたが、筋は追えないし、印象が散漫になってしまう。歌もオーケストラも健闘していただけに、今回の措置は残念であった。
ソリストで特に印象に残ったのはスザンナを歌った藤原麻衣さんと山下徳子さん、どちらも清楚で怜悧な印象。ケルビーノでは2幕と4幕を受け持った佐々木菜穂子さんがよかった。「恋とはどんなものかしら」での熱い思い、少年らしい若々しさ、張りのある歌と演技で好印象を得た。バルトロ役の清水那由太君は貫禄のある歌唱で、熟年の味を出していたのに感心した。
中西義忠君指揮の学生オケが、初々しい歌のあるモーツァルトを聴かせ、モーツァルトに浸っている幸福感を感じさせてくれる良い演奏だった。
1年合唱(武満徹の合唱曲集&フォーレのレクイエム)
1年合唱は武満のアカペラ作品とオケ付きでフォーレのレクイエムをやった。
我こそはというような自分の声を誇示するのではなく、ハーモニーを大切にした合唱に大変好感を持った。瑞々しくつやのある声でのびやかに歌った武満の歌もよかったし、ヴィヴラートを控えたフォーレの清澄な歌声も素敵だった。
2人のソリストがまた良かった。バリトンの井口達君のくっきりと輪郭を描き謙虚ながらもしっかりと表情が冴えた歌唱はこのレクイエムに大変ふさわしい。Kristen Witmer 木実さんの「ピエ・イエズ」がまた絶品。澄んでいるうえに暖かみのある声で歌われる、清らかで敬虔な空気に溢れた歌は心に染み入ってきて、別の世界にいるような感覚さえ感じた。
僕の周りに座っていた家族が木実さんの家族だということが後で判明。牧師さん一家のようで、これは本物の歌というわけだ。妹の1人に賛辞を伝えた。
井口君も木実さんも学外にすぐ出しても十分通用する歌手で、さすが芸大と感じた。オーケストラも清らかで優しさに満ちた演奏で良かった。
古楽への招待(ルネサンスとヴェルサイユの世界 ~M.マレの音楽を中心に~)
「古楽への招待」と題してルネサンス音楽とマレの作品を中心に行われた発表は今年の藝祭中でもとりわけすぐれた企画だと思った。
全体を2部構成とし、第1部「ルネサンスの世界」ではソプラノソロを加えた古楽器アンサンブルの活き活きしたリズムと躍動感を伝え、更に古風で優雅なダンスが花を添え、そればかりかおしまいには観客を前に連れて、輪舞をするという楽しい趣向が凝らされたステージ。僕はダンスしていた松本更沙さんからバラを一輪受け取ってごきげん。できれば輪舞に加わりたかったなぁ、、、
第2部「華麗なるヴェルサイユの世界」ではマレの音楽を中心に、これも質の高い演奏が繰り広げられた。全体を通して、普段なかなか接することのない楽器や音楽、ダンスに触れ、しかもどれも活き活きした、魂が入った演奏で、貴重な体験ができた。
新作発表(作曲科3年)
作曲科3年の新作発表も楽しかった。
どれも聴きやすい音楽で、世界に問う新作というものではないが、洗練されたセンスを感じる作品が多かっただけでなく、ピアノ科でもないのにここまで舌を巻くような見事なピアノで自作を披露する学生が何人もいたのにはびっくり。さすがは芸大だ。
バッハ・カンタータクラブ(カンタータ114番、41番)
藝祭の取りは今回もカンタータクラブ。モダン楽器に古楽の奏法を取り込んで、新鮮な息吹と愛情溢れる素晴らしい演奏を聴かせてくれた。
今回はとりわけソロ陣の充実振りが目を引いた。毎回男性陣は女性に比べてもう一歩の観があるのだが、ハイレベルな男性ソロが多かった。フォーレでもソロをやった井口君もよかったが、中でも114番でカウンターテナーを歌った上杉清仁君の深みのある安定した歌唱で深い祈りを歌い上げた歌唱は貫禄すら感じる堂々たるもの。41番でのテノールソロ、鏡貴之君の暖かみとつやのある惚れ惚れする美声で表情豊かに掘り下げた歌唱も見事。同じ41番でレチタティーヴォしかなかったがアルトソロを歌った酒井理早さんの美しいドイツ語の発音に支えられた説得力のある歌も素晴らしく、是非アリア付きのソロを聞きたかった。他のソロも皆満足させるレベル。
指揮の渡辺祐介君は2曲のライプツィヒ時代の特徴あるカンタータをよく読み込み、カンタータクラブの持ち味である清澄さ、慈しみ深さ、そして最近の演奏に見られる古楽器演奏的な沸いてくるようなエネルギーがうまく調和されて表現され、バッハを演奏することの喜びがストレートに伝わってきて、聴いている方も幸せな気分になる。
藝祭でなぜ奏楽堂が使えない??
毎年の疑問だが、年に1度の盛大なお祭りである藝祭で奏楽堂が土日に使用できないというのは何とかならないものか。6ホールはとりわけ混雑するし、今回は余りの混雑のために完全入れ替え制になってしまい、お目当ての公演が連続した場合一方しか聴けないという自体さえ発生する。新奏楽堂ができれば6ホールの公演の大方がこちらに移り、快適な環境で学生の演奏を楽しめるという夢は、夢でしかなかったというのはあまりに疑問を感じる。大学側の善処を引き続き望むばかりだ。
いつもは前夜祭として行われているE年オペラが初日のマチネで行われ、そのためということらしいが、レチタティーヴォ全てとアリアもいくつかが省略された、いわば抜粋版となってしまった。
あまり上手ではないナレーションであらすじをなぞってはいたが、筋は追えないし、印象が散漫になってしまう。歌もオーケストラも健闘していただけに、今回の措置は残念であった。
ソリストで特に印象に残ったのはスザンナを歌った藤原麻衣さんと山下徳子さん、どちらも清楚で怜悧な印象。ケルビーノでは2幕と4幕を受け持った佐々木菜穂子さんがよかった。「恋とはどんなものかしら」での熱い思い、少年らしい若々しさ、張りのある歌と演技で好印象を得た。バルトロ役の清水那由太君は貫禄のある歌唱で、熟年の味を出していたのに感心した。
中西義忠君指揮の学生オケが、初々しい歌のあるモーツァルトを聴かせ、モーツァルトに浸っている幸福感を感じさせてくれる良い演奏だった。
1年合唱(武満徹の合唱曲集&フォーレのレクイエム)
1年合唱は武満のアカペラ作品とオケ付きでフォーレのレクイエムをやった。
我こそはというような自分の声を誇示するのではなく、ハーモニーを大切にした合唱に大変好感を持った。瑞々しくつやのある声でのびやかに歌った武満の歌もよかったし、ヴィヴラートを控えたフォーレの清澄な歌声も素敵だった。
2人のソリストがまた良かった。バリトンの井口達君のくっきりと輪郭を描き謙虚ながらもしっかりと表情が冴えた歌唱はこのレクイエムに大変ふさわしい。Kristen Witmer 木実さんの「ピエ・イエズ」がまた絶品。澄んでいるうえに暖かみのある声で歌われる、清らかで敬虔な空気に溢れた歌は心に染み入ってきて、別の世界にいるような感覚さえ感じた。
僕の周りに座っていた家族が木実さんの家族だということが後で判明。牧師さん一家のようで、これは本物の歌というわけだ。妹の1人に賛辞を伝えた。
井口君も木実さんも学外にすぐ出しても十分通用する歌手で、さすが芸大と感じた。オーケストラも清らかで優しさに満ちた演奏で良かった。
古楽への招待(ルネサンスとヴェルサイユの世界 ~M.マレの音楽を中心に~)
「古楽への招待」と題してルネサンス音楽とマレの作品を中心に行われた発表は今年の藝祭中でもとりわけすぐれた企画だと思った。
全体を2部構成とし、第1部「ルネサンスの世界」ではソプラノソロを加えた古楽器アンサンブルの活き活きしたリズムと躍動感を伝え、更に古風で優雅なダンスが花を添え、そればかりかおしまいには観客を前に連れて、輪舞をするという楽しい趣向が凝らされたステージ。僕はダンスしていた松本更沙さんからバラを一輪受け取ってごきげん。できれば輪舞に加わりたかったなぁ、、、
第2部「華麗なるヴェルサイユの世界」ではマレの音楽を中心に、これも質の高い演奏が繰り広げられた。全体を通して、普段なかなか接することのない楽器や音楽、ダンスに触れ、しかもどれも活き活きした、魂が入った演奏で、貴重な体験ができた。
新作発表(作曲科3年)
作曲科3年の新作発表も楽しかった。
どれも聴きやすい音楽で、世界に問う新作というものではないが、洗練されたセンスを感じる作品が多かっただけでなく、ピアノ科でもないのにここまで舌を巻くような見事なピアノで自作を披露する学生が何人もいたのにはびっくり。さすがは芸大だ。
バッハ・カンタータクラブ(カンタータ114番、41番)
藝祭の取りは今回もカンタータクラブ。モダン楽器に古楽の奏法を取り込んで、新鮮な息吹と愛情溢れる素晴らしい演奏を聴かせてくれた。
今回はとりわけソロ陣の充実振りが目を引いた。毎回男性陣は女性に比べてもう一歩の観があるのだが、ハイレベルな男性ソロが多かった。フォーレでもソロをやった井口君もよかったが、中でも114番でカウンターテナーを歌った上杉清仁君の深みのある安定した歌唱で深い祈りを歌い上げた歌唱は貫禄すら感じる堂々たるもの。41番でのテノールソロ、鏡貴之君の暖かみとつやのある惚れ惚れする美声で表情豊かに掘り下げた歌唱も見事。同じ41番でレチタティーヴォしかなかったがアルトソロを歌った酒井理早さんの美しいドイツ語の発音に支えられた説得力のある歌も素晴らしく、是非アリア付きのソロを聞きたかった。他のソロも皆満足させるレベル。
指揮の渡辺祐介君は2曲のライプツィヒ時代の特徴あるカンタータをよく読み込み、カンタータクラブの持ち味である清澄さ、慈しみ深さ、そして最近の演奏に見られる古楽器演奏的な沸いてくるようなエネルギーがうまく調和されて表現され、バッハを演奏することの喜びがストレートに伝わってきて、聴いている方も幸せな気分になる。
藝祭でなぜ奏楽堂が使えない??
毎年の疑問だが、年に1度の盛大なお祭りである藝祭で奏楽堂が土日に使用できないというのは何とかならないものか。6ホールはとりわけ混雑するし、今回は余りの混雑のために完全入れ替え制になってしまい、お目当ての公演が連続した場合一方しか聴けないという自体さえ発生する。新奏楽堂ができれば6ホールの公演の大方がこちらに移り、快適な環境で学生の演奏を楽しめるという夢は、夢でしかなかったというのはあまりに疑問を感じる。大学側の善処を引き続き望むばかりだ。