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小山実稚恵 20周年記念演奏会

2005年11月14日 | pocknのコンサート感想録2005
11月14日(月)小山実稚恵 20周年記念演奏会 ピアノ協奏曲の夕べ 第2夜
サントリーホール

【曲目】
1.ショパン/ノクターン第1番変ロ短調Op.9-1
2.ショパン/バラード全4曲
3.ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第3番ニ短調Op.30
【演 奏】
ピアノ:小山実稚恵
広上淳一指揮 日本フィルハーモニー交響楽団

ショパンコンクールに入賞して20周年というのは、小山さんのデビュー20周年と言い換えてもいいだろう。演奏活動の一つの大きな節目として行われた2夜に渡る「コンチェルトの夕べ」の第2夜を聴いた。

「コンチェルトの夕べ」と言っても前半はソロ、後半のラフマニノフだけのためにオケが付く、という贅沢なコンサートで、小山さんの意気込みが伝わってくる。彼女の持ち味である華やかでブリリアントでスケールの大きな演奏が、5年近く前に聴いたリサイタルで「ある種の転換期」にあるように感じ、それが去年のリサイタルでは見事に克服されていたのを聴いたが、今夜の記念すべきコンサートは、更に強く揺るぎない新たな小山実稚恵像を確信する場となった。

前半のソロステージ、従来のきらびやかな響きやスケールの大きさが、開放感を与える方向ではなく、むしろ内面へ強く深く入り込んでいく。「バラード」の起伏に富んだ物語が痛みを伴って切々と語られ、心の底からの苦しみの吐露が耳に突き刺さる。過ぎれば想い出として語れるような悲しみ・痛みではなく、時を追うほどにどうしようもなく募る本質的な苦悩、といったものが伝わる。単音の響きさえ十分にそれを語りつくす表現力には驚嘆。そうした表現は、それと対照的な美しいフレーズを、天国的といえるほどに美しく浮き立たせる。これも甘いロマンティックな思いとは無縁の深遠なまでの美しさ!まさに人生を語りつくすようなバラードに脱帽。

後半のラフマニノフのコンチェルトでは、更にすごい衝撃を受ける。何度も繰り返される憂いを帯びた第1楽章の主旋律が、出るたびに表情を変え、深く深く心に入り込んで来る。聞き手はどんどんラフマニノフの音の世界に没入する。音楽の全体像をある距離を保って的確に見据え、明確な輪郭を描きながら組み立てて行く緻密さと、うねるような感情の波に乗り、止めども尽きぬエモーショナルな表現が見事なバランスを保って展開される。
そして迎えたフィナーレでの激情的な爆発。何というスケールの大きさ!テンションの高さ!空中分解ギリギリのところを果敢に駆け抜け、際限なく突き進んでゆくスリリングな表出は、決してその場の気持ちの高揚だけで成し得るものではない。
広上淳一指揮の日フィルは、この1曲のみが出番で最初こそエンジンがあたたまっていないような感覚があったが、曲が進むに連れてどんどん熱を帯びてくる。広上の息の長いカンタービレは節度のある音量で、しかし思いっきり濃厚な表情で小山さんを高みへと盛り立てて行く。そして迎えたこれ以上有り得ないほど鮮烈・激烈なクライマックス!曲の最初から緊張感を絶やすことなく、この頂点に向かって登りつめて初めて得られる充実の極みのクライマックスは他に比べようもない素晴らしいもので、一過性のお祭り騒ぎとは異なる本物の感動を噛み締め、胸が熱くなった。小山実稚恵、本当にすごいピアニストだ。第1夜を聴き逃したことが悔やまれる。

この20年を節目として、この先12年間で24回のリサイタルのプログラムが発表されたが、今後益々目が離せない。これからも変わらず応援して行きたい。


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