11月23日(水)イム・ドンヒュク ピアノリサイタル(オール・ショパンプロ)
紀尾井ホール
【曲目】
1.ノクターン第8番変ニ長調Op.27-2
2.バラード第1番ト短調Op.23
3.ソナタ第2番変ロ短調Op.35「葬送」
4. 3つのマズルカOp.59-1~3
5. 24の前奏曲Op.28より第13番~第18番
6. アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズ変ホ長調Op.22
【演 奏】
ピアノ:イム・ドンヒュク
18歳だったドンヒュクの鮮烈、強烈な印象を残したリサイタルから2年8ヶ月。ショパンコンクールで3位を受賞して間もなくのオールショパンプログラムでのリサイタル。いやが上でも期待が高まる。
ノクターンの透明な音色と流麗な音の運び… しかしなぜか前回のような「美しさの極み」と言うまでには至らない。続くバラードも、葬送ソナタも可もなく不可もなくといった普通の演奏。曲調が変わっても音色の変化が伴わないのが気にかかる。
しかし後半では徐々に調子を上げてきたように感じた。マズルカでの情緒的なものを抑えた思索的なアプローチが、プレリュード14番では更に踏み込んで、内面をえぐり出すような深いものを見せ、続く「雨だれ」のメロディーからは、ショパンがこれを作曲したときの病弱な弱々しい息遣いのようなものが感じられた。執拗なAsの音の連打が、湿感を伴ってまとわりつき陰鬱さを助長する。プレリュードからの6曲は、そうした暗い影の部分が迫ってくるのを感じた。プログラムの最後に置かれた「アンダンテ・スピアナート…」では、そうした気分を払いのける、華やかな演奏だった。
プログラムにはこの後に「ほか」と書かれてあり、前回のように次々とアンコールピースを披露してくれることを期待したのだが、アンコールは1曲も演奏されなかった。恐らくドンヒュクのコンディションが著しく悪かったのだろう。
確かにプレリュードでは心に迫るものを聴かせてくれはしたものの、「テクニック、集中力、エネルギー全てにわたって充実しきっている」と前回のリサイタルの感想で驚きを持って書いた時のドンヒュクではない。その時の感想では「この歳にしてひとつの美しい頂点を築き、ある意味では旬を迎えているとさえ言える。今後どういう方向に進んで行くのか不安になるほど」とも書いた。プレリュードの方向性を見ると、ドンヒュクが音楽の内面へのアプローチの深化を目差し、それがまだ完成していないとも受け取れるが、アンコールの件、それに最初の曲の曲順を(恐らく)ステージに立ってから替えるなどの一件から考えると、今日のコンディションの問題に尽きるのかも知れない。まだピアニストとしてのキャリアが始まったばかりのドンヒュク。次回を期待したい。
紀尾井ホール
【曲目】
1.ノクターン第8番変ニ長調Op.27-2
2.バラード第1番ト短調Op.23
3.ソナタ第2番変ロ短調Op.35「葬送」
4. 3つのマズルカOp.59-1~3
5. 24の前奏曲Op.28より第13番~第18番
6. アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズ変ホ長調Op.22
【演 奏】
ピアノ:イム・ドンヒュク
18歳だったドンヒュクの鮮烈、強烈な印象を残したリサイタルから2年8ヶ月。ショパンコンクールで3位を受賞して間もなくのオールショパンプログラムでのリサイタル。いやが上でも期待が高まる。
ノクターンの透明な音色と流麗な音の運び… しかしなぜか前回のような「美しさの極み」と言うまでには至らない。続くバラードも、葬送ソナタも可もなく不可もなくといった普通の演奏。曲調が変わっても音色の変化が伴わないのが気にかかる。
しかし後半では徐々に調子を上げてきたように感じた。マズルカでの情緒的なものを抑えた思索的なアプローチが、プレリュード14番では更に踏み込んで、内面をえぐり出すような深いものを見せ、続く「雨だれ」のメロディーからは、ショパンがこれを作曲したときの病弱な弱々しい息遣いのようなものが感じられた。執拗なAsの音の連打が、湿感を伴ってまとわりつき陰鬱さを助長する。プレリュードからの6曲は、そうした暗い影の部分が迫ってくるのを感じた。プログラムの最後に置かれた「アンダンテ・スピアナート…」では、そうした気分を払いのける、華やかな演奏だった。
プログラムにはこの後に「ほか」と書かれてあり、前回のように次々とアンコールピースを披露してくれることを期待したのだが、アンコールは1曲も演奏されなかった。恐らくドンヒュクのコンディションが著しく悪かったのだろう。
確かにプレリュードでは心に迫るものを聴かせてくれはしたものの、「テクニック、集中力、エネルギー全てにわたって充実しきっている」と前回のリサイタルの感想で驚きを持って書いた時のドンヒュクではない。その時の感想では「この歳にしてひとつの美しい頂点を築き、ある意味では旬を迎えているとさえ言える。今後どういう方向に進んで行くのか不安になるほど」とも書いた。プレリュードの方向性を見ると、ドンヒュクが音楽の内面へのアプローチの深化を目差し、それがまだ完成していないとも受け取れるが、アンコールの件、それに最初の曲の曲順を(恐らく)ステージに立ってから替えるなどの一件から考えると、今日のコンディションの問題に尽きるのかも知れない。まだピアニストとしてのキャリアが始まったばかりのドンヒュク。次回を期待したい。