1月23日(水)ヘルベルト・ブロムシュテット 指揮 NHK交響楽団
《1月Bプロ》 サントリーホール
【曲目】
1.マーラー/さすらう若者の歌
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Bar:クリスティアン・ゲルハーヘル
2. シューベルト/交響曲 第8番 ハ長調 D.944
2年ぶりに聴くブロムシュテット/N響。シューベルトの「グレート」に期待大!でもその前にやったマーラーがまた素晴らしかった。
ソロのゲルハーヘルという歌手、名前を聞くのも恐らく初めて。いかにもバイエルンのドイツ人という顔立ちで、人情に訴えてくるような歌を歌いそう… なんて勝手に思い込んでいたら、出てきた声も歌も洗練の極みという感じ。プログラムの紹介で「ディースカウの声に似ている」と書いてあったが、そう書きたくなる気持ちがよく分かる。声の質だけでなく、その洗練された声で叙事的に詩の深い部分に切り込んで行く姿勢もディースカウに通じるものがある。
この「さすらう若者の歌」がマーラーの自作の歌詞というのも初めて知ったが、初々しく多感な独白詩を、ゲルハーヘルは常に主人公の心情を、情に流されたり感情に訴えるやり方ではなく、客観的に、一歩離れたところで心の奥底を見つめ、それを取り巻く情景を鮮やかに描くことで聴き手にリアルに深く印象付ける。
その歌唱は細部までコントロールが行き届き、実に巧みで、そして非常に表現力に富んだ美声で聴き手の心をつかむ。美しいドイツ語の発音にも魅せられて名役者の朗読を聞いているようだった。こういう歌は心に深く入ってきていつまでも残る。素晴らしい歌手と出会えた。
この演奏が素晴らしかったのはもちろんブロムシュテット/N響の名演があってのこと。温かい血が体の中を駆け巡るような、人間の吐息が感じられるオーケストラの音色、語り口、表現が、叙事的で硬質感のあるゲルハーヘルの歌を見事に引き立てていた。このままレコーディングして欲しいような、完成度の高い名演を聴いた。
これで更に期待が高まった「グレート」、ホルンのふくよかで柔らかな第一声(トップは松崎さん)は文句なし。それから展開された音楽は、ブロムシュテットらしい筆致で鮮やかに浮き立つ各パートの歌やリズムががっちりとかみ合い、エネルギーに溢れ、勢いを増しながら進んで行った。
活きがよく、楽しそうで、鮮やかな明るい第1楽章。第2楽章は、あちこちを探索して何か素晴らしいものをその途中でいくつも発見するようなわくわく感に溢れた演奏。第3楽章も踊りだしたくなる楽しげな3拍子のリズムがとても印象的。オケのメンバーがとても楽しそう。そして第4楽章もあちこちを自由自在に吹き抜ける風のよう。第1楽章とこの第4楽章の提示部をリピートしてくれて得した気分。
もうすぐ81歳になるという年齢を想像できないような若々しさを持ったブロムシュテットの演奏は、ピリオド楽器による演奏を思い起こす新鮮さとリアルさがある。そういえば確かな記憶ではないが以前インタビューでピリオド奏法についてかなり前向きな発言をしていたような気がしたが… そうであればこの演奏はモダンとピリオドの世界が見事に共鳴した好例。若手や中堅でピリオド奏法の要素を取り入れる指揮者は増えているが、80歳を過ぎて新たなチャレンジを続けるブロムシュテットに脱帽!これからの演奏もますます楽しみだ。
《1月Bプロ》 サントリーホール
【曲目】
1.マーラー/さすらう若者の歌
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Bar:クリスティアン・ゲルハーヘル
2. シューベルト/交響曲 第8番 ハ長調 D.944
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2年ぶりに聴くブロムシュテット/N響。シューベルトの「グレート」に期待大!でもその前にやったマーラーがまた素晴らしかった。
ソロのゲルハーヘルという歌手、名前を聞くのも恐らく初めて。いかにもバイエルンのドイツ人という顔立ちで、人情に訴えてくるような歌を歌いそう… なんて勝手に思い込んでいたら、出てきた声も歌も洗練の極みという感じ。プログラムの紹介で「ディースカウの声に似ている」と書いてあったが、そう書きたくなる気持ちがよく分かる。声の質だけでなく、その洗練された声で叙事的に詩の深い部分に切り込んで行く姿勢もディースカウに通じるものがある。
この「さすらう若者の歌」がマーラーの自作の歌詞というのも初めて知ったが、初々しく多感な独白詩を、ゲルハーヘルは常に主人公の心情を、情に流されたり感情に訴えるやり方ではなく、客観的に、一歩離れたところで心の奥底を見つめ、それを取り巻く情景を鮮やかに描くことで聴き手にリアルに深く印象付ける。
その歌唱は細部までコントロールが行き届き、実に巧みで、そして非常に表現力に富んだ美声で聴き手の心をつかむ。美しいドイツ語の発音にも魅せられて名役者の朗読を聞いているようだった。こういう歌は心に深く入ってきていつまでも残る。素晴らしい歌手と出会えた。
この演奏が素晴らしかったのはもちろんブロムシュテット/N響の名演があってのこと。温かい血が体の中を駆け巡るような、人間の吐息が感じられるオーケストラの音色、語り口、表現が、叙事的で硬質感のあるゲルハーヘルの歌を見事に引き立てていた。このままレコーディングして欲しいような、完成度の高い名演を聴いた。
これで更に期待が高まった「グレート」、ホルンのふくよかで柔らかな第一声(トップは松崎さん)は文句なし。それから展開された音楽は、ブロムシュテットらしい筆致で鮮やかに浮き立つ各パートの歌やリズムががっちりとかみ合い、エネルギーに溢れ、勢いを増しながら進んで行った。
活きがよく、楽しそうで、鮮やかな明るい第1楽章。第2楽章は、あちこちを探索して何か素晴らしいものをその途中でいくつも発見するようなわくわく感に溢れた演奏。第3楽章も踊りだしたくなる楽しげな3拍子のリズムがとても印象的。オケのメンバーがとても楽しそう。そして第4楽章もあちこちを自由自在に吹き抜ける風のよう。第1楽章とこの第4楽章の提示部をリピートしてくれて得した気分。
もうすぐ81歳になるという年齢を想像できないような若々しさを持ったブロムシュテットの演奏は、ピリオド楽器による演奏を思い起こす新鮮さとリアルさがある。そういえば確かな記憶ではないが以前インタビューでピリオド奏法についてかなり前向きな発言をしていたような気がしたが… そうであればこの演奏はモダンとピリオドの世界が見事に共鳴した好例。若手や中堅でピリオド奏法の要素を取り入れる指揮者は増えているが、80歳を過ぎて新たなチャレンジを続けるブロムシュテットに脱帽!これからの演奏もますます楽しみだ。
今回私は振り替えで2日目でしたが、前日の紀尾井ホール(紀尾井アンサンブル)で、ゲルハーヘル・シューベルト3大歌曲集演奏会に3日間ともいらっしゃるという方にお会い致しました。実際聴いてみて、その御計画よく解りました。