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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

シラーの詩によるドイツ・リート(河野克典/小林道夫)

2005年10月15日 | pocknのコンサート感想録2005
10月15日(土)シラー没後200年記念講演会・コンサート
東京藝術大学奏楽堂

【講演】
シラーとドイツ歌曲

【講師】
関 徹雄 (獨協大学名誉教授)


【曲目】
1.ライヒャルト/理想
2.ツェルター/理想
3.ライヒャルト/希望
4.ツェルター/山の歌
5.シューベルト/希望
6.シューベルト/歓喜に寄せて
7.シューベルト/タルタロスの亡霊たち
8.シューベルト/人質
9.シューベルト/海に潜る若者
アンコール:シューベルト/ギリシャの神々

【演 奏】
バリトン:河野克典/ピアノ:小林道夫


「日本におけるドイツ年」にあやかって獨協で行われている「獨協におけるドイツ年」のイベントの一つとして行われた獨協主催のこのコンサートは、「シラーとドイツ歌曲」と題した関先生による講演会とセットで行われた。
関先生の講演ではシラーの詩をテキストとして生まれたリートを概観し、シラーと作曲家たちとの親交、シラーの音楽観などが詳述された。An die Freudeに50人もの作曲家が音楽を付けていたという事実は驚き。講演の終わりにはB.A.ウェーバー作曲の「弓矢の歌」を関先生自らの歌で締めて、喝采を浴びた。

河野氏と小林先生によるデュオでは、講演でも話題に上ったモーツァルトと同時代の隠れた作曲家達の興味深いシラー歌曲が披露された他、コンサートには殆ど上らないシューベルトの大作のバラードが3曲も取り上げられ、質・量ともに充実した内容。前半は河野氏による詳しい曲目解説入り。作曲家がどんな意図を持って歌曲を作曲していったかに思いを馳せることもできた。
河野氏の歌は、様式観を大切にして丁寧に歌われ、繊細さ、柔らかさ、言葉の持つ本来の響きの美しさなどが良く表現され、シラーの詩の世界を堪能できた。今回のコンサートでは渡部先生が立派な対訳を作成したが、河野氏は普段自分のリサイタルでは自分で対訳を作成するという。そうした作業が言葉に対する感覚を磨くのだろう。歌がシューベルトに至ると音楽的霊感もやはり格段に高く、それによって発せられる言葉は更に研ぎ澄まされ、深く刻まれ、鮮やかな印象を与える。シューベルトの「歓喜に寄せて」があるのは知らなかったが、ベートーヴェンの第9と理念的に共通する強さが表現された印象深い作品。

このコンサートで特に聴きものだったのは後半に歌われた長大なバラード「人質」と「海に潜る若者」。河野氏の話の通り物語の役割がレチタティーヴォと朗唱で巧みに組み立てられ、活き活きと語られる朗読を聴くように、物語に気持ちが没入して行き、30分近くかかる大曲の長さを感じさせない。もちろんこれには河野氏のスタミナ切れを全く感じさせない見事な歌唱と、その歌に影のようにぴったりと寄り添い、またある時は歌をリードしつつ、物語の情景や登場人物の感情を生き生きと浮かび上がらせた、繊細さとダイナミズムを兼ね備えた小林先生のいつでも安心して聴いていられる名伴奏があってのこと。
「人質」のストーリーがあの「走れメロス」だったことにもびっくり。
アンコールでしみじみと歌われた「ギリシャの神々」の透明感も忘れ難い。企画、演奏者の選定、そして藝大のホール使用、どれもが成功だったといえよう。

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