金子みすゞとの出会い、最初のCD制作 金子みすゞの詩に出会ったのは、2003年に母が見せてくれた「みすゞコスモス」という本に、矢崎節夫さんの心温まるエッセイや美しい写真と共に紹介されているみすゞの詩を読んだとき。なんと平易な言葉で人の心の奥に優しく触れるのか、と驚きと感動を持って何度も読み返し、これらの詩に是非曲を付けてみたいと思い立ち、すぐに作曲を始めた。
このCDがきっかけとなり、発表の機会や、新曲を書く機会が広がった。みすゞの詩を何度も読み、みすゞについて書かれた本を読むうちに、最初にみすゞに抱いたイメージの「優しさ」「慈しみ深さ」の奥底には、「さびしさ」や「かなしみ」が宿っているのを感じるようになった。そして、「さびしさ」や「かなしみ」に寄り添った歌を書くようになった。みすゞの心にもっと近づきたくて、みすゞが生まれ育った山口県の仙崎も訪れた。30曲余り作曲した頃、周りからの声にも押され、2枚目のCD制作を考え始めた。 2枚目のCD制作に向けて 具体的にCD制作に向けて動き始めたのは2015年の始め。演奏をお願いしたのはメゾ・ソプラノの小泉詠子さんと、ピアニストの田中梢さん。小泉さんは、僕にとって大切な発表の場ともなっている「新作歌曲の会」の2011年と2012年の演奏会で拙作のみすゞの歌曲を歌ったくださり、新作発表では殆ど例がない暗譜で初演に臨むという徹底した取り組み、卓越した演奏技術と、詩と音楽への深い読み、清澄さと熱さを具えた格調高い歌唱で、僕が思い描いていた以上のみすゞの豊かな世界を表現してくださった。その演奏にすっかり魅了され、そのとき「何年か先にみすゞの歌でCDの制作を考えているのですが、その時はご協力頂けないでしょうか。」とお願いした。 ピアニストの田中さんは、2013年の「新作歌曲の会」の演奏会で拙作のピアノを弾いてくださった。その時の、優しくかつ情熱的で、包容力のある頼もしいピアノ演奏を聴いて、みすゞの歌に相応しいと感じ、「CDのピアニストは田中さんにお願いしたい!」と心に決めた。嬉しいことに、お二人とも正式なお願いを二つ返事で承諾してくださった。 さて次は業者選び。今回のCDはプライベート盤ではなく、できる限り多くの人達に手に取って聴いてもらえる市販品としたかったので、プロモーションも含めて販売まで担ってくれる、クラシックのCD制作に実績のある4つの業者に見積りを頼んだ。そのうち比較的割安な料金を提示してくれた2社に、これまでの録音を聴いてもらったところ、どちらからも「自社の商品として制作させてもらいたい」という有り難いオファーを頂いた。 そして、この2社の代表の方と直接お話して、ナミ・レコードさんにお願いすることにした。料金的に割安だっただけでなく、演奏者にとってはライブ演奏とはまた違う大きなプレッシャーがかかるセッション録音で、楽な気持ちでレコーディングに臨めるようサポートしてくれそうだったこと、そして、こちら側の意向を最大限尊重したCDに仕上げてもらえる感触を得られたことが決め手となった。 レコーディングの会場は、ナミ・レコードお勧めの公営の相模湖交流センターに。ここは使用料が驚くほど安価でありながら、とても響きのいいホールに状態のいいピアノを備えた評判の良いホールとのこと。著名なクラシックの演奏家のレコーディングに使われることも多いという。ホールの予約関係は全てナミ・レコードさんが行ってくれた。人気のホールで、予約が取れたのは半年以上も先の2016年の1月だった。 レコーディング レコーディング前日の1月18日、東京は大雪に見舞われ、中央線は高尾から先が運休となった。前日の深夜にようやく運休が解除され、明け方の冷え込みによる凍結も心配したが、幸いレコーティング当日は始発から平常通りで運転され、予定通り相模湖交流センターに到着した。 相模湖交流センターのホールは、多目的ホールながらクラシック音楽の演奏にちょうど良い大きさの落ち着いた空間。前方以外の席は畳まれて後ろに重ねられていた。 そこで行われたレコーディングは、1日目に全17曲を1曲ずつ順番に録り、2日目は1日目の録音を補う形で進められた。 僕はディレクターの満川さんと共にホールでの演奏を別室でモニターして、要所では録音・編集担当の池田さんが再生してくれる音を、演奏者にも一緒に聴いてもらいながら進んで行った。 レコーディングは想像以上に順調に進み、1日目も早目に上がり、2日目は予定よりも4時間以上早く終了した。これは、まず何よりも小泉さんと田中さんが、詩と音楽を深く読み込み、何度も練習を重ね、完璧な状態でレコーディングに臨んでくださったおかげ。 準備段階の合わせに立ち会っていて、尻上がりに演奏が仕上げられて行く様子を目の当たりにして頼もしい気持ちだったが、まさにレコーディング本番に最良の状態に持って来るプロとしての責任感と、拙作に対する思い入れと情熱がひしひしと伝わってきて本当に有り難かった。 テイクをいくつも録っていくセッション録音では、ディレクターの裁量も大切になる。ナミ・レコード代表取締役の満川隆さんが、常に演奏者をリラックスさせ、落ち着いた中でディレクションしてくださったことも、良い演奏を引き出す結果となった。 スタッフの皆さんと一緒に、交流センター内のレストランで過ごしたランチタイムも楽しいひとときだった。写真は、2日目に満川さんがご馳走してくださったこのお店の名物「相模ダムカレー」。ワカサギや流木をイメージした演出が楽しい。初日に食べた定食もとてもおいしかった。 ホールの音響の良さ、よく弾き込まれ、調律師の佐々木さんにより美しい音に調律され、田中さんがとても気に入ってくださったピアノ(ベーゼンドルファー)の存在もレコーディングに貢献した。 レコーディングの最中は、僕はずっと別室でヘッドホンを付けてモニター音声に集中していたため、ホールでの生の音を聴く機会はなかった。2日間に渡るレコーディングが無事に早く終わったので、客席で演奏を聴かせて頂きたいとお願いしたら、小泉さんと田中さんは快くOKしてくださった。レコーディング関係のスタッフの方々と一緒に4人でホールの客席に座った。たった4人のために演奏してくれたのは「花のたましい」と「朝蜘蛛」。モニターでチェックするプレッシャーもなく、代えがたい贅沢で極上のプライベート・リサイタル。素敵なプレゼントをして頂き、幸せ気分で満たされた。ナミ・レコードの満川さんも満足そうに「とても楽しかったです」と言ってくださった。 大仕事を終え、演奏者のお2人と、小泉さんオススメの三鷹の美味しい中華屋さんで打ち上げをした。中国残留孤児として帰国した方が始めたというこのお店は、家庭的でどの料理も絶品!美味しい料理とお酒を頂きながら、楽しいひと時を過ごした。 CD完成! それからCD完成までは、編集された録音のチェックと修正のリクエスト、ブックレットの原稿作成、雑誌へ掲載する広告のチェックなどで忙しかったが、ナミ・レコードのスタッフの方々は常にスムーズに、気持ちよく仕事を進めてくださった。 発売の10日前に、完成したCDが送られてきた。試聴盤で完成品とほぼ同じ音は聴いていたが、包装され、ジャケットやブックレット、レーベルなど、様々なパーツが集まった完成品を手に取り、CDデッキにかけて聴いたときの感慨はひとしおだった。小泉さん、田中さん、ナミ・レコードの皆さんに、改めて感謝。 7月25日、予定通りに発売を迎えることができた。ナミ・レコードの営業の小島さんから、渋谷や新宿のタワーレコードでの販売の様子の写真が送られてきた。オリジナルのポップと共に自分のCDが平置きされている写真を見て、更なる感慨! 感謝 そして… 市販品としての公共性を優先したかったので、身内への感謝の言葉はブックレットの挨拶などには入れなかったが、いつでも僕を応援してくれ、ブックレットの校正ではアドバイスや間違い探しで大活躍、それに、CDの大切な「顔」にあたるジャケットに題字の制作で貢献し、花を添えてくれた妻に、この場で心からの感謝を捧げたい。 収録曲を一部試聴できます(TOWER RECORDSのサイト) こうしてたくさんの人達のおかげで完成したCDは、我ながら最良の仕上がりになりました。多くの方々に聴いていただけると嬉しく存じます。CDご希望の方には、市販での税込価格2700円のところ、送料込み1枚2500円でお送りいたします。以下のアドレスまでメールにてお知らせください。 CDの感想、作曲者や演奏者へのコメントもお待ちしています。 ~関連リンク~ CD さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~ みすゞの故郷を訪ねる山口の旅(みすゞの故郷を歩く ~仙崎・青海島~) 田中梢のピアノ日記 ~高島豊作品CD録音~ ナミ・レコード TOWER RECORDS 「ぶらあぼ」9月号 |
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