■離婚しても同居を続けるふたり
離婚を前提として別居するとか、どちらかが家を飛び出して離婚に至るとか、そういった話はよく聞くが、最近、ときどき耳にするのは「離婚しても同居を続けるふたり」だ。
つい先日も、友人が離婚届を出した。だが、同居を解消するのは「来年の春くらいかなあ」とのこと。住む場所を探す時間がないし、今までも同居人のようなものだったから離婚届を出したところで生活に変化があるわけでもないらしい。
■親戚づきあいに疲れてしまって
一方で、別々に住む予定もないままに同居し続けている元夫婦もいる。
「友だちには、“偽装離婚”と言われています」
そう笑うのは、ヤスコさん(38歳)だ。6歳のひとり娘がいる。夫との間は特に変化がない。それならなぜ離婚届を出したのだろう。
「もともと共働きだし、協力しながら子どもを育ててきました。でもなんだか私が結婚生活に疲れてしまったんですよね。もっと正しく言うと、夫の両親やきょうだいとのつきあいに疲れたというほうが正しいかもしれません」
© All About
離婚届を出してからも同居を続けるカップルがいます。紙1枚のこととはいえ、それぞれどんな思いで離婚したのか、そしてその後の生活はどう変わったのか。当事者に聞いてみました
いい妻、いい母、いい嫁としてがんばってきたヤスコさんは、1年ほど前、過労で倒れた。それを機に、何が自分にとって過剰なプレッシャーになっているかと考えたら、「結婚しているという事実」だったのだそうだ。
「夫の家族は非常に仲がよくて、月に数回、実家に集まるんです。私は一応、“長男の嫁”なので、そのたびに実家で十数人分の料理をしたり、片づけをしたり。その心身の疲労がたまっていったんだと思います」
夫とも話し合った。
「夫の結論は、『めんどうだから離婚しちゃおう』と(笑)。最初はびっくりしたんですが、『離婚しても一緒に住んでいればいいじゃん』と言われて、『それもそうね』ということになって。ある意味、勢いで離婚届を出してしまいました。一応、娘の親権は私にあります」
離婚してから気持ちの中で変わったことがあるという。
「一緒に住んではいても、お互いに独身だから恋愛してもかまわないわけですよね、法的には。そうなると、相手を“ひとりの男”として見れるようになり、なんとなく恋愛気分です」
婚姻届は人を油断させ、離婚届は人を緊張させるのかもしれない。
■離婚届を出してから10年間同居
「25歳で結婚、28歳で離婚届を出して、でもそれからすでに10年一緒に住んでいます」
そう言うのは、アヤカさん(38歳)だ。結婚期間よりも、離婚期間のほうが長く、お互い外で恋愛するのも公認なのだという。
「あなたたちの結婚は一体何なの? と友人たちにもよく言われるんですよね。私がつきあっている人のことで夫に相談することもあるし、夫は夫でフラれた話をしてきたり。それでも私たちはなぜか一緒にいます。恋人とか夫婦とかを超えて、家族なのかもしれません」
7歳年上の元夫は、アヤカさんが8歳の時に亡くなった父親にどこか似ているのだという。
「結婚しているときは夫に干渉されるのがイヤだった。子どもがいないこともあって3年後に私から離婚を申し出ました。すぐにでも別に暮らすつもりだったんだけど、『ひとり暮らしは大変だし、しばらくここにいれば? もう他人だから同居人のつもりで』と夫に言われたんです。それでずるずると……」
ただ、離婚後、明らかに関係は変わったという。
「私も言いたいことを言うようになったし、そんな私を彼は尊重してくれるようになった。彼が料理を作ってくれたり、一緒に飲んだりすることもありますよ。でもセックスの関係はありません」
持ち家のローンは彼が支払い、光熱費は彼女が払う。あとはすべておのおので生活しているという状態。
「居心地はいいですね。誰にも縛られていないのに、いざというとき彼に頼れるという安心感があります。『ずるい』と友だちに言われることもありますし、こういう関係を続けていていいのかなという思いもある。だけど、世間で『結婚とはこうあるべし』と言われている形に縛られる必要もありませんよね。以前の私だったら、もっとちゃんとしなくちゃと思ったはずですが、この居心地よさを知ってしまったから、形なんてどうでもいいんじゃないのと考えるようになりました」
男女関係には、いろいろな形がある。結婚にも同居にも、いろいろな形と思いがあるのだろう。自分たちにとって、いちばんいい形を見いだせたカップルは幸せだ。たとえ、それが「世間の常識」から外れているとしても。