米銀行を破綻に追い込んだツイッター投稿の破壊力。AIが主導する未来のSNSはもっと怖い=高島康司
シリコンバレー銀行が破綻した。これが次の金融危機の引き金になるのではないかと懸念されている。今回は、この破綻そのものではなく、その背後で進展している事態と、将来的にAIとSNSが新しい形態の金融危機の原因となる可能性について解説したい。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
「シリコンバレー銀行」破綻の裏にSNSとAI?
いまシリコンバレー銀行(SVB)の破綻が将来の金融危機の引き金になるのではないか…と懸念されているが、今回の記事はこの銀行の破綻と金融危機の可能性を解説するものではない。それは将来の記事に譲る。
今回は、同行の破綻にSNSが果たした役割、及びAIが近い将来にもたらす影響について解説したい。
3月10日、「米連邦預金保険公社(FDIC)」は、カリフォルニア州に拠点を置く金融持ち株会社「SVBファイナンシャル・グループ」傘下の「シリコンバレー銀行」が経営破綻したと発表した。事業を停止し、預金を管理下に置く。昨年末時点の総資産は約2,090億ドル(約28兆2,000億円)で、米銀行の破綻では2008年の金融危機「リーマン・ショック」時以来、最大。金融危機以前を含めても2番目の規模となる。
「米連邦準備制度理事会(FRB)」によると、「シリコンバレー銀行」の総資産は全米で16位。主に新興IT関連企業への融資を手がけてきた。「FRB」の急激な利上げに伴う債券価格の下落で、保有していた米国債などに含み損が出ていたほか、利上げで取引先のIT関連企業の資金繰りが悪化したのを背景に預金の流出が相次いだことも響いた。
しかし、破綻はこれに止まらなかった。全米第29位の規模で主に暗号資産関連の企業に融資をしていた「シグネチャー銀行」も破綻した。経営の悪化が懸念されていた「シグネチャー銀行」にも預金の引き出しが殺到していため、危機の連鎖を恐れたニューヨーク州の金融当局によって営業停止命令が出され、破綻した。「シリコンバレー銀行」の取り付け騒ぎの波及による破綻であった。
バイデン政権は、これら中堅2行の破綻を深刻に受け止め、25万ドルの預金保護の上限を撤廃し、両行のすべての預金者の預金が保護されると声明した。これによって、金融危機が連鎖する可能性は低くなった。
ツイッターの果たした役割
それでも、「シリコンバレー銀行」の破綻でこれから金融危機が連鎖するのではないかという懸念はある。そうした懸念とそれが実現する可能性については後に記事にするとして、今回は少し違った視点からこの銀行の破綻劇を解説することにする。
それは、SNSの「ツイッター」が果たした役割、及び近い将来やってくるSNSとAIの結合が作り出す危機的な状況についてだ。
「シリコンバレー銀行」の経営が悪化しつつあることは、以前から懸念されていた。同行の取引先のメインはIT分野の新興企業であった。それらの企業から集めた預金を長期国債で運用していた。しかし、「FRB」による度重なる利上げによって、資金繰りが悪化した企業による資金の引き出しが相次ぎ、また利上げで米国債の市場価格が低下したことから損失が発生した。この結果、経営悪化が懸念される状態になっていた。
しかしながら、経営の継続は可能な状態であり、実際に破綻するとは予想されていないかった。実は、破綻の引き金になったのは、「ツイッター」の投稿が引き起こした取り付け騒ぎだった。「シリコンバレー銀行」は、SNSの投稿が引き金となった初めての銀行破綻となった。SNSの投稿の拡散が銀行を破綻させる可能性があることは、大きな衝撃をもたらした。
「ツイッター」への投稿が銀行を破綻させた経緯
まずは、「シリコンバレー銀行」の破綻に至る「ツイッター」の投稿の経緯を見てみよう。何があったのか、具体的に分かるはずだ。
シリコンバレーでは非常に人気の高い「The Diff」というフィンテック系のメルマガがある。これは、ブライアン・ホバートというフィンテックの専門家が書いているものだ。シリコンバレーでビジネスをしているものなら大抵は購読しているという。2月23日、ホバートは次にようにツイートした。
「今日のニュースレターにも書いてある。シリコンバレー銀行は、前四半期、資産の時価に基づき、技術的に債務超過に陥り、現在185:1のレバリッジになっている」
そして、彼はツイートの中に、メルマガからの数段落を入れた。このツイートは大きな反響があり、瞬く間に拡散した。その後、「シリコンバレー銀行」が債務超過にあると信じたピーター・ティール(「PayPal」創業者の1人)のような「シリコンバレー銀行」に口座を持つ大金持ちが預金を引き出した始めた。これがまた「ツイッター」で報じられると、預金の引き出しが殺到して、資金不足となった「シリコンバレー銀行」は破綻したのである。
「シリコンバレー銀行」の経営はよくはなかったものの、ホバートのツイートが引き金となった預金引き出しの殺到(取り付け騒ぎ)がなければ、この銀行はいまでも通常の営業を続けており、破綻はしなかったのではないかと見られている。
いま「シリコンバレー銀行」は「米連邦預金保険公社(FDIC)」の管理下にある。もし「FDIC」が管理に乗り出さなければ、アメリカのスタートアップ企業全体の20%以上が7日間で崩壊する可能性があった。危機一発の介入である。
2008年の「リーマン・ショック」にはなかった特徴
これが、「シリコンバレー銀行」が破綻した経緯だ。いまネットでは今回の「シリコンバレー銀行」の破綻と2008年の「リーマン・ショック」を比較する記事が多いが、2008年当時には見られなかった特徴が、今回の破綻劇にはある。それは、SNSの影響力の大きさだ。
2008年当時、「ツイッター」や「フェイスブック」は存在していたものの、2023年のいまと比較すると、その影響はまだ限定的だった。SNSのアクセス数はまだまだ少なく、その投稿が社会現象を引き起こすようなことはまずなかった。現在、1日のツイート数は5億件を突破しているが、2008年当時は5,000件から1万件程度で推移していた。
SNSの社会的影響力が増大してくるのは、スマホの契約台数が急速に拡大する2009年頃からだ。2009年の「ティーパーティー運動」、そして2010年から11年にかけては、「オキュパイ運動」や「アラブの春」のような社会運動の組織化と拡大にSNSが大きく貢献した。
このように、「リーマン・ショック」が起こった2008年と2023年の現在とでは、SNSがもたらす影響力には大きな違いがある。もし「リーマン・ショック」の時に現在と同じ規模のSNSがあったとすると、「リーマン・ショック」ははるかに巨大な金融危機と社会動乱を引き起こしていたかもしれない。
「ゲリラ豪雨」としてのSNS投稿
それというのも、SNSでは人々の不満が拡散し、そのメッセージのやり取りが爆発的な社会運動の起爆剤になりやすいからだ。
当然かも知れないが、SNSのメッセージのやり取りが激しい社会運動を引き起こすさまは、ゲリラ豪雨のようだと言われている。ゲリラ豪雨は、上空の大気が不安定になって発生した積乱雲が原因となって起こる。通常だと、積乱雲は10分くらい続く夕立を引き起こすだけで、1時間に200ミリというような集中豪雨並のゲリラ豪雨の原因になることはない。だが、気象庁の予測を完全に裏切り、夏の熱波を冷やしてくれる夕立が、突如としてゲリラ豪雨に発展し、洪水を引き起こしたり、都市の交通を麻痺させる自然災害を引き起こしたりする。
コロナのパンデミックの最中、欧米を中心に荒れ狂ったロックダウン反対の抗議運動は、ちょっとした小規模の集会やデモにしか過ぎず、夕立程度の雨になるはずだった積乱雲が、予想を越えたゲリラ豪雨を突如発生させた典型的な例だ。
「フェイスブック」の創立者マーク・ザッカーバーグは、SNSで行われる自由で規制のない対話こそ、あらゆる問題を解決するためのカギになると信じていたようだ。対話の参加者が知恵とアイデアを出し合い、さまざまな問題の解決を図るというわけだ。規制のない自由な対話の場では、異なった思想や宗教を持つ者たちが相互理解が深まることで、宗教や思想による対立を乗り越え、相互に信頼できる安定した関係ができるはずだと考えた。要するにSNSこそ、民主主義の花形になるはずだと信じていたのだ。
しかし、状況はこれとは大きく異なっている。たしかにSNSは、多くの人が互いの違いと対立を乗り越え、問題を解決する機会を提供するかもしれない。けれども、それは規制のない巨大な井戸端会議のようなものだ。そこでは、あらゆる話題が匿名で話し合われる。
さらにSNSには、投稿されたメッセージの内容を世界共通の基準で審査するような組織は存在しない。その結果、普通のコミュニケーションでは不適切として抑圧され、おおよそ話題にすることのできないような内容も出てくる。人が抑圧しているあらゆる否定的なものが噴出する場所こそ、実は現在のSNSの実態だ。ザッカーバーグはあまりに楽観的だった。ストレスのような、人の抑圧された否定的なエネルギーの強さが現れることを理解していなかった。
このようにSNSは、人々の怒りとストレスを増幅し、それを予想を越えた規模の社会現象を発生させた。それはまさにゲリラ豪雨のように、予期せず起こった。2021年1月6日に首都ワシントンの連邦議会議事堂を暴徒が占拠した事件は、SNSが引き越した社会現象の好例だ。
SNSのゲリラ豪雨で破綻、どんな銀行でも起こり得る
このようなゲリラ豪雨のようなSNSが引き起こした最初の銀行破綻が、今回の「シリコンバレー銀行」だったのだ。多くの人々が納得する説得的な銀行破綻のストーリーをツイートをすると、それは今回のように瞬く間のうちに拡散して預金引き出しのラッシュを引き起こし、銀行を破綻させる。実際の経営状態に関係なく、どんな銀行にも起こりかねないことだ。
いまほどSNSの影響力がなかった「リーマン・ショック」時の2008年当時とは、根本的な違いだ。SNSの投稿の拡散が銀行を破綻させるほどの影響力を持ち得ることは、だいぶ以前から想像できたことだ、だがいま、それが初めて現実に起こるのを目にして、人々はSNSが引き起こす金融危機が、可能性としては十分にあり得ることを改めて認識していることだろう。これからの金融危機の新しいひとつの形態になるかもしれない。
AIが主導する未来のSNSはもっと怖い
ところで、すでに感じている読者の方々も多いかもしれないが、2023年はAIが本格的に社会に導入される転換点になる年だ。昨年の11月のAI搭載チャットボット「ChatGPT」の出現後、まだ4カ月しか経っていないにもかかわらず、ほぼ毎日のようにAIによる新しいサービスが凄まじい勢いで立ち上がっている。
「ChatGPT」のようなAIボットが生成した文章の意味を読み取り、内容に合ったビデオや音楽を自動生成するサービス、生成した文章をしゃべってくれる自分をコピーしたアバター、アクセス数を飛躍的に高めるSNSの投稿をAIが自動的に生成するサービス、入力した文章の意味を読み取り、内容に合致した絵画を描くサービスなどその種類は日々無限大に広まっている。
思えば、インターネットブームの始まりは、Windows95が発売された1995年であった。それから4年後の1999年くらいになると、「アマゾン」を始め多くのオンラインサービスが登場し、金融やショッピングなど我々が日常で使う多くのサービスがインターネットに包含され、オンライン化した。そして2000年から2001年には「ドットコムバブル」と呼ばれる空前のバブル景気が起こった。
いまAIによるあらゆるサービスの拡大は、インターネットの黎明期を思わせる勢いがある。しかし、そのスピードはインターネットの拡大期どころではない。はるかに速いのだ。インターネットの変化が年単位だとすると、AIの拡大期は週単位くらいで劇的に変化・拡大している。
おそらくこのペースだと、2024年には我々はAIの提供するサービスに完全に依存した状態になるだろう。日々の献立から家計の管理、個人的な悩みの相談、休日の旅行計画の作成、恋人や家族の代用、読みたい本の選定など、我々の日常で思いつくあらゆる活動がAIの提供する高度なサービスに依存するようになる。いま我々にとってスマホはなくてはならないものだが、今後はそれ以上にAIのサービスが日常に入り込み、それなくしては生活のクオリティーが大幅に下がる状況にもなるはずだ。「スマホ命」になったように、みながAI中毒になるだろう。
そしてその後は、地方自治体が予算の配分や公共事業の立案、住民の満足度を高める行政サービスの立案など、行政がAIを全面的に取り入れるだろう。それと同時に、今度は政府が国家的な問題の解決の糸口を探るために、AIを徹底して活用することだろう。この段階まで進むと、AI依存はさらに高まり、AIが人間を支配するという言葉もリアリティーを持つ状態になるだろう。
アクセス数を上げるためにAIが自動投稿
そうした数々の分野の中でも、AIの影響が大きいのがSNSだろう。
数カ月前からすでに提供されているが、アクセス数を飛躍的に増やせるSNSの投稿をAIが勝手に生成してくれるサービスである。またユーチューブのような動画配信サービスであれば、高いアクセス数を見込める動画をAIが自動生成してくれる。さらに、高いアクセス数が期待できる投稿への返信もAIが考えてくれる。
ここまで来ると、SNSはAIの独壇場になるかもしれない。高いアクセス数を期待できる投稿をAIが生成すると、それに対する返信やレスポンスも高いアクセス数を見込めるものをAIが勝手に行ってくれる。SNSの高いアクセス数は、金銭的な見返りが大きい。
すると、多くの人々がAI同士の投稿とレスポンスを競い合うことにもなるだろう。
AIとSNSが新しい形態の金融危機の原因になる
SNSは抗議運動から革命、そして銀行破綻さえ引き起こすことができる予想外のゲリラ豪雨であった。その影響はあまりに大きい。「シリコンバレー銀行」の破綻はSNSの投稿が引き起こした最近の銀行破綻だ。
しかし、いまのSNSがどれほどゲリラ豪雨的な予想外の動きをしても、少なくとも人間が書いている。その限りでは、投稿の内容と頻度はまだ人間がコントロール可能な範囲にある。だが、投稿とそれに対するレスポンスが、アクセス数の増大のみを優先するAIが自動的に行うようになれば、コントロールができない状態になる。
一度投稿された人気のある投稿は、一気に拡大すると同時に、やはりアクセス数の増加を狙ったレスポンスで溢れることになる。こうした投稿のうねりが発信する情報を真に受けた多くの人々が引き起こ行動が、これまで以上に予想できない社会現象を引き起こすはずだ。このような状況には今年の後半か、遅くとも2024年にはなる可能性がかなり高い。AIとSNSが新しい形態の金融危機の原因になる可能性もある。
金融危機はおそらく起こる。ただ、今回の「シリコンバレー銀行」の破綻が引き金ではないように思う。2023年後半から2024年頃がもっとも危険な年になるのではないかと思う。これに関しては改めて記事を書く。