2024年にアメリカ不況入りの可能性大。レイ・ダリオが警告する米国経済“5つの異変”とは=高島康司
やはり2024年から、アメリカが不況に入る可能性が出てきた。米国内でいま起こっていて、日本ではあまり報道されているない状況を紹介する。『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
2024年に不況入りする可能性が高いアメリカ
2024年に不況入りする可能性がかなり高くなっている米国経済と、日本ではほとんど報道されていない状況について紹介したい。
このメルマガ の過去の記事では、2024年に米国経済が不況に入る可能性が高いことを何度も指摘してきた。しかし実際の米国経済は、いくつかの懸念はあるものの、GDPは4.9%と順調に成長し、インフレも落ち着きつつある。また、労働者不足が背景となり賃金が上昇していることから、個人消費も堅調に推移している。日本では米国経済の好調さを伝えるニュースばかりが報道されている。しかしながら、これまで何度も指摘したように、来年から米国経済が不況に入る可能性がかなり高くなっている。
ロイターなどによると、最近の各経済指標やウォルマートなど大手小売業者が発する警告、「米地区連銀経済報告(ベージュブック)」での景況に関するコメントなど、不況の兆候は増えているという。
米国の家計は2023年の大半を通じて予想外の強さを示し、夏には支出が大きく伸びた。しかし、ここにきて息切れし始めている。高金利と貯蓄減少で疲弊している消費者の姿は、2024年に向けて米国経済が下降線をたどっていることを示す最も確かな兆候だ。労働市場が冷え込んで賃金の伸びが緩やかになるのに伴い、米国経済は来年さらなる困難に直面するとの観測が多くなっている。
米国内で起きている「銀行の異変」
では、米国内では実際にいまなにが起こっているのだろか?
日本では具体的な状況がほとんど報道されていないのでリサーチすると、やはり来年の不況の深刻さを示唆するようなことが起こっていた。そのひとつは、米国内の銀行の異変である。
アメリカの銀行は現在、数千億ドルの含み損を抱えている。金融機関は経営難に陥ると、資金繰りが厳しくなり、コスト削減を始める。 従業員の解雇に加え、銀行は地方の支店を恒久的に閉鎖することでコストを削減している。いまアメリカでは、銀行の支店閉鎖が急増しているのだ。例えば、11月12日から11月18日にかけて、アメリカ第6位の銀行は19の支店を閉鎖するための申請を開始した。
アメリカ第6位の銀行である「PNC」は、今年初めの203支店という驚異的な閉鎖に続き、さらに全国で19支店の閉鎖を確認した。この決定は、同行のデジタル・バンキングへのシフトに沿ったもので、伝統的なバンキング方法を好む顧客の間で懸念が高まっている。
閉鎖は2024年2月に予定されており、閉鎖が予定されている支店の大半が所在するペンシルベニア州が主な影響を受ける。しかし、イリノイ州、テキサス州、アラバマ州、ニュージャージー州、オハイオ州、フロリダ州、インディアナ州を含む他の州でもいくつかの支店が閉鎖される予定であり、これらの地域の顧客は対面でのバンキング・サービスへのアクセスが制限されることになると「サン紙」は報じている。
「JPモルガン・チェース」は、オハイオ州で3件、コネチカット州とサウスカロライナ州で各2件、ニューヨーク州、イリノイ州、フロリダ州、マサチューセッツ州を含む11州で各1件の計18件を申請した。「PNC」に続く2位である。
「シチズンズ・バンク」は、ニューヨークで6件、マサチューセッツとデラウェアで各1件の計8件の支店閉鎖を申請し、3位となった。ミネアポリスに本社を置く「U.S.バンク」はテネシー州で3件、ミズーリ州、ウィスコンシン州、オハイオ州、イリノイ州で各1件の計7件の閉鎖を申請した。
「バンク・オブ・アメリカ」はニューヨークで2件、テキサス、マサチューセッツ、カリフォルニアで各1件の計5件の支店閉鎖を申請した。
「シティバンク」は2支店の閉鎖を申請し、「スターリング」、「ブレーマー」、「ファースト・ナショナル・バンク・オブ・ヒューズ・スプリングス」、「ウィンザーFS&LA」、「アルーストック・カウンティFS&LA」はそれぞれ1支店の閉鎖を申請した。
わずか1週間で、アメリカの銀行は合計64の支店の閉鎖を決定した。目の当たりにしているのは、支店閉鎖の津波である。
不動産部門で起きていること
また、不動産部門で起きていることも深刻だ。中古住宅販売件数は気が滅入るほど低い水準に落ち込んでおり、先月のアメリカの新築住宅販売件数は5.6%減少した。
一般的な住宅ローン金利が今年最高水準に達したため、米国の新築住宅販売件数は10月に減少した。「米住宅都市開発省」と「国勢調査局」の共同報告によると、10月の新築住宅販売件数は季節調整済み年率67.9万件と、9月の71.9万件から5.6%減少した。
新築住宅の価格も下落している。「国勢調査局」が発表したデータによると、10月に販売された新築一戸建て住宅の中央価格は9月より3.1%下落し、2021年8月以来最低の40万9300ドルとなった。3ヶ月移動平均は昨年12月のピークから12%近く下落している。
これらは契約価格であり、住宅ローン金利の買い取りや無料アップグレードなどのインセンティブにかかる費用は含まれていない。
さらに、商業用不動産の危機は激化の一途をたどっている。不動産大手の「トレップ」が数日前に発表した新しい数字では、延滞に分類される商業不動産担保証券(CMBS)に生成されたローンの額は、10月までの10ヶ月間で49.4%増加し、279億1000万ドルに達した。これは、「トレップ」が追跡している6,019億8,000万ドルのローンの5.07%に相当する。一方、昨年末時点の延滞件数は、6,161億5,000万ドル(当時)の3.03%であった。
延滞件数がこれほど驚異的なペースで増加している主な理由は、オフィスビルにあることが判明した。延滞増加の原動力となったのはオフィス部門で、10月までの10ヶ月間で延滞件数は261%増加した。全CMBSオフィスローンの5.91%にあたる199件、95.9億ドルのローンが、10月末時点で30日以上支払いが遅れている。昨年末時点では、115件、残高26.5億ドル、オフィスローンの1.63%が延滞していた。
国内主要市場の大半でオフィスの稼働率が低下しているため、このセクターの見通しが改善する見込みはない。これは、オフィスを利用するテナントの需要が大幅に後退しているためだ。
不動産業界が苦境に陥ると、たいていは金融危機がすぐそこまで来ていると主張する専門家も多くなっている。構造は異なるが、現在の状況は2008年の金融危機に近くなっているのではないかという指摘も急に目立つようになっている。
来年はどうなるのか?レイ・ダリオの予測
このように、すでにアメリカの不況入りを暗示させる予兆が増えている。では、不況も含めて2024年はどうなるのだろうか?
いま、大変に注目されている予測がある。世界最大のへッジファンド、「ブリッジウォーター・アソシエイツ」の創業者で伝説的な投資家のレイ・ダリオの予測である。
第747回のメルマガで紹介したように、レイ・ダリオは500年の長期的な歴史変動サイクルの分析によって、2008年の金融危機など数々の変動をこれまで予想し、的中させてきた。そうしたダリオが今年の6月26日に書いた記事が、いま改めて注目されている。ダリオは、米国債の増刷が誘発する経済の悪化を予測するとともに、それを背景とした米国内の内戦に近い状況も予測している。
筆者が下手に解説するよりも、記事の重要部分をそのまま翻訳して掲載する。
ダリオは、アメリカの安定性に決定的な影響を及ぼす5つの要因があると指摘し、それぞれを次のように解説している。ニュース誌『タイム』に掲載された記事だ。
※参考:Why the World Is on the Brink of Great Disorder – Time(2023年6月26日配信)
・なぜ世界は大混乱に瀕しているのか
1. 金融・経済力
米政府の巨額の赤字を補填するために、米財務省は大量の国債を売らなければならなくなる。だが、米国債に対する十分な需要がない可能性が高い。そうなれば、金利が大幅に上昇するか、「FRB」が大量にお金を刷って国債を買い、お金の価値が下がることになる。こうした理由から、債務・金融情勢は今後1年半の間に、おそらく非常に大きく悪化する可能性がある。2. 国内秩序の力
いくつかの国、とりわけアメリカでは、ポピュリスト的な過激派の割合が増え(右派の約20~25%、左派の約10~15%が過激派)、超党派的な穏健派の割合が減っている。超党派の穏健派は依然として多数派ではあるが、人口に占める割合は減少しており、彼らは何が何でも戦って勝利しようという意志ははるかに薄れている。歴史を研究していると、このように双方のポピュリズムが高まり、対立が激化するのは、経済状況が悪いと同時に貧富の差や価値観に大きな隔たりが存在するときに繰り返し起きていることがわかる。そのような時、人口のかなりの割合が、妥協するよりも自分たちのために戦い勝利することを誓うポピュリストの政治指導者を選んだ。
私は自著の中で、米国が今置かれている状態を、ある種の内戦や国内秩序の変化の直前に訪れる「内部秩序サイクル」のステージ5(「悪い経済状況と激しい対立があるとき」)と表現した。それが今起きていることだ。
今後1年半は、ますます激しい選挙期間となり、左派と右派の対立がより鮮明になる可能性が高い。上院の33議席、大統領職、下院の支配権が多くのポピュリスト候補によって争われ、経済状況も悪くなる可能性が高いため、戦いは激しさを増し、民主主義国家を機能させるために必要なルール遵守と妥協の両方が真に試されることになるだろう。
法律や政治制度に対する敬意が低下する一方で、何が何でも勝つという戦いへの動きが見られるだろう。ドナルド・トランプとその支持者たちが司法制度と戦争しているように、あるいは彼とその支持者たちが言うように、制度が自分に対して戦争しているように。
いずれにせよ、今後1年半の間に一種の内戦に突入することは明らかだ。私にとって最も重要な戦争は、超党派の穏健派とポピュリストの極端派との戦いである。民主党と共和党が唯一合意できること、それはほとんどのアメリカ人も合意していることだが、反中国であることだ。
3. 国際世界秩序勢力
国内の政治的緊張が中国への攻撃性を高める可能性が高いため、米中間の対立は激化する可能性が高い。というのも、アメリカではほとんどの人が反中であり、選挙に立候補する人は、選挙の年にはお互いに中国を打ち負かそうとするだろうからだ。中国とアメリカはすでに、全面的な経済戦争であれ、最悪の場合は軍事戦争であれ、ある種の戦争に危険なほど近づいている。来年は台湾でも重要な選挙がある。台湾はすでに米中選挙の火種となっており、米国が後押しする台湾独立の動きは、米中対立がさらにあからさまになる可能性を考慮する上で注視すべきものだ。
台湾やロシアへの対応、投資への制裁など、争っている問題はいくつかあり、双方は戦争の準備をしている。戦争になる運命にあると言うつもりはないが、何らかの形で大きな衝突が起こる確率は危険なほど高いということだ。
4. 自然現象
自然災害を正確に予測するのはもちろん難しいが、気候変動により、今後5年から10年の間に、自然災害はさらに悪化し、被害も大きくなる可能性が高い。また、世界は来年にかけて気候サイクルのエルニーニョ期に入る。5. テクノロジー
私たちはテクノロジーに何を期待できるのだろうか?自然の営みと同様、正確に知ることは難しいが、生成AIやその他のテクノロジーの進歩が、使い方次第で大規模な生産性向上と大規模な破壊の両方を引き起こす可能性を秘めていることは間違いないはずだ。確実に言えることは、これらの変化は大きな破壊力を持つということだ。具体的にどのような展開になるかは私の知るところではないが、過去数十年間に慣れ親しんだ秩序ある方法で物事が動くと思い込んでいる人々は、これから起こる変化に衝撃を受け、おそらく傷つくことになるのは間違いない。
この変化をいかにうまく管理するかが、すべての違いを生むだろう。もし指導者たちが争いの傾向から抜け出し、その代わりに協力することに集中することができれば、多くの人々にとってより良い世界を作るために、このやっかいな時代を乗り切ることができるに違いない。
以上である。この記事は、いま悪化しており、世界の混乱を拡大している「ガザ戦争」が始まる前に書かれたものだ。米国内で「ガザ戦争」は、イスラエルを強く支持し武器支援をしているバイデン政権に対する憎しみと反発を強め、米国内の対立に油を注ぐ結果になっている。
レイ・ダリオは、財政補填のために米政府が発行する米国債の需要が減少し、これが金利とインフレを引き上げ、相場が下落すると見ているようだ。
ウクライナ戦争のみならず「ガザ戦争」におけるイスラエル支援のための財政支出で、これから巨額の国債発行が予定されている。ダリオのシナリオでは、これが引き金となり、米国経済は本格的な不況に突入する。
この不況は「ガザ戦争」でさらに高まった国内の政治的対立を悪化させ、2024年の大統領選挙では米国内の混乱はさらに激化して、内戦直前の状態になるのではと危惧しているのだ。
来年はやはり大きな転換点になると思う。準備が必要だ。
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- 第775回 2024年にアメリカ不況入りの可能性大、いま米国内で実際に起こっていること、パーカーの2024年予言 その5(12/8)
- 第774回 中国経済は日本のように長期停滞するのか?パーカーの2024年予言 その4(12/1)
※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2023年12月8日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。