生国を出たワタリと母は、迎えに来た赤国の使者と共にハジリ、サクリの国にも寄った。ハジリもサクリも母を連れていた。
赤王宮に着くと執務室に案内された。そこは広い部屋だったが、部屋中が書類の山で6人が身を寄せ合わなければならないほどだった。気がつくとセキ国までワタリ達を連れてきた使者ロウが居ない。
ドアがいきなり開いた。
赤い長い髪を藁縄で結んだガタイの大きい男が入ってきた。
目も赤くワタリは怖い感じがした。その男の格好は一言で言うと「浮浪者」。赤い人間の野良着のような前打ち合わせの服をこれもまた藁縄を帯にして膝から下は足がむきだしで裸足だった。
男は言った。
「我が赤国の王、セキである。ご覧の通りこの国は人材不足でな。お前達に手伝ってもらいたい。よろしく頼む。今まではロウと2人でここの仕事をしていたのだ。それなのにロウは妻が妊娠中で役目下がりをしている。ロウはお前達のスカウトだけやってくれた。我が1人でこれだけの仕事を捌くのは無理だと判断したのだ。其方達の名前は流石は皇子、クソ面倒臭い長い名前なので我が命名する。お前はワタリ。」
指を指されワタリはびっくりした。王は続ける「お前はハジリで、最後のお前はサクリ。」
王は話し続ける。
「この赤王宮は、宮仕が約1000人。王宮自体が「公務員の街」だ。女子も全員宮仕だ。王宮内に官舎がある。母上達にも働いて貰う。ワタリの母はガーデンの管理。庭師だ。ハジリの母は少し勉強をしてもらう。その上で小学校教師。サクリの母は、食堂の厨房勤務だ。母上達の得意なことで考えたが、合わないと思ったら職場の上司に相談しろ。そして6人皆が自立するのだ。ワタリ、ハジリ、サクリは「王の補佐官」だ。この部屋に溜まりに溜まった仕事を我と一緒に片付けるのだ。今日は以上だ。官舎へ行って部屋を造れ。」
ワタリは王の言っている意味が分からなかった。「部屋を作るとは?」
セキが部屋の壁にかかっている大きな鏡を指差した。「6人とも自分の姿を見てみよ」
みんなで書類を避けて鏡の前に立つと全員の髪と目が赤くなっていた。
セキが大声で「お前達は今日から赤国の宮仕、赤族になったのだ。赤族は強い神力を持つ。自分好みの部屋を作るくらいは平気でできる。」と言った。
ワタリは自分の部屋に行って驚いた。四角い箱だった。何もない只の立方体の空間。これをどうやって?と思いながら、生国での暮らしを思い出した。外に出たくても出てはダメで窓から空を見ていた。。。すると立方体に窓ができた。そうか、考えるんだ。。。物体そのものを無から具現化するのには集中力が要ったが、大した時間もかからずに生活に必要なものを揃えられた。母の部屋の様子を見に行った。母もお姫様のような可愛い部屋を作り上げていた。
次の日から、皇子3人の地獄が始まった。3人の得意分野は違っていて、ワタリは物を作ることやデザイン。ハジリは神界の歴史や国々の繋がり、サクリは数字に強かった。王が予めそれぞれに向いた仕事に分けてくれたが、溜まりに溜まった仕事は終わりがないように思えた。
セキは「我はお前達が気の病になって何もできなくなることは望んでいない。定時になったら帰れ。残業禁止。休みもとるのだ。六日働いたら必ず休みを1日取るのだ。これらはルールだ。この王宮の。」
そう言いながら、セキ自身は早出残業休みなしだった。
3人は優秀だった。半年も経つと書類の山が無くなり「今日の仕事だけ」になった。
その頃からセキの様子がおかしくなった。自分の大きな椅子に寝そべって寒いジョークを飛ばしてくるようになった。
見かねたワタリが「御加減でも悪いのでは?」とセキに尋ねると「王様なんか、つまんない仕事よ。やりたいことでも自分はやっちゃいけないの。命令だけ。。。毎日の「つまんない」をどうしようかと思ってジョークを考える。ロウは笑ってくれなかったの。命令できないの。ロウは共同経営者みたいなもんだから。お前ら3人は笑うんだよ。わかった?」と言い始めた。
「赤鬼」どころか、赤い変なジジイ!。。。ワタリ達3人は呆れてしまった。
同じ頃、ワタリの母が「好きな人ができたから結婚する」と言った。お相手はガーデンの管理責任者だった。
ワタリは、自分の母の「初恋」を心から祝福した。
結婚式で赤族の特性について知った。「1人に恋心を抱けば、永遠に他の人に恋することがない。運命のお相手は一人きり。赤族の夫婦は幸せになる。全てを分かち合う“気の交わり“をする」
結婚の証は「赤い石の耳飾り。男は右。女は左。2人で1人の証」
母が家族用の官舎に移った。ワタリは、気分を変えて部屋の模様替えをしようと思った。
生国から持ってきたものを全部捨てようと。。。
靴の中から石が転がり落ちた。
ああ、国を出た日に石を投げられて紙に包まっていたから、なんだろうと思って手提げに入れたんだ。。。紙ごと。
紙は?。。。靴の先に詰まっていた。
広げてみたら。。。手紙だった。それを読んでワタリは泣き始めた。
3に続く
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