スイス・ジュネーブで16日に開かれた国連女性差別撤廃委員会の対日審査で、外務省の杉山晋輔外務審議官が慰安婦問題について発言した際に朝日新聞の過去の報道などに触れ、「国際社会に大きな影響を与えた」などと述べた。朝日新聞東京本社報道局は18日、外務省に対し、「根拠を示さない発言」などとして遺憾であると文書で申し入れた。

第三者委員会報告書の全文(PDF)はこちら

 杉山氏は、朝鮮で慰安婦を強制連行したと証言した故・吉田清治氏について「虚偽の事実を捏造(ねつぞう)して発表した」と説明し、「(吉田氏の)書物の内容は当時、大手の新聞社の一つである朝日新聞社により事実であるかのように大きく報道され、日本、韓国の世論のみならず国際社会にも大きな影響を与えた」と述べた。

 さらに、慰安婦の人数について、「20万人という数字も具体的に裏付けのない数字」とし、「20万人との数字のもとになったのは、通常の戦時労働に動員された女子挺身(ていしん)隊と、ここでいう慰安婦を誤って混同したことにあると(朝日新聞が)自ら認めているのであります」などと発言した。

 慰安婦に関する報道をめぐっては、朝日新聞社は2014年8月、吉田氏の証言を虚偽と判断し、関連の記事を取り消した。

 申入書では、国際的な影響について、朝日新聞の慰安婦報道を検証した第三者委員会でも見解が分かれ、報告書では「韓国の慰安婦問題批判を過激化させた」「吉田氏に関する『誤報』が韓国メディアに大きな影響を及ぼしたとは言えない」などの意見が併記されたと説明。国際社会に大きな影響があったとする杉山氏の発言には根拠が示されなかったと指摘した。

 また、女子挺身隊と慰安婦を混同して報じた点について、朝日新聞社はおわびし、訂正しているが、20万人という数字について、「女子挺身隊と慰安婦の混同がもとになったとは報じておりません」と指摘した。慰安婦の人数については諸説あることを報じていることも伝えた。

 川村泰久外務報道官は文書を受け取った上で、「お申し入れの内容が詳細なので、精査させて頂きます」とコメントした。

     ◇

 朝日新聞による慰安婦報道を検証する「第三者委員会」が2014年12月22日に公表した報告書で、「国際社会に与えた影響」については三つの報告が併記された。このうち吉田清治氏の証言(吉田証言)をめぐる報道について触れた主な部分は以下の通り。

 岡本行夫委員、北岡伸一委員

 「(日本軍が、直接、集団的、暴力的、計画的に多くの女性を拉致し、暴行を加え、強制的に従軍慰安婦にした、という)イメージの定着に、吉田証言が大きな役割を果たしたとは言えないだろうし、朝日新聞がこうしたイメージの形成に大きな影響を及ぼした証拠も決定的ではない。しかし、韓国における慰安婦問題に対する過激な言説を、朝日新聞その他の日本メディアはいわばエンドース(裏書き)してきた。その中で指導的な位置にあったのが朝日新聞である。それは、韓国における過激な慰安婦問題批判に弾みをつけ、さらに過激化させた」

 波多野澄雄委員

 「朝日新聞の吉田氏に関する『誤報』が韓国メディアに大きな影響を及ぼしたとは言えない」

 林香里委員

 「国際報道調査のもっとも端的な結論は、朝日新聞による吉田証言の報道、および慰安婦報道は、国際社会に対してあまり影響がなかったということである」

 

2016年2月18日(木) しんぶん赤旗

日本政府「慰安婦」強制連行を否定

国連委で強い批判

女性差別の撤廃を審議

 【ジュネーブ=玉田文子】国連女性差別撤廃委員会による日本報告に対する審議が16日、ジュネーブの国連欧州本部でおこなわれ、日本軍「慰安婦」問題に対する日本政府の対応が厳しく批判されました。

 政府代表団の杉山晋輔外務審議官は「慰安婦」問題について、「日本政府が発見した資料の中には軍や官憲による、いわゆる強制連行を確認できるものはなかった」と説明しました。さらに、「性奴隷という表現は事実に反する」とのべるとともに、昨年12月の日韓合意で「最終的かつ不可逆的に解決した」などと主張しました。

 これに対し委員は、「非常に不満で許容できない。だれも歴史を変えることはできないし、逆行することもできない。問題を否定する一方で、日韓合意をすすめる政府の態度は矛盾している。問題がないのであればなぜ、合意する必要があったのか」と強烈な不満を突きつけました。

 女性差別撤廃委員会は日本政府に対し1994年以来繰り返し、日本軍「慰安婦」問題の解決を勧告しています。

 ところが政府は、第7、8回報告で「本条約を締結(1985年)する以前に生じた問題に対して遡(さかのぼ)って適用されないため、慰安婦問題を本条約の実施状況の報告において取り上げることは適切でない」として、開き直ってきました。

「国際社会で 通用しない」

 審議を傍聴した日本婦人団体連合会の柴田真佐子会長の話

 委員会は、日本軍「慰安婦」問題について被害者への補償、加害者処罰、教育を含む永続的な解決を繰り返し勧告してきました。重大な人権侵害であり、今も続いている紛争下での性暴力を根絶する上で、この問題の解決が欠かせないという立場なのです。日本政府の対応は、人権問題だという認識がまったく欠如していることを示すものであり、国際社会では通用するものではありません。

 

異例の自費出版で大反響の『外務省犯罪黒書』。こんな人物が外交のトップに上り詰める国でいいのか?

2016年02月02日 17時00分
提供:週プレNEWS

今から14年前の2002年、当時、自民党の衆議院議院運営委員長で現在、新党大地代表の鈴木宗男氏と、同じく当時、外務省国際情報局主任分析官で現在、ベストセラー作家の佐藤優氏が“国家の罠(わな)”にはめられた。 

東京地検特捜部が動き、犯罪をでっち上げられて逮捕・起訴されたのだ。いわゆる「鈴木宗男事件」である。裁判では、鈴木氏には懲役2年・追徴金1100万円、佐藤氏には懲役2年6月・執行猶予4年が言い渡された。 

普通ならばここで鈴木氏は政界引退、佐藤氏も外務省を辞職し姿を消すところだが、ふたりは不死鳥のごとくよみがえった。 

このふたりには、「絶対に許されざる者たち」がいる。“国家の罠”の裏で暗躍した外務省極悪官僚の面々だ。本来、外交で発揮すべき交渉力、情報戦術を彼らは鈴木宗男事件に投入し、ふたりを闇に葬ろうとした。 

しかし、鈴木氏は国会議員の武器である質問主意書で、佐藤氏は作家としてペンの力で外務省の闇をあぶり出し、彼らに対抗した。『外務省犯罪黒書』は10年前に月刊誌上で彼らが繰り広げた闘いの記録を、今あらためて一冊にまとめたものだ。 

*** 

―この本で外務省の悪事をふり返ると、本当にとんでもない役所だなと実感します。 

順番に見ていくと、モロッコで泥酔運転をして、現地人をひき殺した岡本治男氏。彼は免職にならないどころか、外交特権を使って罪を逃れ、わずか停職1ヵ月の処分で、その後、駐ドミニカ共和国特命全権大使に出世してます。しかも外務省は鈴木先生の質問主意書に対する回答で「この処分に関する当時の判断は、妥当であったと考える」と言っている。 

また、別の章では外国の大使・公使になると、とんでもない金を蓄財できることが明らかにされてます。 

大使になると給料の他にいろいろと手当がつきます。例えば10年前のモスクワで3年間大使をやると、非課税・精算不要の在勤基本手当だけで約3千万円が支給されるとあります。この調子で3ヵ国ぐらいの大使をやれば、国内外に3軒の高級マンションが買える金が貯まるとか。 

他にも、自分たちが使ってきたエージェントを簡単に見捨てた話とか、在ロシア日本大使館を舞台にした「ルーブル委員会」なる裏金組織があったこと、1972年の沖縄返還の密約についてのウソを絶対に認めないことなども暴露されています。 

そして、この本のある意味、主役である杉山晋輔外務審議官。彼は93年8月から95年1月のわずか1年半の間に外務省機密費2億円を使い込んだ。しかもその使い道は、銀座の高級クラブでの豪遊のみならず、料亭では全裸で肛門にろうそくを立てて点火し、座敷を這(は)い回る高等変態プレイまで含まれているとあります。 

佐藤さんがこの本を今、自費出版という形ででも発表しようとされた理由のひとつが、悪の大本命・杉山審議官がもうすぐ外務次官に就任しそうだからということです。ちなみに今、この本はどれくらい売れているんですか? 

佐藤 自費出版だと普通売れるのは数百部くらいでしょうが、おかげさまで1万部くらい出ているようです。 

鈴木 そりゃすごいですね。 

佐藤 杉山さんが最近、「鈴木先生の一件は、自分は本当はやりたくなかった。でも、当時の竹内事務次官にものすごい調子で言われ、生き残るためには仕方なかった」と言ってるそうなんですが、この話は鈴木先生の耳にも聞こえてきてますか? 

鈴木 きてますね。組織の一員として、上の意向に従わざるを得ませんでした。私の本意ではなかったんです、とね。 

―金は使い込んだ上に、変態プレイも大好きな人物が外務省のトップに上り詰める。それも驚きですが、そんな人が本当に北方領土交渉なんかできるんでしょうか? 

佐藤 義理を欠き、人情を欠き、平気で恥をかいてでも自分の出世を目指していくのが杉山さんです。今、安倍総理はサミット前の5月に訪ロしようと考えてます。それが実現しないと自分の出世はないと考えたら、杉山さんは一生懸命になるでしょう。 

―ロシア側はそんな杉山さんの性格を知っている? 

佐藤 よくわかっています。だから杉山さんが「国際情勢、日ロの戦略的提携」とか言っても、絶対に信用しないでしょうね(笑)。 

安倍総理の訪ロが実現しないと、自分の地位が危うくなるから命懸けでやる男であること、そして安倍総理の訪ロを実現させるためなら日本にとって不利な条件であっても譲歩するからくみしやすいこと、この2点をロシア側は見極めてるでしょう。 

―すると、日ロ関係が動くかもしれない? おふたりはよく「外交は人だ」とおっしゃってますが、それが“杉山外交”にも表れるんですね? 

佐藤 そうです。類は友を呼ぶで、ロシア側にも杉山系の人間がたくさん出てきます。時代劇の悪代官のところに悪徳商人が来て「お殿様、ここのところはこれで」という感じで交渉は進みます。 

今、化石燃料が安くなっているからロシア経済は大変です。しかし、中東で有事があれば、原油価格は一気に30倍ぐらいに跳ね上がる。そういう情勢なので、安定的・多角的に油を入れられるようにしなければならない日本はロシアと安値で長期契約ができるチャンス。日本にとってこのカードは外交上すごく有効なんですが、外務省はそんなこと全く考えていないでしょうね…。 

―この本にも書かれていますが、10年前の連載時から佐藤さんは外務省改革案を出されていました。それは10年たってどれくらい実現してるんでしょうか? 

佐藤 来年から入省する新人にTOEFLを受けさせる点は進歩しました。外交官試験を廃止したので、私がいた頃に比べて、語学力が弱い人間が大量に入ってきましたから。 

―10年前の段階でも外務省の能力が落ちているとありますが、今はどうですか? 

佐藤 日本外交で過去10年、例えば、国連常任理事国入りなど成功した事例は何かありますか? 成功したのは大使館の数が増えたことだけです。 

―10年前は、大使になると都内にマンションを3軒買えるほど金が貯まるとありました。これは? 

佐藤 10年前は3軒買えたのが今は1軒になりました。鈴木先生が質問主意書で、大使手当の積算根拠を聞いたりしたので、あまりデタラメができなくなりましたから。外務官僚からすると寂しい時代になりました。 

―鈴木先生の質問主意書爆撃と、佐藤さんのメディア暴露戦略が効果を挙げたわけですね。 

ところで、以前、佐藤さんは杉山審議官が次官になると、「とりあえず日本外交は止まる。再び動くのは、杉山さんが駐米大使になろうとして画策する時だろう」とおっしゃってました。杉山さんが外務省次官になるのがほぼ確定といわれている今、日本外交は何か動くんでしょうか? 

佐藤 それはひと昔前までのトップ。今はその上に日本版の国家安全保障局(NSC)の局長職がありますからね。駐米大使はアメリカの国務長官、国防長官にいつでも会えるわけじゃない。しかし、NSC局長はいつでも会える。さらにNSC局長は常に官邸にいますから、杉山さんはNSC局長になりたがるでしょう。 

鈴木 NSC局長と駐米大使なら、NSCを狙うでしょうね。総理の信頼があれば、これは大変な力のあるポストですから。 

佐藤 でも、杉山さん、本当に次官になれますかね? 

鈴木 私はこの本が出た関係で、賢明な判断をされる人が出てくると思いますね(笑)。 

(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博) 

●佐藤 優(さとう・まさる)

1960年生まれ、東京都出身。外務省時代に鈴木宗男氏と知り合い、鈴木氏同様、国策捜査で逮捕・起訴される。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活躍。近著は『資本主義の極意』『大世界史』(池上彰氏との共著) 

●鈴木宗男(すずき・むねお)

1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。2002年に国策捜査で逮捕・起訴、2010年に収監される。現在は2017年4月公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中! 近著に『ムネオの遺言』『外交の大問題』(佐藤氏との共著)がある 

■佐藤氏が月刊『現代』2006年6月号から2007年1月号にかけて連載していた「外務省『犯罪白書』」と、鈴木氏の『闇権力の執行人』の第4章を合わせてまとめた一冊。この数十年の外務省の黒歴史、外務省の体質が赤裸々に描かれている(講談社エディトリアル、1600円+税) 

 

 

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