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わかりにくい表題ですみません。
このブログは表題を50文字に収めないといけなくていつも四苦八苦するんです。
言いたいことはこういうことです。
本日2015年5月10日の毎日新聞朝刊に、憲法違反の集団的自衛権行使を認めてしまう戦争法案について
安保法案:「新3要件」全て明記 武力行使 条文判明
という大きな記事が載りました。
その冒頭に
政府が14日に閣議決定する安全保障関連法案の全条文案が判明した。集団的自衛権行使を容認した昨年7月の閣議決定で示した「武力行使の新3要件」の「必要最小限度の実力行使」に関し、改正する武力攻撃事態法案に「事態に応じ合理的に必要と判断される限度」(3条)にとどめると明記。これにより新3要件は全て法案で明文化された。閣議決定した「歯止め」を法案に盛り込むことで、限定的な行使だと強調する狙いがあるとみられる。
と書いてあったのです。
そこで、法律家から見ると
「必要最小限度」と「合理的に必要と判断される限度」は全く違うものなので、毎日新聞はアホなのか、それとも何か国民に悪意でもあるのか、ということが言いたかったのです。
これを50文字にするのは無理ですよ(笑)。
アホと言うか、悪意があるというか、この「安保」法制の条文をつかんだというのは毎日新聞の「スクープ」=安倍政権からの垂れ流し、のようなので、見出しや内容まで官製の記事なんでしょう。
さて、できるだけ噛み砕いて説明しますから、20行だけついてきてくださいね。
法律用語で言う「必要最小限度」と言うのは文字通り、武力行使は必要不可欠な範囲に限定されます。
たとえば、この場面で敵に対して有効な攻撃にABCDEという五種類の攻撃方法があるとして、AからCに順番に威力の大きな攻撃だとすると、必要最小限度の攻撃とはEの攻撃のみを指します。同じ目的を達成できる攻撃の中で一番程度が小さい攻撃だからです。
ところが。
「事態に応じ合理的に必要とされる限度の攻撃」と言うのは、ABCDEの攻撃、全部を含むんですよ!
逆に、この場面で全く不要なFやGという攻撃は「不合理」な攻撃ですからできません。しかし、AからEはどれもこの場面で有効な攻撃なんですから「合理的に必要な限度」の攻撃なんです。この要件では、威力や火力の大きさは関係なしなんですよ。
このように「合理的で必要な限度」というのは武力行使の大きさを限定したものではなくて、武力行使の必要性を合理的か否かで画する基準なんです。
まとめると、「必要最小限度」は武力行使の機会と程度、両方の範囲を狭めて最小限度にするということ。
「合理的に必要とされる限度」というのは武力行使の機会を合理的な場合だけに狭めるということ。攻撃がこの場面で有効で意味があれば合理的ですから、この要件はクリアで、武力行使の程度・威力の大きさは問われないのです。
少し日常用語の使い方と違うかもしれませんが、法律の文言としてはこの両者は全く別の意味で使われています。
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私が毎日新聞の安保法案:「新3要件」すべて明記という記事を読んで呆れた理由がお分かりいただけたでしょうか。
3要件では『必要最小限度』となっているものを、「合理的に必要な限度」とされているのにちゃんと規定したというのですから、ちゃんちゃらおかしいわけです。
いかに記者クラブと言うのが政府御用達で、政府の広報に成り下がっているかがわかります。
さらにもう一つ警鐘を鳴らしたいことがあります。
この記事が取り扱っている「武力行使の新3要件」というのはこれです。政府が昨年2014年7月の集団的自衛権行使容認の閣議決定に当たり新たに策定しました。
(1)我が国、または我が国と密接な関係にある他国に対し武力攻撃が発生し、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある
(2)他に適当な手段がない場合に、
(3)必要最小限度の実力行使にとどまる
ものに限って認めるというものです。
一見物凄く範囲を狭めているように見えますよね。
でも、そもそも忘れてならないのは、憲法9条が戦争放棄と交戦権の否認を明確に規定しているのに、日本自体が攻撃された場合の専守防衛の時だけは良いじゃない、と個別的自衛権の行使の時だけは合憲と無理やり解釈してきたことなんです。
だから、他国が攻められた場合に日本も参戦する集団的自衛権行使なんて憲法で許されるわけがないのであって、どんな条件を付けて見せても見せかけだということです。
したがって、新武力行使3要件なんて重々しく言っていますが全部誤魔化しです。
たとえば、1番長い最初の要件ですが、アメリカがイランか「イスラム国」侵攻を始めて反撃を受け、沖縄から行ったオスプレイを撃墜されたり、横田基地から行った空母ジョージ・ワシントンが「自爆テロ」攻撃を受けたとします。
もう、日本のテレビや新聞は大騒ぎですよ。連日連夜この攻撃で損傷した機体、負傷した兵士の映像であふれかえります。
アメリカの現地司令官も大統領も深刻な顔で記者会見します。
安倍首相は「敵」に対する怒りと深い悲しみを表明し、同盟国アメリカに対する断固とした支持を宣言します。
亡くなったアメリカ兵士が軍用機でアメリカ本土に運ばれ、国旗で包まれた棺が飛行機から霊柩車へと運ばれます。
その方たちのお連れ合いやお子さんが泣いてその棺に取りすがります。
そしたら、アメリカが攻撃されたというだけで、日本の存立が脅かされ、国民のなんとかかんとかが根底から覆される明白な危険があるということになりませんか。
だって、日米安保条約を結んでいて日本はアメリカ軍に守られているということになっているわけでしょう。
結局、アメリカがやられるかもしれないと言えば、日本が凄く危ないということにすぐなるんですよ。
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しかも、今考えたら、この時自衛隊はもう現地にいるんですよ!
順を追って説明しますと、実はこういうアメリカなど有志軍が戦争を始めたときには、国際平和支援法で「後方支援」のために自衛隊は現地に向かうことができます。これには国会の事前承認が必要です。
イラク戦争で言うと、サマワにヒゲの隊長佐藤正久の部隊がいるようなものです。
そして、武力事態攻撃法では自衛隊の攻撃は国会の承認が事後承認でいいのです。
安倍首相が「存立危機事態攻撃」だと判断したら、自らの判断だけで、即、現場にいる自衛隊にアメリカの戦争への参戦を命じることができます。
すると、中東にいる自衛隊はいきなり「敵軍」に攻撃できるのです。
私も今まで武力攻撃事態法で自衛隊が出動するのって、日本からでかけていくようなイメージでいたのですが、戦争はすぐ始まられるんでした!
なんだか、ここまで書いてきたことが全部細かいことのようで、ふっとんじゃったなあ!!
あと、もう一つ。
残る新武力行使3要件の
(2)他に適当な手段がない場合に、
というのが、毎日の「スクープ」した条文ではちゃんと規定されていません。
《武力攻撃事態法改正案》
9条 政府は対処に関する基本的な方針(対処基本方針)を定めるものとする。対処基本方針に定める事項は、次の通りとする。事態の経緯、事態が武力攻撃事態、予測事態、または存立危機事態であることの認定及び認定の前提となった事実。我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がなく、事態に対処するため武力の行使が必要であると認められる理由。
と規定されているのですが、国民を守るためにほかに適当な手段がない、と武力攻撃できないという条文になっていなくて、そんな状態だと認めた理由を政府が説明しないといけない、というだけの規定になってしまっています。
毎日新聞さんよう。
これのどこが、新3要件明記なんだよ。
しかし、いきなり自衛隊がもう戦地にいてすぐ参戦するのに気付いて驚きました。
このこと、誰か言ってます?俺のスクープ!!?
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毎日新聞 2015年05月10日 東京朝刊
<国際平和支援法案>
1条 脅威を除去するために国際社会が国連憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い、我が国が国際社会の一員として主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの(国際平和共同対処事態)に際し、諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等を行うことにより、国際社会の平和及び安全の確保に資することを目的とする。
<平和安全法制整備法案>(現行法10本の改正法案)
《武力攻撃事態法改正案》2条4 存立危機事態 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう。
3条4 存立危機武力攻撃を排除するに当たっては、武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない。
9条 政府は対処に関する基本的な方針(対処基本方針)を定めるものとする。対処基本方針に定める事項は、次の通りとする。事態の経緯、事態が武力攻撃事態、予測事態、または存立危機事態であることの認定及び認定の前提となった事実。我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がなく、事態に対処するため武力の行使が必要であると認められる理由。
《自衛隊法改正案》95条2 自衛官は、米軍その他の外国の軍隊、これに類する組織の部隊であって、自衛隊と連携して我が国防衛に資する活動に現に従事しているものの武器等を警護するに当たり、必要であると認める相当の理由がある場合には、事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。
《重要影響事態法案》1条 日米安保条約の効果的な運用に寄与することを中核とする重要影響事態に対処する外国との連携を強化し、我が国の平和及び安全の確保に資することを目的とする。
毎日新聞 2015年05月10日 東京朝刊
政府が14日に閣議決定する安全保障関連法案の全条文案が判明した。集団的自衛権行使を容認した昨年7月の閣議決定で示した「武力行使の新3要件」の「必要最小限度の実力行使」に関し、改正する武力攻撃事態法案に「事態に応じ合理的に必要と判断される限度」(3条)にとどめると明記。これにより新3要件は全て法案で明文化された。閣議決定した「歯止め」を法案に盛り込むことで、限定的な行使だと強調する狙いがあるとみられる。(6面に安保関連法案要旨)
安保関連法案は、国際的な平和協力活動で他国軍を後方支援するために新設する「国際平和支援法案」と、自衛隊法や武力攻撃事態法など既存の関連法10本を一括して改正する「平和安全法制整備法案」の2法案として国会に提出される。
集団的自衛権に関しては、武力攻撃事態法改正案の2条に、他国への武力攻撃でも「我が国の存立が脅かされ」、国民の権利が「根底から覆される明白な危険」がある場合を「存立危機事態」と定義し、行使を容認。9条で、行使の際は「他に適当な手段がない」と示すよう要求。「必要最小限度」とともに新3要件を反映した条文案となった。
国際平和支援法案は、活動場所は「現に戦闘行為が行われている場所」以外であれば可能とした。与党協議の焦点だった国会承認では「例外なき事前承認」を要求した公明党に配慮し、「首相は対応措置の実施前に、基本計画を添えて国会の承認を得なければならない」と明記。国会は承認を求められてから「休会中の期間をのぞいて7日以内」に承認を議決するよう求めた。
一方、もう1本の他国軍への後方支援の法案、重要影響事態法案は、「放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態」(重要影響事態)で、米軍や共に活動する友好国の軍への支援による日本の安全確保を目的に掲げた。
国連平和維持活動(PKO)協力法改正案では、国連主導以外の活動を「国際連携平和安全活動」として容認。国連安全保障理事会などの決議を踏まえた活動や欧州連合(EU)など、政令で定めるその他の国際機関の要請に基づく活動への自衛隊派遣も可能にする。武器の使用基準についてもPKOを含めて任務の遂行が妨害された場合の武器使用などを容認する。
政府は14日、関連法案と同時に、武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」への対応に向けた三つの方針も閣議決定する。離島に武装集団が不法上陸した場合や公海上で日本の船舶が襲われた場合、速やかに海上警備行動を発令するため、「電話等により各国務大臣の了解を得て閣議決定を行う」ことを決める。【飼手勇介】
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■ことば
◇武力行使の新3要件
政府が昨年7月の集団的自衛権行使容認の閣議決定に当たり新たに策定した。(1)我が国、または我が国と密接な関係にある他国に対し武力攻撃が発生し、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある(2)他に適当な手段がない−−場合に、(3)必要最小限度の実力行使にとどまる−−ものに限って認める内容。
よろしかったら大変お手数とは存じますが、上下ともクリックしてくださると大変うれしいです!
そもそも公明党と安倍との間で擦り合わせて作られた新三要件はまだ個別的自衛権と評価できる面もあったんですよ(個別的自衛権と集団的自衛権の境目が曖昧な部分があるのでそこを従来より明確化し、個別的自衛権の限界を定めた。こういう見方だと要件に当たるのは容易に想定し難い事態ということになる)。ネーミングは集団的自衛権ってよんでますけどね。中身は個別的自衛権、という評価もできた(少なくとも公明党はそう考えて切り抜けたと思っていた)。でも安倍は不満だったんでしょうね。法律論としては相当厳しい要件なのですが、素人の安倍はその意味するところを理解せず、かなり緩やかな要件と考えている。それで、中身は未だに個別的自衛権という公明党が想定する該当事例と、安倍の言っているこの要件にあたるとする例がズレるなんてことが生じていたわけですが。
ですから、政府見解をどう法案化するか、というところが重要なポイントだったわけです(公明党の考えのとおりの個別的自衛権に相当する厳格な要件が定められるのか、安倍の緩やかな解釈に沿って定められるのか)。
で、結局一部は安倍への配慮ということで、個別的自衛権に相当する事態でないと行使できないが、行使する場合はとりうる措置に裁量を広めに認めた、ということなのでしょう。