最近、食べログでやらせが発覚し、それはそれで法律的にも難しい話なのですが、こちらもなかなか難しい法律問題です。
2012年4月1日付け毎日新聞
インターネット上での匿名の投稿で名誉やプライバシーが侵害されたとして、投稿者に関する情報の開示を求める動きが広がりつつある。「口コミ」サ イトに「患者を人間と思わない」などと投稿された富山県高岡市の産婦人科病院がこのほど、投稿者情報の開示を求める訴訟を富山地裁高岡支部に起こした。専 門家は「根拠なしに悪意で相手をおとしめる誹謗(ひぼう)中傷は犯罪にあたる」と警鐘を鳴らす。
訴状によると、昨年5月、病院の口コミ情報サイトに同病院について、具体的事実を示さず「患者を人間だと思っていない医者がいます。軽い気持ちで 診療を受けると、一生心の傷を受けます」などと投稿があった。投稿者は匿名だが、NTTコミュニケーションズ提供のネット接続サービスの利用者であること が病院の調査で判明。病院は同社に投稿者情報の開示を求めたが、拒否されたという。
病院側は「(投稿は)病院の社会的評価を低下させることに主眼がある」と指摘。投稿者が判明次第、損害賠償を求める方針だ。同社は取材に対し、「係争中でコメントできない」としている。【大森治幸】
ネット犯罪に詳しい甲南大法科大学院の園田寿教授(刑事法)の話 公共性のある事実を公共目的で投稿した場合、それが真実であれば罪に問われない が、具体事例を示していない場合は、信用毀損(きそん)罪にあたる可能性もある。投稿が思わぬ被害を与えることもあり、情報を発信する時は、自覚が必要 だ。
毎日新聞 2012年4月1日 12時22分(最終更新 4月1日 12時57分)
この病院が原告になり、NTTコミュニケーションズを被告に起こした裁判で、病院が勝訴しても、刑事告訴をするのではなくて、民事上の損害賠償請求や削除請求をするだけだと思います。
それでも、損害賠償を請求しようとしたら、不法行為にあたらないといけないので、口コミサイトへのこの書き込みが違法ということを病院が立証しないといけません。
さらに、この記事の冒頭に、専門家は「根拠なしに悪意で相手をおとしめる誹謗(ひぼう)中傷は犯罪にあたる」と警鐘を鳴らしたとあるのですが、口コミサイトで人の悪口を書くのって、違法なんでしょうか。刑法で言うと何罪になるんでしょうか。
この記事の末尾の部分で、有害サイトや不正アクセスなどネット犯罪の分野で高名な園田先生が、「信用毀損罪」にあたる可能性があるというコメントをされたとあるのですが、これは記者の聞き間違いでしょう。
信用毀損罪(刑法233条前段)は虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損する犯罪です。判例・通説で、その保護法益は人の経済的な評価とされており、とは経済的な意味での信用を意味するとされています。
つまり、「あの病院は倒産しそうだ」と書き込んだらこの罪になる可能性がありますが、「患者を人間と思わない」などという中傷だと、病院の経済的信用が下がるわけではありませんから、信用毀損罪にはならないんですね。
では、名誉毀損罪(刑法230条)にはあたるのか。
名誉毀損罪は、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合に成立する罪です。この事実は嘘でも本当でもかまいません。この罪の保護法益は人に対する社会的評価です。病院からも「社会的評価」という言葉が出ていますから、病院としては名誉毀損と考えているのかもしれません。
しかし、「患者を人間だと思っていない医者がいます。軽い気持ちで 診療を受けると、一生心の傷を受けます」という書き込みでは、病院の社会的評価を低下させるに足りる「事実」を摘示したことになるのか、微妙ですねえ。
たとえば、「誤診された」とか、「手術ミスがあった」などと書けば、明らかに名誉毀損なんですけどねえ。
ちなみに、事実を摘示しないで、公然と人を侮辱すると侮辱罪(刑法231条)になります。この罪の保護法益も、判例通説は人の社会的名誉であると考えていますが、事実を指摘しないと社会的名誉が傷つけられる程度は低いので、刑罰としては軽い拘留または科料しかありません。
まあ、この侮辱罪の構成要件には該当しそうですね。
でもね、一応形式的に侮辱罪の構成要件に該当しても、侮辱罪という犯罪が成立するわけではありません。たとえば、人を殺してしまっても=殺人罪の構成要件に該当する行為をしても、正当防衛だと違法性がなくて無罪になりますよね。
表現の自由と名誉権には緊張関係があるので、名誉毀損罪にも、表現の自由が優先され、違法性がなくなる場合の例外規定があります。
刑法230条の2は、名誉毀損行為が公共の利害に関する事実に係るもので、専ら公益を図る目的であった場合に、真実性の証明により、違法性がなくなり、無罪となることを認めています。
そして、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなされます(230条の2第2項)。
さらに、公務員または公選の公務員の候補者に関する事実に関しては、公益目的に出たものである、ということまでが擬制され、真実性の証明があれば違法性がなくなり、無罪とされることになっています(230条の2第3項)。
「事実」は書いてないので侮辱罪が問題になるという場合には、侵害される名誉の程度が名誉毀損罪の場合より小さいわけですから、表現の自由はより保護されることになるでしょう。
市民が利用する病院の実情に関する表現ですから「公共の利害に係る表現」ということになりそうです。書いた中身にもよりますが、口コミサイトに書き込んだのも、広く世間に自分の感想を知って欲しかったのだといえば、「専ら公益目的」だということになりそうです。
侮辱罪が問題になる場合には、事実を書いていないので、「真実性の証明」は問題にならないでしょう。
そうすると、侮辱的な表現でも違法性がなく、犯罪が成立せず無罪、という可能性は高いですねえ。
他に、偽計業務妨害罪(233条後段)の成立も考えられるのですが、この病院のお医者さんが患者さんを人と思っていない、という表現が偽計=嘘なのかどうか。
これって主観的なものでしょう?
そもそも、口コミサイトって、誉める意見も貶す意見も自由に書けるから意味があるわけです。批判をガンガン書いたら犯罪になるなどとは安易に言うべきではありません。
そうすると、具体的な事実を書いてあってその内容が明らかに虚偽である、という場合は違法だと言えても、単なる中傷や悪口の場合には、犯罪になるとか、民事上の不法行為責任を追及するとか言うのは難しいのではないでしょうか。
そんなこと言い出したら、2ちゃんねる掲示板とか、Yahoo!掲示板とか成り立たなくなりそうです。
悪口を書かれる身になるとたまったものではないのですが、「根拠なしに悪意で相手をおとしめる誹謗(ひぼう)中傷は犯罪にあたる」、と言い切るのはかなり難しいなあというのが、現時点での私の結論です。
だからって、他人に対する抽象的な中傷を書きまくるのは止めましょうね!
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わかりやすくご解説ありがとうございます。
このように、この場所にコメントすることも、閉じられた空間ではなく、誰もが目にする場所に書いているんだなと改めて気が引き締まりました。
もし そうなら 自分より強い立場の人や企業などには 批判的なことは 言えなくなりそうです。
ところが、先日、主治医から「今すぐ退院してもらいたい」と言われました。息子の私が病院や主治医の悪口を書いたり、PET-CTや病室での母の写真をFacebook等で公開したからだというのです。
私が書いた文章を他の方にも読んでもらいましたが、病院名は出してはいましたが、主治医の名前や診療科については書いてはいませんでした。何で怒るのかな、という声も少なくありませんでした。
ところが、主治医はそれを読んで「これは俺の事を書いているんだな」「もう上司も激怒しているから入院はできない」と言われ、挙げ句の果てには「あなたが自分で自分の首を絞めているからこうなるんだ」と言われ、言われてから2日後に退院しました(させられました)。
確かにこの医師は威張った態度をとり、パターナリズムの典型的な医師だったのですが、他の職員、看護師らも高飛車な態度を取る方が多かったです。病気や治療に関する詳しい説明が殆どないのです。看護師は薬剤の名称を覚えられず、手にボールペンで書いて、患者に薬剤を投与しています。
初めに以前お世話になった弁護士に電話をしたところ、「こういう話は保健所に言え」と言われてしまい、保健所に相談したら、「急に退院を告げられて困っている患者がいるので配慮して欲しい」という電話を一本かけただけでした。
厚生労働省の担当課にも相談しましたが、病院側が抵抗しているので、別な病院を探して欲しいと言われてしまいました。
地方都市で、母の病気を治せる病院は数少ないです。それを知りつつ、退院を事実上強制したのはなぜなのでしょうか。やはり私の言動に問題があったからでしょうか。母は一切、暴力や暴言を吐いたり、医療行為を妨害したこともありません。
その主治医曰く「親子だから同じだもんな」という言葉は何とも理解に苦しみます。
数万人に一人という病気なので、病院探しは困難を極めています。風邪や骨折なら、別の病院がすぐ見つかるのですが、母の場合はそうは行かないのです。
退院時に「(母は)今後、当院での一切の診療行為を求めない」との誓約書に署名、捺印を求められ、付き添っていた弟が代筆したそうです(私はその場に来ないでくれと、病院側から言われていたので、その場には行けませんでした)。
悪口と言っても、馬鹿アホ間抜け、と書いたわけでも無く(主治医の思い込みで自分の事だと思っている)、PET-CTの写真掲載でも、以前と今とを比較して、載せただけです。
政治家の先生にも相談してみましたが、事務方の言いなりで殆ど動いてくれませんでした。
この総合病院は、つい最近も診療報酬の不正請求をしていたことが明るみになりました。過去には麻酔事故を起こしたり、胎児を死亡させる等して、多額の和解金を支払っています。
多分、母を退院させるようにしたのも、訴訟を起こされる前に追い出そうという医師や看護師、事務関係者のいとによるものなのでしょう。FBには書きませんでしたが、治療の失敗で増悪させてしまったことに気付かなかったのです。他院の検査でそれが分かってしまいました。
地元の弁護士もなぜかこういう問題には、関わろうとせず、政治家のセンセイ方も今後の事があってから、遠慮気味です。
私も入院した経験がありますが(この病院ではない)、今回のようなことは初めて体験しました。もちろん母もです。
刑法、民法、医師法等を何度も読んでみましたが、納得がいかないまま、今日に至っています。
ただ、母の病状は日ごとに悪くなっているので、弁護士に相談したり、医療ADR(弁護士会が対応)に相談する時間はありません。
ハズレの病院にあたってしまったのでしょうか。友達の輪というのがいかに危険かと言うことを痛感させられました。Facebookはすでにアカウント抹消の手続きをしました。
私立病院ならありそうな話ですが、地域の基幹病院である公立の総合病院での出来事で、医療に対して信じられなくなりました。
新聞社にも電話をしましたが、「病院を相手に訴訟を起こしても負けるだけだから・・・」と言われた次第です。
最近は病院医院の口コミサイトが多数出てきていますが、読んでいると結構厳しい事が書かれていたりします。こういう事もこの病院にとっては許されないことなのでしよう。
もちろん全部の病院がこんな風とは思ってはいませんし、患者の事をよく考えて対応してくれる病院医院は多いです。
ただ、この病院がこの10年間のうちにかなり劣化してしまったことに、悲しい思いがするのです。
患者を虫けらのように扱う病院というのは、各地にあるのでしょうが、自分や母が体験したようなことは全国で果たしてどれくらいあるのでしょうか。
※入院時の誓約書、入院中の心得等のには、病院批判禁止、医師湖畔禁止ということは書かれてはいませんでした。Facebookに写真を載せることも全く触れられていません。
こういう事が多くなると、掲示板のようなサイトは消えていくでしょうし、もちろん口コミサイトも無くなるでしょう。病院を賞賛するような記事が増えるかも知れませんが。
再び票院はブラックボックスのようになってしまうのでしょうか。病院の内規にも書かれていないようなことで、退院を強いる、今後の医療行為はしない、ということが頻繁に出てくるのでは、と危惧しています。
北に行くほど人は冷たくなっていくものなのでしょうか・・・。今後は二度とSNSの類には入らないつもりです。
ちなみにこれは嘘ではなく投稿者が実際に体験した事とします。 もちろん投稿者以外は真実か嘘かは分かりませんが、投稿者は事実を書いている事とします。
例え県外でも専門医にかかることをお勧めします。
その上で地元の病院へ紹介してもらい、主治医は県外で
主治医の指示の下、地元で治療してもらえば問題はないと思います。
専門医には半年に1回か1年に1回はかかりましょう。
治療を考えても専門医にかかることが得策です。
私も、5年前事故で頚椎、腰椎、両股関節、両膝を痛めました。車は廃車になりました。
今でも、膝や股関節に水が溜まります。2か月前から
股関節に水が溜まり、激痛に耐えていましたが、夜も眠れなくなり、専門医にかかりました。
関節注射の痛み止めを行って貰いたかったのですが、
持って行った画像のMRIは「取り込めない」と嘘を言われ、撮影していたレントゲンだけ取り込み、更に腰、両股関節、両膝のレントゲンを撮りまくり、「骨に異常がないから問題ない。歩けているから問題ない。」と怒鳴られました。
お金だけ取って、説明はせず、軟骨や筋、神経の損傷は無視して、内視鏡のオペを県外で行うように紹介状をもらっていると告げると、「そこへ行くのが筋道だ。」
叱られました。
「保険会社と縁は切れているのか?」と訊かれた後の豹変ぶりでした。
因果関係を求めているのではなく、今の壮絶な痛みを和らげるために専門医にかかった次第でしたが、文句ばかり言われ、無駄な画像撮ばかりして、痛くてたまらなくて2日間ほとんど寝むれていないのに堪えました。
事故の患者を診たくなければ、最初から拒否してもらいたいです。
県外の専門医は保険会社とのことは聞きませんし、患者の症状を診てくれます。
画像に異常がなければ、問題があるわけないなんてことはあり得ません。
医師の評価をネットに書いてくれるのは参考になります。私も病院のHPで専門であり、県外からの患者も受け入れていた(田舎なのに)ので、痛みを止めてくれるだろうと思った次第です。
藪医者が一番吠えます。
そんな病院は切り捨てて、患者を思いやれる医師は専門医(著しく特化している)に多いので探しましょう。
自分の診療に自身があればネットに掲載されようがいちいち目くじら立てないと思いますよ。
ましてや個人情報を流出させたわけでもないのに。
医者もお医者様の時代は終わって、患者に評価される時代になっていることを自覚しないといけないと思いますね。
物理的にも立ち直れないまま、今に至っています。
もちろん、実名の口コミもし、人間関係の行き違いなどとして、苦情も取り合わない歯科医師会を批判する他人のブログにも書きました。
患者は診療室では、信頼しようとする気持ちを利用されて一種の〔カルトマインド〕状態に陥ると思うので、従順な患者であるほど、後に治療に入ってから、疑念がわき、悩み、誰からも救済されない思いから、また自責の念で口コミに走ってしまいがちです。
患者特有の、この心理を理解できない医療従事者には
他のところにも書きましたが、社会的に淘汰はされないとしても、ご自分がいずれ患者になったときに、遅ればせながら、身にしみることと思います・・・。