ロータリーエンジン搭載第1号 マツダコスモスポーツ
今年のプロ野球セリーグでは、広島カープが25年ぶりに優勝で、広島は沸きに沸きましたが、そのカープ球団の親会社が、自動車メーカーのマツダです。
このマツダ、国内販売シェア等では下位の方に属する小さな自動車メーカーですが、その技術力は世界一かも知れないと私は考えています。
と申しますのも、マツダは世界で唯一、ロータリーエンジン搭載車を製造販売できたメーカーだからです。
ロータリーエンジン開発秘話は、これまたこのブログの自動車記事で再々出てくる、日本のお役人の机上政治が関連いたします。
幻の名車ホンダS360の記事でもご紹介しましたが、悪名高き、特定産業措置法案です。
http://blog.goo.ne.jp/rokochifukyosho/e/537d3525c003c647f3d379c4ca7427be
ホンダS360(未市販)
ホンダS360は、当時の軽自動車枠に収まる、恐らく世界最小の、歴史的スポーツカーになる予定で、ホンダがメーカーとして自動車進出する前に、モーターショーにも出品されましたが、結局販売されませんでした。
日本では自動車メーカーがたくさんあるのでわかりにくいのですが、自動車の生産や販売は、一種の博打のようなものなのです。
エンジンやボディー開発には莫大な投資が必要で、失敗=破産ですから、高額なエンジンなどは、無計画に製造することはできません。
元来ホンダは、軽スポーツカーS360を一発目に世に出して、自動車メーカーとして華々しくデビューしたのち、現実的な販売戦略の元、軽トラックT360で、基盤を固める戦略だったと思われるのですが、それを量産車軽トラックT360に詰まれた結果、製造予定の少なかった超高性能360cc4気筒DOHCは、本来計画されていた製造数に達してしまって、S360用のエンジンがなくなったのではないでしょうか?
そして当時のホンダは、S360の後継として企画されていた、普通自動車規格のスポーツカーS500から、販売せざるを得なかったと私は考えるのです。
となれば、当時の通産省(現経済産業省)が、机上で「良かれ」と思った、特別産業措置法案は、日本から名車をひとつ消し去ったことになります。
ホンダは、メーカーとしての企業戦略を邪魔されましたし、実際に、老舗プリンス自動車は、日産と合併して消えました。
このお役人の、実にお役人らしい判断は、現実的に日本国民の仕事を邪魔し、会社を奪い、財産を奪ったのです。
この、「実にお役人らしい判断」のことを、”社会主義的”とも申しますので、自由主義的経済国家に生きていようと、いつ何時、社会主義的経済に飲み込まれるかはわかりませんので、常に国家の判断には、眼を光らせておかないといけません。
そういう風に、自動車から見える日本と世界は、いつも不埒で傲慢で、目先のことしか見えない役人による邪魔と、それに健気に立ち向かう現場の日本人の、創意と工夫と、汗と努力の歴史なのです。
その1963年に立法直前まで行った、国家によって自動車メーカーを統合する特別産業措置法案に影響を受けたのは、プリンスやホンダだけではありません。東洋工業(現マツダ)もそうだったのです。
中小自動車企業を統合する、産業特別措置法が実施されれば、地方にあって、オート三輪や軽自動車しか作っていなかった当時のマツダは、トヨタなどの大きなメーカーに吸収される運命です。それに対し、企業としての危機を抱いたマツダは、独自企業としての地位を賭けて、超越した技術力を市場に示す必要があったのですね。
そして当時のマツダの下した決断が、ロータリーエンジンの開発と、搭載車市販の成功だったのですね。
さて、通常のエンジンは、燃焼室で空気に混ざった燃料を爆発させて、ピストンを下方に移動させて、その上下の運動を、回転方向に変換させているのですね。
(一般的なピストンエンジン=通称レシプロエンジンの動き)
ところがロータリーエンジンは、ひょうたん型の燃焼室で混合気を爆発させ、それをおむすび型のローターを動かして、直接駆動軸を回す仕組みです。
(ロータリーエンジン動き)
両者を見比べていただけるとわかるのですが、一般的なレシプロエンジンは、爆発によるピストンの上下運動という直線的な動きを、回転に変換しているのですが、ロータリーエンジンは、爆発がそのまま回転運動となります。ですからロータリーエンジンには、どこにもまっすぐな直線が存在しませんし、直線的な動きをする部品そのものが存在しません。
すべてが円構造であって、すべてが回転しているのが、ロータリーエンジンの特徴です。
またロータリーエンジンは、通常のレシプロエンジンと比べて、構造がシンプルで部品も少なく、軽量コンパクトです。
またどこにも直線的な動きがないので、振動が少ない(理論上はゼロ)なのが大きな特徴です。
そして構造上、高回転になっても燃焼トルク(回す力)が落ちないので、小さな排気量で大きな出力が出せます。
レシプロエンジンは、上下動するパーツや、燃焼室を仕切るバルブなどの部品のため、どうしても、本来のトルクが出せる回転数が、構造上決まってしまうのです。
ロータリーエンジンの発明者はドイツの技術者バンケル氏ですし、最初に市販したのは同じくドイツのNSU社でした。
しかし、ロータリーエンジンを積んだ、NSUのRo80という自動車は、エンジンの、頻繁なトラブルのクレーム処理が原因で会社経営が頓挫し、アウディに吸収されてしまいます。
(ドイツ NSU Ro80)
またフランスの老舗シトロエンも、ロータリーエンジン車を販売しますが、これまた頻繁なトラブルが発生し、市販車のほぼすべてを回収して、スクラップとしました。
シトロエンはその後経営が悪化し、同じフランスのプジョー社に吸収されてしまいます。
(フランス シトロエンGSビロトール)
結果的にNSUやシトロエンは、ロータリエンジンの開発市販に失敗し、企業生命を縮めた結果となりました。それだけロータリエンジンは、製造が難しいということです。
世界の名だたる自動車メーカーが挑戦した、夢の動力源ロータリーエンジンの開発に成功し、市販車としてのレベルにまで到達させたのは、日本のマツダだけなのです。
マツダルーチェロータリークーペ
ロータリーエンジンは、レシプロエンジンに比べて燃焼室が大きく、また構造上、熱の逃げが大きいですので、爆発による熱が逃げてしまい、熱効率は低く、それが燃費の悪さにつながります。
また重いローターを回しますし、レシプロエンジンのように、爆発に間隔がないことから、エンジンブレーキがあまり利きませんので、ロータリーエンジン搭載車はブレーキの負担が大きいところがあります。
レシプロエンジンは、たとえば4気筒ならば、一回転あたりで実際に爆発しているのは、実は1気筒だけですから、その他の燃焼シリンダー(気筒)は、爆発以外の吸気・圧縮・排気など他の仕事をしているので、エンジンブレーキが良く利きます。エンジンブレーキというのは、このレシプロエンジンが持つ、動力ロスを利用したものと言えます。
ですから常時連続で爆発しているロータリーエンジンは、エンジンブレーキが苦手です。というロータリーエンジン特有の、ネガティブな評価はあるのですが、それはそもそも、市販にこぎつけたから評価できることであって、世界中どこもこのエンジンの商品化できたのは、マツダだけなのす。
マツダサバンナ(RX-3)国内レース100勝
ではなぜマツダだけが、この難儀なロータリーエンジンを商品化できたのでしょうか?
ロータリーエンジンは、回転工程の中に直線が存在せず、全て「円」の構造です。ひょうたん型の燃焼室も、丸みを帯びたおむすび形のローターも、すべてが「円」です。
このすべてが円構造であり、そのすべてが回転する構造ならば、きわめて精度の高い部品と、その部品を、完璧に組み付ける技術が必要です。ほんの少しでも、設計と違うものがあれば、高回転で回るエンジンでは、あっというまに磨耗して壊れてしまうのですね。
ロータリーエンジンは、高度な設計と精度の高い組み付けがなければ、市販化はできないのです。
要するに、マツダ以外のメーカーは、その精度の高い部品を開発できず、高度な組み付け作業ができなかったということです。
部品点数の少ないロータリーエンジンは、他の部品を使ってのごまかしができません。料理でたとえるならば、化学調味料を一切使わない料理のようなものです。
素材と、料理人の腕だけで、料理の味が決まってしまう・・・みたいなもので、シンプルな構造ゆえに、基礎技術の差が、はっきり出てしまうのですね。
これが意味するものは何か?
それは、「日本の広島という地方自動車メーカーに過ぎないマツダは、世界最高の技術を持っている」という、厳然たる事実を証明しているのです。
マツダサバンナRX-7
マツダは、企業として何度も経営危機に直面しています。最近では1990年代に、販売網の弱さを克服するための、販売網の多角化が要因で、バブル崩壊のあおりを受けて、存続の危機になりました。
それはマツダの、経営面の甘さを指摘する声が主流ですが、私はそうは思いません。
あのとき、バブルがはじけなければ、マツダの戦略は正しかったからです。
あのバブル景気はバブルではなく、実態を伴った経済成長であり、私は役人によるバブル潰しだと思っています。
となればマツダは、やはり役人の、勝手で幼稚な判断による、被害者だと言えますよね。
(2015年東京モーターショー出品 RX-VISION 時期RX-9か?)
しかし、世界最高技術の会社を、世界が放っておくわけがありません。
マツダはその後、アメリカのフォード社に経営権を渡しました。しかし、世界最高技術のマツダの真骨頂は、このときに発揮されます。
フォード社は、ドイツやイギリスにも、現地生産会社を持っています。しかしヨーロッパで生産される、小型のフォード車のエンジンやボディーなどの基幹部分は、マツダが作っていたのですね。
と言うのも、当時フォードグループは、独自では小型車を作る能力がなくなっており、子会社のマツダなしでは生きていけなくなっていたのです。つまりマツダは、資本はアメリカのフォード社に握られましたが、技術では食い破ったと言えます。そして近年、マツダは経営権を、フォードから取り戻しました。ZoomZoomや、スカイアクティブテクノロジー、また日本車離れした車体デザインなどが、最近のマツダのイメージですが、そういう浮ついた面ではなく、しっかりとした基礎技術、しかも世界最高技術の上に、このメーカーは存在しているのです。
今ロータリーエンジン搭載車は販売されてはいませんが、それは売れなくなったからであって、作れなくなったわけではありません。ここは世界最高技術の証明は、いつでも世に出せるのです。
マツダアテンザ
このメーカーには、日本のほかのメーカーとは違い、ZoomZoomやスカイアクティブテクノロジーや、レベルの高い車体デザインなど、商品の開発だけでない、企画と演出ということが考えられるメーカーでもあります。それは、フォード社の傘下にいたことで、身に付けたものかも知れません。
しかし、日本車に必要なことは、マツダのような企画と演出なのです。
企画力と演出力と、世界最高技術持った稀有なる自動車メーカーが、日本のマツダです。
これからのマツダは、大きく飛躍するでしょう。
私はマツダという企業が、神様に愛されているように思えて仕方がないのです。
それはマツダのロゴ MAZDA が、ゾロアスター教の光の神、オーラマズダから来ているからかも知れません。
マツダ(MAZDA)=光の神の名を冠した、世界最高技術を持つ日本の自動車メーカーの飛躍を、一自動車ファンとして、また神を信ずる者として、心から応援したいと思っています。
(ばく)
マツダ コスモスポーツ(後編)
Mazda Rx-9
書籍 「未来産業のつくり方」 大川隆法 (2010年8月) 幸福の科学出版