(スバル1000)
ここ、宗教ブログなのに、なぜだか自動車のことに詳しいです。(笑)
さて、ここ最近取り組んでいる、スバル1000から読み取れる歴史的な学びは、この傑作車が、売れなかったということです。
その理由は様々にあろうかと思いますが、それをマネジメントの観点から探ってみたいと思います。
マネジメントは、「もしも高校生が・・・」で多くの日本人に知られるようになった、ピーター・F・ドラッカー氏が唱えたものですが、その真髄は、マーケティング(顧客創出)とイノベーション(自己変革)にあるとのこと。
傑作スバル1000の販売苦戦を、トヨタカローラ、日産サニー、マツダファミリアといった、激戦区であったから売れなかったと言うことは簡単です。
しかしスバル1000のメカニズムは、世界の多くの自動車メーカーが参考にし、80年代まで、世界の小型車の主流メカニズムであったわけですね。
フォルクスワーゲン(VW)は、ビートルのRR方式を捨て、FFのゴルフを発売しました。
(初代ゴルフ)
ゴルフは、ドイツの国民者となり、世界基準車一歩手前まで行きました。性能的には、世界のベンチマークだったでしょう。
ただし、VWは水平対向(ボクサー)エンジンを捨てました。恐らくボクサーエンジン高い製造コストにあったはずです。長年ボクサーエンジンを作ってきたVWは、ボクサーエンジンの製造コストの高く儲からないことを、嫌と言うほど知り尽くしていたはずですから。
アルファロメオアルファスッドやシトロエンGSも、国民者までには至りませんでしたが、準国民車級の、その国を代表する作品です。
しかしアルファスッドはボディーのクオリティーの問題があり、GSは、シトロエン特有のサスペンションなどの油圧コントロールシステム(ハイドロシステム)に、トラブルがあって主流になれなかったわけで、スバル式、ボクサーエンジン&FFシステムの走行性能などは、当時の水準以上のものがあったのです。
アルファロメオやシトロエンが、これらの対応ができなかったのは、製造コストが通常の2倍かかると言われる水平対向エンジンに、コストがかかっていたからかも知れません。
事実、スバル(日)・アルファロメオ(伊)・シトロエン(仏)・ランチャ(伊)など、水平対向エンジンを長年作っていた自動車メーカーは、すべてほかの自動車メーカーの子会社になっています。ポルシェは一応独立系ですが、フォルクスワーゲン社と資本関係があります。
さてスバル1000は、その知名度が示す通り、実際に自動車を作っている玄人には絶賛されたが、日本の一般大衆には受け入れられなかったということだろうと思うのですね。
少なくとも、顧客に商品の良さが、十分には伝わっていなかったのは間違いないと思うのです。
ではなぜ、一般大衆には受け入れられなかったのでしょうか?簡単に言うと、値段が高かったから・・・となります。
スバル1000の発売当時の価格は、 62万円です。一方、トヨタカローラ(初代)の価格は、 498,000円~.432,000円 となっています。当時の物価から現在の価格を推定すると、大体今の約5倍~10倍の感覚です。
それらを総括し、現代の経済に当てはめると、スバル1000は、350~620万円の商品。トヨタカローラは、250~500万円の商品だったということです。
1960年代当時は、ローンなどの金融システムが、今ほど充実していませんし、金利も高かったです。
ですから、当時の消費者たちは、自動車は一括支払いが主であって、一生の内で、自家用車を何度も買い換えるなんて、考えもつかなかった時代です。
エンジン単体価格が、通常の直列タイプの2倍かかると言われるボクサーエンジン搭載で、スバルはこの価格ならば、かなり努力した数字ですが、12万円の価格差は、一般消費者にはつらいものがあったということですね。現代的感覚で言うならば、60万円~120万円高い商品なわけですから、おいそれと出せる金額ではありません。
スバル1000の水平対向エンジン・インボードブレーキ・FFシステム
しかしそれだけではないと私は思います。
それは、商品の企画と”演出”の面において、トヨタとスバルは決定的な違いがあり、それがその後のカローラとスバル1000、そしてトヨタとスバルの会社の運命を変えたと思うのです。
まず商品企画を説明するのに、当時の日本の代表車の日産サニー、トヨタカローラ、スバル1000で、その作品のキャラクターを分析してみましょう。
日産サニーは、「大衆車」を目指していただろうと思われます。
(日産 サニー初代)
トヨタカローラは、「小さな高級車」です。
(トヨタ カローラ初代)
そしてスバル1000は、「スバル360に代わる、新たな国民車」が、その役割だったはずなんですね。
スバルは、スバル1000以前は、スバル360という軽自動車ではありましたが、立派な国民車を長年作ってきた自負があったはずです。
時代が変わり、高速道路もできて、日本の自動車会も、高速化の波が訪れて来ていました。そこで、「次世代の国民車はこうあるべし!」という意気込みの下、スバル1000は作られたはずなのです。
そして確かに、スバル1000は新国民車としての実力を持っていましたし、スバル1000に影響された作品は、世界各国で国民車や準国民車となったわけです。
しかし、お金を出す側である、一般庶民側から見ればどうでしょうか?
一般庶民には、水平対向エンジンも、直列エンジンの違いも、残念ながらわかりません。インボードブレーキだと、乗り心地とコーナーリングが向上し、ハンドルが軽くなるのも???です。
前輪駆動(FF)という、新たなメカニズムも、躊躇する動機になるわけです。
FFだと、室内空間が広いと言われても、「ホンマに、ちゃんと曲がれるんかいな?」というのが、当時の一般的な主流の思いでしょう。つまり一般消費者は、それほど自動車には詳しくはないのです。
ここが重要なポイントなんですね。そう、自動車に詳しくない人、また詳しい人にかかわらず、「お金を払って商品を買う」ということは、その買う商品に、「お金を払う価値がある」と思うからこそ、お金を払うわけです。
これは、自動車に限らず、すべての商品やサービスでも、まったく同じです。「お金を払う価値がある」と思えるからこそ、人はお金を払うのです。これは、鉄則であり、法則と言って良いと思います。
つまり、「小さな高級車」という商品企画をつくり、それを、1100ccエンジン搭載で、「プラス100ccの余裕」という、たったこれだけのキャッチフレーズで、演出し表現したカローラ。この企画と演出の妙で、多くの消費者に、「買う価値あり」と、トヨタは思わせたのです。
これは、当時の日本人が、自動車について、見る目を持っていなかったからではありません。なぜならば、トヨタカローラは、全世界で売れまくったからです。
結局、世界中の人々に、この「小さな高級車」という商品企画と、それをわかりやすく演出する方法論で、「カローラ、買う価値あり!」と「思わせた」ということなんです。
スバルは、スバル1000の発売で、「新国民車」ということを言えば、話は少しは違ったかも知れませんね。また、カローラより100cc小さな1000ccだったのは、1000cc以上で税制の変わる日本社会に合わせ、維持費のことを考えたものでしょう。
ただ、後に出す1300ccのエンジンと前輪ディスクブレーキをデビューから積み、価格を大幅に上げたデラックス版を用意して、利益はそれでぼったくって(笑)、実は主要商品の1000は価格を下げてお買い得感を出して、販売総数を稼いで、全体の製造コストを下げる・・・みたいな演出があれば、スバル1000は、新国民車となって、その後の自動車勢力図は、ひっとしたらスバル中心になっていたかもしれないし、カローラの座は、スバル1000だったかも知れません。(笑)
少なくとも、それを担えるだけの、商品としての実力はあったのです。
商品としてのスバル1000に足りなかったもの。要するにそれは、 「お買い得感」だけ だったのですから。
しかし一般消費者の多くは、100cc大きいのに、サニーより2万しか高くなく、100cc小さいスバル1000より12万円も安くて、装備はたくさんついているカローラに、買う価値を認めた・・・ということですね。
その後スバルは、製造コストの高すぎるスバル1000に代わり、通常の前輪ブレーキにしたなど、技術を簡素化したレオーネを発売します。
スバルレオーネ
しかしレオ-ネシリーズは、その構造からハンドルが重く、かえってFFの普及を遅らせてしまった感があり、その後スバルは、1989年のレガシィシリーズの大ヒットまで、長き雌伏の時を過ごさなければなりませんでした。
当時はまだ、小型車に乗せられる、安価なパワーステアリングがなかったからです。
レガシィは、ターボ強化した水平対向エンジンプラス4輪駆動システムです。
レガシィの大ヒットの要因は、要するに、「恐ろしく速くて、かっこいい。」です。(爆笑)
レガシィの価格は、同レベルのライバル車より高いのですが、「速くてかっこいい。」なら、消費者は買うのです。
つまり、「速くてかっこいい。」に、「大枚はたく価値あり。」と、消費者は思う・・・ということです。
つまりスバルレガシィは、消費者にとって、実にわかりやすい商品だったということです。
また最近では、水平対向エンジンの薄さから、「世界で一番安全な車」という、新たな価値が生まれています。
http://blog.goo.ne.jp/rokochifukyosho/e/bfb8118ec24541381baa8c7c04b9a3fc
要するに、付加価値の創造こそ、成功と繁栄の鍵だと言えますね。
お金を払うには、「お金を払う価値あり。」と認めない限り、どうしても払えないからです。
逆を言えば、「お金を払う価値あり。」と思えば、お金を払ってしまうのが人・・・とも言えます。
「成功するには、何事も、企画と演出が大切だ。」これが、スバル1000から見えてくる私の学びです。
SUBARU Lab Episode 1: The Boxer Engine
蓮如の霊言―宗教マーケティングとは何か―【CM動画】