佇む猫 (2) Dr.ロミと助手のアオの物語

気位の高いロシアンブルー(Dr.ロミ)と、野良出身で粗野な茶白(助手のアオ)の日常。主に擬人化日記。

ミーム(meme) 増殖と伝達

2018年10月15日 | 手記・のり丸
 
9月末で一つの仕事が終わった。
緊張感から解放されたせいか、私は風邪に罹患した。
 
周知の通り、風邪のほとんどがウイルス感染である。
ウイルスは生物とは言えず、非生物とも言えない。(生物と非生物の中間に位置するらしい)
細胞の構造を持つ細菌は生物だが、ウイルスには細胞の構造がないからだ。
 
そしてウイルスは感染した人間の細胞を乗っ取り、自己の複製を作りながら増殖していく。
ある人間の細胞のDNAに侵入したウイルスの複製が、また別の人間の細胞のDNAに入り込むのだ。
そうやってウイルスは次々と人間を渡り歩く。
 
私は風邪の後、いつも自分が「上書き」されたような気分になる。
ウイルスと一緒に他人のDNAの情報が身体に入ってきて、自分の「何か」が再編集されるのかもしれない。
 
風邪を引いた後、私は確実に変化する。
具体的に何がどのように変わったのかは全くわからないのだが、地球の変化の大きなサイクルに組み込まれたような感じである。
 
ウイルスによって「性格や人格が変わった」というようなことではない…うまく言えないが。
(…むしろ、変わりにくい性格や人格が風邪で変わってくれると面白いと思う)
 

ともかく私はウイルスのせいで高熱を出し、悪夢に近いものを見てはうなされていた。
「うわっ」と叫びながら汗びっしょりで目覚めると、ロミがジッと顔をのぞき込んでいた。
 
ロミは優しい眼差しで私を見つめながら「ゆっくりと何度も瞬き」をした。
(…ん?猫の方も人間を安心させる為に「ゆっくりと瞬き」をするのか…)
ということに、その時はじめて気づきながら…うつらうつらと私はまた深い眠りに落ちた。
 
【ため息をついているような、いつものロミの顔】
 
 
私は明晰夢をよく見る。
夢を通して「過去の記憶ファイル」にアクセスすることをわりと楽しんでいる。
しかし夢で「過去の実家」に行こうとすると、なぜか行けない。
どうやら昔の実家を思い出そうとすると、機能脳科学的にトラウマから脳を守るセキュリティシステムが作動するらしい。
その為「昔実家で飼っていた猫のファイル」は開くことができなかった。
 
 
目覚めてから、私は直接オカンに電話をした。
(最初から電話をすればいい話だが…)
 
電話を取ったオカンが、電話口で一瞬息を呑んだのが伝わってきた。
「のり丸?のり丸なの?…なんだかオレオレ詐欺のような口調ね…。何か悪いことでもあったの?変な事件に巻き込まれたの?」
 
私はすぐさま用件を切り出した。
「昔家にいたスージーって、確か19歳ぐらいまで生きてとったね?スージーはどこのメーカーのキャットフードを食べとったん?」
オカンの場合は単刀直入に聞くのが一番だ。
 
「違う、スージーは20歳まで生きたのよ。コロ(犬)を飼わなかったらもっと長生きしたかもね。コロに愛情がかかりすぎて、スージーは少し寂しかったかもねぇ。
…ところで何?何なの?急に猫の話なんかして。…まさか猫を飼っているんじゃないでしょうね?」
 
オカンは30分ぐらい一方的に言いたいことをまくしたてると、やっと欲しかった情報を提供した。
 
「スージーのエサ?カツオ味よ。
え?だから、カツオ味よ。
ある時スーパーからカツオ味がなくなったからマグロ味にしたけど、マグロ味はしばらく食べてくれなかったわねぇ…。
 
え?カリカリのメーカー?…そんな昔のことは覚えていないわよ。
いつもスーパーでお得に売っている時にまとめ買いしていたのよ。
 
え?何?缶詰?…そうねぇ時々缶詰をカリカリに混ぜてやっていたわね。
缶詰のメーカー?そんなの知らないわよ。たぶん安い缶詰をまとめ買いしていたと思うわよ。
スージーはお腹が丈夫で何でも食べていたからね…」
 
…だそうである。
 
 
再び私は、
「ロミがよく食べるし、品質もまあまあ良いみたいだから、しばらくはこのフードで行ってみようか…」
と、フードの試行錯誤を重ねながら日々を過ごしている。
 
 
 
 【ブサひょうきんな顔のロミ】