佇む猫 (2) Dr.ロミと助手のアオの物語

気位の高いロシアンブルー(Dr.ロミ)と、野良出身で粗野な茶白(助手のアオ)の日常。主に擬人化日記。

ダーティワーク 3.洗脳と二重思考

2019年01月17日 | 手記・のり丸
全く…当時のことを思い出すと自分がクソすぎて、文章がちっとも進まない。
 
ブラック企業に関しての情報は検索するとたくさん出て来るし書物もある。
なので、あえて私がブラック企業とはなんぞや…を書く必要はない。
ただ自分のことを書けばいいのだが、正直それがものすごく恥ずかしい。
それまでの私は、ブラック企業というものを本当の意味で知らなかった。
 
私が働いていた悪徳株式会社は(業種を明らかにすると)尼崎でわりと簡単に特定されてしまう会社だ。
いつか自分の仕事の内容をブログで書くことがあるかもしれないが、今回はあえて業種は書かない。
 
悪徳株式会社では月に200時間ぐらい残業があったが(事実)、残業のほとんどが「業務と全く関係のない作業」に費やされていることが特徴的だった。
社員は全員、社長が年間1000万以上つぎ込んでどっぷりハマっている自己啓発セミナー関係の書類に追われていた。
そのセミナーでは講師が「飴と鞭」を使い分けながら受講生をプラス思考(単一思考)に向かわせる方法を取っているが、理論上は「正論」を述べている。
 
そのセミナーで「自分の本質を学べる」と思っている人は世の中に一定数いるだろう。
そのセミナーは「叡智の泉」であり、セミナーに参加すると自己改革できると思っている人も世の中に一定数いるだろう。
そう思う人達がいるから、セミナー会社は繁栄しているのだ。
しかし私の目には、社長をはじめ幹部全員が「毒の池」に浸かっているように見えた。
 
問題はそんなことではないのだ。
問題はなぜ自分が「毒の池」に浸かっているように見える会社に入社したのか、ということである。3000歩譲って考えても、なぜ初日で辞めなかったのだろうか、ということである。
 
つまりこういうことだ。
 
私はマンネリ化している日常から脱却するために、自ら進んでネジが数本ゆるんでいる女(会社)と付き合ったのだ。
その女(会社)はブスで性格が悪く意地悪で、他の人間はすべて自分の奴隷だという妄想を持っていて、物を壊したり人を殴ったりする。
 
その女(会社)は他人をコントロールし、関わっている人間の時間を搾取する。
やがて、このままこの女(会社)と付き合っていると突然死するかもしれないという予感をハッキリと感じるようになる。
 
視点を変えて女(会社)を見ようとしても、何一つ好きなところが見つからない。
そもそも、自分がそんな風にしか捉えていない女(会社)の為に命を削る意味があるだろうか。
(…くだらない、くだらなすぎて頭がおかしくなりそうだ)と思いながら女(会社)から離れない自分が一番くだらないのではないだろうか。
 
…私は明らかに「命の時間」を浪費していた。
 
 
初対面の時、「君が人生で求めているものをここに書きなさい」と、社長は白い紙を私の前に差し出した。
「わからないので書くことはできません」と、私は答えた。
社長は苦笑しながら「すべての人間が求めているものだ」と言った。
「わかりません」と、また私は答えた。
 
社長は白い紙を取ると、太いマジックで大きく「幸せ」と書き、再び私に紙を差し出した。
「今、君が求めているものはこれだ」
 
社長の振る舞いは明らかに芝居掛かっており、下手な演技をしているように見えた。
「でっかい球を投げる人(※注1)」というよりも、「台本通りにしゃべっている人」という印象の方が強かった。
なぜか私の脳裏に「二重思考(※注2)」という言葉が浮かんだ。
 
(注1:人は言葉のキャッチボールをするが、独善的になるほど言葉が断定的になり、破壊力のある大きな球を相手に投げるようになる。)
(注2:「二重思考」というのは、ジョージ・オーウェルという人が書いた「1984年」という小説の中に出てくる言葉だ。権力者に「2+2=5」だと言われたことを信じ込み、同時に自分が「2+2=4」であるという事実を知っていることを忘れる。矛盾を完全に忘れ、またその矛盾を忘れたことも忘れなければならない…ということが二重思考である。)
 
仕事中に、突然天井のマイクから「14番、池図君」と社長の大声が響く。
すると課長の池図は仕事を中断して1分間踊り出す。
(14番というのは「踊れ」という合図である)
「3番、全員!」という声が響くと、全員直立して会社理念の唱和を始める。
(3番は「理念を唱和しろ」という合図である。…35番ぐらいまで項目があった。)
 
毎日、早朝の4時頃に社長からLINEで「愛」や「夢」がふんだんに盛り込まれたポエムが送られてきた。
それに対して誰か一人でも朝礼までに「既読、返信」をしていない社員がいたら大変なことになる。
社長はパイプ椅子を投げて暴れ、挙句、全体責任で皆が反省文を書かなければならない。
そして最後は責任を取って班長が坊主頭になるということもあった。
「もし、ここが戦場だったら君たちは死んでいるよ。上官の『合図』を無視したのだからね」と、社長は真顔で言う。
 社長は「皆の為になることを皆の為にしている」と深く確信している顔をしていた。
その世界の不文律ではそうかもしれない。
 
100%ウンザリした時は、すみやかにそこを立ち去らなければならない。
自分で選択した結果が失敗で「心底バカなのか、オレは」と思ったら、猛烈に反省して方向転換しなければならないのだ。
 
 
 
この度、悪徳株式会社のHPをのぞいてみると、またメンバーが入れ替わっていた。
「2+2=5」の世界には長居ができない、ということを私に教えてくれた貴重な会社だ。
けれども、私はもう会社のHPを観覧しないだろう。
スルースキルを積んでいくことに決めたからだ。
 
「これをやらない」ということを決めることは、「これをやる」というリストを作ることよりも役立つことがある。
…ということも悪徳株式会社から学んだことである。

 

 
今日のロミ

 

【新しいオモチャが増えた】
 
 
【寒いのでパジャマに入り込んでいる】