佇む猫 (2) Dr.ロミと助手のアオの物語

気位の高いロシアンブルー(Dr.ロミ)と、野良出身で粗野な茶白(助手のアオ)の日常。主に擬人化日記。

魅惑の早朝清掃アルバイト(3)成功へと至る道

2019年03月18日 | 手記・のり丸
「この双眼鏡でいつも何を見ているんですか?」
「……空とか鳥とかねぇ」
「へぇ~鳥ってハシブトガラスですか?」
「…ハシブト?いやいや…カラスなんか見てないよ…もっときれいな鳥だな」
「野生化したインコですか?」
「……ハトとかね」
 
(至近距離まで人間に近づいてくるハトを高倍率の双眼鏡で見るのか…)
と突っ込むのはやめ、私は編隊さんから取り上げた双眼鏡を持ってビルを出た。
 
 
朝は大阪駅、梅田駅方面から大量の人間が噴き出してくる。
早朝アルバイトを終えて私が進む方向は「人の群れ」とは逆方向になる。
 
梅田の地下ダンジョン(地下街)に潜ろうと階段を降りていくと、下からザ、ザ、ザ、ザ、と突き上げるように階段の幅いっぱいに取って「人の群れ」が登って来る。
時には「下り」が自分1人だけのこともある。
急いでいる人間は「下る」人間とすれ違う時に(邪魔だな)という顔をする。
 
確かに人間は多数で同じ方向に進んでいる時、逆方向から来る人間は邪魔なのである。
逆方向は向かい風のように進みにくい。
 
(これは自分の人生の縮図かもしれない…)
わざと哲学的なことを考えながら歩き、どこかの店に入ってモーニングを食べる。
 
そして通勤するリーマンを眺めながら、ゆっくりコーヒーを飲む。
その後は、地下街を歩き回ったり、地上を探索したりして帰宅する。
帰宅後にシャワーを浴びて身だしなみを整えてから「本業」にかかる。
それが私の日課になっていた。
 
 
(今日は双眼鏡があるから地上だな)
試しに歩道橋の上で双眼鏡をのぞいてみた。
 
「うわっ」
ビルの中がくっきり見える。
 
(なんだ…高倍率すぎてバードウォッチングには向いていないじゃないか)
飛んでいるカラスにピントを合わせるのは難しいが、向かいのビルの中はくっきり見える。
 
(まるでザ・タワーだな…)
 

「The Tower」
シリーズの初期は20年以上前の古いゲーム。
 

経営シミュレーションゲーム。
オフィス、テナント、ホテルなどを建設して人口を増やしていく。
 

「The Tower」初期のゲームには面白い機能があった。
自分が設置した建物の中を「虫メガネ」アイテムで観察すると、部屋の様子がムービーで流れるのだ。
オフィスで残業している人がいたり、レストランには客がいたり、映画館では映画が上映されていたりする。
夜間には建物内部をパトロールでき、それを3Dで見ることができる。
(ただしプログラムはランダムで、ムービーも一定数のパターンしかないので飽きてしまう)
 
設置した部屋数分のムービーが個別にあり、夜間パトロールの行ける範囲が広ければもっと面白いゲームになっていただろうと思う。
(そんなことをしていたらゲーム本来の目的から逸れるし、製作費が掛かりすぎてしまうから現実的には不可能なことだが)
 
思い起こせば、「The Tower」では、その「虫メガネ」機能だけが楽しかった。
しかし双眼鏡で梅田の街を覗いていると、リアル「The Tower」である。
 
 
 
(ここは、オレが作った世界)
(オレが作ったジオラマの世界)
(その世界の中をミニチュアになったオレが探索している)
(さて、今日はどこに行こうか)

そんなことを想像しながら、双眼鏡を持って梅田界隈を歩いた。
けれども…意外にあっさり、双眼鏡を覗くことに飽きた。

早朝から動いて、時間がたっぷりあるような気がしていた。
無理やり覇気を出していた。
 
 
(…忘れていた)
そういえば、病気になった後、誰が去って誰が残っただろう。
そして、この仕事(本業)に転職した時は同業者から厳しい洗礼を受けた。
 
今までどれだけ杭を打たれてきただろう。
打たれたくなければ、思いっきり抜きん出て彼らの手の届かないところまでいくしかない。
中途半端な実力だから打たれるのだ…潰されたくなければ、実力をつけて登るしかない。
あの頃、そう悟ったのだ。
 
今考えると、実力をつける為にすべてが必要な出会いだった。
実力がついていくにつれ、私に対する周囲の反応も変わっていった。
反面、自分がまだとても未熟であることに気付き、この先見るものが「もっともっと」あることを知った。
 
次のステージに行く為には、現在のステージをクリアしないと進めない。
待っていると、誰かが私の代わりにステージをクリアしてくれる訳でもない。
結局自分が動かなければ、次のステージに行くことはできない。
ただし次のステージに進んでも、何が起こるかわからない。

(次のステージなんていかなくていい、現状維持でいこう)
(のり丸はこのままの状態で、身体が弱いままでいたらいい、そしたらずっと傍にいてあげるよ)
…そういうメッセージを送って来る人間もいる。
 
自分はこのステージに居続けることと、次のステージに行くことと、どちらを望んでいるのか…。
どちらを選ぶと人生に納得することができるのか…。
塞翁が馬…先のことは何一つわからない。

あの時、梅田の街を歩いていて思った。
(あぁ、退屈だ…)
次のステージに挑戦したくてたまらない…そうしなければ、退屈で死にそうになると…。
 
 
 【今日のロミ】
玄関で荷物をほどいていると、扉から…。
 
しびれをきらしたのか、ツンデレの嬢が歩いてくる。
 
「来てやったんだよ」と言っている。
 
 

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